著者
肥田 登
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1. 平成18, 19年度に引き続き, 20年度も本研究課題にそった実験と記録の採取を秋田県六郷扇状地扇(央部は39°25'N, 140°34'E)において継続・実施した。扇状地は, 東西約4km, 南北約5km, 扇頂の標高は90〜100m, 扇端の標高は約45m, 約100m厚の帯水層は主に砂礫から成り, 透水係数は10^0〜10^<-2>cm/sec, 比産出率は10%強である。扇状地の地下水循環の特性を活かし, 地下水人工涵養池(扇央部 : 39°25'00"N, 140°34'05"E,標高68.0mにある)により地下水の人為的強化を試みた。2. 水頭の上昇について : 扇央の野中(39°25'02"N, 140°33'55"E)のピエゾメータにおいて明確な記録を採取し, 時間差をおいて扇端の馬町(湯川)(39°25'18"N, 140°33'03"E)のピエゾメータにおいても上昇の反応が現れた。3. 人工涵養池に給水する水温の影響が野中, 馬町(湯川)の各ピエゾメータ地点にどのように及ぶのか, この点の記録が一部収得された。特に低水温を人工涵養池に給水すると, 扇央と扇端の双方とも20m深ピエゾメータの地下水温の記録に特徴的な現象が現れた。低温の湧水を地下水の涵養源として再利用する際に参考可能な基礎データである。4. 本研究で目指した「地下水循環系の人為的強化」は可能であることが確認された。その成果の一端は, 裏面の「研究発表」欄に記したHida(2009)で公表したとおりである。5. 本研究は, 今後, 人工涵養池に給水する水を増やすことによって, さらに有効な研究へと発展させられる。民家の屋根の雪, 生活道路の雪を地下水で融かし, 揚水した地下水と融雪水を併せて人工涵養池の水源に充てる。この試みにより給水量を増すことは可能である。地下水保全と高齢化社会における除排雪という難問の解消とを統括した研究へ発展させられる。今後の新たな研究課題としたい。
著者
新見 治 鈴木 裕一 肥田 登
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.23-34, 1988-05-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
90
被引用文献数
1 1

わが国の地理学研究者による最近の水文学研究には, 2つの潮流が存在する。一つは水文循環の物理的過程を究明する水文学研究であり,もう一つは水文環境,すなわち水と人間の関係を総合的に扱う水文誌的研究である。この報文では,特に水文誌の基礎となる地理学分野での研究動向を把握し,今後の研究上の課題について考察した。 地域レベルでは,日本の水収支や水文環境の特性のほか,降水の時空間的な変動特性が研究されてきた。水利用に関しては,高度経済成長期の水資源開発や水問題,工業用水道事業の成立と展開,都市化と農業用水などについて論議が深められた。 流域レベルにおいては,マンボなどの在来の地下水利用技術,地下水を利用した融雪システム,水利用と環境問題,地下水管理など,地域の地下水環境と水利用に関する研究が数多く行われた。都市化と水との関係に着目し,水利秩序の再編成過程,水利転用の展開,灌漑用溜池の潰廃のほか,都市化地域の水文環境と水利用に関する事例研究も進められた。このほか,洪水と水害,ダム建設と社会問題,離島の水などにも関心が向けられた。 このように,水と人間の関係を扱った研究は地理学の様々な分野において多数存在するにもかかわらず,これら基礎的研究によって得られた地理学的情報は水文誌の視点から総合的に整理されていないのが現状である。水文環境や水利用に関する情報の表現方法の開発,水循環と水収支を基本的概念とする水文誌記載の具体的な試み,そして水文誌の記載方法の確立などが,今後のこの分野での重要な研究課題である。
著者
肥田 登 石川 悦郎 太田 由紀子
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.23-33, 1999
被引用文献数
4

六郷扇状地は.39°25'N.140°34'Eの周辺にある.標高90mの扇頂と標高45mの扇端との問は約4kmである.ここで池を用いた地下水人工涵養の実験を実施した.期間は.1998年4月13日から4月27日までの14日間である.涵養池は扇央に設置した.池底の面積は1,045m<SUP>2</SUP>.深さは3mである.扇状地の帯水層は主に砂礫から成り.透水係数は10°~10<SUP>-2</SUP>cm/secのオーダにあり.比産出率は20%強である.<BR>本実験の結果.つぎの点が明らかにされた.1.涵養期間中の池への平均給水量は.71.2l/秒.この間の池底からの平均浸透速度は.24.5cm/時であった.2.涵養池から480m下流の観測井では.給水を開始後2日めより地下水位は上昇を始め.同11日めに最高水位を記録した.この間の水位の上昇高は.1.40mであった.3.涵養を実施している間.涵養池の下部には地下水堆が形成された.4.地下水堆の形成により.涵養池の西~北西方向の一帯において.地下水面は上昇した.扇端にある琴平観測井の4月の地下水位は.平年的には低下するが.人工涵養を実施することによって一定の高さを推移した.5.人工涵養により地下水位の保全を図れる範囲は.扇端の湧泉帯までである.地下水は.この湧泉帯から流出する.
著者
肥田 登
出版者
秋田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

