著者
杉本 伸夫 清水 厚 松井 一郎 西川 雅高 鵜野 伊津志 村山 利幸 荒生 公雄
出版者
社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
no.43, pp.74-77, 2002-09-11

この数年黄砂は増加傾向にあるといわれている。しかし、黄砂の現象を定量的に議論するための観測データはこれまで十分であったとは言えない。そこで筆者らは、黄砂の発生、輸送を三次元的に把握するために、ライダー(レーザーレーダー)によるネットワーク観測を北京と長崎、東京、つくば等で行うとともに、化学輸送モデル(九州大学CFORS)を用いた動態解析を行った。北京、長崎、つくばにおけるライダーによる連続観測データとモデルの比較の結果、主な黄砂現象については全般にモデルが観測結果を良く再現することが示された。そこで、モデルを用いて黄砂の発生毎に識別番号を付け、各地点のライダー観測結果との対応を検証するとともに、イベント毎に黄砂の輸送経路を記述した。日本に飛来する大規模な黄砂のほとんどは内モンゴルおよびモンゴルで発生し、強風に乗って北京周辺まで急速に輸送された後、北寄りに進路を変える場合が多い。通常、強風を伴う黄砂の本流は日本には到達せず、北東に流れる帯状の黄砂の一部が南東に広がるような形で日本に輸送される。2002年は2001年に比べて黄砂の観測される頻度が高く、また、韓国や日本でも高濃度の黄砂が観測された。北京、長崎、つくばの連続的ライダー観測の結果によると、地上から高度6kmまでに黄砂層が観測された頻度は、北京では2年間であまり変わらないのに対して、長崎、つくばでは2002年の方が倍ほど多く、明らかに日本への輸送量が多いことが示された。CFORSによる解析でも輸送経路の違いが見られた。2002年の大規模黄砂(3月20日、4月6日)では、黄砂が例年より東寄りで北上したため黄砂の本流が韓国にまで達し高濃度の黄砂被害をもたらした。これに似たケースは2001年4月6-7日発生の黄砂時にもあったが、このときは黄砂の本流は西側で北上し高濃度の黄砂被害は韓国にまでは及ばなかった。
著者
鳥山 成一 山崎 敬久 近藤 隆之 水畑 剛 奥村 秀一 水上 昭弘 神保 高之 木戸 瑞佳 日吉 真一郎 溝口 俊明 杉本 伸夫 松井 一郎 清水 厚
出版者
Japan Society for Environmental Chemistry
雑誌
環境化学 : journal of environmental chemistry (ISSN:09172408)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.269-285, 2005-06-24
参考文献数
39
被引用文献数
5 4

2004年2月1日から6月14日まで, ライダーの観測データと, 標高別観測地点におけるSPM, オキシダント等の大気汚染物質観測データを用いて, 黄砂やオキシダントの高濃度の事例に関して総合的に解析したところ, 次のような結果が得られた。<BR>黄砂の規模は地上~2, 000m, 3, 000~6, 000m, 地上~4, 000m等, 種々の気塊で飛来していることが観察された。標高別3地点 (立山室堂, 立山局, 小杉局) のSPM濃度は, ライダーの画像と良く一致した。<BR>富山平野上空に出来た「黄色い帯」は, 珍しく解消されないで残っていた逆転層に大気境界層上空の薄い黄砂層が自然降下し, 形成されたものである。<BR>黄砂飛来と同時にオキシダントを含むと考えられる大気汚染物質で出来た二次粒子等からなる球形粒子がライダーで観測された。バックトラジェクトリーによって, 黄砂飛来と同時にオゾン等の大気汚染物質を含む気塊が, 日本の関西・北九州地方, 中国大陸方面から流入していると考えられた。<BR>2004年6月5日にオキシダント注意報の大規模な発令があった。ライダー画像はオキシダントも含む大気汚染物質で出来た球形粒子の存在を示唆した。バックトラジェクトリーでは, 関東方面の気塊の流入である可能性が高いと考えられた。このような黄砂とは無関係な高濃度のオキシダントは関東, 中京, ないしは関西方面からの気塊で運ばれてくるものと推察された。
著者
竹内 延夫 杉本 伸夫 桜井 捷海 馬場 浩司 上野 敏行
出版者
一般社団法人 レーザー学会
雑誌
レーザー研究 (ISSN:03870200)
巻号頁・発行日
vol.11, no.10, pp.763-771, 1983
被引用文献数
1

