著者
小嶌 麻木 岡橋 さやか 種村 留美 長野 明紀 羅 志偉 関 啓子
出版者
日本言語聴覚士協会
雑誌
言語聴覚研究 (ISSN:13495828)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.80-88, 2012-07-15

われわれは,日常場面における失語症者の高次脳機能の問題を評価するためにvirtual reality(VR)買い物課題を開発した.本研究の目的は,本課題が失語症者の多様な神経心理学的症状を評価できるかどうかを検証することである.対象は失語症群17名(男性12名,女性5名)と,非失語症群11名(男性4名,女性7名)である.両群のVR課題の成績比較と,失語症群におけるVR課題とRCPM,標準注意検査法内のSDMT,SRT,Cognitive Linguistic Quick Test内のSymbol Cancellation,Symbol Trails,Design Memory,Mazes,SLTA(読む)との関連を調べた.結果,失語症群はヒントを有効活用できないが全員課題を遂行した.VR課題との相関から言語機能の影響は否定できないが,注意や遂行機能を評価できる可能性が示唆された.
著者
小嶌 麻木 中村 潤二 長野 明紀
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.827-836, 2018-12-10 (Released:2018-12-20)
参考文献数
25

[Objective] Various methodologies have been employed for memory rehabilitation, such as environmental control, improvement of learning methods, compensatory strategy training, or group-based interventions based on the characteristics of the patients. In some cases, however, these approaches have been reported to be inappropriate for patients suffering from marked memory deficit. Therefore, new, more effective approaches for recovery of memory deficit are needed. Several previous studies have reported that physical activity and exercise can affect cognitive function. However, empirical evidence obtained from patients with memory deficit is still insufficient. The aim of this study was to clarify the effect of aerobic training on memory ability in a patient with memory deficit. [Methods] The subject was a 48-year-old, right-handed male with memory deficit subsequent to hypoxic encephalopathy. We used an A-B-A single-case experimental design. The word delayed recall task and word fluency task were conducted 10 times in each phase. During the baseline A and washout A-phases, after memorizing 3 words, the subject performed a paper and pencil task for 15 minutes, and thereafter recalled the 3 memorized words and performed the word fluency task. During the B-phase, after memorizing 3 words, the subject pedaled a bicycle ergometer at 50W for 15 minutes, and thereafter performed the recall and word fluency tasks. [Results] Average performance in the delayed recall task was 0±0 words in the baseline A-phase, 2.3±1.1 words in the B-phase, and 0.1±0.3 words in the washout A-phase (F(2,18)=37.098, p<0.0001). That in the word fluency task was 2.7±0.9 words in the baseline A-phase, 2.3±1.3 words in the B-phase, and 3.6±1.3 words in the washout A-phase. [Discussion] These results suggest that aerobic training can lead to recovery of memory deficit. However, although we were able to observe acute effects, comprehensive recovery of cognitive function was not achieved, and the long-term effect was not tested. Further research is needed in this area.
