著者
荒居 康子
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.314-321, 2019-10-20 (Released:2020-10-23)
参考文献数
46

現在,さまざまな制度下で外国人が介護職として就労するために来日し,今後外国人労働者の受け入れは拡大することが予想される.しかし,彼らの認識に焦点を当てた研究は少ない.本研究では,経済連携協定(EPA),在留資格「介護」で来日する外国人の就労継続意向の認識とそれにかかわる要因を明らかにする事を目的に文献検討を行った.結果は該当23件.就労期間についてはインドネシア人・フィリピン人では平均5年程度の滞在を考えていた.就労継続意向に影響する要因に関しては<対象者の属性><宗教実践・文化的な考えの違い><アイデンティティの葛藤><日本人との関係性>がテーマとして明らかとなった.考察として,就労継続意向は介護の場での日本人との関係性を通して変化し得ること,また継続意欲を高めるため,彼らを積極的に知ろうとする姿勢や日本における介護とはなにか,どのように介護の概念を発展させるかを共に考えていく必要性が示唆された.
著者
広瀬 美千代
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.481-491, 2010

<p> 本研究では夜間介護があるような困難な介護状況においても介護に肯定的な評価をしている介護者の精神的側面を「アンビバレントな世界」とし,その本質に焦点を当て,その世界を本人の視点から記述していくことを目的とした.家族介護者を対象に半構造化面接を実施し,現象学的心理学の視点から質的分析を行った.</p><p> 介護者の語りを意味ある単位ごとに分類した結果,「役割規範の受容と介護役割に対する疑念」「夜間に感じる憔悴感と自分自身の納得」「無力な要介護者に対する悲憤と悲哀」「身体的開放感の欲求と社会への奉仕欲求」「要介護者を預けることによる休息感と虚無感や気づかい」が浮かび上がった.これらは「役割アイデンティティ獲得の交渉」「報恩・感謝の実践」「生活充足感の探求」の3つの基本軸に構造化された.また,これらは「行為を通じて価値を獲得していく過程」ととらえなおすことが可能であると解釈された.</p>
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.370-381, 2012-10-20 (Released:2020-01-30)
参考文献数
51

本研究では,高齢者の抑うつがその後8年間の知能低下に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.分析対象は,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査(ベースライン)に参加した65〜79歳の地域在住高齢者805用いて評価した.また,知能の変化は,ベースラインおよび2年間隔で行われた4回の追跡調査において,ウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(知識,類似,絵画完成,符号)により測定した.線形混合モデルを用いた分析の結果,抑うつの有無は,「知識」「類似」「符号」の経年変化に影響を及ぼすことが示された.一方,抑うつから「絵画完成」の経年変化への影響は認められなかった.以上の結果から,高齢者の抑うつは,その後8年間の一般的な事実に関する知識の量,論理的抽象的思考力,および情報処理速度の低下を引き起こす可能性が示された.
著者
新田 真悟
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.231-241, 2022-10-20 (Released:2023-10-20)
参考文献数
25

本研究では65歳以上高齢男性の妻および子どもとの経済的・時間的資源の配分と高齢男性の就業行動との関連を,「家族についての全国調査」の個票データを用いて検証した.線形確率モデルに基づいた多変量解析の結果,学歴・健康状態などの社会人口学的属性を考慮してもなお,夫婦に占める妻の家事時間が高齢男性の就業確率と正の関連を,子どもへの非経済的援助の提供が負の関連をそれぞれ生じさせることが明らかになった.以上の結果からは,高齢者の就業選択には経済状況や就業機会だけでなく家族内の資源配分を考慮する必要があることを示唆した.
著者
中川 威 安元 佐織
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.270-277, 2019-10-20 (Released:2020-10-23)
参考文献数
34
被引用文献数
2

社会的に構成された加齢に対するステレオタイプは,高齢者に内在化され,個人の行動や経験に影響する傾向がある.本研究では,19年間の縦断データを用いて,加齢に対してポジティブなステレオタイプをもつことが高齢者において長寿を予測するか検討した.加齢ステレオタイプがポジティブな者は,ポジティブではない者に比べて,4年間長生きだったことが示された.年齢,性別,教育歴,日常生活基本動作,疾患数,配偶者有無,同居子有無,主観的健康感を統制しても,加齢ステレオタイプと生存に有意な関連が認められた.ポジティブな加齢ステレオタイプが高齢者において長寿を予測するという仮説を支持する結果が得られた.今後,加齢ステレオタイプと生存の関連の背景にあるメカニズムを検討すべきである.
著者
豊島 彩 入戸野 宏
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.409-419, 2020-01-20 (Released:2021-01-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1

