著者
長瀬 勝彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.16-26, 2008-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
24
被引用文献数
1

人間の意識は理性的な意思決定を志向するが,人間の意思決定の主役は無意識であり,無意識からのシグナルが感情となって意識に押し寄せてくる.ある種の意思決定に関して感情には理性を上回る合理性があるが,意識は無意識を適切に解釈できず,感情を非合理的とみなしてしまう.意識によって感情を否定するのでなく,感情を理解し感情と折り合いをつけることで,より生産的な意思決定が可能となる.
著者
長瀬 勝彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.58-68, 2005-09-20 (Released:2022-08-05)
参考文献数
16

意思決定の規範的研究には,人間の意思決定は事前に設定された何らかの理由に基づいておこなわれるという前提がある.しかしながら,そのような認識は多くの実験研究によって修正を迫られている.人間は意思決定に際して必ずしも事前の理由を必要としないし,事前と事後とで理由が入れ替えられたり,事後的に想起された理由が誤っていたり,他人に理由を説明するときにはそうでないときと異なる理由が採用されたりする.
著者
長瀬 勝彦
出版者
The Academic Association for Organizational Science
雑誌
組織学会大会論文集 (ISSN:21868530)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.179-184, 2018 (Released:2018-12-27)
参考文献数
11

Previous findings on the relationship between psychological traits and procrastination are inconsistent. Same applies to the relationship between procrastination and performance. Some researchers have reported negative influences of procrastination on performance, some researchers have reported positive influences, and the others have reported no influences. It is partly due to the fact that prior research has explored only each of the two relationships. Additionally, the relationship between psychological traits and performance remains hidden from view. In order to overcome these limitations, this study investigates the relationships among psychological traits, procrastination, and performance. Steel(2011) presented a scale of procrastination and scales of three psychological traits (expectation, value, and impulsivity). I translated them into Japanese language and made some modest amendments in order to improve the suitability for Japanese students. Respondents were 160 sophomores (82 females, 78 males) of a university in Tokyo. Students answered the questionnaires and described their GPAs, which were used as the indicators of their academic performance. Structural equation modelling (SEM) revealed that impulsivity acted on procrastination and that procrastination acted on performance. Expectation and value did not have significant influences on procrastination. None of the psychological traits had significant direct influences on performance. The model fit statistics indicated CFI=.864, GFI=.806, and RMSEA=.058.
著者
長瀬 勝彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.56-65, 2012-06-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
18

本論文では,組織に存続の危機をもたらすようなリスクが過小評価される現象について,リスクを外敵などのリスク1と天災や現代社会のリスクであるリスク2に分類することで説明を試みた.リスク1に適応した人間の認知のシステム1がリスク2には適切に対応できず,人間の認知の中で論理と分析を司るシステム2もまたリスク2に適切に対処できるには至っていないことが原因のひとつである可能性が見出された.
著者
長瀬 勝彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.44-55, 2003-09-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
29

実験的研究方略は,因果関係が記述できるなど,他の多くの手法にはない長所を持っている.組織論が反証可能性を確保した通常の科学として発展を遂げていくためには,欠かすことのできない研究方略である.しかし一方で,厳密な科学的手続きを重視するあまり,現場の意思決定の生き生きとした部分の分析は自重してきた観がある.今後は柔軟に新しい領域に展開していくことによって,組織研究全体の発展に資することが期待される.
著者
長瀬 勝彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.60-78, 1997 (Released:2022-07-22)

この報告の目的は,競争的状況下におけるリスクを含む連続意思決定について,合議決定と個人決定を動態的に比較分析することにある.被験者212名を対象にした実験の結果,いくつかの事実発見があった.強気の意思決定が高いパフォーマンスをもたらすポジティブ・フィードバックが続くと,個人群よりも2人合議群,4人合議群と人数が多い方がよりリスク・シーキングな意思決定を下すようになった.また,弱気の意思決定が高いパフォーマンスにつながるネガティプ・フィードバックが与えられると,逆に人数が多いほどリスク・アバースに振れた.全体的に,環境からのフィードバックに対しては個人よりも小集団合議のほうが敏感に反応し,またその反応は単純であると考えられる.この結果は,選択シフト,プロスペクト理論,エスカレーティング・コミットメント,組織の慣性等の諸理論に新しい論点を提供する可能性がある.
著者
長瀬 勝彦
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

