著者
簑原 文子
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.70-78, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究の目的は,認知症高齢者の胃ろう造設を代理意思決定した家族が,造設から看取り後まで,胃ろうに対してどのような心理的変化をたどるのかを明らかにすることである.胃ろう造設を決定し,看取りまでを経験した家族7人を対象に,半構成面接法を実施し修正版グラウンデッド・セオリーを用いて分析した.家族は,造設時,胃ろうは<ひとつの食形態>であり<胃ろうにするのは自然なこと>と【延命ではなく自然な経過】としてとらえていた.しかし,被介護者や家族自身の心身の変化が生じるなかで,<胃ろうによって生かされている命を実感>するとともに,<介護生活漂流感>を抱いていた.そして,最期が近づくにつれ<命を託されているような切迫感>のなかで【まざまざと感じる延命の念】を大きくしていた.看取り後は<最期まで看取りきれた安堵感>や<できるだけの介護をやりきった達成感>を得ながらも,<枯れるような最期にしてあげられなかった後悔>を抱いていた.胃ろうを造設した後,終末期に至った際の胃ろうから注入する栄養剤の減量・中止の選択は,家族にとって被介護者の命を断つような感覚を抱かせるものであり,医療者は家族がその選択を受け入れることができるよう,看取りへのケアを含む支援をしていく必要性が示唆された.
著者
米山 真理 竹内 登美子
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.88-95, 2021 (Released:2022-08-04)
参考文献数
17

本研究は,レビー小体型認知症(DLB)との診断がついた後,在宅で暮らすDLBの人を看ている家族の介護体験を明らかにすることを目的とした.研究参加者5人に半構造化面接法を行い,質的帰納的に分析した.結果として9のカテゴリーを見いだした.家族介護者は【幻視による混乱】と【多様な症状への対応の模索】,そして【薬の副作用による介護負担の増加】を感じながら,【日々の介護疲れの蓄積と増幅】を繰り返していた.さらに,【不満を覚えるような不適切な専門職者の対応】がこれら負の循環を助長させていた.この循環から抜け出すためには【支えとなる他者からの協力】が必須であり,【多様な症状を予測した対応】ができるようになった家族介護者は【新たな家族役割の自覚】が芽生え【本人と家族にとってのよりよい選択】を判断できるようになっていた.DLBは全身病ともよばれるほど症状が多様でその理解が難しい.ゆえに専門職者がDLBの知識を身につけ,家族と共に対応策を考えながら心身両面を支える必要性が示唆された.
著者
橋本 智江 川島 和代
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.115-122, 2018-08-01

<p> 利用者の重度化が進む介護保険施設において,入浴ケアは高温・多湿の環境下で行われる,介助者の負担が大きいケアのひとつである.本研究では,介護保険施設における入浴ケア体制の実態を明らかにし,介助者の負担に影響する課題を検討することを目的とした.方法は,介護保険施設計342施設に対し,質問紙を郵送し,入浴ケア体制に関する内容について,ケア管理者に回答を依頼した.その結果,156施設から回答が得られた(回収率45.6%).介護老人福祉施設では,1人用の浴槽を設置している施設が多く,マンツーマンでのケアを行っている施設が介護老人保健施設,介護療養型医療施設に比べて多い傾向がみられた.また,介助者が1勤務帯に入浴ケアに携わる時間は,200分以下が半数以上を占めていたが,300分以上の施設もみられ,3施設間で違いはみられなかった.これらのことから,介護保険施設における入浴ケアは,利用者の重度化に伴い長時間を要しており,介助者の負担の一因となっていることが考えられた.</p>
著者
金森 雅夫 金盛 琢也 内藤 智義 岸本 康平
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.9-16, 2021 (Released:2022-08-04)
参考文献数
41

