著者
米山 裕子 佐藤 啓造 九島 巳樹 栗原 竜也 藤城 雅也 水野 駿 金 成彌 佐藤 淳一 根本 紀子 李 暁鵬 福地 麗 澤口 聡子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.326-339, 2016 (Released:2017-02-21)
参考文献数
24

突然死の原因疾患は心疾患や脳血管疾患の頻度が高く,感染症による急死は比較的少ないこともあり,内因性急死としての感染症について剖検例をもとに詳細に検討した報告は少ない.特に,心疾患による突然死と比較・検討した報告は見当たらない.本研究では当教室で経験した感染症突然死15例と心臓突然死45例について事歴や解剖所見を比較・検討した.感染症の死因は肺炎9例,肺結核4例,胆嚢炎1例,膀胱炎1例であり,性別は男8例,女7例であった.心臓突然死では虚血性心疾患23例,アルコール性心筋症11例,その他の心疾患11例であった.感染症突然死と心臓突然死について単変量解析を行うと,有意な因子として,性別 (男性:女性,感染症8:7,心臓38:7),るい痩 (感染症9/15,心臓13/45),眼結膜蒼白 (感染症12/15,心臓9/45),心肥大 (感染症3/15,心臓34/45),心拡張 (感染症1/15,心臓23/45),豚脂様凝血 (感染症14/15,心臓10/45),暗赤色流動性心臓血 (感染症11/15,心臓44/45),心筋内線維化巣 (感染症4/15,心臓37/45),肺門リンパ節腫脹 (感染症13/15,心臓10/45),諸臓器うっ血 (感染症6/15,心臓36/45),胆嚢膨隆 (感染症11/15,心臓15/45),胃内空虚 (感染症11/15,心臓16/45),感染脾 (感染症8/15,心臓1/45)が抽出された.有意差がなかった項目は,肥満,死斑の程度,諸臓器溢血点,卵円孔開存,肺水腫,脂肪肝,副腎菲薄,動脈硬化,胃粘膜出血,腎硬化であった.多変量解析では,眼結膜蒼白,豚脂様凝血,心筋内線維化巣,心肥大の4因子が感染症突然死と心臓突然死とを区別する有意因子として抽出された.眼結膜蒼白,豚脂様凝血の2項目が感染症突然死に,心筋内線維化巣,心肥大の2項目が心臓突然死に特徴的な所見であると考えられた.死に至る際,血液循環が悪くなると眼結膜にうっ血が生じるが,心臓突然死の場合はうっ血状態がそのまま観察できるのに対し,感染症による突然死では慢性感染症の持続による消耗性貧血を伴う場合があり,うっ血しても貧血様に見える可能性がある.豚脂様凝血は消耗性疾患や死戦期の長い死亡の際に見られることが多い血液の凝固である.死後には血管内で徐々に血液凝固が進行し,暗赤色の軟凝血様となり,血球成分と血漿成分に分離し,その上層部には豚脂様凝血が見られる.剖検時に眼結膜蒼白,豚脂様凝血の所見があれば感染症による突然死を疑い,感染症の病巣の検索とその病巣の所見を詳細に報告すべきと考えられた.感染症突然死では,るい痩が高頻度に見られたので,感染症突然死防止のためには日頃からの十分な栄養摂取が必要と考えられた.また,感染症突然死と心臓突然死両方で副腎菲薄が見られたので,突然死防止のためには3次元コンピュータ連動断層撮影(computed tomography:CT)による副腎の容積測定を健診で行い,副腎が菲薄な人では感染症の早期治療が肝要であることが示唆された.
著者
西田 幸典 佐藤 啓造 藤城 雅也 根本 紀子 足立 博 岩田 浩子 米山 裕子 李 暁鵬 松山 高明 栗原 竜也 藤宮 龍祥 浅見 昇吾
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.168-182, 2018 (Released:2018-09-11)
参考文献数
27

