著者
氏家 亮 片平 真史
出版者
一般社団法人日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会誌 = Aeronautical and space sciences Japan (ISSN:00214663)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.32-38, 2016-02

スペースシャトル,ソユーズ,HTVなど国際宇宙ステーション(ISS)に関連する宇宙機システムでは,クルーの死傷を避けるために高い安全性が求められる.このようなシステムでは,2故障許容安全という考え方でシステムの安全化を図っている.一方で,ソフトウェアの積極的な導入により,宇宙機システムも複雑化・大規模化が進んでいる.現代の宇宙機システムにおいては,コンピュータ同士あるいはコンピュータと人間の間の複雑な相互作用を把握しきれず,故障がなくても事故に至ることがある(例 NASA Mars Polar Landerの着陸失敗).完全に安全なシステムを構築することは不可能であるが,2故障許容安全を超えて,本質的により安全なシステムを設計することが,有人宇宙船を含む日本の宇宙開発を持続的に実現していくために重要になる.故障木解析(FTA)に代表される従来の安全解析は,システムを構成する機器の故障に着目し,事故が引き起こされないかを分析する.しかし,複雑化されたシステムでは,コントローラとコントロール対象の間の相互作用によっては,単純・軽微な故障により重大な事故が引き起こされる,あるいは故障なしに事故が引き起こされる.複雑化したシステムで事故への根本的な対策を施すには,その相互作用を安全解析した上で,システムを設計する必要がある.しかし,システムの相互作用は,開発の早い段階で設計されるものが多く,故障を前提とする従来の安全解析では対応が困難である.STPAは,コントローラとコントロール対象の間の相互作用に着目した安全解析手法である.詳細な機器構成が設計されていなくても適用可能な手法であるため,システム開発の早期からの安全解析を実施可能である.本解説では,有人宇宙船でのSTPA適用結果を紹介し,その有効性を議論する.また,現在の宇宙機安全設計の課題に言及しつつ,STPAが宇宙機安全設計に与える効果を議論する.
著者
小山 孝一郎 児玉 哲哉
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会誌 (ISSN:00214663)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.178-184, 2017-06-05 (Released:2017-06-05)
参考文献数
21

日本の“ひのとり”,およびフランスの“DEMETER”衛星により得られた電子密度,米国の“DE-2”および“DMSP”衛星により得られた酸素原子イオン密度のデータ解析から見出された大きな地震(M>7)の前駆現象を紹介する.大きな地震発生数日前に見られることのある電離圏擾乱は,経度方向に約80度,緯度方向に約40度の広がりを持つ.電離圏の振る舞いは観測時の地方時,観測高度,震源の緯度,および震源からの距離により異なった様子を見せる.衛星高度が高い(高度300 km以上)と,震源上空で擾乱が見られるとは限らず,日本北部で発生した大きな地震では震源の北上空および磁気赤道上空の電離圏にも擾乱が観測された.震源の緯度,経度を同定するには,衛星高度は約300 km以下である必要がある.電離圏擾乱を引き起こす機構についてはいくつか提案されているが,ここでは大気力学との関連について簡単に議論する.地震により引き起こされた電離圏擾乱の機構を探るには,電子密度・温度測定器を搭載した複数個の超小型衛星とプラズマドリフト測定器などを搭載した小型衛星による観測計画が望まれる.
著者
大塚 浩仁 佐野 成寿 羽生 宏人 山本 高行 伊藤 琢博 岩倉 定雄
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会誌 (ISSN:00214663)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.32-37, 2020-02-05 (Released:2020-02-05)
参考文献数
4

本解説では,超小型衛星打上げ機(SS-520 4,5号機)の機体システム開発の概要を示す.本ロケットの開発意義は,搭載した宇宙用機器に品質の高い民生部品を活用して超小型衛星打上げシステムを作り上げたことと,従来の開発手法に加え新たに取り組んだ民生品の品質保証の考え方を構築してフライト実証したことである.また,既存の観測ロケットに衛星打上げ能力を持たせるためには,いくつかの課題を克服する必要があった.抜本的な構造軽量化,搭載機器の小型軽量化,衛星とロケット一体となった機能の最適配分,誘導制御系の工夫,飛行安全,Test as Flyをベースとした検証試験等々,限られたリソースと開発期間の厳しい制約条件のなかで随所に創意工夫を施した.本解説では,その開発におけるポイントを総括した.