主たる研究対象域を秋田県六郷扇状地・39°25′N, 140°34′Eに置いて実施した。成果等は次のとおりである。1.地下水熱を利用して,居住空間の内,玄関周辺の生活道路に積もる雪と屋根の雪下ろしによって軒下に山積した雪の双方を同時に除排雪するための小実験を実施した。2.熱利用を終えた地下水と融雪によって生じた積雪水量の一部を地下水人工涵養池へ還元することが可能である。3.地下水位,地下水温の観測記録を蓄積した。4.本研究の応用範囲の可能性を日本に限らず東南アジアを含めて検討した。5.研究の成果,学実的及び社会貢献的な意義は有効であり,成果の一部はすでに複数の国際会議で公表済みである。
著者
CARNEY Judith HIRAOKA Mario 肥田 登
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.107, no.1, pp.49-60, 1998
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

本論では, アマゾン河の河口部における小農が生計の維持に役立てているジュパチヤシjupati (Raphia taedigera) の意義に関する生物地理的, 社会・経済的研究について述べる。特に, 最近関心のもたれている研究, すなわちアマゾン河流域における森林伐採に取ってかわる方法としての土着の農的林業システム, とりわけ市場向きの生産物を生み出すことと持続可能な土地利用システムを備えているヤシの役割に注目する。これまでの研究においては, アサイヤシaçaí (Euterpe oleracea) の実の市場における経済的有用性に着目した事例は見出せはするものの, 同じ湿潤域に存在するヤシでありながら, ジュパチヤシに着目した研究は皆無に等しい。ジュパチヤシは, 土地の人々に対して数々の有用な恩恵を施しているが, 換金作物としての市場性には欠ける。このような特徴を備えたジュパチヤシは, アマゾン河の河口部ににおいて最も広範囲に見出される。葉柄部の外皮は, 小エビを採る道具・筒の材料に好んで使われている。小エビの販売は, 河口部の河畔に住む現地人・リベリーニョの絶好の現金収入となる。本研究では, アマゾン河下流域におけるジュパチヤシについての植物地理的側面からの概観, ジュパチヤシの繁茂にとっての水文条件, リベリーニョが生計の維持に採り入れているジュパチヤシ利用に関する彼ら固有の知恵についてふれる。
著者
肥田 登 新見 治 HIRAOKA Mari MAIA Jose Gu 西田 眞 JOSE GUILHERME Maia
出版者
秋田大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

平成8年度の研究成果の概要については,リオ・ネグロ川の水位の年変化特性を中心に述べる。第1に,マナウス地点におけるリオ・ネグロ川の水位は,6〜7月頃に最高となり,10〜11月頃に最低となる。水位は11月頃から上昇に転じ,約8か月間を要してゆっくりと最高値に近づき,7月頃から約4か月間という短い期間の内で再び最低値にもどる。このように各年の水位は,主要因としては流域の雨季と乾季の降水量に反映されて,滑らかなサインカーブのように見える規則的な年変化をくり返す。この規則性は,20年平均のカーブで示すことによってより明瞭に見てとれる。第2に,年間を通しての最高水位の出現日は,1975年から1995年までの21年間の平均を算定した結果,6月22日となった。この間,最高水位の出現日の頻度は,10日間の間隔ごとに見ると次のようにほぼ正規分布を示す形で現れる。5月中:1回,6/01-6/10:3回,6/11-6/20:4回,6/21-6/30:8回,7/01-7/10:4回,7/11-7/20:1回。最高水位の出現日の最も早かったのは,5月20(1992年)であり,最も遅かったのは,7月16日(1986年)である。この間の開きは,約2か月である。なお,最高水位に達する日数は,多くの年の場合,2〜4日間程度は続くので,その間の第1日目を最高水位の出現日として採用した。第3に,年間を通しての最低水位の出現は,1975年から1995年までの21年間の平均を算定した結果,11月7日となった。この間,最低水位の出現日の頻度は,10日間の間隔ごとに見ると次のように現れる。10/01-10/10:1回,10/11-10/20:3回,10/21-10/31:5回,11/01-11/10:4回,11/11-11/20:2回,11/21-11/30:4回,12/01-12/10:1回,それ以降1回。最低水位の出現日の最も早かったのは,10月08日(1980年)であり,最も遅かったのは,暦年を越えた01月16日(1989年)であった。この間には,3か月余りの幅がある。最低水位の出現する期間の幅は,最高水位の出現する期間の幅よりも約1か月延びく。しかも,最低水位の出現日の頻度は,最高水位の出現日の頻度に比べてバラツイており正規分布を示す形ではない。上に示したとおり,最低水位が比較的多く現れる時期は,10月