今日の在宅看取りは,地域の診療所医師が大部分を担っているが,2040年をピークとする多死社会の看取り体制として,それが適切に機能するかの問題がある.そこで,本研究は,診療所医師の在宅看取りにおける負担軽減策として,看護師による死亡診断および死亡診断書の作成について,多死社会を担う若年層の認識を踏まえて,その是非を法医学的観点から考察するものである.研究方法は,質問紙調査(対象:医学生242名,一般学生402名)と看取り制度に関する文献調査である.質問紙調査の結果は,看護師による死亡診断について,看護師のみが死亡に立ち会う状況で是認する割合が高く,死亡診断について研修を受けて試験に合格した看護師が良いとする割合が高かった.また看護師による死亡診断書の作成について,看護師のみが死亡に立ち会う状況で是認する割合が高く,死亡診断書の作成について研修を受けて試験に合格した看護師が良いとする割合が高かった.しかし,死亡診断を是認する割合は,死亡診断書の作成を是認する割合よりも高かった.一方,医療制度改革の潮流には,①医師の働き方の見直しとしてタスク・シフティングの提案,②看護師の特定行為の創設,③地域包括ケアシステムの推進,④欧米における看護師による死亡確認の現状がある.本研究では,上記の調査結果と医療制度改革の潮流を踏まえ,診療所医師の負担軽減策の一つとして,看護師による死亡診断を,①特定行為の一つとする方法と ②保健師助産師看護師法の「診療の補助」とは別の新たな枠組みとする方法を提案する.一方,看護師による死亡診断書の作成については,原則として時期尚早と考える.しかし,診療所医師の負担軽減および死後のエンゼルケアやグリーフケアの実施の観点から,末期がん患者のような特定の患者に限定し,かつ,死亡診断書の作成プロセスの一つである異状死でないとの判断までであれば検討の余地があると考える.ただし,これを実現するためには,異状死の判断を適切に行い得る程度の知識と技術を担保できる教育システムが必要不可欠であると考える.
著者
苅部 智恵子 佐藤 啓造 丸茂 瑠佳 丸茂 明美 藤城 雅也 若林 紋 入戸野 晋 米山 裕子 岡部 万喜 黒瀬 直樹 島田 直樹
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.349-358, 2012 (Released:2013-03-14)
参考文献数
19
被引用文献数
2

安楽死・尊厳死について国民の意識がどうなっているか調査した報告は少なく,特に大学生の意識を報告した論文はほとんど見当たらない.少数ある報告も限界的医療全般について調査したものであり,安楽死について賛成か否かを表面的に調査したに留まっている.本研究では同じ生物学を中心に学んでいるが将来,安楽死・尊厳死に関わる可能性のある医学生と特にその予定はない理系学生を対象として同じ内容のアンケート調査を行った.アンケートでは家族に対する安楽死・尊厳死,自分に対する安楽死・尊厳死,安楽死・尊厳死の賛成もしくは反対理由,安楽死と尊厳死の法制化,自分が医師であるとすれば,安楽死・尊厳死について,どう対応するかなど共著者間で十分,協議をしたうえで,新しい調査票を作成し,これを用いた.医学生は安楽死・尊厳死について,ひと通りの理解をしているはずの99名から無記名のアンケートを回収した(回収率:87.6%).理系学生は医学生のほぼ同年輩の生物学系の博士前期課程学生に対し,第二著者が安楽死・尊厳死について,ひと通り説明した後,69名から無記名で回収した(回収率:71.9%).前記5つの課題について学部間,性別間の意識差について統計ソフトIBM SPSS Statistics 19を用いてクロス集計,カイ二乗検定を行い,p < 0.05を有意差ありとした.その結果,家族の安楽死については学部間で有意差があり,医学生は理系学生より依頼する学生の比率が低く,依頼しない学生の比率が高いことが示唆された.医学生,理系学生ともに家族の安楽死希望理由で「本人の意思を尊重したい」が過半数を越え,自己決定権重視の一端を示していた.尊厳死では両学部生とも希望しない学生より希望する学生が多く,特に理系学生で希望する比率が高かった.性別では自分の尊厳死を希望する比率で有意差があり,女性の方が多かった.家族の尊厳死でも希望する比率は女性の方が多かった.家族の尊厳死,自分の尊厳死を家族の安楽死,自分の安楽死と比較したところ,安楽死より尊厳死を希望する学生が両学部生とも多かった.家族の尊厳死希望理由で医学生,理系学生ともに「本人の意思を尊重したい」が60%以上を占めた.安楽死・尊厳死について法制化を望むか否かを調べると,学部間では有意差があり,医学生は大多数が安楽死・尊厳死の法制化を望んでいるのに,理系学生は両方とも法制化を望まない学生も26%を示した.性別間では女性で尊厳死だけ法制化を望む人が31%を占めた.自分が医師の立場になった場合,安楽死・尊厳死を実施するか否かを調べると,学部間で有意差があり,要件を満たせば積極的安楽死を実施するとしたのが理系学生で41%を示したのに対し,医学生では16%に留まった.性別間では積極的安楽死を実施するのは男性が10%上回ったのに対し,尊厳死を選択するのは女性が10%上回った.以上の結果から医学生は理系学生に比べ,安楽死・尊厳死の実施に慎重であり,両方とも法令のもとに実施を希望していることが明らかとなった.
著者
根本 紀子 佐藤 啓造 藤城 雅也 西田 幸典 上島 実佳子 米山 裕子 渡邉 義隆 佐藤 淳一 栗原 竜也 長谷川 智華 浅見 昇吾
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.615-632, 2016 (Released:2017-03-16)
参考文献数
24

