1 0 0 0 チフス

著者
江崎 孝行 趙 立成
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1898-1901, 1999-11-10

チフス菌(Salmonella typhi)は通性嫌気性のグラム陰性桿菌で,Enterobacteriaceae腸内細菌科に属する危険度レベル3の病原体である. 菌体の周囲は多数の鞭毛がついており(図1),表面はさらにVi抗原と呼ばれるきょう膜で覆われている.腸チフスを疑った場合は,選択培地SS培地(Salmonella-Shigella)を使用して便を直接この培地に塗布して分離培養するするが,他のサルモネラと異なりこの菌はSS培地上で硫化水素の産生が弱いため,赤痢菌と同じような透明の集落をつくる(図2).硫化水素は徐々に産生され,数日経過すると徐々に中心が黒く周辺が透明の集落になってくる.
著者
小柴 健
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1400-1401, 1978-10-10

曙光から現在まで 人間に対する腎移植の歴史は古く,当初は異種動物の腎を使用して行われた.1906年Jaboulayがブタとヤギの腎を尿毒症婦人の両腕に移植したのが最初であるが,これは失敗に終わっている.ついでUnger(1906),Schonstadt(1913)およびNeuhof(1923)がそれぞれサル,類人猿,ヒツジの腎を用いて尿毒症患者に異種移植を行っているが,いずれも効果的な移植腎機能を見ずに終わっている.こうした異種動物の腎を用いての移植はその後40年間記録されていないが,1963年になってから,Hitchcock,Reemtsma,Starzlらによって,ヒヒまたはチンパンジーの腎を用いて相ついで再開された,このときにはイムランやプレドニソロンを用いての免疫抑制療法がすでに開発されており,これら症例の多くに一時的にせよ良好な腎機能を認めたが,長期生着をみるには至らなかった.現在では,異種移植は腎移植の臨床の分野から姿を消したままになっている. ヒトの腎を用いての同種移植は,1936年にソ連のVoronoyによって初めて行われた.水銀中毒の26歳の婦人の大腿部に脳炎で死亡した患者からとった腎を移植し,尿分泌が得られたが,異型輸血のため48時間後に死亡したと報告されている.これは急性腎不全に対する同種腎移植の初例であるとともに死体腎移植の初例でもあった.
著者
山中 克郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1074, 2016-06-10

著者の平山幹生先生を私はよく知っている.名古屋近郊にある春日井市民病院という人気の研修病院で,3年間ほど研修医教育を一緒にさせていただいた.実直かつ臨床能力の高い臨床医である平山先生は当時,副院長(研修医教育担当)をされていた.神経内科だけでなく,全ての医学領域において貪欲な探究心をお持ちである.ケースカンファレンスの後で,参考になる論文はこれです,と何度も重要論文をお送りいただいた.私はそのように真理を探究する平山先生の姿勢に大変敬服している. 平山先生が40年間の臨床経験に基づいて書かれたのがこの書である.示唆に富む教育症例は全部で61あり,「意識障害」「頭痛」「めまい」「発熱」「嘔気・嘔吐,不定愁訴」「しびれ,痛み」「けいれん,高次脳機能障害」「脱力」「錐体外路症状」「脳神経症状」の10章に分類されている.症例ごとに誤診(診断エラー)の原因と対策が分析されている.どうして診断を間違えたかを,認知エラーとシステム関連エラーに分け,さらに細かいカテゴリーから考察されている.

1 0 0 0 亜イレウス

著者
馬越 正通
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1110-1114, 1985-06-10

亜イレウスとは,腸管の閉塞状態が比較的軽度で,まだある程度の内容の通過があるので排ガスや排便もみられ,浣腸や腸管運動促進剤の使用などにより軽快してしまうものや,症状が増悪もしないが完全には軽快しないで一進一退の状態をくり返す,概して慢性の経過をとるものをいう.したがって,緊急手術など救急処置を必要とする病態ではないが,経過によっては急性イレウスの状態に移行することもあるので,亜イレウスを管理するには急性イレウスの病態を熟知しておかねばならない. 急性イレウスは日常遭遇する機会も多く,その症状経過は閉塞部位や閉塞の型によって著しい差がみられ,緊急手術を必要とするものから,待期的手術でよいもの,また非手術的療法で治癒できるものもあり,その病態はきわめて多彩である.
著者
鈴木 文男
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.22-23, 1989-01-10

long RP' tachycardiaとは,いわゆる上室性頻拍のなかで,頻拍中のP波の出現時相が,先行するQRS(R)波よりも,それにひき続くR波に近接するタイプの頻拍のことをいい,したがって,R-P'/P'-Rの比が1よりも大きい頻拍のことである.この際,P'波と表記するのは,この心房波の由来が洞性のものではなく,異所性P波ないしは逆伝導性P波であることを示すためである. 本タイプの頻拍が注目をひくようになったのは,1967年,Coumelがその心電図的,電気生理学的特徴を報告してからである1).
著者
屋形 稔
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1108-1110, 1980-07-10