高齢者の免疫の低下がCOVID-19感染の重症化に拍車をかけている.COVID-19の重症化のリスクを明らかにするためにスコーピングレビューを行った.重症化のメカニズム―サイトカインストームについてまとめ,COVID-19と高齢者のフレイル,認知症との関係について考察した.結果:重症化のリスクは,呼吸器疾患,高血圧,糖尿病などの基礎疾患,80歳以上の加齢,臨床所見としてNEWS;national early warning score,CRP,フェリチン,GPT,eGFR,せん妄,フレイルであった.フレイルは,多因子を調整しても生存率に影響する重要な因子であった.一方せん妄は,重症化の因子として肯定する論文と生存率に影響する因子としては否定する論文の2つがあり結論はでなかった.しかしせん妄は認知症の重症化の予兆のひとつと考えられ早急な対応を考える必要がある.高齢者施設の対応として,酸素飽和度の測定と必要に応じた酸素供給,呼吸器管理の徹底,ソーシャルディスタンスでのうつなどの対策,身体活動不活発対策が引き続き重要である.
著者
菊池 奈々子 山田 律子
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.51-60, 2017 (Released:2018-08-01)
参考文献数
19
被引用文献数
2

本研究の目的は,高齢者の熱傷の特徴と「熱傷の重症度」への影響要因について明らかにすることである.熱傷で受診した高齢者130人の診療録・看護記録を遡及的実態調査し,前期高齢者81人と後期高齢者49人で比較分析した結果,前期高齢者では「末梢神経障害」,後期高齢者では「認知症」「眼疾患」が有意に多かった(p<0.05).高齢者の熱傷の特徴として,受傷原因は「高温液体」が両者ともに3割と最多であったが,前期高齢者に比べ後期高齢者では受傷部位が「背部」に多く,熱傷面積が13.5(1.0~45.0)%と広範囲で,重症熱傷者が22.4%と多かった(p<0.05).「熱傷の重症度」を従属変数とした重回帰分析の結果,前期高齢者では「火炎」「胸部」「右下腿」「顔面」「発見者の存在」(決定係数R2=0.593)が,後期高齢者では「背部」と「火炎」(R2=0.649)が影響要因として挙げられた.今後は,日常生活上の注意喚起のみならず,感覚機能の低下や認知症に配慮した環境の工夫といった熱傷予防の必要性が示唆された.
著者
藤巻 尚美 流石 ゆり子 牛田 貴子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.80-86, 2007-11-01
被引用文献数
1

介護老人福祉施設を"終の住処"としている後期高齢者の現在の生活に対する思いを明らかにすることを目的とし,意思疎通が可能で入所後半年以上経過している14名にインタビューを行った.得られたデータをKJ法で分析し,以下の結果を得た.(1)家族に対し【故郷で家族と一緒に暮らしたい】が【家族のお荷物にはなりたくない】という,自己の欲求と家族への気遣いの相反する思いを抱いており,この思いのギャップを埋めるように【私は私,家族は家族】という思いを抱いていた.(2)施設生活に対し【施設生活ならではの安心感がある】が【受け身でしかない施設の生活は意に沿わない】と,相反する思いを抱いていた.(3)現在の生活に対し【すべてをのみこんで生活している】が【やっぱり寂しい】という思いを抱きながら生活していた.高齢者はすべてを納得しているように見えても,本心を抑えて寂しさとともに生活しており,この思いを念頭に置いたその人らしい現実の意味づけへの関わりの重要性が示唆された.
著者
相場 健一 小泉 美佐子
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.75-84, 2011-11-30 (Released:2017-08-01)
参考文献数
15
被引用文献数
5

