著者
渡利 泰山 大河内 豊 高柳 匡 Chung Yu-Chieh Kehayias John 西尾 亮一 Gang Dong-Min Weissenbacher Matthias
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

素粒子物理の現象論や模型構築というアプローチは、低エネルギー有効局所場の理論を言語とする。そのため、この理論的枠組みの持つ限界から逃れられない。今回の研究では、超弦理論を用いて、その限界を打破する試みを2通りの方法追及した。1つは、超弦理論のコンパクト化を用いるものである。フラックスコンパクト化の解の統計学をF-理論で適用可能にすることにより、ゲージ群、湯川結合定数などの分布関数を導いた。もう1つは、AdS/CFTを用いたハドロン高エネルギー散乱の理論的枠組みの拡張。2体から2体への散乱ながら、非弾性散乱でも扱えるように拡張し、一般化されたパートン分布関数の定性的性質を弦理論を用いて導いた。
著者
高柳 匡 西岡 辰磨 笠 真生
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.361-369, 2014-06-05 (Released:2019-08-22)

重力を含む全ての力を統一すると期待される超弦理論は,AdS/CFT対応と呼ばれる重力理論と場の理論の等価性(ホログラフィー原理)を予言する.近年,この考え方を量子多体系の物理や物性物理学へ応用する動きが高まっており,高温超伝導体などに代表される強相関量子多体系において,普遍的と期待される性質が重力理論を用いて盛んに解析されている.その中でも特に「エンタングルメント・エントロピー」と呼ばれる,量子多体系の量子状態の量子的なもつれを測る指標が注目を集めている.ホログラフィー原理に基づくと,量子臨界点にある量子多体系のエンタングルメント・エントロピーは,反ド・ジッター空間中の「曲面の最小面積」で与えられる.従来の複雑な計算方法と異なり,このホログラフィック公式は相互作用する系に適用可能な新たな解析方法である.一方,量子情報理論および数値物性理論では,量子系の波動関数を,しばしばテンソルネットワークと呼ばれる形式で表示し,波動関数に含まれるエンタングルメントの見積もりが行われる.ホログラフィー原理とテンソルネットワークは,一見何の関係もないように見える.ところが最近の研究では,テンソルネットワークを用いて異なったエネルギースケールでのエンタングルメントの記述を考えると,自然に反ド・ジッター空間中の曲面の構造が現れることがわかってきた.このように,エンタングルメント・エントロピーを通じて,量子多体系,量子重力理論,量子情報理論の間の関係性が明らかになりつつある.特に,ホログラフィック公式とテンソルネットワークの類似性は,重力理論における時空そのものが量子エンタングルメントの集合体であるという,全く新しい見方を提起している.本記事では,ホログラフィック公式を中心に,この3つの分野におけるエンタングルメント・エントロピーに関する最近の発展を解説する.まず2節では量子多体系のエンタングルメント・エントロピーを導入し,強劣加法性などの基本的性質について述べる.また,エンタングルメント・エントロピーのスケーリングが,量子多体系の種々の相を区別するのに有効な指標であることを見る.次の3節では系のエネルギースケールを変えたときのエンタングルメントの変化を考察する.特に系が持つ「有効自由度」はエネルギーが低くなるにつれ減少するはずだが,そのような有効自由度を測る関数が,エンタングルメント・エントロピーを用いることで具体的に構成できることを示す.4節ではまずホログラフィー原理の具体例であるAdS/CFT対応を解説し,重力理論を用いたエンタングルメント・エントロピーのホログラフィック公式を導入する.その後,この公式が重要な性質である強劣加法性を満たすことを確認し,AdS/CFT対応で記述される非フェルミ流体に触れる.最後に5節ではMERAと呼ばれる,繰り込み群の考え方に基づいた量子多体系のテンソルネットワーク波動関数を紹介し,MERAとAdS/CFT対応におけるホログラフィック公式の類似性を考察する.
著者
江口 徹 佐々木 節 杉本 茂樹 白水 徹也 高柳 匡 向山 信治 細道 和夫
出版者
京都大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2007

宇宙の創成やブラックホールは現代物理学の最大の謎である。これらの謎に挑戦する学際的、先進的な研究を日本の超弦理論と宇宙論分野の研究者が協力して行なった。ブラックホールの量子状態、インフレーション宇宙における非ガウス的揺らぎの生成、ゆらぎのスペクトルのスケール不変性等について非常に興味のある結果が得られた。また、合宿形態の勉強会を持つ事により、素粒子、宇宙論料分野の研究者の連携が強まった。