- 著者
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鷹股 亮
- 出版者
- 日本生気象学会
- 雑誌
- 日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
- 巻号頁・発行日
- vol.41, no.1, pp.55-59, 2004 (Released:2004-11-12)
- 参考文献数
- 9
- 被引用文献数
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体温調節反応,特に暑熱環境下における体温上昇に対する反応は,体液の量と組成に影響を及ぼす.発汗(温熱発汗)は体液量を減少させるだけではなく,細胞外液の浸透圧を上昇させる.これは,汗が細胞外液に比べて低張であるためである.また,皮膚血管の拡張は,特に立位時には末梢への血液の貯留を招き,静脈還流量を減少させる.細胞外液量のモニターは主に心肺圧受容器で行われているために,静脈還流量の低下は実際に体液量が変化していなくとも細胞外液(血漿)量が減少したときと同様な状態を作り出す.一方,体温上昇時の体温調節反応は,体液状態に大きく影響される.細胞外液(血漿)量の減少は,心肺圧受容器を介する反射により抑制される.また,血漿浸透圧の上昇は発汗および皮膚血管拡張反応の核心温閾値を上昇させることにより,これらの体温調節反応を抑制する.これらは,体液調節系および循環調節系が体温調節系に優先されて機能していることを示している.水分摂取により脱水の進行を予防して体液の量と浸透圧を一定に保つことにより,循環系に対する負担を軽減して体温調節機能を高いレベルで機能させることが可能になると考えられ,これが熱中症予防において水分摂取が効果的であるという事実の根拠となる.温熱脱水では,水だけではなくナトリウムを失うために水だけを摂取すると体液量は完全に回復しない.これは「自発的脱水」と呼ばれ,温熱発汗後のナトリウム摂取が不可欠であることを示す.暑熱順化や運動トレーニングにより汗ナトリウム濃度が低くなることから,有効な摂取溶液のナトリウム濃度が異なり,順化していない人ではナトリウム濃度の高い溶液の摂取が効果的となる.また,暑熱環境下で運動を行う際には,運動前にあらかじめ水分摂取を行うことが有効である.