“かわいい”という語は,若者文化と結びつけて語られることが多い.本研究では,高齢者が感じる“かわいい”の特徴を明らかにし,若者文化で言及されるかわいいものに高齢者がどのように反応するかを検討した.地域高齢者20人にインタビュー調査を行い,“かわいい”の概念についてたずねるとともに,若者に人気のあるキャラクターに対する印象をたずねた.質的内容分析の結果,祖父母としての社会的役割や孫との関係性が,孫だけでなく,孫以外に対する“かわいい”感情にも影響すること,長年の人生経験が“かわいい”と感じる対象に影響することが示された.また,キャラクターの人形はなじみが薄く,かわいいとは感じないと答える者が約半数いた.本研究の結果,高齢者では,表情やしぐさに比べて,動きのない見た目の特徴をかわいいと感じることは減るが,かわいいと感じること自体はポジティブな感情として評価されることが示された.
著者
牧迫 飛雄馬 阿部 勉 大沼 剛 島田 裕之 古名 丈人 中村 好男
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.12-20, 2009-04-20 (Released:2020-10-20)
参考文献数
26
被引用文献数
3

本研究は,訪問によるリハビリテーションを利用する要介護者の家族を対象として,介護方法や介護に関する情報提供を行い,介護者の介護負担感の軽減や心理状態の向上が可能か検討することを目的とした.介入は,要介護者の介護度を層化して,対象者を無作為に対照群と介入群に分類し,介入群に対して個別介入を3か月間実施した.介入の実施は,訪問によるリハビリテーション時に行い,1回の介入は5分間程度とし,その他のサービスは両群とも継続した.介入後調査を完遂した家族介護者(対照群10人,介入群11人)を分析した結果,介入による介護負担感への効果は認められなかった.一方,介護者の主観的幸福感の指標としたPGCモラール・スケールの得点が,対照群では低下したのに対して,介入群では低下することなく維持されており,有意な交互作用を認めた.この結果は,家族介護者に対する情報提供が,介護者に対する主観的幸福感に良好な影響を与えることを示唆した.
著者
高杉 友 近藤 克則
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.173-187, 2020-10-20 (Released:2021-10-25)
参考文献数
50
被引用文献数
2

日本の高齢者を対象にした認知症関連リスク要因を検証した研究をシステマティックレビューし,研究の到達点と今後の課題を提示することを目的とした.医学中央雑誌及びPubMed文献データベース検索とハンドサーチにより,2007年以降に発表された34編の論文が抽出された.全体の8割が縦断研究であった.残存歯数,日本食,歩行時間等の生物学要因にとどまらず,うつなし等の心理要因,社会参加,ソーシャルサポート等の社会的要因と認知症リスクとの関連が示唆された.海外での研究に比した独自性は社会的な結びつきに関連する研究が豊富なこと,認知症リスク評価スコア研究や災害地域における研究などと思われた. 今後は個人レベルの要因にとどまらず,認知症対策の新たな戦略・社会政策を検討するためのエビデンスとして,より広い地域や社会,異なる時代の社会・環境要因を明らかにしていく社会科学的研究が必要と考えられた.
著者
田渕 恵 三浦 麻子
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.322-330, 2019-10-20 (Released:2020-10-23)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本研究は,高齢者と若年者という異世代が創造的課題に共同で取り組む際の,世代間相互作用の特徴を明らかにすることを目的としたものである.創造的課題として積み木課題を用い,同世代間・異世代間の相互作用場面の会話内容に着目した.高齢者同士・若年者同士・高齢者と若年者の3群の2名集団により実験を行った.先行研究に従い課題遂行中の会話を4つのカテゴリ(「提案の要求」「新しい提案」「提案に対する反応」「相手の行動に対する評価」)に分類し,各カテゴリに関する発話比率が条件間でどのように異なるかを検討した.その結果,高齢者では相手が若年者である場合のほうが同世代よりも,「提案の要求(相手に提案を促す発話)」の比率が高く,若年者同士ではそのような傾向は認められなかった.異世代間の特徴として,高齢者が若年者に対して目的遂行のための新奇な行動を促す役割を担うという,世代による役割分担が明確に行われている可能性が考えられた.
著者
福沢 愛 繁桝 江里 菅原 育子
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.327-336, 2021-01-20 (Released:2022-01-20)
参考文献数
21
被引用文献数
2