本研究の目的は,重度認知症高齢者に経皮内視鏡的胃瘻造設術(胃瘻)による経管栄養法を選択した家族の代理意思決定に伴う心理的プロセスを明らかにし,その課題と看護支援への示唆を得ることである.研究方法は,胃瘻を選択した認知症高齢者の家族13人に対して半構成的面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.そのプロセスは《摂食困難への悩み》《命をつなぐための選択と葛藤による絞り込み》《最後までみる覚悟をしての決断》《胃瘻のある生活への不安と期待》《介護生活に対する自信と不安》《満足するものの自問自答を繰り返す》の6つのカテゴリーで構成された.家族は医師への信頼と患者の命をつなぎたい思いから胃瘻を決断していた.しかし,そこには迷い,葛藤,不安,答えの出ない代理意思決定への悩みが存在した.看護師は家族に対して高齢者にとっての胃瘻の意味を考えるように促し,家族が自らの決定に意味を見いだせるようにかかわる必要性が示唆された.
著者
大浦 ゆう子 湯沢 八江
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.84-92, 2007-03-15 (Released:2017-08-01)
参考文献数
23
被引用文献数
4

本研究の目的は,要介護高齢者の皮膚状態と血清アルブミン値との関連を明らかにし,皮膚状態が低栄養状態を早期発見するための指標の1つになりうるかどうか検討することを目的とした.低栄養状態は,血清アルブミン値が3.5g/dl以下に属する状態と定義した対象者は,F県内の療養型病床と介護病棟を有するA病院に入院している65歳以上の要介護高齢者183名のうち,平成16年8月から9月の調査期間に血清アルブミン値の血液データが得られた73名であった.結果,低栄養状態にある者は40名(55%)であり,認知症を含む精神疾患を有し,年齢が高くなるほど,寝たきりで日常生活に介助を要することが多い者ほど高い割合でみられた.皮膚状態と血清アルブミン値との関連では,顔色,上腕の皮膚の緊張,下腿部の皮膚の乾燥,足背の皮膚の乾燥,上下肢の皮膚の薄さに有意な関連を認め,これらは低栄養状態の指標となる可能性が示唆された.
著者
伊東 美緒 宮本 真巳 高橋 龍太郎
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.5-12, 2011-01-15 (Released:2017-08-01)
参考文献数
11
被引用文献数
2

認知症の行動・心理症状はさまざまな要因が絡み合って出現するが,介護職員のかかわりに対する反応として症状が現れることが少なくない.そこで介護職員がかかわったあとに何らかの徴候(sign)が現れる可能性があると考え,「介護職員とのかかわりの中で生じる,意識的とはいえない不安・混乱・落ち着きのなさ・あきらめを示す態度や言動」を不同意メッセージと命名した.不同意メッセージの特徴を明示することと,不同意メッセージが認められたときに,BPSDを回避することのできる介護職員の対応を明らかにすることにした.《服従》,《謝罪》,《転嫁》,《遮断》,《憤懣》という5つの不同意メッセージが抽出され,特に《服従》,《謝罪》,《転嫁》の3つは認知症高齢者の拒否的行動と捉えられにくいため,介護職員に気づかれないままにBPSDに至ることがあった.介護職員が,早い段階でこれらのメッセージに気づき,『ケアの方向性を変更する』,『状況が変化するのを待つ』,『責任転嫁のための言い訳を提案する』ということができた場合に,BPSDへの移行を防ぐことができていた.
著者
沖田 裕子 永田 久美子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.44-53, 2004-11-01

本研究の目的は,クリスティン・プライデンさんの講演とインタビューをもとに,痴呆の体験者が訴えようとしている内容についてケア専門家の立場から分析を行い,体験として伝えたいことを,より明確にケアと関連づけることである.講演内容とインタビューは,I.診断直後の体験・状況,II.痴呆の人が置かれている状況,III.痴呆の人が体験していること,IV.痴呆の人が求める痴呆ケア,の4つの大カテゴリーに分類することができた.これらの分析から,痴呆の人には痴呆症状の自覚と自分らしさの危機があること,新しい生き方を発見していること,行動障害は自分なりに対処している結果であること,場所・感覚機能・記憶に混乱があるなどがわかった.そして,クリスティンさんは,これらの体験に対し,それぞれのケアを求めていた.痴呆ケアは,痴呆の人の体験を知り,彼女たちの気持ちを汲んで実施していくことが重要であると再認識した.
著者
横内 理乃 新田 静江
出版者
日本老年看護学会
巻号頁・発行日
pp.80-85, 2012-03-31

