著者
阿部 泰郎 稲葉 伸道 山崎 誠 福島 金治 末木 文美士 岡田 荘司 川崎 剛志 近本 謙介
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の中心的対象である真福寺大須文庫の聖教典籍について、当初の方針にもとづき、基幹となる聖教を、全115合中50合まで調査を行い、カードに再訪し、そのうち40合まで、すなわち教相書の全てと事相書の前半部分にっいてデータ入力を終えた。そのうち20合までは報告書に略目録を収めた。調査の過程で発見した貴重な文献については、その一部を臨川書店『真福寺善本叢刊』第2期に影印翻刻と解題を付して、既に9巻を公刊している。本研究期間中には、『伝記験記集』『真福寺古目録集二』『法儀表白集』『伊勢神道集』『聖徳太子伝集』『中世先徳著作集』『性霊集注』の7巻が刊行された。本研究において真福寺の聖教典籍のうち、特に平安鎌倉期の諸宗の章疏や記録および神祇書については、二世信瑜を介した東大寺東南院伝来の文献群であることが明らかになり、中世真言教学興隆の中心的学僧であった頼瑜の著作群と併せて、真福寺の蔵書の価値が一層解明された。調査の一環として、未整理の大量の断簡について、平成16年度から予備調査を試み、その大半を閲覧し複数の分野で重要な文献を発見し、復原を試みた。その本格的な整理に、次年度からの科研費により着手を予定するが、これにより悉皆調査の基礎が築かれる。真福寺を軸として、中世寺院の経蔵が形成し蓄えた知的体系についての解明と歴史・宗教等諸学の研究との連携が進展し、その文献学一目録学的研究の重要性について学界共通の認識が醸成されつつある。特に説話文学会シンポジウム・ワークショップなどで文庫の保存の意義を社会に向けて発信した。なお関連する中世文学研究上の主題にっいて、本科研費の支援を得て毎年度公開研究集会を開催し、多大な成果を挙げた。勧修寺大経蔵聖教の調査については、入力されたデータの原本による確認を継続して遂行し全体の30%が完了している。

2 0 0 0 性霊集注

著者
阿部泰郎 山崎誠編集責任
出版者
臨川書店
巻号頁・発行日
2007
著者
阿部 泰郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.31-48, 1985

古代王権がその根拠を示すために編んだ『日本書紀』は、中世に至り、王権を支える諸道芸能の一流なる「日本記の家」に伝承された。所謂中世日本紀である。その学問は訓古註釈に止らず、物語的言説として再創造され、その典型たる三種神器説(宝剣説話)は『平家物語』「劔巻」と関連し、また、その生成過程は、慈円の夢想記が示すように、天皇即位に関する旧仏教界の即位法伝承の形成とも不可分の関係にあって、中世王権を神話的に支える機能を果していた。『太平記』中の即位法と三種神器(宝剣)の二説話が南北両朝を批判する物語上の文脈は、そうした消息を伝えるものであろう。