アンドロジェンの分泌・調節 血中のアンドロジェンには,主として副腎皮質から分泌されるアンドロステロン(An),デハイドロエピアンドロステロン(DHEA),DHEA sulfate(S),エチオコラノロン(Et)などと,睾丸から産生されるテストステロン(TS)が存在する.前者はコルチゾールと同様に,ACTHの調節をうけるが,フィードバック機構図(本誌16巻10号)に示したようにネガティブフィードバック作用はなく,いわゆるopen loopの形をとっている.この生合成は副腎網状層で行われ,図1のごとくプレグネノロンから17-OHプレグネノロン,DHEAを経てアンドロステンジオン(A-dione)にいたる経路であるが,量的にもかなりの量で,副腎産生TSも含めて女性の主要アンドロジェンの分泌源となる. TSはLHによって生成維持されるもので,LHはLeidig細胞でc-AMPの生成増大,蛋白合成増加をきたし,これが刺激となってTSを産生すると考えられる,TSはまたLH,FSHの分泌を抑制するネガティブフィードバック作用を有し,末梢組織でデハイドロテストステロン(DHT)という強い抑制力をもつ活性型に転換される(本誌17巻1号).
著者
小原 孝男
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1891-1893, 1991-11-10

甲状腺検査の基本は触診である.甲状腺疾患の患者の多くは,触診によってはじめて見つけだされる.とくに甲状腺腫瘍は大部分が無症状であり,悪性でも進行癌でないと症状が出ない.無症状のうちに甲状腺癌を見つけだすには一般医師の頸部触診に頼るしかない.甲状腺機能異常を起こすバセドウ病や橋本病にしても,腫大した甲状腺を触れてはじめてその診断を思いつくことがある.甲状腺の触診技術に習熟すると,その所見だけからどの甲状腺疾患であるか,診断を予測することが大体できる.
著者
折田 薫三
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1023-1025, 1979-07-10

レバミゾールの構造と作用機序 Levamisole(LMS)は他の多くの免疫賦活剤と異なり,図1のごとき構造式をもった化学薬品で,分子量240.75の白色結晶状粉末である.水に易溶性で,酸性で安定である.経口で急速に消化管より吸収され,全身の組織に分布する.成人に常用量の150mgを内服させると,2時間以内に0.5Ptg/mlとピークの血中濃度となり,4時間で半減,2日以内に消失する.大部分は肝で分解されて尿中に排出される.薬理学的には,LMSは自律神経節を刺激し,筋性,神経性に心拍出量を増加させる1). 免疫学的にはcyclic GMPの細胞内濃度を上昇させることによってT細胞を活性化させ,T細胞の活性化を通して抗体産生をも増強する.免疫能の正常な健康人や癌患者に投与したのではほとんど無効であり,免疫賦活剤というよりは免疫正常化剤(normalizer)といった性格を有している.RESや大食細胞の機能を高めることも知られている1〜3).Hodgkin病患者の免疫能は著明に低下していることで周知であるが,LMSをin vivo,in vitroに投与すると,リンパ球.(T細胞のsubset)の表面に付いている免疫阻止物質apoferritinが除去され,正常の免疫能を回復してくるという4).なお,急性毒性LD50は表のごとくである.毒性は低く,人体常用量は2〜3mg/kgと思われる1,3).
著者
宮﨑 景
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.820-825, 2020-05-10

Point◎スクリーニングはプロセスである.◎スクリーニングの評価としてWilson基準やFrame & Carlsonの基準が有名であるが,最近では潜在的な利益と害の大きさのバランスを比較する基準が推奨されている.◎スクリーニングの害として,スクリーニング検査による負担,偽陽性,陰性ラベリング効果,過剰診断とヒューマン・シールド,偶発的腫瘍について知っておくとよい.◎健診には定期健康診断,特定健康診査,一般健康診査があり,一方代表的な検診である癌検診は対策型癌検診と任意型癌検診に分けられる.◎人間ドックの多くの項目は,規定もなく任意に定められている.
著者
清水 郁夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.635-636, 2019-04-10

診療背景 卒後5年目の糖尿病内科医が担当した症例.症例 75歳男性.
著者
志賀 隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1304-1307, 2019-07-10

Point◎「症状が悪くなったら来てください」よりは「血便が出たら」「右下腹部痛が出たら」など,具体的な説明を患者さんにすることが望まれる.◎夜間や混雑時に帰宅時の説明が標準的にされるためには,部門や病院にて合意した内容で帰宅指示書を作成し患者さんに渡すことが望まれる.◎帰宅指示書は,実際に説明した記録を残すためにも,電子カルテの文書管理機能から印刷することが望まれる.
著者
平山 宗宏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1438-1440, 1968-12-10