著者
戸田 晴貴 長野 明紀 羅 志偉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0947, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】高齢者の歩行中の筋活動は,若年者と比較し全般的に大きくなり,活動パターンが異なることが報告されている(Finley, 1969)。しかしながら,高齢者と若齢者の筋活動パターンの違いの定量的な分析は,我々が渉猟した範囲においてはなされていない。主成分分析は,次元数を減らす統計学的手法で,歩行分析において運動学,運動力学,筋電図の時系列データの全体的な量,形状,時間的パターンの分析に用いられる。本研究の目的は,健常高齢者と若年者における歩行中の大腿四頭筋とハムストリングスの筋張力パターンの特徴の違いを,主成分分析を用いて分析することとした。【方法】対象者は,65歳以上で歩行補助具および介助なしで歩行可能な高齢者20名(男性10名,女性10名)と若年者20名(男性10名,女性10名)であった。歩行に影響を及ぼす疾患を有しているものはいなかった。課題動作は定常歩行とした。対象者は,7 mの直線歩行路にて最も歩きやすい速度で歩行した。運動学データは,赤外線カメラ8台を用いた三次元動作解析装置VICON MX(VICON Motion Systems社製)を用いて計測した。同時に床反力は,床反力計(AMTI社製)8枚を用いて計測した。得られたマーカー座標データと床反力データからOpenSim3.2を用いて筋張力の推定を行った。モデルは,23自由度92筋を使用した。各筋の活動度の2乗値の和が最小になるように最適化が行われた。解析した筋は,大腿直筋,大腿広筋群,ハムストリングスであった。各筋張力の大きさは,体重で正規化した。本研究の高齢者と若年者の筋張力波形の特徴を抽出するために主成分分析を行った。分析を行うにあたり,データから筋ごとに40(対象者数)×101(100%に正規化した波形)の行列を作成した。この行列を用いて主成分分析を行い,主成分と成分ごとに主成分得点を算出した。分析は,第3成分まで行った。各主成分が示す特徴を解釈するために,主成分得点が高い5試行を平均した波形と低い5試行を平均した波形の特徴を視覚的に確認した。高齢者と若年者の各主成分得点の比較は,性別の影響を考慮し,年齢と性別の2要因による2元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用いて行った。統計解析には,SPSS 17.0 J for Windows(エス・ピー・エス・エス社)を使用した。有意水準は,5%とした。【結果】本研究のすべての変数において,年齢と性別の交互作用は有意にならなかった。つまり男性と女性は,同様の傾向を示した。大腿直筋における第3成分の主成分得点は,高齢者は若年者と比較し有意に大きかった。大腿直筋の第3成分は,立脚中期から後期の筋活動の大きさと解釈され,高齢者の大腿直筋は,立脚中期からつま先離れまで活動が持続的であるという特徴を有していた。またハムストリングスにおける第2成分の主成分得点は,高齢者は若年者と比較し有意に小さかった。ハムストリングスの第2成分は,踵接地後の小さな筋活動と遊脚中期の活動の大きさと解釈され,高齢者のハムストリングスは,踵接地後の筋活動が大きく,遊脚中期の筋活動が小さいという特徴を有していた。大腿広筋群の筋張力波形は,高齢者と若年者の間に統計学的な違いがなかった。【考察】本研究の結果,高齢者と若年者の膝関節周囲における筋張力パターンの違いは,大腿直筋とハムストリングスに認められた。よって,高齢者の膝関節周囲筋では,2関節筋の筋活動パターンに加齢変化が見られることが示唆された。Ostroskyら(1994)は,高齢者は若年者と比較し,歩行中の膝関節伸展角度が減少し屈曲位での歩行となることを報告した。高齢者において初期接地時にハムストリングスの筋張力が増加することは,大腿四頭筋との同時収縮により膝関節の剛性を高めて荷重する戦略をとっている可能性を示している。またこのことは,高齢者の初期接地時の膝関節伸展角度の減少と関連も示唆している。さらに高齢者の大腿直筋の筋活動は,立脚初期に活動が見られず立脚中期から後期にかけて持続していた。このことから,高齢者では膝関節屈曲位で歩行を行うことにより,膝関節の安定性を高めるために大腿直筋が過剰に働いていたことが推測された。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,歩行中の高齢者と若年者の膝関節周囲筋の筋活動パターンに違いがあることを示したことである。歩行の加齢変化に対して,膝関節周囲筋においては筋力低下に対する介入だけでなく,2関節筋が適切なタイミングで活動できるよう介入することが必要である。
著者
小嶌 麻木 岡橋 さやか 羅 志偉 長野 明紀 酒井 弘美 関 啓子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.296-303, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
18

失語症者の日常生活における包括的な認知機能の評価用として, Virtual Reality 技術を用いた Virtual Shopping Test-easy version ( VST-e) を開発し, 失語症者への適用および妥当性と信頼性を検討した。 VST-e において被験者は, 買い物内容を暗記した後, PC 画面のタッチパネル操作により仮想の商店街でなるべく速くかつ正確に買い物課題を行った。失語症者, 健常者各 20 名を対象に施行した結果, 失語症群は健常群より有意に買い物リスト参照回数と方向転換回数が多く, 所要時間が長かった。また, 失語症群の VST-e 成績は言語機能, 知的機能, 注意, 遂行機能との相関を認め, 内部一貫性に関する Cronbach の α は 0.62 であった。したがって, VST-e は言語機能の影響を受けるが, 基準関連妥当性と信頼性を有し, 失語症者の総合的認知機能検査として有用であることが示唆された。