不妊治療を含めた生殖に関わる医療を生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)と呼ぶ.第三者が関わるART〔非配偶者間人工授精(artificial insemination with donor's semen:AID),卵子提供,代理出産など〕には種々の医学的,社会的,倫理的問題を伴うものの,規制もないままなしくずし的に行われつつある.第三者の関わるARTについて国民の意識調査を実施した報告は少数あるが,大学生の意識調査を行った研究は見当たらない.本研究ではある程度の医学知識のある昭和大学医学部生と一般学生である上智大生を対象として第三者が関わるARTに対する意識調査を行った.アンケートに答えなくても何ら不利益を被ることのないことを保証したうえでアンケート調査を行ったところ,医学部生235名,上智大生336名より回答を得た(有効回収率94.5%).統計解析は両集団で目的とする選択肢を選択した人数の比率の差をχ二乗検定またはFisherの直接確立法検定で評価し,P<0.05を有意水準とした.第三者の関わるARTの例としてAID,卵子提供,ホストマザー型(体外受精型)代理出産,サロゲートマザー型(人工授精型)代理出産を取り上げ,その是非を尋ねたところ,医学生と一般学生で有意差は認められなかったものの,前3者については両群とも70%以上の学生が肯定的な意見を示したのに対し,サロゲートマザー型代理出産については両群とも40%以上の学生が否定的な意見を示した.「自身の配偶子の提供を求められた場合」と「自身あるいは配偶者が代理出産を依頼された場合」の是非については有意に医学生の方が一般学生より抵抗感は少なかった.1999年の一般国民を対象とした第三者の関わるARTについての意識調査では7割から8割の国民が否定的な意見を述べたことに注目すると,この十数年間で第三者の関わるARTについての一般国民の考え方も技術の進歩と普及に伴い,かなり変化したといえる.今回,これからARTを受けることになる可能性のある若い世代に対する意識調査でAID,卵子提供,ホストマザー型代理出産について肯定的な意見が多数を占めたことは注目すべき結果といえる.本稿では上記三つのARTはドナーや代理母の安全を確保したうえで法整備を進めるべきであると提言したい.また,サロゲートマザー型代理出産は代理母に感染などの危険があるうえ,社会的,倫理的問題を多く伴うので,規制することも視野に入れたうえで法整備を進めるべきと考える.なお,第三者の関わるARTの実施に当たってはARTに直接関与しない専門医によりARTを受ける夫婦およびドナー,代理母に対し,利点,欠点,危険性が十分説明されたうえで当事者の真摯な同意を法的資格を有するコーディネーターが確認したうえでの実施が望まれる.ARTに関する法律が存在しない現在,医学的,倫理的,法的,社会的に十分な議論をしたうえでの一日も早い法整備,制度作りが望まれる.
著者
岩田 浩子:筆頭著者 佐藤 啓造:責任著者 米山 裕子 根本 紀子 藤城 雅也 足立 博 李 暁鵬 松山 高明 栗原 竜也 安田 礼美 浅見 昇吾 米山 啓一郎
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.156-167, 2018-04 (Released:2018-09-11)

