著者
水野 貴之 大西 立顕 渡辺 努
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

我々は全世界の約50万社に関する各取引先を含むデータセットを用いてグローバル・サプライチェーンのネットワーク構造を調べる.はじめに,我々はこのネットワークがスケールフリー構造と任意に選んだ2社の最短経路長が平均6社(リンク)であることを示す.次に,我々は,ネットワークのコミュニティ解析により,グローバル・サプライチェーンにおいて企業は異なる国の同種の産業の企業とコミュニティを形成していることを示す.最後に,我々は,このようなグローバルな企業の生産活動が,グローバル・サプライチェーンを通じた紛争鉱物(紛争地の武装勢力が内戦維持のために採掘し販売するレアメタル)の世界的な拡散に関係していることを指摘する.そして,我々は,コミュニティ間を橋渡しする僅かなブリッジ企業が,紛争鉱物の世界的な拡散を制御する上で重要な役割を果たすことを,複雑ネットワーク科学の視点から指摘する.
著者
渡辺 努 青木 浩介 阿部 修人 中嶋 智之 阿部 修人 塩路 悦郎 中嶋 智之 廣瀬 康生 戸村 肇
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2012-05-31

わが国では過去20年にわたって物価下落が進行している。毎年の物価下落率は1%程度と小さく,ゆっくりとしたデフレだが,極めて長い期間続いているというのがその特徴である。この長期デフレの原因は,原価が変化しても価格を据え置くという企業行動にある。先進各国の企業は価格を毎年1-2%引き上げるのがデフォルトなのに対して,日本企業は90年代末以降,価格据え置きがデフォルトになっている。価格や賃金の引き上げに関する社会規範が変化したためと考えられる。一方,家計サイドでは,生まれてこの方デフレしか経験したことのない若年層を中心に,今後もデフレが継続するという予想が根強く,これがデフレ脱却を難しくしている。
著者
渡辺 努 青木 浩介 梶井 厚志 宇井 貴志 上田 晃三 水野 貴之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

家計の物価予想の形成メカニズムに関する研究の一環として約8000の家計を対象にアンケート調査を2018年5月に実施し、家計が将来の物価や景気についてどのように情報を取得しているのか、家計は中央銀行の存在をどの程度認識しているか、中央銀行の政策にどの程度の関心をもっているか、中央銀行からのメッセージはどのような経路で家計に伝わっているかを調べた。また、中央銀行コミュニケーションに関する理論と実証の最近の研究動向を調べるために、渡辺努がジュネーブの国連統計局主催の会議に2018年5月に出席し最近の研究成果(Storable Goods, Chain Drifts, and the Cost of Living Index)を報告したほか、渡辺努と西村はSEM(Society for Economic Measurement)主催の会議に出席し論文報告を行った(渡辺の報告論文"Product Turnover and the Cost of Living Index: Quality vs. Fashion Effects"、西村の報告論文"Incorporating Market Sentiment in Term Structure Model")。また梶井は、市場と予測に関する理論研究に関して欧州で情報収集と討論を行った。ヨーク大学ではゲーム理論の観点からの討論を行い、その後初期の研究成果をセミナー報告したほか、ウォーリック大学、ベニス大学でも研究報告と意見交換を行った。本科研の研究費は上記の研究活動に加えて、データ収集・加工のための作業謝金、英文校閲謝金等に使用した。なお、本研究課題は基盤研究(S)として採択されたため、基盤研究(A)の研究成果を基盤研究(S)に引き継ぐこととした。
著者
渡辺 努 渡辺 広太
出版者
東京大学大学院経済学研究科
雑誌
経済学論集 (ISSN:00229768)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.26-55, 2016-12-01 (Released:2022-01-25)
参考文献数
29

我が国では1995年から2013年春まで消費者物価(CPI)が趨勢的に低下するデフレが続いた.このデフレは,下落率が毎年1%程度であり,物価下落の緩やかさに特徴がある.また,失業率が上昇したにもかかわらず物価の反応は僅かで,フィリップス曲線の平坦化が生じた.デフレがなぜ緩やかだったのか,フィリップス曲線がなぜ平坦化したのかを考察するために,本稿ではデフレ期における価格硬直性の変化に注目する.本稿の主なファインディングは以下のとおりである.第1に,CPIを構成する588の品目のそれぞれについて前年比変化率を計算すると,ゼロ近傍の品目が最も多く,CPIウエイトで約50%を占める.この意味で価格硬直性が高い.この状況は1990年代後半のデフレ期に始まり,CPI前年比がプラスに転じた2013年春以降も続いている.この価格硬直性の高まりがフィリップス曲線を平坦化させた.第2に,前年比がゼロ近傍の品目の割合とCPI前年比の関係をみると,CPI前年比が低ければ低いほど(CPI前年比がゼロに近づけば近づくほど)ゼロ近傍の品目の割合が高くなるという関係がある.インフレ率が低下すると価格据え置きに伴う機会費用が小さくなるためと解釈できる.1990年代後半以降の価格硬直化は,グローバル競争などの外生的要因によるものではなく,CPIインフレ率の低下に伴って内生的に生じたことを示唆している.第3に,品目別価格変化率の分布の形状を米国や英国などと比較すると,米国などでは上昇率2%近傍の品目が最も多く,最頻値がゼロの日本の分布と異なっている.また,価格変化率の品目間のばらつきをみても,米国などではインフレ率が2%近傍のときにばらつきが最小値をとるのに対して,日本ではゼロインフレでばらつきが最小になる.これらの結果は,米国などでは各企業が毎年2%程度の価格引き上げを行うことがデフォルトなのに対して,日本ではデフレの影響を引きずって価格据え置きがデフォルトになっていることを示唆している.第4に,シミュレーション分析によれば,長期にわたってデフレ圧力が加わると,実際の価格が本来あるべき価格水準を上回る企業が,通常よりも多く存在する状況が生まれる.つまり,「価格引き下げ予備軍」(できることなら価格を下げたいと考えている企業)が多い.一方,実際の価格が本来あるべき価格水準を下回る「価格引き上げ予備軍」は少ない.この状況では金融緩和が物価に及ぼす影響は限定的である.我が国では,長期にわたるデフレの負の遺産として,「価格引き下げ予備軍」が今なお多く存在しており,これがデフレ脱却を難しくしている.
著者
渡辺 努
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.358-379, 2000-10