抄録 本研究は,家族介護者にみられる高齢者施設入所時と入所2か月後における生活状況と精神的健康度の変化を明らかにすることを目的に,介護老人保健施設10か所の入所者21人の家族介護者20人を対象に入所時と入所2か月後に面接調査した.その結果,入所時の介護負担感尺度得点は認知症あり,入所期間の設定なし,および家族の協力不十分で高く,精神健康度得点は,入所目的が介護負担の軽減で高かった.入所時と入所2か月後の比較では,家族介護者の自分のための時間が2.8±2.0から5.6±4.9時間(p<0.05),睡眠時間が6.1±1.5から6.7±1.1時間(p<0.01)に増加し,精神健康度は6.0±3.5から2.1±2.4点(p<0.001)と有意な減少がみられた.本結果から,入所時の家族介護者の生活状況と精神健康状態は不良である場合が多く,入所後に改善する過程を理解して支援する必要性が示唆された.
著者
松本 啓子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.63-71, 2007-11-01

本研究では,在宅における認知症高齢者の家族介護者の医療に関するニーズを明らかにするために,在宅認知症高齢者の家族介護者の医療ニーズに着目し,その因子構造を構築し医療ニーズ測定尺度を開発すると同時に,その尺度の信頼性と妥当怪の検討を行った.解析の結果,「日常生活関連ニーズ」「医学的知識のもとの観察ニーズ」「介護者の安心感ニーズ」を一次因子, 「医療ニーズ」を二次因子とする二次因子モデルのデータ-の適合度はx^2 (df)=1.796,GFIが0.959,AGFIが0.937,CFIが0.975,RMSEAが0.048であった.パス係数はいずれも統計学的に有意な水準であった.また,内部一貫性を示すクロンバックのα信頼係数は,0.894であった.3因子12項目からなる在宅認知症高齢者の家族介護者の医療ニーズ尺度を構築でき,構成概念妥当性ならびに信頼性を備えていることを確認した.
著者
谷口 好美 亀井 智子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.110-118, 2002-11-01
被引用文献数
1

本研究の目的は,医療の場に勤務する看護者の高齢者観および不愉快体験を記述することである.病院,介護老人保健施設の看護者365名を対象に,構成的質問紙を用いて高齢者への肯定的・否定的傾向,および自由記載にて高齢者看護における不愉快体験とその内容を収集した.その結果,以下のことが明らかになった.1.老年期の開始は70歳前後,人生で最悪だと思う年代は60〜80代以上が最も多かった.2.約6割は高齢者を看護することに対して好意的であり,「高齢者はめったに怒らない」「経験があり賢明」等と捉えていた.一方,「慢性疾患」「新しいことを学ぶのは大変」「長期ケア施設に入所・入院している」等の意見に対しては否定的な傾向がみられた.3.看護上で不愉快な体験があった者は44.4%で,その内容は「暴言・暴力」「頑固・自己中心的・他者の言うことを聞こうとしない」等の10カテゴリーに分類され,看護者の高齢者観,高齢者に対する態度に影響している可能性があることが示唆された.
著者
山田 紀代美 鈴木 みずえ 佐藤 和佳子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.165-172, 2000-11-01
参考文献数
32
被引用文献数
4