終末期医療における治療の自己決定は重要である.終末期医療における自己決定尊重とそれをはぐくむ医療倫理教育に関する課題を,安楽死・尊厳死の意識から検討する.われわれが先行研究した報告に基づき医学生と一般人と同質と考えられる文系学生を対象として先行研究(医学生と理系学生)と同じ内容のアンケート調査を行った.アンケートでは1)家族・自分に対する安楽死・尊厳死,2)安楽死・尊厳死の賛成もしくは反対理由,3)安楽死と尊厳死の法制化,4)自分が医師ならば,安楽死・尊厳死にどう対応するかなどである.医学生は安楽死・尊厳死について医療倫理教育を受けている230名から無記名のアンケートを回収した(回収率91.6%).文系学生は教養としての倫理教育をうけている学生で,147名から無記名でアンケートを回収した(回収率90.1%).前記5項目について学部問の意識差について統計ソフトIBM SPSS Statistics 19を用いてクロス集計,カイ二乗検定を行いp<0.05を有意差ありとした.その結果,家族の安楽死については学部間で有意差があり,医学生は文系学生と比較し医師に安楽死を依頼する学生は低率で,依頼しない学生が高率で,分からないとした学生が高率であった.自分自身の安楽死について医学生は医師に依頼する学生は低率で,依頼しない学生は差がなく,分からないとした学生は高率であった.家族の延命処置の中止(尊厳死)では,医学生と文系学生間で有意差を認めなかった.自分自身の尊厳死は,医学生は文系学生と比較し,医師に依頼する学生は低率で,かつ依頼しない学生も低率で,分からないとした学生が高率であった.もし医師だったら安楽死・尊厳死の問題にどう対処するかは,医学生は条件を満たせば尊厳死を実施すると,分からないが高率で,文系学生では安楽死を実施が高率で医学生と文系学生との間に明らかな差を認めた.法制化について,医学生は尊厳死の法制化を望むが多く,文系学生では安楽死と尊厳死の法制化を「望む」と「望まない」の二派に分かれた.以上より終末期医療における安楽死・尊厳死の課題は医学生と一般人と同等と考えられる文系学生に考え方の相違があり,医学生は終末期医療における尊厳死や安楽死に対して「家族」「自分」に関して医療処置を依頼しない傾向がある一方,判断に揺れている現状が明らかとなった.文系学生は一定条件のもとで尊厳死を肯定する意識傾向があった.医学生の終末期医療に関する意識に影響する倫理的感受性の形成は,医学知識と臨床課題の有機的かつ往還的教育方略の工夫が求められる.「自己」「他者」に関してその時に何を尊重して判断するかを医学生自身が認識することを通して,倫理的感受性を豊かにする新たな教育の質を高める努力が必要である.文系学生においても終末期医療の現実を知ることや安楽死・尊厳死を考える教育が必要であると思われた.
著者
岩瀬 拓 船橋 茂久 杉村 和之 米山 裕康 尾原 秀司
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
年次大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.437-438, 2006
被引用文献数
1

A centrifugal fan for an inner unit of an air-conditioner was designed using a system based on computational fluid dynamics (CFD) and numerical optimization. Commercial CFD software (STAR-CD) with an in-house automatic grid generator was used. A simulated annealing algorithm for numerical optimization was also used to minimize the noise level and to maximize fan efficiency. The predicted noise level was calculated from the relative velocities obtained by CFD. Calculations show that the optimized fan produced low noise and was more efficient than a conventional fan, demonstrating that the system can be used to design silent and highly efficient fan. A further finding was that there was a correlation between specific noise level and fan efficiency. This correlation shows that it is important for designing the fan to uniform distribution of relative velocity.
著者
米山 裕太 高橋 健太 西垣 正勝
雑誌
研究報告コンピュータセキュリティ(CSEC)
巻号頁・発行日
vol.2013-CSEC-62, no.45, pp.1-6, 2013-07-11

著者らが提案した生体情報を秘密鍵とするディジタル署名 Fuzzy Signature においては,曖昧な生体情報を誤り訂正するために整数格子上の Fuzzy Commitment を用いている.整数格子上の Fuzzy Commitment では,L∞ 空間における整数格子への丸め処理によって誤り訂正を行っている.しかし,顔認証など,特徴量がユークリッド空間上のベクトルとしてコード化される場合には,Fuzzy Commitment への適用が困難であった.本稿では,三角格子の最近傍探索を用いることで,近似的にユークリッド距離に基づく Fuzzy Commitment および Fuzzy Signature を実現する方法を提案する.
著者
米山 裕 坂口 満宏 山崎 有恒 河原 典史 和泉 真澄 南川 文里 轟 博志 ハヤシ ブライアン・マサル 物部 ひろみ 宮下 敬志 東 栄一郎 清水 さゆり ニイヤ ブライアン
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、北米を中心とした「日系移民史」とアジアにおける「移殖民史」の分断状況の打破を試みるため、環太平洋地域を対象として、(1)各地における日本人社会の形成、(2)国際移動した日本人と様々な国家との関係、(3)環太平洋地域システム形成の分析をすることであった。いずれも達成することができた。さらに、地理学情報システム(GIS)を活用した移動研究の新しい方法論を模索することができた。
著者
東 自由里 リム ボン 大津留 智恵子 出口 剛 ジェイ クラパーキ 堀田 秀吾 イアン ホザック 米山 裕
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

