著者
佐々木 亮 木村 昭夫 萩原 章嘉 小林 憲太郎 佐藤 琢紀 伊中 愛貴 阪本 太吾
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.314-319, 2012-07-20 (Released:2020-08-19)
参考文献数
20

本邦では救急外来における破傷風に対する予防は個人・施設によって異なる. 本研究では, 1.破傷風免疫抗体迅速検査キットTetanus Quick Stick (以下TQS) ®の検査精度を調査すること, 2.破傷風予防アルゴリズムの作成における因子の抽出を目的とした. 2009年10月~2010年3月の間, 当施設に搬送された外傷症例182例を対象にTQSの判定及び, Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay法 (ELISA) による破傷風抗体価を測定し, 年齢・予防接種歴・創傷の程度を記録した. 破傷風に対する十分な防御レベルである破傷風抗体価0.1 IU/mL以上の人は, 182例中114例 (62.6%) 存在していた. TQSの検査精度は感度66.7%, 特異度97.1%, 陽性的中率97.4%であった. 破傷風トキソイドが定期予防接種となった1968年を境に分けて破傷風抗体価0.1 IU/mL以上の割合を比較すると, 1967年以前の生まれはわずか35.0%に対して, 1968年以降の生まれは90%以上も存在していた. TQSや年齢別抗体保有率の相違などは破傷風予防アルゴリズムを作成するうえでの重要な因子となると思われた.
著者
深野 賢太朗 萩原 章嘉 松田 航 植村 樹 木村 昭夫
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.351-354, 2019-01-31 (Released:2019-01-31)
参考文献数
10

レプトスピラ症は, スピロヘータ目レプトスピラ科に属するグラム陰性桿菌レプトスピラが引き起こす人獣共通感染症で, 疑わないと診断が難しく適切な抗菌薬治療を行わないと悪化する可能性がある。症例 : 74歳, 男性。全身倦怠感と全身が黄色いとのことで救急要請。来院時vital signsはGlasgow Coma Scale 14 (E3V5M6), 血圧65/45 mmHg, 心拍数68/分, 体温36.9℃, 呼吸数24/分, 経皮的酸素飽和度 99% (O2 4L/分フェイスマスク) で敗血症が疑われた。身体所見は頭頸部では眼球結膜の黄染があった。また, 四肢において両大腿と下腿の把握痛があり, レプトスピラ感染症による敗血症が疑われた。救急外来にていったん循環は安定したが, 抗菌薬投与後に血圧が下がり昇圧薬を使用した。しかし, 14時間ですぐに離脱できた。レプトスピラ感染症によるヤーリッシュヘルクスハイマー反応の症例報告は少なく, また今後国際化に伴って東京での報告例も一層増えると考えられ, 重症化する前に病歴から疑う必要があり報告した。
著者
稲垣 剛志 萩原 章嘉 中尾 俊一郎 伊中 愛貴 木村 昭夫
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.76-81, 2011
被引用文献数
1

今回我々は,保存的治療にて軽快した小腸広範囲の腸管気腫症を経験したので報告する。症例は82歳,男性。一か月前より腹部膨満および粘血便を認めていた。37℃台の発熱,呼吸困難,チアノーゼを認めたため救急要請となった。来院時,Glasgow Coma Score E4V2M6,血圧 120/64mmHg,心拍数 116/min,SpO<SUB>2</SUB> 100%(酸素4L/min マスク),呼吸数 18/min,体温 40.2℃であった。腹部膨隆を認めたが触診にて腹部は軟らかく圧痛はなく,腹膜刺激徴候は認めなかった。腸蠕動音は低下していた。敗血症を疑い行われた造影CTにて,小腸広範囲に渡って腸管壁内にガス像を認めた。腸管壁内のガス像の原因として,腸管壁の壊死を考えたが,患者は腹痛を訴えず,腹膜刺激徴候がなく,経時的に行われた超音波検査にても腹腔内液体貯留を認めず,緊急開腹術はひとまず延期された。腹部膨隆も徐々に改善し,第8病日に初めて黄色の下痢便を排泄した。第13病日のCTにて,腸管壁内のガス像の消失をみとめた。第19日目に施行した小腸カプセル内視鏡では,小腸粘膜の一部にびらんを認めるのみであり,空気が侵入するような粘膜の破綻,粘膜の虚血性変化,潰瘍形成に伴う変化(瘢痕形成など)は認めなかった。全身状態良好であり,29日目に自宅退院となった。気腫の原因として,腸管内腔圧の上昇による腸管壁内へのガス貯留が考えられた。
著者
村田 希吉 大友 康裕 久志本 成樹 齋藤 大蔵 金子 直之 武田 宗和 白石 淳 遠藤 彰 早川 峰司 萩原 章嘉 佐々木 淳一 小倉 裕司 松岡 哲也 植嶋 利文 森村 尚登 石倉 宏恭 加藤 宏 横田 裕行 坂本 照夫 田中 裕 工藤 大介 金村 剛宗 渋沢 崇行 萩原 靖 古郡 慎太郎 仲村 佳彦 前川 邦彦 真山 剛 矢口 有乃 金 史英 高須 修 西山 和孝
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.341-347, 2016-07-20 (Released:2016-07-20)
参考文献数
26