われわれは,トロッコ問題として知られる「多数の人の命を救うために手を下して,その結果として少数の人の命を犠牲にすることは妥当かどうか」を問う問題における選択と回答者のパーソナリティーとの関係を調べた.測ったパーソナリティーは「自己受容」「自己実現的態度」「充実感」「自己閉鎖性・人間不信」「自己表明・対人的積極性」「被評価意識・対人緊張」,「ローカス・オブ・コントロール」,「認知的熟慮性/衝動性」,「楽観主義・悲観主義」である.結果についてスピアマンの順位相関係数を求めたところ,いずれの尺度とも5%水準で有意な相関は得られなかった.ただし,比較的強い相関を示したのは,「自己閉鎖性・人間不信(rs=0.43)」「ローカス・オブ・コントロール(rs=0.37)」「認知的熟慮性(rs=0.31)」の3つであった.自己閉鎖性・人間不信が高いほど,ローカス・オブ・コントロールが強いほど,また知的熟慮性が高いほど,功利主義的な傾向があるということになる.
著者
桑田 耕太郎 松嶋 登 高橋 勅徳 長瀬 勝彦
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、科学ないし技術的な知識基盤に支えられたベンチャー企業(以下、技術系ベンチャー企業)が、特定の科学および技術コミュニティにおける科学的・技術的知識を、それとは異なったコミュニティ(ビジネス・コミュニティ)へと移転し、ひいては経済活動を通じて社会変革を導くメカニズムを理論的ないし経験的に明らかにすることを目的として取り組んできた。まず、本研究では、技術系ベンチャー企業をめぐる理論的基盤の整備が行われた。ベンチャー企業論は、1970年代から欧米において研究が着手され、経済学、経営学、心理学、社会学、人類学等の領域を横断するカタチで無秩序に拡散・増大してきた。80年代末より独自の体系を持つ研究領域として体系化が進められ、近年は新制度学派社会学の知見を取り入れた理論的・方法論的基盤の整備について議論が交わされるようになった。こうした理論的基盤の整備の下、本研究では、ハイテクのなかでも、とりわけ近年勃興しているネット系のベンチャー企業の行動原理に基づいたビジネスモデルの形成過程について考察を行ってきた。そしてさらに、ハイテクベンチャーをめぐる理論的課題を検討する中で、本研究が新たに注目した論点として、ハイテクベンチャーをめぐる制度的環境の重要性を見出すにいたった。従来まで予見とされてきた制度的環境は、実は、ベンチャー企業にとっての設計対象であることに、その要点がある。なお、本研究で取り上げた事例の一部は、社団法人ニュービジネス協議会の協力を得て、近年にニュービジネス大賞を受賞した企業の中からリサーチサイトとなりうる技術系ベンチャー企業を理論的な観点から選定を行い、現実の経済界とのつながりを重視してきた。また、具体的な調査方法としても、ライフヒストリーの編集や、参与観察、GFA(グループ・フィードバック分析)など、さまざまな方法論・手法を用いて綿密に行われた。
著者
長瀬 勝彦
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の成果のひとつとして、意思決定と理由との関係について整理することができた。意思決定は事前に設定された理由に基づいておこなわれる、また意思決定をした本人はその理由を事前に認識しているし、事後に想起された理由も信用できるというのが一般的な通念であるし、規範的意思決定理論とその関連分野の研究も、基本的にはその認識に立脚している。しかし、われわれの研究を通じて浮かび上がってきたのは、理由がもっと不確かで融通無碍な存在であることである。人間の意思決定のほとんどは無意識的におこなわれるが、そこに理由があるかどうかもあやふやであるし、あったとしても意識されていない。意識的な意思決定に際しては、しばしば理由探しがおこなわれるが、分析的な理由付けは人間本来の意思決定とは質的に異なっているために、期待ほどの成果が上げられない。他者に説明するときとそうでないときには異なった理由が採用される。事後的に想起された理由は、客観的な記録ではなく、そのときに妥当と思われた解釈であって、無意識の自己正当化などに影響されている。理由のこのような側面は、さらに研究していく必要がある。そのほかの成果として、人間の記憶の不確かさについて、やや新しい知見が得られた。過去の研究では、日常的に目にしている紙幣や硬貨のデザインを描かせると、ほとんどまともに描けないことが見出されている。それをもって記憶の不確かさの証左のひとつとされてきたのであるが、紙幣や硬貨はデザインが複雑であるし、記憶しにくい。本研究では、コンビニエンスストアのセブン・イレブンとローソンの看板のマークを被験者に描かせた。このようなマークは単純で、目立つようにデザインされている。したがって記憶に残りやすいと予想される。しかし、ほとんどの被験者は十分に正確とみとめられるほどには描くことができなかった。