大規模な負の需要ショックに対応するために名目短期金利をゼロまで下げているにもかかわらずも需要が不足している場合に,中央銀行は何ができるだろうか.この問いに答えるために,本稿では,名目短期金利の非負制約を明示的に考慮しながら中央銀行の最適化問題を解く.最適な政策は,「ショックの発生移行のインフレ率や需要ギャップの累積値がある一定の水準に達するまでゼロ金利政策を続ける」とコミットすることであり,歴史依存性 (history dependence) が重要な特徴である.このように,政策ラグを意図的に発生させることにより,足元の名目長期金利が下がる一方,期待インフレ率は上昇するので,負の需要ショックの影響は和らげられる.日本銀行が1999年2月から2000年8月にかけて採用したゼロ金利政策は,(1)長めの金利への波及を当初から意図してきた.(2)ゼロ金利の継続期間を物価上昇率に関連づけながらコミットした,という点で最適解に近い性質を持つ,しかし,「デフレ懸念の払拭が展望できるまでゼロ金利を続ける」という日銀のコミットメントでは,ゼロ金利解除の条件が先見的 (forward looking) な要素のみで決まっており,最適解のもつ歴史依存性が欠落している.典型的な最適解ではインフレ率が正の値まで上昇するのを待ってゼロ金利を解除するのに対して,日銀のコミットメントはインフレになる前の段階でゼロ金利を解除するため,ゼロ金利期間が短すぎるという難点がある.
著者
水野 貴之 渡辺 努 齊藤 有希子
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.68-81, 2010-01
被引用文献数
1

In this paper, we propose a new method to measure the price stickiness caused by strategic complementarities in price setting behavior using the autocorrelation coefficient. Then we apply this method to the online marketplace data. Since Bils and Klenow's (2004) seminal study, the frequency of price adjustment or the average price duration have been intensively examined to measure price stickiness. While the average price duration is 1.9 days, the autocorrelation coefficient shows 6 days' path-dependency for the sample data of a liquid crystal television. This means that retailers change prices three times to complete a price adjustment. The size of price changes is lowered by the strategic complementarities, which requires a longer price adjustment time. In previous papers, price stickiness might have been underestimated due to disregarding the path-dependency of price adjustment.本稿では,各企業が互いの価格設定行動を模倣することに伴って生じる価格の粘着性を自己相関係数により計測する方法を提案するとともに,オンライン市場のデータを用いてその度合いを計測する.Bils and Klenow (2004)以降の研究では,価格改定から次の価格改定までの経過時間の平均値をもって価格粘着性の推計値としてきたが,本稿で分析対象とした液晶テレビではその値は1.9日である.これに対して自己相関係数を用いた計測によれば,価格改定イベントは最大6日間の過去依存性をもつ.つまり,価格調整の完了までに各店舗は平均3回の改定を行っている.店舗間の模倣行動の結果,1回あたりの価格改定幅が小さくなり,そのため価格調整の完了に要する時間が長くなっていると考えられる.これまでの研究は,価格改定イベントの過去依存性を無視してきたため,価格粘着性を過小評価していた可能性がある.
著者
高村 多聞 渡辺 努
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.358-371, 2006-10

本稿では Krugman (1998) 以降の流動性の罠に関する研究をサーベイし,そこで得られた知見を整理する.第1に,最近の研究が対象とするのは超短期金利の非負制約がバインディングになる現象であり,永久国債の金利に注目するケインズの定義と異なっている.ケインズの罠は超短期金利がバインディングな状態が無限遠の将来まで続く恒久的な罠であり,最近の研究が扱っているのは一時的な罠である.第2に,一時的な罠に対する処方箋としてこれまで提案されてきたアイディアの多くは,現代の金融政策論に照らして標準的なものである.流動性の罠の下で経済厚生を最大化する金融政策ルールは広い意味でのインフレターゲティングとして表現できる.流動性の罠はその奇異な見かけから特殊な現象と受け取られがちであるが,少なくとも罠が一時的である限り,それに対する処方箋は意外なほどにオーソドックスである.This paper overviews recent studies on optimal monetary policy in a liquidity trap, starting from Krugman (1998). First, we point out that these studies focus on a phenomenon in which short-term, rather than long-term, nominal interest rates face the zero bound constraint, which is quite different from the original definition provided by Keynes. In this sense, recent studies focus on a temporary, rather than permanent, liquidity trap. Second, somewhat surprisingly, policy prescriptions to the temporary trap proposed by the recent studies are very close to the standard one in light of the modern theory of optimal monetary policy. Specifically, as shown by many studies, the optimal monetary policy rule in a liquidity trap could be expressed as versions of inflation or price-level targeting.