【目的】重症外傷患者における病院前輸液と生命予後, 大量輸血および凝固異常との関連について明らかにする. 【対象と方法】Japanese Observational Study of Coagulation and Thrombolysis in Early Trauma (J–OCTET) で後方視的に収集したISS≧16の外傷796例について, 28日死亡, 大量輸血 (24時間Red Cell Concentrate : RCC10単位以上), 外傷性血液凝固障害 (Trauma–Associated Coagulopathy : TAC : PT–INR≥1.2と定義) の3つを評価項目として, 病院前輸液施行の有無の影響を検討するために多変量解析を行なった. さらに年齢 (65歳以上/未満), 性別, 重症頭部外傷合併の有無, 止血介入 (手術またはIVR) の有無により層別化解析した. 【結果】病院前輸液施行85例, 非施行711例であり, 両群間における年齢, 性別, 28日死亡, 大量輸血, 止血介入に有意差を認めなかった. 病院前輸液群ではISSが高く (中央値25 vs. 22, p=0.001), TACが高率であった (29.4% vs. 13.9%, p<0.001). 病院前輸液は28日死亡, 大量輸血の独立した規定因子ではなかった. TACの有無を従属変数とし, 年齢・性別・病院前輸液の有無・ISSを独立変数とするロジスティック回帰分析では, 病院前輸液 (オッズ比 (OR) 2.107, 95%CI 1.21–3.68, p=0.009) とISS (1点増加によるOR 1.08, 95%CI 1.06–1.10, p<0.001) は年齢とともに独立したリスク因子であった. 層別解析では, 65歳未満 (OR 3.24, 95%CI 1.60–6.55), 頭部外傷合併 (OR 3.04, 95%CI 1.44–6.42), 止血介入例 (OR 3.99, 95%CI 1.40–11.4) において, 病院前輸液は独立したTACのリスク因子であった. 【結語】ISS≧16の外傷患者に対する病院前輸液は, 28日死亡および大量輸血との関連は明らかではないが, TAC発症の独立したリスク因子である. 特に65歳未満, 頭部外傷合併, 止血介入を要する症例に対する病院前輸液は, TAC発症のリスクとなる可能性がある.
著者
稲垣 剛志 木村 昭夫 萩原 章嘉 佐々木 亮 新保 卓郎
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.192-199, 2013-04-15 (Released:2013-07-24)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

