- 著者
-
鶴見 英成
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 新学術領域研究(研究領域提案型)
- 巻号頁・発行日
- 2015-04-01
アンデス文明の神殿では一般的に、儀礼的な建築の更新が反復されていた。それが経済・技術・儀礼など社会の諸側面を発展させたと考えられるため、神殿の起源の解明は文明史研究の重要課題である。1960年代に日本の調査団はペルー北部山地のワヌコ市にてコトシュ遺跡を発掘し、神殿の登場が先土器段階に遡ることを証明した。近年では海岸部で先土器段階の神殿が多く発見され、文明の形成過程を具体的に解明すべく山地との比較が試みられているが、山地の神殿の年代と生業基盤の解明が遅れている点が問題となっている。本研究の第1の目的はコトシュ遺跡を再調査し、今日の水準で年代測定と有機遺物分析を実施することにある。また現代においてコトシュはワヌコ市を象徴する遺跡であり、50年ぶりの研究成果発信に際して、市民がいかなる関心を持って今後それを資源化していくのか、聞き取り調査により展望することが第2の目的である。平成28年は、前年度に実施した測量と、遺構の表面観察の結果をふまえ、発掘調査を実施した。1960年代に出土した先土器期の神殿建築群の床下を発掘し、さらに下層に建築群が埋まっていることを確認した。またマウンド頂上部を初めて発掘し、先土器期の神殿建築がきわめて高い地点まで積層していたこと、それが土器導入後の建造物を建てる際に壊されたことを示した。すなわち先土器期の神殿建築について、従来より古い時点の事例、土器導入直前の最終段階の事例、両方を確認することができた。それぞれの建築に伴う炭化物を採取し、東京大学総合研究博物館放射性炭素年代測定室にて年代測定を実施した。また有機遺物に関しては土壌水洗によって微細な動植物資源まで採取した。50年間の経緯と新たな調査成果に関して、コトシュ遺跡博物館にパネル展示を設置し、講演や現地説明会を行い、マスコミを通じて情報発信しつつ、双方向的に市民の関心について聞き取り調査を実施した。