当該研究プロジェクトは、最終年度のため、研究代表者及び分担者はそれぞれ次の研究プロジェクトを視野にいれて研究活動を行った。研究代表の東は2005年5月にゲルニカ平和ミュージアム(スペイン)で開催された国際平和ミュージアム学会と国際博物館協会(ユネスコ本部、ICOM)の分科委員会である「公共に対する犯罪犠牲者追憶のための記念博物館国際委員会」(ICMEMO)との共催で行われた国際会議で発表する。ゲルニカではICMEMO委員会の会合も行われ、関連テーマを共有する欧州の特に館長を中心とした歴史博物館関係者たちとの学術的交流をもつ機会を得ることができた。国際会議での発表は、ゲルニカ平和ミュージアムの編集によって著書になることが決定している。3月は在外研究でフランクフルト大学に客員研究院として滞在中の分担者である出口剛司との研究会及びドレスデンの戦後復興事業の視察と資料収集のために、リム、東は渡欧し、現地での研究協力者たちと研究会を行った。ドレスデンは冷戦終結がするまで旧東ドイツ側に属する。そのため、旧西ドイツとは対照的に、最近になってようやく歴史を見直す動きがでてきている。ドレスデン在住のザクゼン記念財団の代表者、創設者でもあるノーバート・ハッセ博士の案内で、ハッセ氏の財団が運営しているいくつかの主要な歴史博物館視察することができ有意義な議論と意見交換を行った。尚、当該研究の研究成果は著書『負の遺産とミュージアム』(文理閣)にまとめることが決定している。また、英文の著書を出版する予定でもある。今年度も、これまでと同様に文献資料では得がたい貴重な学術的交流をフィールド・ワーク及び人的交流を積極的に行ってきたといえよう。
著者
米山 裕
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.日本人社会の多様性について:アメリカの移民・エスニック集団の研究者はエスニシティを本質化する傾向がある。公共団体の役員は、日本人社会内の権益を代弁し、それゆえ公共団体は日本人社会内の最終的利害調整の場として機能した。エスニックな団体として、移民社会が多様であればこそ「公共」的性格を持った調整団体を必要とし、その団体は、必然的に各会の代表者的人物が集まって協議する場となったのである。2.ナショナリズムの機能について:公共団体は、在米日本人が外国滞在者として持つ「ナショナル」な感情を有効に利用できた。半政府的な権能と日本というシンボルを利用して、日本人社会をある程度強制的にまとめることが可能だった。その理由は、第一に領事が調停に乗り出すことが利益主張の「限界点」を当事者に知らせる象徴的な意味を持っていたこと、第二に領事を引きずり出すような働きをしたという自己満足を当事者に与えたことである。このような象徴的ナショナリズムのあり方は、日中戦争激化に対応した献金、慰問袋などの明示的現象とは別である。公共団体を介在する「日常的実践」としてのナショナリズムが今後の研究に示唆するものは多い。3.自発的結社としての公共団体:公共団体は移住先での利害に基づく「エスニック」な自発的団体であるのみならず、州の会社法に基づく現地法人でもあった。日系移民史ではアメリカ社会からの排除を大きなテーマとしてきた。日本人移民は無権利状態におかれたことになっている。しかし無権利状態は、政治的権利のみを指すものであった。無権利なはずのアメリカ社会の中で、個人・法人としてさまざまな活動ができた。移民社会が形成したあらゆる自発的結社を、エスニックな団体である特色を持ちつつ、なおかつそれぞれの分野においてアメリカ社会に参入を果たすものであったという分析が可能である。
著者
西川 長夫 米山 裕 高橋 秀寿 今西 一 麓 慎一 石原 俊 宮下 敬志 李 〓蓉
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

近代としての「帝国」を、その世界的な支配秩序の形成過程に巻き込まれてきた人びとの経験の場から実証的・理論的に捉え直すことを目的とした本研究では、それぞれの「植民地」における個々の歴史的実態を解明するためにフィールドワークを重視した。日本国内と韓国での複数回にわたる国際シンポジウムの開催と現地調査、およびそれらを踏まえた研究交流を通じて「帝国/植民地」の形成過程に関する比較分析を蓄積し、グローバル化時代における「国内植民地主義」の更なる理論化を準備した。