【目的】鈍的頭頸部外傷患者において,頸椎CT撮影の新たなclinical decision rule(CDR)を作成することを目的とした。【方法】Derivation研究の対象は2008年4月1日~2010年8月14日に当院へ救急搬送された頭頸部外傷患者のうち頸椎CTを施行した1,076症例,Validation研究の対象は2010年8月15日~12月31日に当院へ救急搬送された頭頸部外傷患者887例とし,診療録および救急患者データベースから後ろ向きに情報を得た。頸椎損傷の定義は骨折もしくは脱臼とした。頸椎損傷の有無と相関する因子を解析した後に,感度100%となるような新たなCDRを導けるか検討した。【結果】単変量解析では,年齢,後頸部痛の有無,神経学的異常所見の有無,来院時のGlasgow coma scaleスコアにおいてCT上の頸椎損傷所見の有無で有意差が認められた。また年齢が高い群で受傷機転における階段等からの転落の有無も有意差が認められた。二進再帰分割法を行った結果,意識障害や後頸部症状に加え,年齢や具体的な受傷機転を含めた新たな頸椎CT施行基準が導出され,感度100%を保ち,損傷の見逃しを回避することができた。以下に新基準により頸椎CTの適応となるものを示す。(1)GCSスコア13以下の患者。(2)GCSスコア14-15の患者で後頸部圧痛か神経学的異常所見を有する患者。(1) (2)以外の患者のうち,(3)60歳以上:受傷機転が階段等からの転落であった患者。(4)60歳未満:受傷機転がバイクの事故か墜落であった患者。【結語】従来より提唱されているGCSスコア,頸部症状,神経所見に加え,年齢や具体的な受傷機転を評価項目に含めた新しい基準は感度が高く,頸椎損傷の見逃しを回避しうるCDRである。
著者
稲垣 剛志 木村 昭夫 萩原 章嘉 佐々木 亮 新保 卓郎
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.192-199, 2013
被引用文献数
1

【目的】鈍的頭頸部外傷患者において,頸椎CT撮影の新たなclinical decision rule(CDR)を作成することを目的とした。【方法】Derivation研究の対象は2008年4月1日~2010年8月14日に当院へ救急搬送された頭頸部外傷患者のうち頸椎CTを施行した1,076症例,Validation研究の対象は2010年8月15日~12月31日に当院へ救急搬送された頭頸部外傷患者887例とし,診療録および救急患者データベースから後ろ向きに情報を得た。頸椎損傷の定義は骨折もしくは脱臼とした。頸椎損傷の有無と相関する因子を解析した後に,感度100%となるような新たなCDRを導けるか検討した。【結果】単変量解析では,年齢,後頸部痛の有無,神経学的異常所見の有無,来院時のGlasgow coma scaleスコアにおいてCT上の頸椎損傷所見の有無で有意差が認められた。また年齢が高い群で受傷機転における階段等からの転落の有無も有意差が認められた。二進再帰分割法を行った結果,意識障害や後頸部症状に加え,年齢や具体的な受傷機転を含めた新たな頸椎CT施行基準が導出され,感度100%を保ち,損傷の見逃しを回避することができた。以下に新基準により頸椎CTの適応となるものを示す。(1)GCSスコア13以下の患者。(2)GCSスコア14-15の患者で後頸部圧痛か神経学的異常所見を有する患者。(1) (2)以外の患者のうち,(3)60歳以上:受傷機転が階段等からの転落であった患者。(4)60歳未満:受傷機転がバイクの事故か墜落であった患者。【結語】従来より提唱されているGCSスコア,頸部症状,神経所見に加え,年齢や具体的な受傷機転を評価項目に含めた新しい基準は感度が高く,頸椎損傷の見逃しを回避しうるCDRである。
著者
柳川 洋一 萩原 章嘉 西 紘一郎
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.168-173, 2008-03-15 (Released:2009-07-19)
参考文献数
13

42歳の女性が歯痛,発熱,下顎~頸部腫脹で近医を受診し,感冒と診断されたが症状が悪化し,当院に搬送された。来院時,敗血症性ショック状態であり,頸部と胸部の造影CTで頸部及び縦隔膿瘍,膿胸を示唆する所見を得たため,頸部皮膚切開,気管切開と両側に胸腔ドレナージを施行した。口腔内を観察すると顎下腺開口部の拡大を認めた。以上の所見から,唾石症によると思われる顎下腺の炎症によりLudwig's anginaが生じて,降下性縦隔炎,膿胸,敗血症性ショックを合併したものと判断した。抗菌薬,人口呼吸管理と多房性膿胸に対するCTガイド下の外科的ドレナージの追加により全身状態は徐々に改善し,第58病日独歩退院となった。Ludwig's anginaは顎下部間隙膿瘍のことであり,主に齲歯から発生する。これが疎の口腔咽頭組織間隙を通じて感染が他に波及すると髄膜炎や降下性縦隔炎や膿胸を合併することもある。Ludwig's anginaは稀な疾患ではあるが死亡に至る可能性があるため,炎症所見を伴った下顎部腫脹の患者を診察した場合は,Ludwig's anginaを考慮する必要がある。