著者
長谷川 芳典
出版者
岡山大学環境管理センター
雑誌
環境制御 (ISSN:09171533)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.3-12, 1993-12-15

本稿は,B・F・スキナー(1904~1990)の徹底的行動主義(radical behaviorism)の流れをくむ行動分析学の立場から人間と環境とのかかわりの問題を論じることを目的とする。行動分析学は,ひとことで言えば,生活体と環境とのかかわりを客観的・機能的・実験的に分析することによって行動の原理が実際にどう働くのかを明らかにする学問である。行動分析学の研究がすすめば,個体や集団の望ましい行動を形成・維持するための環境変数を適切に整備できるようになると期待される。しかしこれまで行動分析学は,特に理工系の研究者には殆ど理解されず,むしろ誤解・曲解されてきたように思う。そこで,本稿では,まず主な誤解の解消をめざし,行動分析学は環境制御の問題にどのような新しい視点を与えられるのかを論じることにしたい。
著者
長谷川 芳典
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.164-173, 2008-03-31 (Released:2017-06-28)

過去50年以上に及ぶ「乱数生成行動」研究を概観し、行動変動性研究に関する3論文をコメントし、今後の展望を述べた。乱数生成行動研究は概ね1950年代から始まっているが、「なるべくランダムに」という言語的教示の曖昧さ、被験者が投げやりに振る舞っても対処できないこと、学習要因を考慮に入れていないこと、といった問題点があった。いっぽう行動変動性の研究は、それらの問題点を解消し、「人間が生成した乱数列はどこに問題があるのか」という特性論的な見方から、「オペラント条件づけ手続によってどこまでランダムな乱数列を生成させることが可能か」という、行動変容の視点で新たな可能性を開いた。しかし、一口に行動変動性と言っても、反応のトポグラフィーやIRTに関する微視的な変動性から、ランダムな選択行動や新しい形を作るといった巨視的な変動性までいろいろある。微視的な変動性は分化強化として扱えるが、巨視的な選択行動の変動性は弁別行動として論じるべきである。今後の展望としては、微視的、巨視的という区別に留意しつつ、発達障害児の一部で見られる常同的・反復的な選択行動を改善するための効果的な支援方法の確立といった現実的な課題にさらに取り組む必要がある。さらに長期的なライフスタイルにおける一貫性と変動性をめぐる問題も、行動分析学の課題になりうる。
著者
長谷川 芳典
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-18, 1990-03-31

全語法により漢字単熟語の読みを発声させる訓練を1名の被験児(開始時26ヶ月齢)に実施した。3歳になった時点で、読む力や熟語を生成する力について検討した。(a)単語や熟語を読む速度は、それらが漢字あるいは平仮名まじり漢字で書かれていた場合のほうが、すべて平仮名で書かれていた場合より速かった。(b)習得した漢字で書かれた文の64%は、初回提示から読むことができた。(c)100個の単漢字から57の熟語を作ることができた。日本では、一般に、平仮名を完全に習得してから漢字を教えるべきであると考えられている。しかし、今回の結果は、2歳2ヶ月からでも漢字の読み学習が始められること、そうした早期の学習はのちのより複雑な読み技能の土台となるものであることを示している。従来の漢字教育は再検討が必要である。