著者
黒田 治之 千葉 和彦
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.544-552, 2002-07-15
被引用文献数
5 4

主幹形の11年生M.26台木利用'スターキング・デリシャス'リンゴ樹を供試し, 栽植密度が生産構造と光環境に及ぼす影響について検討した.1. 453&acd;623樹・ha^<-1>区における低密度域の個体群は, 円錐形をした樹の集まりで, 樹冠層は凹凸状態であった.しかし, 栽植密度の増加に伴って樹冠のうっ閉が進むと, 樹は円筒形に変化し, 樹冠が完全にうっ閉した高密度域では, あたかも一つの個体のような形態を示した.2. 623樹・ha^<-1>区の生産構造は針葉樹型であったが, 栽植密度の増加に伴って広葉樹型に移行した.3. 生産構造の果実重と葉重は, 対応した分布を示した.果実生産量は623樹・ha^<-1>区が最も高く, 針葉樹型生産構造が高い果実生産性を有することが示された.4. 果実生産量(Yd)と葉の果実生産能率(Yd/F)の関係は, 式(1)のYd=1.348+3.109(Yd/F)で表され, 針葉樹型生産構造の高い果実生産性が葉の高い果実生産能率に依存していることが示された.5. 吸光係数(K)は栽植密度の増加に伴って低下した.すなわち, 果実生産はKの低下に伴って減少し, Kに対して物質生産と相反した関係にあることが示された.6. 果実生産量(Yd)と光捕捉率(LI)の関係は, 定義域69.9%≦LI≦92.2%を条件として, 式(2)のYd=-150.42+4.175(LI)-0.0273(LI)^2で近似できた.果実生産量が最大になる最適光捕捉率(LI_<opt>)は76.5%であった.7. LI_<opt>における栽植密度とLAIは, それぞれ既報(黒田・千葉, 1999)の最適栽植密度と最適LAIに一致した.8. LI_<opt>における個体群構造の特性は, 個体群内の空間, 樹冠層の凹凸および針葉樹型生産構造であった.9. 式(1)と(2)から導いた葉の果実生産能率(Yd/F)と光捕捉率(LI)の関係式, Yd/F=48.816+1.343(LI)-0.009(LI)^2は, 定義域69.9%≦LI≦92.2%を条件として, 実測値とよく一致し, 葉の果実生産能率が光捕捉率に依存していることが示された.以上の結果から, 果実生産性の高いわい性台木利用リンゴ園はLI_<opt>を示すLAIを維持することにより構築できることが示唆された.このような園は針葉樹型生産構造であるため, 光の利用効率が高く, 結果として葉の果実生産能率が高まって, 果実生産性が高まるものと考えられる.
著者
真野 隆司 杉浦 俊彦 森口 卓哉 黒田 治之
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.573-579, 2011 (Released:2011-11-19)
参考文献数
23

イチジク‘桝井ドーフィン’に対する環状剥皮が凍害の発生に及ぼす影響を検討した.露地圃場の挿し木個体は萌芽期の凍害を受けたが,前年の秋季に環状剥皮処理を行った挿し穂を用いると,萌芽が遅くなり凍害が軽減された.また,ポットの挿し木個体について,萌芽期に低温処理を行った結果,−3℃以下で枯死する芽が発生した.しかし,前年の秋季に環状剥皮を施し,かつ,より下位節から採取した挿し穂の方が糖やデンプン含量が高く,遅く萌芽して芽の枯死が少なかった.さらに,露地圃場に定植した幼木についても,秋季に環状剥皮を行った枝の糖とデンプン含量が高く,厳寒期の凍害が少なかった.以上より,イチジク‘桝井ドーフィン’に対する環状剥皮処理は,休眠枝の貯蔵養分を高め,その生育ステージが遅延することによって,萌芽期や厳寒期の凍害を軽減する効果があると考えられた.
著者
杉浦 俊彦 黒田 治之 伊藤 大雄 本條 均
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.380-384, 2001-05-15
参考文献数
11
被引用文献数
1 4

特殊な形状から近赤外分光分析法による糖度測定の実用化が遅れているブドウ果実について, 比重と糖度との相関関係の有無を検討した.供試した果房の比重は, 水を使わずに体積が測定できる音響式体積計を利用して測定した.それぞれの果房の糖度は全果粒を採取して搾汁し, 屈折糖度計で求めた.1. '巨峰'の果房における比重と糖度の関係は収穫年次や産地が異なっても安定し, 同一直線上にのった.2. '巨峰'の比重と糖度の関係は16°Brix程度から23°Brix程度の広い範囲で高い相関係数(r=0.981<SUP>***</SUP>)が得られ, また回帰線の実測値と推定値の誤差(標準誤差)は0.35°Brixと低くかった.3. 'キャンベルアーリー', 'ネオマスカット'および'甲州'における果房の比重と糖度の間にも高い相関が認められた.4. 比重と糖度の間における回帰直線の傾きには品種間で有意な差はみられなかった.5. 以上の結果から, 比重測定によるブドウ果房の非破壊糖度測定の可能性が示唆され, また比重測定に音響式体積計が活用できる可能性が示唆された.
著者
黒田 治之 千葉 和彦
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.91-99, 2006-01-15
被引用文献数
3

無剪定状態で管理した樹齢11〜13年生のわい性および半わい性台木を利用したリンゴ'スターキング・デリシャス'樹を用いて, 根の成長に及ぼす栽植密度の影響について検討した.330樹/ha区の根系は太い側根と下垂根で構成されていたが, 3178樹/ha区では主に側根であった.根系幅は栽植密度の増加に伴って減少したが, 隣接樹の根系における交差深度は増加した.3178樹/ha区では隣接樹の根系間で根組織の癒着現象が観察された.根系幅/樹冠幅比は栽植密度の増加に伴って減少し, 根系幅の方が樹冠幅より密度効果を受けやすいことが示された.根重の垂直分布比率は栽植密度による影響が認められなかったが, 1樹当たり根重は各層とも栽植密度の増加に伴って減少し, その減少は0〜30cm層の大根で著しかった.1樹当たり根重(R)は各台木樹とも, 栽植密度(ρ)の増加に伴って減少した.Rとρの関係は, 次の逆数式によって表された.1/R=A_<Rρ>+B_R (1)ただし, A_RとB_Rは樹齢や台木によって変化する係数.幹断面積(θ)と1樹当たり根重(R)の関係は各台木樹とも, h>1である次の相対成長式で表された.R=Hθ^h (3)ただし, Hは台木によって変化する係数.1 ha当たり根重は1樹当たり根重と異なり, 各層とも栽植密度の増加に伴って増加し, その増加は小・細根で顕著であった.1 ha当たり根重(R^^-)は各台木樹とも, 栽植密度(ρ)の増加に伴って増加した.R^^-とρの関係は, 式(3)のR=Hθ^h, 式(4)の1/θ=Aρ+Bおよび式(5)のR^^-=Rρから導かれる式(6)によく当てはまった.R^^-を最大にする栽植密度(ρR^^-_<pk>)は式(7)で与えられる.R^^-=Hρ/(Aρ+B)^h (6)ρR^^-_<pk>=B/A(h-1) (7)ただし, AとBは樹齢や台木によって変化する係数.以上の結果から, 1 ha当たり根重は栽植密度の増加に伴って増加するが, ρR^^-_<pk>において減少に転じることが示された.