Pseudo-random-modulation CW lider (RM-CW lider) is a new lider technique, which is essentially an optical version of the pseudo-noise (PN) radar. However, the crossover function is introduced to the RMCW lider in order to suppress the near-, distance strong-echo contribution. In his paper, RM-CW lidar is theoretically treated both in Mie-scattering lidar and differential absorption lidar (DIAL) cases. The fundamental performance of the former is experimentally demonstrated and the ability ofthe latter is discussed in a detailed case using an Ar laser as a transmitting laser.
著者
西澤 智明 杉本 伸夫
出版者
日本エアロゾル学会
雑誌
エアロゾル研究 (ISSN:09122834)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.242-249, 2009-12-20 (Released:2009-12-25)
参考文献数
26
被引用文献数
2

Vertical distributions of aerosol optical properties derived from lidar measurements are essential information for evaluating climate change. The recent development of lidar, communication, and computer technologies has enabled us to conduct ground-based network observations and satellite borne, ship borne, and airborne measurements with multichannel lidar. These lidar observations and related data analyses have provided detailed aerosol information. This paper reports the current status of aerosol observations conducted with lidars by the National Institute for Environmental Studies (NIES) and those performed around the world. Several up-to-date developed algorithms that estimate aerosol optical and microphysical properties using multichannel lidar data are also reported. NIES future strategies for lidar observation and aerosol retrieval algorithms are also presented based on the current status.
著者
メゴ ピナンディト イマム ロザナント イイ ヒダヤ スゴンド サントソ シティ アシアティ アンオンド プラノウォ 松井 一郎 杉本 伸夫
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.205-216, 2000

エアロゾルの高度分布 海岸,都心部,内陸部の3地点に設置したミー散乱ライダーによりインドネシア,ジャカルタのエアロゾルの高度分布を観測した。1997年の9月から10月の乾季の1週間,大気境界層構造を観測した。ラジオゾンデによる観測をジャカルタにおいて同じ期間に実施した。この期間に海陸風循環を伴う大気境界層構造の日変化が明瞭に捉えられた。大気境界層より上空の高度2から5kmにおいてもエアロゾル層が観測された。流跡線解析の結果,このエアロゾル層はカリマンタンの森林火災によるものと考えられる。一方,雨季における大気境界層構造の観測を1997年12月に実施した。観測されたエアロゾル分布構造は乾季のものと異なり明瞭な日変化を示さず,境界層の上部に雲が生成される例が多く見られた。乾季の境界層の高度が最大で約2.5kmであるのに対して,雨季では3-4kmに達する場合も見られた。
著者
中根 英昭 笹野 泰弘 林田 佐智子 杉本 伸夫 松井 一郎 湊 淳 Mccormick M. P.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.153-159, 1993-02-25

国立環境研究所オゾンレーザーレーダー(つくば市、北緯36度、東経140度)を用いて測定されたオゾン濃度高度分布を、衛星搭載センサーSAGEIIのそれと比較した。比較にあたっては測定時間、測定場所の差についていくつかの基準をおいてSAGEIIのデータを選択した。すなわち、SAGEIIの測定対象域の緯度・経度について(1)それぞれつくばから5度及び15度以内に入るデータ、(2)北緯31度から41度までの緯度帯に入るデータの経度方向平均、また測定時間についてレーザーレーダー観測時刻の前後1日、3日、及び5日間に入るデータを用いることとした。比較の結果、個々の分布(1)および経度方向の平均分布(2)とも良い一致が見いだされた。レーザーレーダーとSAGEII測定値の相対差の平均は15-50kmの範囲について約10%程度である。
著者
鵜野 伊津志 天野 宏欣 木下 紀正 荒生 公雄 村山 利幸 松井 一郎 杉本 伸夫
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.17-29, 2003-01-31
参考文献数
21
被引用文献数
6

地域気象モデルRAMSと結合した黄砂の輸送モデルを開発した.この輸送モデルでは,黄砂の発生源の特定に,NDVI植生インデックスと積雪被覆率データを利用し,発生条件には土壌分類に従った臨界摩擦速度マップを利用した.また,粒径別輸送,乾性沈着,湿性除去,重力沈降のプロセスもモデル内に組み込んだ.1998年4月10日〜25日にかけての東アジア域の大規模な黄砂エピソードに適用し,その輸送解析を行った.1998年4月14日〜15日に主にゴビ砂漠〜黄土高原で発生した黄砂は,寒冷渦に巻き込まれる形で日本列島を西から東に横断するように輸送されるのがシミュレートされた.寒冷渦の通過に伴い,ダストの鉛直分布は,最初に濃度の濃い層が高い高度に現れ,続いて低い位置へと変化することがモデルの鉛直空間分布から示され,これはライダー観測の結果を合理的に説明していた.大量の黄砂が寒冷渦の西側の沈降性の逆転層内にトラップされて輸送されたため,観測されたダスト層は2〜3km以下の比較的低高度であった.
著者
高薮 縁 松井 一郎 杉本 伸夫 住 明正
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