文化的自己観と幸福感との関連を年代別に検討するため,第6回世界価値観調査の20〜80歳の日本人データを分析した.欧米における先行研究では,文化的自己観のうち相互独立性と幸福感の正の関連が示されているが,相互協調性が優位な日本では,この結果が再現されない可能性がある.若年層ほど文化的規範の影響を受けやすいとされているため,相互独立性と幸福感の関連は,年齢が高い日本人でのみみられると予測した.重回帰分析の結果,中年後期以上でのみ,相互独立性_個の主張が幸福感と正の関連をもっていた.健康状態や世帯収入は年代とともに下がる反面,相互独立性は高年代集団で高い傾向もみられた.高齢期に相互独立性_個の主張を高くもつことが,幸福感を維持するために重要である可能性が示唆された.
著者
和泉 京子 阿曽 洋子 山本 美輪
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.538-554, 2012-01-20 (Released:2020-02-10)
参考文献数
52
被引用文献数
1

本研究の目的は,在宅の軽度要介護認定高齢者の要介護度の推移の状況とその要因を明らかにし,介護予防対策の示唆を得ることである.2004年度に要支援と認定された939人と要介護1と認定された659人の計1,598人について分析を行った.基本属性,身体・心理・社会的項目について単変量の解析より,5年後の要介護度と有意であった項目について,多重ロジスティック回帰分析を行った.要支援者および要介護1者共に,悪化の抑制には老研式活動能力指標得点の1点あがる毎が関連し,悪化の促進には後期高齢者,排泄の失敗ありが共通して関連していた.要支援者では,主観的健康感の非健康,趣味なし,要介護1者では,過去1年間の転倒経験ありも悪化の促進に関連していた. 軽度要介護認定高齢者に対しては,排泄の失敗の予防・支援,要支援者へは,趣味をもち活動することへの支援,要介護1者へは転倒予防の支援が介護予防につながると考えられる.
著者
崔 煌 権藤 恭之 増井 幸恵 中川 威 安元 佐織 小野口 航 池邉 一典 神出 計 樺山 舞 石崎 達郎
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.5-14, 2021-04-20 (Released:2022-04-26)
参考文献数
38

本研究の目的は高齢者の社会参加と主観的幸福感の関連において,ソーシャル・キャピタルがどのような役割を果たしているのかを明らかにすることである.地域在住高齢者のデータ(74〜78歳,N=624)を分析した結果,社会参加と主観的幸福感の関連は認められないが,4種類の社会参加のなか,地縁組織への参加は主観的幸福感と統計的に有意な関連があること,また,ソーシャル・キャピタルへの認識と近所の人の数を介した間接効果があることが確認された.この結果から,社会参加の種類によって主観的幸福感との関連が異なり,地縁組織への参加はソーシャル・キャピタルを介して主観的幸福感に影響を与えることが明らかになった.
著者
向井 通郎
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.426-435, 2011-10-20 (Released:2020-02-10)
参考文献数
20

本稿ではケアワーカーの腰痛の罹患状況を介護業務の内容とその実践上の方法に着目し質問紙調査を実施し検討した.対象者は介護老人福祉施設60施設に勤務する,1,191人のケアワーカーである.ケアワーカーの腰痛が問題視されて以来継続し腰痛有訴率が高く,この調査においても55%を超える者が腰痛を抱えながら業務に従事していた.また,17%の者は腰痛の罹患歴があるものの現在は腰痛の訴えがない.27%の者はこれまで腰痛に罹患することなく業務をこなしている.身体負担の大きい介助動作として排泄や入浴に伴う移乗・移動動作が負担となっていた.その介助の実施方法について,対象者との距離,立ち上がり後の姿勢の安定に配慮し実践がなされてはいるが,多くのケアワーカーは,「持ち上げ」により実施している実態が明らかとなった.また腰痛の軽減・予防を目指すうえでは,身体への負担が少なく,安全に配慮した介助技術を実践場面で具体的に伝達することが求められ,そのためには職員間の情報交換や教示の機会を増すことが有効であると考えられる.
著者
小池 高史
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.311-317, 2021-01-20 (Released:2022-01-20)
参考文献数
11
被引用文献数
1

