著者
大塚 生美 立花 敏 餅田 治之
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.41-50, 2008-07-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
9
被引用文献数
2

1980年代半ば以降アメリカでは,年金基金や職員組合の退職金基金などの巨大投資ファンドを背景とした林地投資経営組織(TIMO)や,不動産投資信託(REIT)等によって林産会社の社有林が買収され,これまで見られなかった新たな大規模森林所有が形成されている。この林業を巡るアメリカの新たな動きは,アメリカ固有の特徴的な動きであるというばかりでなく,林業経営の世界史的な流れの中で捉えるべき育林経営の新たな段階の到来を示唆しているのではないかと我々は考えている。本稿では,それを明らかにするため,(1)アメリカにおける大規模育林経営の収益性,(2)林地評価額の上昇による林地売却の有利性,(3)不動産投資信託に対する税の優遇措置,の3つの課題を考察した。その結果,育林経営の内部収益率は概ね6%であることから,米国債や銀行利回りより高いリターンが期待できること,林産会社の所有林は,長い間産業備林として所有されていたため,今日の実勢価格はそれよりはるかに高く,林地評価額の上昇がもたらした林地売却に有利性があること,REITの経営によって得られた収益に対しては,二重課税を回避するため支払配当控除ができる税の優遇措置があることがわかった。
著者
渋谷 幸弘 餅田 治之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.26, 2003

フィリピンにおける森林再生事業は、初期の政府が直轄で行う造林から近年では地域の住民組織が主体となったものへと変化してきた。しかし、現在においても問題の抜本的解決には至っていない。そこで本研究では、フィリピンにおける主要な森林再生事業である、__丸1__政府が直轄で行う造林と、__丸2__住民組織による造林が地域の実態においていかなる問題をはらんでいるのかという点に関して、事業に関係している地域住民に焦点を当て考察を行った。具体的には、__丸1__事業の公平性、__丸2__地域住民による造林地の自立的な維持管理、__丸3__地域住民の生活改善への寄与、そして、__丸4__森林の再生という4つの分析視角を設定し事業の評価を試みた。政府が直轄で行う事業としては、国際協力事業団の協力により1976__から__1992年に実施されたパンタバンガン森林開発プロジェクトを取り上げた。プロジェクトの目的は、ダムの集水域に広がる荒廃林地に造林を行うことによって土砂堆積を防ぐことであり、約1万haの造林が行われた。当プロジェクトでは、林地・造林木は国の所有とされ、地域住民は主に雇用労働者として事業に携わった。住民組織による事業としては、現在の林政における最重要政策であるCBFM(Community Based Forest Management)を取り上げた。CBFMは地域の住民組織に対して25年を契約単位とする林野保有権を付与し、住民組織を基盤とした資源の共同管理を目指そうとするものである。調査地においては、二つの住民組織が各々約300haの国有林地を利用し、果樹造林を行っていた。調査地は、ルソン島中部に位置するヌエバエシハ州カラングラン町を設定した。当地域では過去にパンタバンガンプロジェクトが実施され、2001年以降二つの住民組織がパンタバンガンプロジェクトと同じ造林地を利用してCBFMを実施している。そのため、多くの住民が双方の事業に関わっており、両事業の比較が可能であった。調査は2001年8月、2002年2月、2002年9月の3回実施し、設定した二集落の全世帯に対して質問表を用いた悉皆調査を実施した。地域住民は所得水準によって以下の4つの階層に分類することが可能であった。高所得順に、__丸1__農外就業者、__丸2__自作農、__丸3__小作農、__丸4__農業雇用労働者であり、この階層の違いをもとに分析をおこなった。__丸1__事業の公平性:パンタバンガンプロジェクトにおいては、最も貧しい農業雇用労働者が最も雇用機会を得ることができず、雇用に際して平等が確保されていなかった。CBFMの実施主体である住民組織への参加率は、自作農が最も高いものの、その他の階層ではほぼ同程度であった。しかし、農業雇用労働者は日々の生活の糧を得なければならないため、造林地の維持管理ができず、CBFMは富裕層のみが利益を得ることができ、貧困層が実質的に参加できない仕組みになりつつあった。__丸2__造林地の自立的な維持管理:パンタバンガンプロジェクトにおいては、実施期間中、年平均10ha以上が山火事によって被害を受けた。林地・造林木に対してほとんど何の権利も持たなかった地域住民にとって、造林木を維持管理するインセンティブは無く、造林地を保護する自立的な行動は見られなかった。CBFMでは、その同じ造林地において、2001年に事業が開始されて以来、山火事による造林木の被害は無い。これは、住民組織が山火事に対処するために規則を作り、草刈や消火活動などを行った結果であり、25年(最長50年)に及ぶ林野保有権が林地・造林木の維持管理における強力なインセンティブになっていると考えられた。__丸3__住民の生活改善への寄与:当地域における住民のニーズはどの階層においても、「雇用機会の創出」が最も高かった。パンタバンガンプロジェクトは、16年間という長期にわたって雇用機会を提供することができたが、一時的な効果にとどまっており、地域の持続的な発展に繋がることはなかった。CBFMにおいては、住民組織が造林事業にとどまらず、家畜飼育事業や金融事業などを自主的に行うことを計画しており、CBFMを通じた新たな地域発展の可能性が生まれつつあった。__丸4__森林再生事業としての評価:パンタバンガンプロジェクトにおいては、20種類以上の多彩な樹種が造林され、採算性の低い場所にも大面積に造林された。CBFMにおいては、造林されているのはマンゴーを主体とする数種の換金樹種に限られ、また集落から交通アクセスのよい林地にしか造林が行われていない。面積は現在のところ完全に事業が成功したとして約600haである。このように、森林の再生という側面からみれば、CBFMには限界があるということができる。
著者
柳幸 広登 餅田 治之
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.117-122, 1998-03-20
被引用文献数
1

ニュージーランドの人工造林の展開は,(1)「第1次造林ブーム期」(1925-35年),(2)低調期(1930年代後半〜50年代前半),(3)「第2次造林ブーム期」(1960年代後半〜80年代前半),(4)急落期(1985〜1991年),(5)「第3次造林ブーム期」(1992年以降)の5つに時期区分できる。このうち「第3次造林ブーム期」の大きな特徴は,造林会社による「パートナーシップ造林」が主要な造林方法となっていることである。パートナーシップ造林が急増した背景には,(1)羊放牧業の不振,(2)1991年の税制改正によって造林投資の7割前後が所得税の控除対象になったこと,(3)好調な素材・製品輸出に支えられて立木価格が上昇したこと,(4)1990年代前半の社会保障制度の改革により退職後の備えを自力で準備する必要ができたこと,(5)パートナーシップ造林への投資が比較的少額で行えるため,従来林業に無関係であったさまざまな人々を引きつけていること,などが指摘できる。
著者
餅田 治之 大塚 生美 藤掛 一郎 山田 茂樹 幡 建樹 大地 俊介 奥山 洋一郎
出版者
(財)林業経済研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、日本の育林経営がビジネスとして経営されるようなるには、どのようなビジネスモデルを想定すべきか、またそのモデルを実現するためにはどうした条件が必要かを考察することである。世界の林業が人工林育成林業化している中で、わが国の育林経営だけが経営として成立しないのは、経営の仕方に問題があるからだと考えられる。現に、国内の育林経営も、速水林業のように近年急速に育林コストを低下させている事例、耳川広域森林組合のように受託経営している市町村有林を黒字化している事例、速水林業および住友林業のように育林をコンサル事業として展開している事例など、ビジネス化の条件が整いつつある事例が見られる。