著者
高田 宜武 伊藤 祐子 林 育夫
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.199-207, 2013

バカガイMactra chinensis幼貝の遊泳行動を実験室内で観察した。殻長7~15 mmの小型のバカガイは底面から跳躍後に,足を左右に振って遊泳した。遊泳速度は殻長7~9 mm の個体で毎秒平均6.0 cm,9~15 mmの個体で毎秒平均7.8 cmであった。遊泳距離は平均17.4 cmであった。殻長31~35 mmのやや大きい個体は,跳躍はするものの遊泳行動は認められなかった。水塊中でのバカガイの移動距離は,足を振って遊泳することにより,単なる跳躍よりも4.1倍増加した。したがって野外での遊泳行動は,捕食のリスクを低減するとともにより良い生息場所に潜砂できる可能性を増加させる適応的行動だと思われる。
著者
高田 宜武
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.145-155, 1997-06-30
参考文献数
23
被引用文献数
2

九州西部の天草の転石地潮間帯において4種のNipponacmea属のカサガイ(コウダカアオガイ・ホソスジアオガイ・クモリアオガイ・アオガイ)について加入, 成長, 生残を調べた。コドラート法による定量採集を16ヵ月定期的に行い, 4種類の殻長サイズヒストグラムを作成して検討した。コウダカアオガイは1月と3月に加入し, 成長は春期に速く夏期は遅い。殻長18 mmまで成長し翌年の5月までにほとんど死亡した。ホソスジアオガイは2月に加入し単調に成長した。10月までの生残は良いが, 10月以降は急に生残が悪くなり, 殻長20ミリに達する3月にはほとんど死亡した。クモリアオガイは12月と3月に加入し, ゆっくり成長し翌年の2月に殻長16ミリに達する。夏期からの死亡は徐々に起こり, 5月までにほとんど死亡した。アオガイは主に春期に加入するが, 以後の解析はコホートの分離が出来なかったので不可能だった。以上のように, 4種のカサガイの加入後の生活史には若干の違いが認められた。
著者
辻野 睦 内田 基晴 手塚 尚明 高田 宜武
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.184-195, 2020-05-15 (Released:2020-05-29)
参考文献数
39
被引用文献数
2 2

全国12のアサリ漁場干潟における線虫類の分布と形態的特徴について底質環境およびマクロベントス現存量との関係を調べた。線虫類の生息密度は有機物量が多く粒径が細粒部に偏り,バクテリア生菌数が多く還元的な干潟で高いと言えた。線虫類の体長や体幅は底質の粒度組成および酸化還元電位といった物理化学的な環境と関係していることが示された。線虫類とマクロベントスの湿重量には正の相関関係があり,線虫類の現存量が高いと考えられる底質環境の干潟では,アサリを含むマクロベントス現存量も高くなる傾向が認められた。
著者
高田 宜武
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.53-64, 2018

<p>熱帯および亜熱帯の河口域では複数種のアマオブネガイ類が共存している。同所的に分布する4種のアマオブネガイ類(シマカノコ,ドングリカノコ,ツバサカノコ,イガカノコ)について石垣島のマングローブ域において調査を行い,微細な分布パターンを把握した。調査は2006年の1月と7月の2回行い,28 m<sup>2</sup>の調査地を25 cm毎に碁盤目状に区切り,各々の枠内にいたアマオブネガイ類の個体数を種ごとに計数した。Moranの<i>I</i>指数より,両月とも4種の分布は正の空間的自己相関を示すことがわかった。次に,空間的なランダム効果と固定効果として枠ごとの潮位高を考慮にいれた条件付き自己回帰モデルを4種の微細分布に適合させた。その結果,種間および調査時期で微細分布に違いがあることがわかり,潮位高は4種の分布に有意に影響するが,1月のシマカノコと7月のツバサカノコの場合以外では空間的自己相関の効果が卓越することがわかった。マングローブ域のアマオブネガイ類の個体数を推定する際には,空間的自己相関の影響を考慮しないと誤差が大きくなると考えられた。</p>
著者
高田 宜武 阿部 寧 長尾 正之 鈴木 淳 小林 都 大井 理恵 橋本 和正 渋野 拓郎
出版者
The Japanese Coral Reef Society
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.7, pp.37-48, 2005
被引用文献数
6

サンゴ礁生態系は世界的に劣化しつつあるといわれており、陸域から流入する「赤土」等の懸濁物粒子による海水濁度の上昇が、その要因の一つとして挙げられている。そこで、サンゴ礁池における海水濁度の変動レベルとその要因を知るために、石垣島浦底湾において2年間の採水観測を行った。岸近くの突堤表層では、濁度は2.26NTUを中央値とするが、変動幅が大きく、最高値92.9NTUを記録した。サンゴの生育している湾奥 (150m沖) と湾中央部 (370m沖) では、0.58NTUと0.36NTU (それぞれ表層の中央値) となった。海水濁度の変動要因として、降雨と風向の影響を解析したところ、降雨量と濁度の相関は弱いが、北西風により濁度が上昇する傾向があった。冬期に濁度が高くなるのは、冬期に多い北よりの風の影響だといえる。浦底湾のように、河川流入の影響が小さい礁池では、風波によって底質に沈殿していた粒子が再懸濁することと、表層に発達する高濁度かつ低塩分水の吹送が、礁池内の海水濁度に大きく影響すると考えられた。
著者
高田 宜武
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus : journal of the Malacological Society of Japan (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.157-172, 2001-09-30
被引用文献数
4

九州天草の傾斜の緩やかな転石地潮間帯において, 同所的に生息する9種類の藻食性貝類の日周期活動を観察した。観察は夏期に4回(うち2回を大潮時, 2回を小潮時に)行った。3種類の巻貝類(スガイ・アマガイ・タマキビ)では, 転石上面で移動中の個体を「活動中」, 転石上面で停止しているものを「停止中」として記録した。5種類のカサガイ類(コウダカアオガイ・クモリアオガイ・アオガイ・ホソスジアオガイ・ヒメコザラ)と1種類のヒザラガイ類(ケハダヒザラガイ)では, 移動の有無に関わらず, 転石上面に出現している個体を「活動中」として記録した。昼夜および潮汐の状態と関連して, 活動パターンの種間変異が認められた。アマガイとタマキビは, おもに夜間の干出状態で活動した。ケハダヒザラガイとアオガイ類は, おもに夜間の干出状態と波に洗われている状態で活動した。スガイとヒメコザラは夜間によく活動し, 潮汐とは無関係であった。このような活動パターンを2つに類別すると, 活動期が限定されている種(ケハダヒザラガイ・アオガイ類・タマキビ・アマガイ)では貝の排泄した糞中の無機質含有量が少なく, 活動期が広範囲な種(ヒメコザラ・スガイ, およびイシダガミガイ)では糞中の無機質含有量が多い, という関連性が見出せた。活動期が広範囲な種は, 限定されている種と比較して, 冠水中の活動時に転石上面に沈殿した無機質粒子を摂食する機会が多いものと推測される。