就業中の高齢者の働く理由の違いによって今後の業種・職種についての希望に違いがみられるかを検証した.データは,福岡市在住の無作為抽出された60〜74歳の人3,000人を対象とした調査から得られた.有効回答数は1,922(回収率64.1%)であった.分析対象は,そのうち就業中で今後も働く意思をもっている人(905人)とした.今後の業種・職種についての希望を従属変数に,働く理由を独立変数に設定した多項ロジスティック回帰分析を行った. その結果,生きがいや社会貢献・社会とのつながりを働く理由にしている人ほど,同じ業種への希望をもっていた.生きがいは,同じ業種のみ希望と正の関連があり,社会貢献・社会とのつながりは同じ業種希望と同じ業種と違う業種の両方を希望した人に正の関連があった.また,生きがいを働く理由にしている人ほど,同じ職種のみを希望する割合が大きく,借金返済を働く理由にしている人ほど,同じ職種と違う職種の両方を希望する割合が大きかった.
著者
原田 謙 小林 江里香 深谷 太郎 村山 陽 高橋 知也 藤原 佳典
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.28-37, 2019-04-20 (Released:2020-04-20)
参考文献数
31

高齢者に対するエイジズム研究は,国内外において蓄積されてきた.しかし「もうひとつのエイジズム」とよぶべき,若年者に対する否定的態度に関する研究は乏しい.本研究は,地域と職場における世代間関係に着目して,高齢者の若年者に対する否定的態度に関連する要因を検討することを目的とした.データは,無作為抽出された首都圏の60〜69歳の男女813人から得た.分析の結果,以下の知見が得られた. ①若年者との接触頻度が低い者ほど,若年者を嫌悪・回避する傾向がみられた. ②高齢者の生活満足度は若年者に対する否定的態度と関連していなかった.ただし職場満足度が低い者ほど若年者を嫌悪・回避する傾向がみられた. ③世代性の得点が低い者ほど若年者を嫌悪・回避する傾向がみられた.一方,世代性の得点が高い者ほど若年者を誹謗するという,アンビバレントな態度が示された. ④職場でエイジズムを経験している者ほど,若年者を誹謗していた.
著者
原田 謙 杉澤 秀博 柴田 博
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.350-358, 2009

<p> 本研究は,シルバー人材センターの退会に関連する要因を明らかにすることを目的とした.データは,全国279センターの現会員と退会者の男女,合計5,553人から得た.</p><p> 分析の結果,第一に「仕事仲間」および「発注者側の態度・対応」に関する満足度が高い者ほど,シルバー人材センターを退会する傾向が低かった.一方,「配分金」や「就業体制」に関する満足度は,退会とは有意な関連がみられなかった.第二に,センターで事務職の仕事を希望する者は,その他の仕事を希望する者に比べて退会する傾向が2倍以上であった.この影響は男性および三大都市圏において顕著であり,センターが受注する仕事と会員が希望する仕事のミスマッチの問題が示唆された.第三に,センター以外のところで就業している日数が多い者ほど,退会する傾向が高かった.この影響は,男性および地方圏において顕著であり,再就職活動の一環としてセンターに関与している高齢者の存在を示唆していた.</p>
著者
相原 洋子
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.394-402, 2012-10-20 (Released:2020-01-30)
参考文献数
26

経済や教育といった社会要因と健康格差について,世界的な関心が高まっている.社会要因は食生活行動,栄養状態と強い関連を示し,その背景として食や栄養に関する情報量や知識との関連が示唆されている.高齢化が著しいわが国では,介護予防や医療費抑制のうえで,高齢者の栄養状態の改善を検討することは,重要な保健課題であるとし,本研究では社会要因と食と栄養の情報源,さらに多様な食品摂取との関連について分析した.分析対象者は地域の75歳以上高齢者645人であり,経済,教育年数によって情報源,食品摂取の多様性に違いがある結果が得られた.多変量解析の結果,本・雑誌,新聞から栄養情報を得ている人は,多様な食品を摂取する傾向にあった.活字を媒体とした情報源が,高齢者の食生活行動を促すうえで有用であることが示唆された.一方で社会経済状況の低い人に対して,アクセスならびに理解しやすい情報媒体の検討が重要であると考えた.