著者
木下 直俊
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.19-34, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
14

2021年2月7日、レニン・モレノ大統領の任期満了に伴う大統領選挙が行われた。1979年の民政移管後で最多の16名が立候補した。いずれの候補者も当選に要する票を得られなかったため、ラファエル・コレア元大統領を後ろ盾とするアンドレス・アラウス候補(左派)と、元銀行家で実業家のギジェルモ・ラッソ候補(右派)の上位2名が4月11日の決選投票に進んだ。その結果、ラッソ候補が事前予想を覆し勝利を収めた。その勝因については、コレア体制への忌避感から無効票を投じた有権者が多かったこと、コロナ禍の選挙戦でラッソ陣営がSNSを巧みに活用したことなどがあげられる。5月24日に発足したラッソ政権は、ワクチン接種の促進を最優先課題に据えた新型コロナ対策が奏功し、国民からの評価は高く好調な滑り出しをきった。今後の政策課題は経済再建に向けた諸改革へと移るが、国会は与野党の対立が先鋭化し機能不全の状態に陥る可能性もあり、審議は難航が予想される。安定した政権運営がいつまで続くか予断を許さない。
著者
柴田 修子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.17-29, 2023 (Released:2023-01-31)
参考文献数
2

2022年に行われたコロンビア大統領選挙で、グスタボ・ペトロ候補が当選した。コロンビア初の左派政権誕生であることや副大統領候補がアフロ系女性であること、従来の伝統的政党の潮流を汲んでいないことなどから、今回の選挙は歴史的転換ととらえられている。そこで本稿では、歴史的転換がなぜ起こったのかを分析する。まず選挙制度改革によって左派勢力が参加する余地が生まれたことを概観し、選挙プロセスをたどりながらペトロの勝因を分析する。勝因として既成勢力への批判、左派勢力の一本化、社会運動の影響があったことを明らかにし、おわりに今後の展望を述べる。
著者
中沢 知史
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.32-45, 2022 (Released:2022-07-31)
参考文献数
25

ウルグアイで2020年3月に成立したラカジェ・ポウ大統領率いる右派連合政権は、2019年大統領選挙決選投票において5党による選挙協力を行って勝利して以降、安定して政権を運営している。本稿では、任期半ばにさしかかるラカジェ・ポウ政権について、2019年選挙の過程から2022年3月27日実施の国民投票までを記述し、その施政の中間評価を行う。まず第1節では、右派連合政権の成立過程を辿る。つぎに第2節では、ラカジェ・ポウ政権最初の政策を、労働組合との関係、コロナ対策、対外関係、治安政策、そして緊急法の制定に分けて概括する。そして第3節では、任期前半における最大の政治イベントとなった国民投票について、最大の争点となった治安問題の観点から述べ、結果を分析する。最後に、国民投票結果を受けた任期後半および次期大統領選の展望について述べる。本稿を通じて、これまで先行研究で指摘されてきたウルグアイ有権者の投票行動と似た傾向が観察され、高度に制度化された政党政治が堅持されていることを示す。
著者
三浦 航太
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-17, 2022 (Released:2022-07-31)
参考文献数
9

2021年12月に行われたチリの大統領選挙の結果、急進左派連合のガブリエル・ボリッチが勝利し、1990年の民主化以来初めてとなる、左右二大連合に属さない勢力による政権が誕生した。本稿では、代表制の危機という視点から、2010年代のチリの政治社会変動、新しい政治勢力が台頭した2021年選挙、今後のボリッチ政権の課題について考察することを目的とする。チリは、既存の左右二大連合政治に対する不信を起点に、投票率の低下、抗議行動の活発化、2019年のチリ史上最大級の抗議行動「社会の暴発」を経験してきた。さらに近年では、代表制の危機の表れとしてポピュリズム的性格をもった政治勢力の出現もみられ、新しい政治構図のもとで2021年大統領・議会選挙が行われた。ボリッチ新政権には、新自由主義からの転換という大きな目標があるが、その目標の実現のためには、いまだ解消されない代表制の危機という課題にも同時に取り組むことが求められている。
著者
古賀 優子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.26-40, 2019 (Released:2019-03-07)
参考文献数
3

2018年コロンビア大統領選挙は、FARCとの和平合意後に実施された最初の大統領選挙であった。当初は和平合意履行の是非が争点になるのではないかとみられていたが、実際は和平よりも急進左派の是非にたどり着いた。これまでみられなかった左派の躍進はコロンビアにあって注目すべき現象であったが、左派候補が勝利するには至らなかった。その背景には、歴史的に急進的な政治を好まない国民の意識が挙げられる。また、既成政党の組織票が力を失う一方で、SNSはまだ十分な影響力を獲得していない。今回の大統領選挙の背景には、このような政治の変化があったのではないか。政党離れは進行しており、右派・左派に関わらず、カリスマのある候補が出現すれば、将来的に大統領選挙で勝利する可能性もあると考えられる。
著者
村井 友子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.86-92, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
15

ラテンアメリカでは、過去およそ20年にわたり、研究成果をオープンアクセスで提供する学術情報インフラを構築し、維持・発展させてきた。そのあいだ、数多くの学術情報プラットフォームが発足し、ラテンアメリカの学術情報のオープンアクセス化を推進してきた。本稿は、このうち、学術機関が学術雑誌を電子ジャーナルとして刊行する際に活用できる共同出版プラットフォームを提供し、ラテンアメリカにおけるオープンアクセスジャーナルの発展を牽引してきたSciELOとRedALyC、および、国を超えてラテンアメリカ諸国とスペインの学術機関の機関リポジトリを繋ぐオープンアクセス・リポジトリネットワークLA Referenciaの活動を伝える。
著者
加賀美 充洋
出版者
アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカレポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.26-27, 1986-06-20
著者
北野 浩一
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.16-31, 2020

<p>2019年10月中旬に中高生の地下鉄無賃乗車運動から始まったチリの大規模な反政府デモは、瞬く間に社会問題全般に対する改善要求へと変わっていった。特に、高齢者の貧困の問題と年金改革要求は広く国民が支持する要求となった。統計データから見ると、チリの貧困・所得格差の実態は近年改善がみられる。しかし、OECDへの加盟や左派勢力の躍進などにより、貧困・所得格差の問題に関する民衆の不満は急速に高まっている。これまで、チリは比較的安定した政治システムと堅実な経済政策を維持してきたが、躍進する左派勢力と力を増す民衆運動を前に、政策の大転換を迫られている。</p>
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.20-35, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
12

2020年4月に、ラテンアメリカでの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による政治・社会的影響について報告書を出したブロフィールド(Merike Blofield)らによれば、COVID-19の厄災は、どの指導者がいかなるリーダーシップを発揮して国民から協力を引き出し、危機を打開しうるかという「政治的リーダーシップの試金石」だという。本稿ではグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの中米・北部三角地帯諸国(NTCs)におけるCOVID-19の感染状況について概観し、非常事態宣言を軸とした各国の政策対応について確認する。その後、今やCOVID-19拡大の第2波ないし第3波に直面する世界で、改めて求められている為政者による巧妙なリーダーシップという観点から、北部三カ国のCOVID-19下での政治状況について論じる。