著者
布施 明 奥村 徹 徳野 慎一 齋藤 大蔵 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.333-347, 2011-07-20 (Released:2020-09-23)
参考文献数
22

イラク, アフガニスタン戦争において, 米国帰還兵の負傷の受傷機転として, 爆破/爆発が最も多く, その医療対応が注目されている. 市民生活の中でも, テロリズムの脅威が高まるなか, その手段として最も多いのはImprovised explosive devices (IEDs) による爆破である. 爆傷は鈍的, 鋭的外傷に1次爆傷としての爆圧による損傷が加わる病態のため, 爆傷の損傷メカニズムとそれによって引き起こされる病態を理解し, 診療を行う必要がある. 特に, 爆傷肺 (blast lung injury ; BLI), 及び爆傷による頭部外傷 (blast-induced traumatic brain injury ; bTBI) の理解が必要である. また, 現場では安全の確保に最大限の注意を払う必要がある. 本稿で, 欧米を参考に, 日本版「ファーストレスポンダーのための爆傷サバイバルカード」, 「爆傷サバイバルカード」, 及び「爆傷診療録」を試案した. 今後も, 爆傷医療に対する啓発, 爆傷診療指針の確立, 訓練による事前準備が必要である.
著者
戸村 哲 齋藤 大蔵
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.21-28, 2021 (Released:2021-05-12)
参考文献数
46

軽症頭部外傷は救急診療において日常的に遭遇する機会の多い傷病である. 軽症頭部外傷のほとんどのケースは短期間に軽快し回復するが, 一部に重症化してしまう症例があり注意を要する. また約半数はのちに脳震盪後症候群をきたし, 昨今注目される外傷後の高次脳機能障害など, 多くの社会問題の要因にもなっている. 本稿では, 日常診療で遭遇する機会の多い軽症頭部外傷にスポットを当て, 2019年に改訂された「頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版」の内容を中心に, 診療において重要な項目について要点をまとめた. 軽症頭部外傷の診療においては, 重症化の危険因子を念頭に置き, 適切に頭部CTの適応を判断し, 帰宅や入院経過観察の判断を行う. 脳震盪後症候群や外傷後の高次脳機能障害の可能性も考慮し, 初療において詳細に診療録を記載することがきわめて重要である.
著者
堀口 明男 新地 祐介 齋藤 大蔵
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.29-37, 2021 (Released:2021-05-12)
参考文献数
34

男性の尿道外傷は骨盤骨折にしばしば合併し, 膜様部尿道が球部尿道との接合部である尿生殖隔膜から引き抜かれて損傷する. 外尿道口からの出血, 排尿困難や尿閉による下腹部の膨隆, 会陰部の血腫などは尿道外傷を疑う症状であり, 速やかに尿のドレナージルートを確保する. 循環動態が不安定な患者に対してはベッドサイドで一度だけ尿道カテーテル留置を試み, 挿入できなければ速やかに膀胱瘻 (suprapubic tube, SPT) を造設する. 循環動態が安定している患者では, まず逆行性尿道造影で損傷の有無や程度を確認する. SPTではなくprimary realignment (PR) による尿道カテーテル留置を選択してもよいが, たとえ成功しても外傷後1年以内に尿道狭窄を続発する可能性が高い. 尿道狭窄に対する最も有効な治療は尿道形成術 (狭窄部切除・尿道端々吻合術) であり, 外傷後の炎症や感染が沈静化するまで3~6ヵ月待機してから行う. 本稿では男性の尿道外傷のマネジメントについて解説する.
著者
木下 学 萩沢 康介 石田 治 齋藤 大蔵 酒井 宏水 武岡 真司
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
pp.35.4_05, (Released:2021-10-07)
参考文献数
36

私たちは止血能と酸素運搬能を有し, 血液型に関係なく投与できる人工血液を研究開発している. 人工血液は人工血小板と人工赤血球から成り, 室温静置で長期保存可能で, 備蓄や病院前治療に適していると考える. 人工血小板はリポソームに血小板活性化因子であるアデノシン二リン酸 (ADP) を内包し, 表面に人工的に合成したフィブリノーゲンの活性部位を付着させている. 出血部位に集積し, 血小板血栓形成を促進することで, 血小板減少性の易出血病態でも血小板と同様の止血能を発揮する. 人工赤血球は使用期限の切れた輸血用赤血球からヘモグロビンを精製し, 同様にリポソームに内包したもので, 優れた酸素運搬能を有している. 人工血液は血小板減少による凝固障害を呈した家兎の致死性出血モデルにおいて, 通常の血小板と赤血球の輸血に匹敵する顕著な止血救命効果が認められ, 外傷治療における有用性が期待される.
著者
村田 希吉 大友 康裕 久志本 成樹 齋藤 大蔵 金子 直之 武田 宗和 白石 淳 遠藤 彰 早川 峰司 萩原 章嘉 佐々木 淳一 小倉 裕司 松岡 哲也 植嶋 利文 森村 尚登 石倉 宏恭 加藤 宏 横田 裕行 坂本 照夫 田中 裕 工藤 大介 金村 剛宗 渋沢 崇行 萩原 靖 古郡 慎太郎 仲村 佳彦 前川 邦彦 真山 剛 矢口 有乃 金 史英 高須 修 西山 和孝
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.341-347, 2016-07-20 (Released:2016-07-20)
参考文献数
26

