著者
宇野 洋輔 西岡 慎一 原 尚子
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.2-25, 2016-12-01 (Released:2022-01-25)
参考文献数
64

本稿は,コンファレンス「物価変動とその中での経済主体の行動変化」(東京大学金融教育研究センターと日本銀行調査統計局の共催コンファレンス第6回)の導入論文である.本コンファレンスでは,長期にわたるデフレが終息し,基調としてマイルドなインフレへと転換しつつあるわが国物価の現状を踏まえて,まず,物価変動の背景やそれに関する論点について整理する.特に,経済主体の予想形成と企業の価格設定行動が物価変動とどのような関わりを持つかについて論点を整理する.次に,物価の変動に伴い企業や家計がどのように経済行動を変え得るかについて論点整理を行う.具体的には,まず,賃金面に焦点を当て,今後の実質賃金の動向を考えていく上で重要となり得るポイントを挙げる.また,インフレ局面への転換が,これまでの現預金を中心とした家計の慎重な投資行動をどの程度変え得るのかについても論点として提示する.
著者
渡辺 努 渡辺 広太
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.26-55, 2016-12-01 (Released:2022-01-25)
参考文献数
29

我が国では1995年から2013年春まで消費者物価(CPI)が趨勢的に低下するデフレが続いた.このデフレは,下落率が毎年1%程度であり,物価下落の緩やかさに特徴がある.また,失業率が上昇したにもかかわらず物価の反応は僅かで,フィリップス曲線の平坦化が生じた.デフレがなぜ緩やかだったのか,フィリップス曲線がなぜ平坦化したのかを考察するために,本稿ではデフレ期における価格硬直性の変化に注目する.本稿の主なファインディングは以下のとおりである.第1に,CPIを構成する588の品目のそれぞれについて前年比変化率を計算すると,ゼロ近傍の品目が最も多く,CPIウエイトで約50%を占める.この意味で価格硬直性が高い.この状況は1990年代後半のデフレ期に始まり,CPI前年比がプラスに転じた2013年春以降も続いている.この価格硬直性の高まりがフィリップス曲線を平坦化させた.第2に,前年比がゼロ近傍の品目の割合とCPI前年比の関係をみると,CPI前年比が低ければ低いほど(CPI前年比がゼロに近づけば近づくほど)ゼロ近傍の品目の割合が高くなるという関係がある.インフレ率が低下すると価格据え置きに伴う機会費用が小さくなるためと解釈できる.1990年代後半以降の価格硬直化は,グローバル競争などの外生的要因によるものではなく,CPIインフレ率の低下に伴って内生的に生じたことを示唆している.第3に,品目別価格変化率の分布の形状を米国や英国などと比較すると,米国などでは上昇率2%近傍の品目が最も多く,最頻値がゼロの日本の分布と異なっている.また,価格変化率の品目間のばらつきをみても,米国などではインフレ率が2%近傍のときにばらつきが最小値をとるのに対して,日本ではゼロインフレでばらつきが最小になる.これらの結果は,米国などでは各企業が毎年2%程度の価格引き上げを行うことがデフォルトなのに対して,日本ではデフレの影響を引きずって価格据え置きがデフォルトになっていることを示唆している.第4に,シミュレーション分析によれば,長期にわたってデフレ圧力が加わると,実際の価格が本来あるべき価格水準を上回る企業が,通常よりも多く存在する状況が生まれる.つまり,「価格引き下げ予備軍」(できることなら価格を下げたいと考えている企業)が多い.一方,実際の価格が本来あるべき価格水準を下回る「価格引き上げ予備軍」は少ない.この状況では金融緩和が物価に及ぼす影響は限定的である.我が国では,長期にわたるデフレの負の遺産として,「価格引き下げ予備軍」が今なお多く存在しており,これがデフレ脱却を難しくしている.
著者
中野 雅史 佐藤 整尚 高橋 明彦 高橋 聡一郎
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.2-30, 2017-01-01 (Released:2022-01-25)
参考文献数
32

本稿では,粒子フィルタを活用したポートフォリオ構築の新しい手法を提案する.特に,モンテカルロ・フィルタに基づく資産の期待リターンとボラティリティの推定により,平均分散ポートフォリオのパフォーマンスが飛躍的に向上することを示す. 我々は,状態空間モデルの枠組みにおいて,非対称性を持つボラティリティに加え,期待リターンに関する状態変数も確率過程として取り込むことにより,ボラティリティの時間変化と整合的なリターンを予測する.その結果,一般的な移動平均・分散に基づく平均分散ポートフォリオのみならず,等ウェイト(Equal Weight),最小分散,リスクパリティ(Risk Parity)などのリターン予測に依拠しない手法を凌駕する運用成果が実現可能なことを明らかにする. また,投資対象としては,国内外の株式・債券に加えリート(REIT)を組み入れ,空売り禁止条項や取引費用,投資比率制約も考慮することで,より現実的な国際分散投資を考察する.さらに,ポートフォリオのパフォーマンス指標として,複利リターンやシャープ・レシオに加え,実務的には重要な指標であるソルティノ・レシオや最大ドローダウンも採用し,多角的に評価することにより,我々の提案する手法の有効性及び頑健性を確認する.
著者
国友 直人
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.2-16, 2013-04-01 (Released:2022-03-25)
参考文献数
12

2011.3.11 に発生した東日本大震災では災害の発生後に応急仮設住宅の建設問題がマスメディアなどで大きく取りあげられた.住宅供給サイドからの仮設住宅建設の経緯を振り返るとともに,将来に起きるかもしれない大災害への教訓と大災害に備えた住宅政策のあり方に関する提言をまとめた.また統計的極値論を利用した大規模災害のリスク評価及び大規模な災害への対応上への応用可能性も議論した.
著者
松島 斉 照山 博司
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.17-49, 2013-04-01 (Released:2022-03-25)
参考文献数
7

複数種財をオークションによって売却する状況について実験をおこなった結果を,効率性,売り手収入,入札者利益などの観点から説明する.2 財を2 入札者によって競う取引状況を,逐次一位価格入札,時計入札,VCGメカニズムについて比較し,アンケート調査もおこなった.各入札者は,相手の金銭的利得構造を知らないことを仮定して,代替的評価と補完的評価の様々な組み合わせについて実験した.アンケートによる意識調査とは対称的に,実験においては,VCGメカニズムはおおむね好結果であるが,時計入札は Exposure Problem の弊害が顕著であることを示した.