- 著者
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酒井 雅子
- 雑誌
- 玉川大学文学部紀要 (ISSN:02868903)
- 巻号頁・発行日
- no.61, pp.47-77, 2021-03-31
2011 年の福島第一原子力発電所の事故被害を,福島県各地の歌人たちが写実的な短歌で証言している。 本研究の目的は,トランス・サイエンスをリスク・アセスメントする市民教育において,トランス・サイエンスの一つである原子力エネルギーのリスク評価を倫理的観点から行う際,フクシマの短歌がエビデンスとして果たす役割を明らかにすることである。そして,それを踏まえ,リスク・アセスメントの授業デザインを提案することである。そのために,リスク理論の定義から,評価の基準を「事故の結果リスク」5 基準,「事故の原因リスク」2 基準に整理し,また,リスク・アセスメント理論における倫理的リスク評価の位置づけを明らかにした。その上で,2004~2019 年に発表された短歌から1220首(180人)の原子力詠データベースを作成し,さらに,先のリスク基準や複数の歌人が詠んだテーマを基に17 カテゴリーに分類して441首の短歌教材集「フクシマの短歌にみる原子力エネルギーのリスク―歌人122名の証言」に精選した。 短歌教材集により,フクシマの短歌は,放射線の広がりを除き,放射線の影響が出る速さ・時間的広がり・復旧する程度・個人や社会への二次被害という「事故の結果リスク」基準で評価する有効なエビデンスになり得ることを明らかにした。また,フクシマの短歌は,事故以前から原子力エネルギーに内在するリスクを暴いており,これらが信頼できる事実であると確定できれば,「事故の原因リスク」基準で評価するエビデンスになることを明らかにした。以上を踏まえ,短歌の有効性をさらに高める補足エビデンスを示して,リスク同定・リスク判定・倫理的リスク評価を行うリスク・アセスメントの授業デザインを提案した。 なお,原子力エネルギーのリスク評価は,倫理的観点だけで完結しない。持続可能な日本のエネルギーについて,ベネフィットも視野に入れた多観点意思決定による評価が続くだろう。