著者
鷹股 亮
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.57-64, 2017-09-01 (Released:2017-10-16)
参考文献数
27

体液の浸透圧と量は浸透圧調節系と容量調節系で調節されている.浸透圧上昇時には口渇とバソプレッシン分泌による腎臓での水の再吸収の亢進により浸透圧が調節される.エストロゲンは,口渇を抑制する作用が報告されているが,浸透圧調節機能に及ぼすエストロゲンの影響についてはわからない部分も多い.容量調節系は主に体内のナトリウム量を調節することにより行われる.エストロゲンとプロゲステロンはともに血漿量を増加させるが,そのメカニズムは異なる.また黄体期は立位時の下肢静脈への血液の貯留と血管外への水の漏出を促進する.しかし,女性ホルモンの体液調節系に及ぼす影響については未だに不明な点が多い.
著者
鷹股 亮
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.55-59, 2004 (Released:2004-11-12)
参考文献数
9
被引用文献数
4

体温調節反応,特に暑熱環境下における体温上昇に対する反応は,体液の量と組成に影響を及ぼす.発汗(温熱発汗)は体液量を減少させるだけではなく,細胞外液の浸透圧を上昇させる.これは,汗が細胞外液に比べて低張であるためである.また,皮膚血管の拡張は,特に立位時には末梢への血液の貯留を招き,静脈還流量を減少させる.細胞外液量のモニターは主に心肺圧受容器で行われているために,静脈還流量の低下は実際に体液量が変化していなくとも細胞外液(血漿)量が減少したときと同様な状態を作り出す.一方,体温上昇時の体温調節反応は,体液状態に大きく影響される.細胞外液(血漿)量の減少は,心肺圧受容器を介する反射により抑制される.また,血漿浸透圧の上昇は発汗および皮膚血管拡張反応の核心温閾値を上昇させることにより,これらの体温調節反応を抑制する.これらは,体液調節系および循環調節系が体温調節系に優先されて機能していることを示している.水分摂取により脱水の進行を予防して体液の量と浸透圧を一定に保つことにより,循環系に対する負担を軽減して体温調節機能を高いレベルで機能させることが可能になると考えられ,これが熱中症予防において水分摂取が効果的であるという事実の根拠となる.温熱脱水では,水だけではなくナトリウムを失うために水だけを摂取すると体液量は完全に回復しない.これは「自発的脱水」と呼ばれ,温熱発汗後のナトリウム摂取が不可欠であることを示す.暑熱順化や運動トレーニングにより汗ナトリウム濃度が低くなることから,有効な摂取溶液のナトリウム濃度が異なり,順化していない人ではナトリウム濃度の高い溶液の摂取が効果的となる.また,暑熱環境下で運動を行う際には,運動前にあらかじめ水分摂取を行うことが有効である.
著者
森本 恵子 鷹股 亮 上山 敬司 木村 博子 吉田 謙一
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.マイルドな精神的ストレスであるケージ交換ストレス(CS)による血漿ノルエピネフリン(NE)増加反応は、雄ラットにのみ見られるという性差が存在し、これは昇圧反応の性差の原因と考えられる。このメカニズムとして、雄では一酸化窒素(NO)がNE増加を促進させることが示唆された。2.卵巣摘出ラットでもCSストレスによるNE増加反応が見られるが、エストロゲン補充により抑制される傾向があった。また、エストロゲン補充により安静時の血漿NO代謝産物(NOx)が増加する傾向があり、逆に、酸化ストレスマーカーである4-hydroxy-2-nonenalは低下した。3.エストロゲンの中枢神経系を介したストレス反応を緩和するメカニズムについて検討した。c-Fosタンパク質を神経細胞活性化の指標とし、各脳部位におけるCSストレスの影響とそれに対するエストロゲン補充の効果を免疫組織化学法を用いて測定した。その結果、CSストレスにより卵巣摘出ラットでは、外側中隔核、視床室傍核、弓状核、視床下部室傍核(PVN)、視床下部背内側核(DMD)、青斑核(LC)でc-Fos発現が有意に増加したが、正常雌では増加は見られなかった。しかし、卵巣摘出後にエストロゲン補充を行なうとPVN、DMD、LCではc-Fosの増加が抑制された。さらに、LCではストレスによるカテコラミン産生細胞の活性化が、エストロゲン補充により有意に抑制されることが判明した。同部位では、エストロゲン受容体αの存在が免疫染色で確認でき、エストロゲンの直接作用の可能性が示唆された。また、PVN小細胞領域では、エストロゲン補充はNO産生ニューロンのストレスによる活性化を促進することを見いだした。これはエストロゲンの抑制作用におけるNOを介したメカニズムを示唆している。以上の結果より、エストロゲンは末梢血管系においては酸化ストレス抑制作用によって、中枢神経系ではPVN、DMD及びLCの神経細胞に対する抑制作用によって、ストレス反応を緩和する可能性が示唆された。