地上での雲の放射効果に関しては、GMS/TBB(気象衛星「ひまわり」相当黒体輻射温度)等の雲データと放射コードを用いた研究や精密な放射観測を用いた研究から、雲の鉛直分布特性の把握が必要であることが明らかであったが、雲底情報も含めた雲システム特性についての理解は十分でない。本研究では、ジャカルタおよび観測船「みらい」に設置した小型ミーライダー観測により雲底高度を算出し、衛星雲データ・降雨データおよび気象データを併用し、熱帯域の陸上・海上の雲降水システム特性を解析した。1.ジャカルタ設置のライダーによる雲の連続観測から雲底高度を算出した。またGMS/TBB、およびTRMM PR(熱帯降雨観測計画衛星降雨レーダー)、NOAA衛星の長波放射、高層観測データを収集・処理した。これらのデータを用いて雲底高度分布の特性と大規模大気循環との関係を解析すると共に、雲底分布・衛星からの雲頂情報・降雨の関係を日変化に着目して解析した。観測は1998年1-2月、6-7月、10-11月、12月-1999年3月、6-8月に行われ、湿循期と乾燥期に分けて解析した。湿潤期には、高度1km以下・約4.5km・約11kmの雲底の3層構造が明らかになった。1km以下の雲底は、12-18LTの陸上の境界層の発達で現れる夕立に伴い、乾燥機にも出現する。一方、4.5km高度の雲底は夕方〜朝方に観測され深夜00-03LTに卓越するもので湿潤期特有である。TBBデータやTRMM降雨データとの比較から、これは対流システムと組織化したアンビル雲の融解層高度に広がる雲底と解釈できる。2.「みらい」搭載のライダーによる観測から雲底高度を算出し、ジャカルタの結果と比較しながら熱帯海上での雲底高度分布の特性と気象場・雲頂・降雨の関係を日変化に着目して解析した。陸上との第一の相違は、1km以下の雲底を持つ雲が昼夜を問わず常に現れることである。やはり1km以下、約4.5km、約11kmの3層が顕著である。4.5kmのピークは03-09LTと15-18LTにあり、前者が大きい。夕方から夜明け前に上層11km付近のピークがあり、00-03LTに大きい。TRMM PRからは海上では03-09LTの早朝に対流雨と層状雨が組織化した降水の卓越が解析され、4.5kmのピークは組織化した雲システムのアンビルの早朝の発達を示す。これはジャカルタと同様、湿潤期特有の現象であった。
著者
藤吉 康志 川島 正行 山崎 孝治 塚本 修 岡本 創 杉本 伸夫 三浦 和彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

当該研究期間、2002年と2004年の2回、北極海上に発生する雲と降水システムの総合的な観測を実施した。まず、北極海に出現する大きな気象擾乱には、背の低いタイプと背の高いタイプがあり、前者は北極海起源、後者は北太平洋起源の低気圧であるとを示した。次に、北極層雲の水平構造を調べ、対流性と層状性の構造の2つの水平パターンが存在することを見出した。この結果は、詳細な数値モデルによるシミュレーションの結果と整合的であった。また、雲レーダーを用いた観測で、雲の鉛直構造を明らかにし、雲頂高度がほぼ-45℃に存在すること、2km以下と5km付近の2高度で雲の出現頻度が高いこと、更に、北極海では雲は多層構造を示していることなどを明らかにすることができた。さらに、雲レーダーとライダーと組み合わせるアルゴリズムによって、雲粒の粒径分布も求めることができた。海洋と大気との乱流フラックスも実測し、放射収支と合わせて、北極海での熱収支を見積もることができた。また、客観解析データとレーダーデータを基に、北極域での水収支とその季節変動も見積もることができた。更に、エアロゾル-海洋-大気-雲の相互作用を新たに見出した。これは、海水温の変化と、海起源の雲核の数濃度や大気境界層内の雲の発達とが良く対応していることを観測事実として示したもので、北極海上における下層雲の形成過程が、温暖化に伴う海水温変化に影響を受けることを示した画期的な成果である。以上の成果は、国内外での学会で発表し、他国の研究者から高い評価を受けた。更に、熱帯・中緯度との観測結果との比較も行い、2012年にESA(Europe Space Agency)とJAXAとで共同で打ち上げ予定の雲観測衛星(EarthCARE)の科学的基礎データとしての重要性を強調した。