【目的】重症外傷患者における病院前輸液と生命予後, 大量輸血および凝固異常との関連について明らかにする. 【対象と方法】Japanese Observational Study of Coagulation and Thrombolysis in Early Trauma (J–OCTET) で後方視的に収集したISS≧16の外傷796例について, 28日死亡, 大量輸血 (24時間Red Cell Concentrate : RCC10単位以上), 外傷性血液凝固障害 (Trauma–Associated Coagulopathy : TAC : PT–INR≥1.2と定義) の3つを評価項目として, 病院前輸液施行の有無の影響を検討するために多変量解析を行なった. さらに年齢 (65歳以上/未満), 性別, 重症頭部外傷合併の有無, 止血介入 (手術またはIVR) の有無により層別化解析した. 【結果】病院前輸液施行85例, 非施行711例であり, 両群間における年齢, 性別, 28日死亡, 大量輸血, 止血介入に有意差を認めなかった. 病院前輸液群ではISSが高く (中央値25 vs. 22, p=0.001), TACが高率であった (29.4% vs. 13.9%, p<0.001). 病院前輸液は28日死亡, 大量輸血の独立した規定因子ではなかった. TACの有無を従属変数とし, 年齢・性別・病院前輸液の有無・ISSを独立変数とするロジスティック回帰分析では, 病院前輸液 (オッズ比 (OR) 2.107, 95%CI 1.21–3.68, p=0.009) とISS (1点増加によるOR 1.08, 95%CI 1.06–1.10, p<0.001) は年齢とともに独立したリスク因子であった. 層別解析では, 65歳未満 (OR 3.24, 95%CI 1.60–6.55), 頭部外傷合併 (OR 3.04, 95%CI 1.44–6.42), 止血介入例 (OR 3.99, 95%CI 1.40–11.4) において, 病院前輸液は独立したTACのリスク因子であった. 【結語】ISS≧16の外傷患者に対する病院前輸液は, 28日死亡および大量輸血との関連は明らかではないが, TAC発症の独立したリスク因子である. 特に65歳未満, 頭部外傷合併, 止血介入を要する症例に対する病院前輸液は, TAC発症のリスクとなる可能性がある.
著者
村田 希吉 関谷 宏祐 大友 康裕 齋藤 大蔵
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.1023-1026, 2016-09-30 (Released:2017-01-18)
参考文献数
9

Damage Control Surgery(以下,DCS)の適応基準については多くの議論がある。今回,われわれは日本外傷データバンク(以下,JTDB)から開腹手術を受けた外傷患者4,447例を抽出し,DCSを受けた532例と通常の開腹手術を受けた3,915例を分析した。DCS群は来院時のバイタルサインが悪く,FAST陽性率,輸血率,死亡率いずれも高かった。ロジスティック回帰分析では脈拍,体温,意識レベル,受傷機転が独立したDCS予測因子であった。この予測因子をカテゴリー化し,重み付けをしてDamage Control Indication Detecting Score(DECIDE score)を作成したところ,死亡率との相関を認め,体温,意識レベル,受傷機転の3つの情報でDCSの適応判断が可能であった。Cut off値5点での死亡率は30.8%,感度64.8%,特異度70.0%であった。本スコアはプレホスピタルで判断可能であり,術前から外傷チーム内での意識共有が可能である。
著者
射場 敏明 齋藤 大蔵
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.37-45, 2011-02-15 (Released:2011-05-03)
参考文献数
56

そもそも播種性血管内凝固(DIC)は,「種々の基礎疾患に合併する全身的な血管内凝固の活性化状態で,初期には検査値異常のみで捉えられるが,重症化すると出血症状や臓器症状を呈し,その背景には全身的な微小血栓形成が関与している病態」として認知されてきた。すなわち基礎疾患は異なっても,検査値異常としては共通であることがその存在意義であった。しかしその後詳細が明らかにされるにつれ,治療や経過,転帰は基礎疾患によってそれぞれ異なることが明らかされてきた。したがって最近では,これらをひとくくりに診断し治療することの妥当性が問われるようになり,むしろ個別対応することの必要性が強調される傾向にある。とくに敗血症性DICは,その頻度と緊急性,重症度の高さから注目度が高くなっている。またDICの捉え方については,合併症のひとつという見地から,感染防御のための生体反応という意味合いを見いだそうとする方向性がみてとれる。診断に関しては,より早期に診断を行って抗凝固治療を迅速かつ積極的に始めようとする動きが顕著である。治療については,アンチトロンビン,トロンボモジュリン,活性化プロテインCなどの生理的抗凝固物質がとくに重要視されており,いずれも単に凝固を調節するだけではなく,炎症反応を制御することが期待されている。