著者
久米 功一 鶴 光太郎 佐野 晋平 安井 健悟
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.54-74, 2018-11-29 (Released:2018-11-29)
参考文献数
29

本稿では,経済産業研究所が実施したアンケート調査の結果を用いて,増税の是非と社会保障の縮小・拡大という選択に対して,信頼や公共心などの個人の意識がどのような影響を与えるかを分析した.特に,増税せずに社会保障の拡大を求める人々の特徴をみると,税負担と社会保障増減の整合性を取るような財政中立的選択を支持する人々に比べ,政府・他人への信頼や公共心が低い一方,政府への依存が強く,市場経済に懐疑的であった.また,教育水準,時間当たりの所得,相対所得が低かった.これらの結果は,将来に向けて財政・社会保障の持続可能性を確保していく上で,政府・他人に対する信頼や公共心を醸成していくことが重要であることを示唆している.
著者
久米 功一 鶴 光太郎 戸田 淳仁
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.25-38, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
11

本稿では、正社員の多様な働き方が進展している現状に鑑みて、限定的な働き方が労働者に与える厚生について検討した。とくに、制度上の区分ではなく、働き方の実態に着目して分析した。限定的な働き方をしている正社員のスキル形成と満足度の視点から、これらの関係を構造的・立体的に捉えることを試みた。具体的には、限定的な働き方とスキルが仕事・生活満足度に与える影響について金銭的価値から評価した。 その結果、満足度の観点からみると、残業があることやスキルアップの機会がないことが、仕事満足度も生活満足度も損ねていた。生活満足度アプローチから、満足度を損ねる働き方の所得補償額を試算すると、正社員のスキル向上機会がないことで失われる仕事満足度、生活満足度の経済的価値はそれぞれ1,233.3円/時(平均時給の72.4%)、808円/時(同47.4%)と、残業に対する補償額の2~3倍と大きかった。女性正社員は、男性正社員に比べて、残業や転勤・配置転換、ラインに組み込まれていることが、生活満足度を損ねて、その大きさは、時給の約6割程度に相当していた
著者
鶴 光太郎
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.99-123, 2011

所得格差拡大の要因については, 高齢化の進展, 単身世帯の増加など世帯の「見かけ」の動きを強調する議論もあるが, 若年層での格差拡大は目立ってきており, 非正規雇用, 特に有期雇用の拡大と関連している. 有期雇用労働者が直面する格差には賃金, 教育訓練などの「処遇の格差」, 「雇用安定の格差」, 「セイフティネットの格差」があるが, こうした格差の縮小のためには, 契約終了手当・金銭解決導入等の雇用不安定への補償や「期間比例の原則」への配慮によって, 雇用安定と処遇の格差の一体的な解決を目指すべきである. また, 有期雇用, 無期雇用, 両サイドで多様な雇用形態を創出し, 連続的に繋がるような仕組みを構築することが重要だ. さらに, 格差問題への政府の積極的な関与も期待されているが, 「必要な人に必要なサポート」を原則に, 最低賃金の引上げなどよりも低所得者の・社会保険料等の負担軽減を目的とした給付付き税額控除で対応するべきである.Widening income inequality over the past decades is related to the growing use of temporary employment as well as an increase of aging and single-person households. Seniority based wage and introduction of termination payment would be effective to reduce the wage gap and compensate employment instability for temporary workers. In addition, more varieties of contract within temporary and regular employment are likely to fill the institutional gap between regular and temporary workers. Government has an important role to mitigate the problems of inequality, but its policies should be based on the principle of "necessary support for people who need most". In this sense, an appropriate policy measure for low income persons is not an increase in minimum wage but the introduction of earned income tax credit (EITC).
著者
久米 功一 鶴 光太郎 戸田 淳仁
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究
巻号頁・発行日
vol.45, pp.25-38, 2017

本稿では、正社員の多様な働き方が進展している現状に鑑みて、限定的な働き方が労働者に与える厚生について検討した。とくに、制度上の区分ではなく、働き方の実態に着目して分析した。限定的な働き方をしている正社員のスキル形成と満足度の視点から、これらの関係を構造的・立体的に捉えることを試みた。具体的には、限定的な働き方とスキルが仕事・生活満足度に与える影響について金銭的価値から評価した。その結果、満足度の観点からみると、残業があることやスキルアップの機会がないことが、仕事満足度も生活満足度も損ねていた。生活満足度アプローチから、満足度を損ねる働き方の所得補償額を試算すると、正社員のスキル向上機会がないことで失われる仕事満足度、生活満足度の経済的価値はそれぞれ1,233.3円/時(平均時給の72.4%)、808円/時(同47.4%)と、残業に対する補償額の2~3倍と大きかった。女性正社員は、男性正社員に比べて、残業や転勤・配置転換、ラインに組み込まれていることが、生活満足度を損ねて、その大きさは、時給の約6割程度に相当していた
著者
鶴 光太郎
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3/4, pp.99-123, 2011-03-15

所得格差拡大の要因については, 高齢化の進展, 単身世帯の増加など世帯の「見かけ」の動きを強調する議論もあるが, 若年層での格差拡大は目立ってきており, 非正規雇用, 特に有期雇用の拡大と関連している. 有期雇用労働者が直面する格差には賃金, 教育訓練などの「処遇の格差」, 「雇用安定の格差」, 「セイフティネットの格差」があるが, こうした格差の縮小のためには, 契約終了手当・金銭解決導入等の雇用不安定への補償や「期間比例の原則」への配慮によって, 雇用安定と処遇の格差の一体的な解決を目指すべきである. また, 有期雇用, 無期雇用, 両サイドで多様な雇用形態を創出し, 連続的に繋がるような仕組みを構築することが重要だ. さらに, 格差問題への政府の積極的な関与も期待されているが, 「必要な人に必要なサポート」を原則に, 最低賃金の引上げなどよりも低所得者の・社会保険料等の負担軽減を目的とした給付付き税額控除で対応するべきである.