著者
早田 宰 寺尾 仁 久塚 純一 内田 勝一 麦倉 哲 平山 洋介 佐藤 滋 卯月 盛夫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

2000年代世界で主要な潮流となっている都市再生政策の国際比較をおこなった。調査対象国は、イギリス:ロンドン(早田宰・内田勝一)、フランス:パリ(寺尾仁・久塚純一)、ドイツ:ベルリン・ハンブルク(卯月盛夫・秋山靖浩・平山洋介)、スウェーデン:ストックホルム(麦倉哲)、アメリカ:ニューヨーク他(平山洋介・佐藤滋・内田勝一)を分担した。全体として、(1)縮小都市化・低需要にともなう郊外減退地区問題(特にパリ大都市圏における郊外住宅地等)、(2)都市問題の質的変化、(3)社会、経済、住宅、教育、交通、都市デザイン等の包括化・統合化による地域開発の導入(ロンドン大都市圏、パリ大都市圏、ベルリン、ハンブルク等)、(4)空間戦略の変化と既存政策の文脈との関係(特にロンドンにおけるEUの空間戦略の消化)、(5)補完性原理導入とガバナンスの重層(EU-国-地方-都市-地区)の影響(特にロンドンのGLA等)、(6)とくに行政庁内さらに民間・NPO等の広域的・横断的プロジェクト推進組織の登場(ロンドンのGLA、ハンブルクの庁内改革等)、(7)新しい専門化像(特にハンブルクにおける街区マネージャー等)、(8)ステイクホルダー民主主義と政治力学の影響(特にニューヨークにおけるグラウンド・ゼロ再建等)、(9)次世代型グローバル投資の空間的連携、(10)資源マッチングの戦略化、(11)「新しい貧困」(特にストックホルムにおけるセグリゲーション等)の出現、など11の特徴が世界的傾向となっていること、およびその国ごとのコンテクストが明らかになった。研究成果を雑誌『都市問題』(東京市政調査会)に連続投稿した。
著者
麦倉 哲 吉野 英岐
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.402-419, 2013 (Released:2014-12-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

東日本大震災による岩手県の死者行方不明者の合計は6,000人を超えている. 生存した被災者は避難所等での生活を経て, 応急仮設住宅で避難生活を継続し, その数は2013年9月の時点でも約3万6000人に達している. 国, 県, 市町村は復興計画を策定し, 復興事業を進めているが, 被災した市街地や住宅地は更地のままであることも少なくない.2011年に大槌町の応急仮設住宅の住民を対象とした調査では, 深刻な被災状況, 生存者の避難行動の高い割合, 避難先での助け合い行動などが確認できた. また聞き取り調査から, 被災犠牲死の要因の再検討が必要であることを明らかにした. そのうえで, コミュニティの復興にとって, 復興のシンボルとなる地域文化の存在が重要であることを指摘した.復興まちづくりの前提になる防潮堤建設では, 県による民有地の取得が必要であるが, 多数による共有地や相続未処理のままの土地が多く, その取得は難航している. 釜石市での調査からは, 海岸部での防潮堤の建設にあたり, 41名の共有になっている共有地の存在が明らかになった. 国はその処理をめぐって加速化措置を発表したが, 被災地の自治体が自ら処理を進められるかたちにはなっておらず, 復興の地方分権化は実現していない.今後の課題としては, 震災犠牲者の被災要因の検証, 地域文化の所在や価値の認識, 住民の地域への関心の持続, 住民と基礎自治体が復興をすすめられる体制の構築が挙げられる.
著者
麦倉 哲
出版者
東京女学館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

長年山谷地域で生活して晩年の時期を新宿区に転居した、とあるホームレス経験のある女性のライフヒストリーを追った。KMさんは、数奇な人生をたどり路上生活を経験し、生活保護受給後は幾度もの保護喪失の危機に直面しつつも、最後は畳の上で人生をまっとうした。葬儀に参列したのは、ボランティアの面々と、20年ぶりに再開するきょうだいだけであった。私はこの女性と、十数年間にわたり親交を深め、信頼をえて、ライフヒストリーをうかがってきた。私はボランティアとして、この方の近くに存在し、ケアやサポートにつとめてきた。しかし、私が支えているようにみえて、実際は、私を支えていただいたようにも思える。山谷と新宿における調査経験をもとに、1990年代以降に、ホームレス問題が深刻化していく要因を考察し、政治リーダーの政策選択の問題も考察した。男らしさを引きずっている男性ホームレスは、自分自身の生計上の不振とともに孤立化していく。女性らしさを引きずっている女性ホームレスは、救済を受ける機会を得ることもあるが、支配的な男性から従属させられ、一方的に利用されるなどの被害を受けることが少なくない。孤立しがちな男性や、被害を受けやすい女性ホームレスを自立支援するには、それぞれに必要なソーシャルワークの支援の機会を提供することが重要である。男性であれ、女性である、その人生史の一部分に、NPO団体や、ボランティアの個々人が継続的に介在することが、孤立の解消や被害の回避のために有用な意味を持っている。女性ホームレスのケースでは、この女性の日常生活の一部に支援者と過ごすことによって、暴力団関係者の経済的な搾取の被害を受けるのを食い止めることができた。