本研究は, 6年間の追跡調査に基づき,在宅の要介護高齢者の介護者の主観的疲労感と生活満足感の変化およびそれらに関連すると考えられる要因を明らかにすることを目的に行った.調査対象者は,静岡市の特別養護老人ホームの在宅サービスの利用介護者で初回調査に参加した82人のうち,追跡調査に回答した53人である.疲労感については蓄積的疲労徴侯調査票を,生活満足感は介護者の生活に対する主観的な満足感を求めた.その結果は以下のとおりであった.1.在宅での介護継続の有無に関して,介護継続者は14人,介護を終了していた元介護者は39人であった.2.介護継続者は,蓄積的疲労徴候調査票の特性の中で,抑うつ感,不安感,一般的疲労感,身体不調は有意(p<0.05)に疲労感が低下していた.しかし,慢性疲労,イライラの状態,気力の減退では変化がみられなかった.元介護者については,蓄積的疲労徴候調査票の7特性のうち,気力の減退を除く6特性で著明な改善が認められた(p<0.01).3.生活満足感については,介護継続者および元介護者のどちらも満足感を感じている者が多く,6年間での変化はみられなかった.4.介護継続者においては,趣味をもつものが,元介護者よりも有意(p<0.05)に多かった.
著者
水野 敏子 高崎 絹子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.79-88, 1998-11-15

子供の近くに転入し,現在,公的サービスを受けているいわゆる「呼び寄せ老人」とその介護者98組に面接し,生活実態調査を行うとともに,介護者の呼び寄せに対する認識に影響する要因を分析した.その結果「呼び寄せ老人」は近県移動が主であり,痴呆が中等以上になってからの移動が多く,移動能力もつかまり歩行以下になってからの移動が多かった.呼び寄せに対する介護者の認識,すなわち呼び寄せて良かったか否かという認識に影響する要因を推測するために,数量化II類の分析を行った.その結果,「良かった」とする因子は,呼び寄せ前準備期間が3ヶ月以上あり,人間関係がよく,呼び寄せ前の移動能力に介助が必要で,痴呆症状よりも寝たきりへの介助が必要な人であった.今回の結果から,呼び寄せ老人への直接的支援よりも,介護者への支援が優先されるべきであることが示唆された.
著者
茅野 久美 谷口 珠実
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.35-44, 2020 (Released:2021-08-24)
参考文献数
21

高齢者虐待防止のためのストレス対策への示唆を得るため,介護老人保健施設の看護職および介護職のエイジズム,ストレスと感情労働の関連を明らかにすることを目的とし,無記名自記式質問紙調査を行った.測定尺度は,日本語版Fraboniエイジズム尺度(FSA)短縮版,陰性感情経験頻度測定尺度,感情労働尺度を用い,階層的重回帰分析を行った.その結果,感情労働の「ネガティブな感情表出」に対して,「(高齢者の)わがままや過度な訴えに対する陰性感情」というストレスが強い関連(β=.515,p<.01)を示し,エイジズムの関連は示されなかった.一方,ストレスに対してはエイジズムの「回避」が最も強い関連(β=.373,p<.01)を示した.以上の結果より高齢者に対して怒りを表出する傾向の「ネガティブな感情表出」を軽減するために,いらだち等の陰性感情を調整する能力を高める重要性が示された.また,「回避」を軽減することで,ストレスの発生防止につながる可能性が示唆された.
著者
牧野 公美子 杉澤 秀博 白栁 聡美
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.97-105, 2020 (Released:2021-08-24)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本研究の目的は,介護老人福祉施設内での看取りを認知症高齢者に代わって決断した家族が看取りに至るまでの過程で経験する精神的負担,および代理意思決定に対する想いに影響する要因を明らかにすることである.家族16人に対する半構成的面接のデータを,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.分析の結果,家族は施設内看取りの決定時期には,選択の迷いと高齢者本人や親族の意向が不明ななかで決断せざるを得ないことへの重責,看取り決断後は,高齢者が次第に痩せ細る姿への悲しみとそれに伴う決断の動揺,臨終のときが近いと覚悟する悲哀を経験していた.これら精神的負担がありながらも,代理決定者の家族が代理意思決定を後悔なく納得したものにできた要因は,実際に代理意思決定した時期だけでなく,決定後の期間にも存在しており,代理意思決定後においても継続的な支援をする必要性が示唆された.