ハイジェッター実用化の意義 針を使用する注射の苦痛と恐怖感をとりのぞく方法はないだろうか,という要求から出発したと考えられるいわゆる針なし注射器として,自動皮下噴射注射器・ハイジェッター(Hyjettor)が実用化されている.このハイジェッターは米国で,もとは軍隊での使用要求から開発されたというが,現在では一般にも広く使用され,わが国でもすでに約200台が輸入実用に供されているので,ここではその概要を紹介したい.筆者自身使用経験は十分でないので内容に不備の点があれば経験のある方がたのご叱正をいただきたい.
著者
近藤 喜代太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.928-929, 1979-06-10

タバコの受難時代 人とタバコとの永いかかわり合いの歴史上,後者の受難がつづく時期は今日を措いてない.私はパイプ党だが,つぎつぎにだされるタバコの有害性の証拠のまえには脱帽するしかない.2月19日の朝日新聞によると,日本でのタバコによる損夫は,火事や病気で年に1兆1千億円をこすというが,これも愛煙家には気分のよくない数字だ,石油蛋白の有害論が盛んだが,もしタバコに永い歴史がなく,新顔の嗜好品だったら,ひとたまりもなく追放されてしまうことだろう. ところが,それほど悪者扱いされるタバコをのむ人々が罹りにくい病気がただひとつだけ知られている.専売公社の喜びそうなこの病気はパーキンソン病で,患者の既往歴を調べると,不思議にもかえって喫煙歴が少ない.パーキンソン病は初老期以降に起き,振戦,筋の固縮,無動症などを呈する病気で,本誌16巻2号の特集でとりあげられている.
著者
形浦 昭克
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2564-2566, 1989-12-10

癌性疼痛緩和に対する薬物療法としてのブロンプトンカクテル(Brompton Coctail,BC)は,イギリスにおける胸部疾患病院で開胸手術後の鎮痛剤として使用されたのに始まる.その代表的処方例は,塩酸モルヒネ10mg,塩酸コカイン5mg,ワイン1mlおよび単シロップ2mlと,全量10mlである里このブロンプトンカクテルの療法から精神興奮状態が出現することから,塩酸コカインを除き,筆者らの施設においても塩酸モルヒネカクテルとして,1983年以来,使用してきた.
著者
木田 圭亮 土井 駿一 鈴木 規雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.54-57, 2021-01-10

Question 1心不全に高カリウム血症の合併が多いのはどうしてですか?
著者
加藤 恵理
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.25-31, 2021-01-10

Question 1SGLT2阻害薬ってどのような薬ですか?
著者
木島 昂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.306-308, 1969-03-10

イタイイタイ病は国から"公害病1号"と認定された.しかし,いまだに被害補償の問題すらかたづかない現状である.本誌5巻8号では,その"症例"を紹介したが,今回は萩野昇医師の活動をとおして,周辺の諸問題を追求してみた.
著者
中村 嘉孝
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2106, 1973-12-10

質問 ビタカンファーという注射は現在でも意味を持つ薬でしょうか.意味ありとすれば,どんな適応がありますか.(北海道 Y生)答 ビタカンファーの適応症は大別して,強心・血管緊張・呼吸中枢興奮・吃逆制止とされている.その薬理作用を要約すると,小量使用により心拍動は増強され,増量することで呼吸中枢も刺激され,さらに増量すれば血管運動神経をも刺激し,この結果,末梢血管の収縮と血圧の上昇を生ずるとされている.この薬効に関して,研究者間に見解の差が見られる1).
著者
岩田 秀平 水野 篤
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2148-2150, 2019-12-10

Point◎心不全を悪化させる可能性のある薬物を確認し,減量・中止する必要がある.◎慢性心不全患者にACP(advance care planning)の導入を検討し,そのなかでの薬剤中止という考え方は必要な選択肢である.◎標準治療を理解したうえで,十分な情報提供と医療従事者-患者間における信頼構築のなかで一つひとつ議論していってほしい.
著者
時実 利彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.378-379, 1968-03-10

人間行動を操る5F 3Sで骨抜きにされたとか,3C時代の到来とかいわれているが,それにあやかつて,人間行動を操る5Fを紹介しよう。 食行動Feeding,性行動Fertilizing,集団行動Flocking,攻撃Fighting,逃走FleeingのFの頭文字のつく五つの行動であつて,いずれも大脳辺縁系にそのはたらきの座があつて,個体の保全と種族の維持をはかりつつ,私たちをしてたくましく生きてゆかせているおのずと身につく本能行動と情動行動である。