著者
牛頭 哲宏 髙松 邦彦 酒井 智行
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.336-340, 2023-08-01 (Released:2023-08-01)

神戸常盤大学は2015年度からクラウド型教育支援システム「manaba」を活用した教育実践を行ってきた。その結果,多くの教職員がmanabaを使いこなすノウハウを身に着けた。この実践が功を奏し,2020年度のコロナ禍でも,神戸常盤大学は迅速にオンデマンド式の遠隔授業を実施し,学生の学びの質が損なわれないように工夫している。本稿では,manabaの活用によって,どのように遠隔授業が実施され,どのような教育効果があったのかについて報告する。また,manabaに蓄積された学生の学習データにもとづいた大学改革の成果についても紹介する。
著者
永田 正樹
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.329-335, 2023-08-01 (Released:2023-08-01)

静岡大学では情報機器の老朽化やICT社会に関する時勢の変化などにより情報基盤を4,5年おきに全面更改している。ここ十数年のICT業界はクラウドコンピューティングの普及により情報資産は所有から利用へと変化した。静岡大学においても数回の更改を経てクラウドコンピューティングを全面適用した情報基盤に変化している。本稿では情報基盤更改に対して,クラウドコンピューティング導入前後の技術面,運用面,調達手法の変化を概説する。
著者
河井 良太
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.324-328, 2023-08-01 (Released:2023-08-01)

東大阪市では,令和3年4月より電子図書館サービス「ひがしおおさか電子図書館」を提供している。本稿では,当該サービスの導入経過や活用事例などについて紹介する。「ひがしおおさか電子図書館」は,サービス開始当初から“日本最大級の蔵書がある電子図書館”として広報することで利用拡充を図ってきた。また,学校連携事業の一環として,市立小中学校の全児童生徒がGIGAスクール構想のタブレット端末を用いて電子図書館を利用できるようIDを付与しており,子どもたちの読書環境の充実に努めている。今後さらなる市場拡大が期待される電子図書館であるが,リアルの図書館とのバランスを考えながらうまく共存させていくことが大切である。
著者
谷守 正行
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.312-317, 2023-08-01 (Released:2023-08-01)

元来,定期配達や定期購読の意味でしかなかったサブスクリプションサービスが,いったいどうしてあらゆる世代の購買行動の変革を促すに至ったのであろうか。それを検討するためには,そもそもサブスクリプションとは何なのかを明らかにする必要がある。そこで,最初にサブスクリプションの定義を行い,サブスクリプションたる機能要件を明らかにした。そのうえで,商業的な意味で使われるサブスク進化形態や従来のシェアリングサービスとの比較検討を通して具体的に検証した。最後に,サブスクリプションサービスと購買行動の変化の関係性を検討し,事業者および利用者それぞれに対するサブスクリプションのメリット/デメリットを述べる。
著者
海老澤 直美
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.311, 2023-08-01 (Released:2023-08-01)

サブスクリプションサービスは一般的に,定額制でさまざまなコンテンツやサービスを利用できる仕組みとされ,これまでは主に本,音楽,映画などのデジタルコンテンツに関連して語られることが多くありました。しかし,最近ではソフトウェアやクラウドサービスなど,さまざまな分野で利用されています。特にコロナ禍による自宅時間の増加や外出制限の影響で,サブスクリプションサービスの利用は加速しました。所有から利用へのライフスタイルの変化が広まり,個人だけでなく企業や図書館,教育機関などでも同様の変化が起きています。サブスクリプションサービスは社会への影響も大きいと言えます。利用者は,低コストで多様なコンテンツやサービスを利用できるようになりました。一方,提供側は,定期的な収益の安定化や顧客との関係構築の機会を得ることができます。本特集では,「サブスクリプションサービスが社会に与えた影響」と題し,サブスクリプションサービスの概要を解説するとともに図書館や教育機関における具体的な事例も紹介します。まず谷守正行氏(専修大学)に,サブスクリプションサービスの概要をわかりやすく解説していただくとともに,購買行動の変化についても説明いただきました。図書館においては,学術雑誌の転換契約への移行とオープンアクセスの取り組みが重要なテーマとなっています。これについては,平田義郎氏,山崎裕子氏,金子芙弥氏,野中真美氏(大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE))に,JUSTICEにおけるオープンアクセスの取り組みとあわせて詳説いただきました。また,河井良太氏(東大阪市教育委員会)には,公共図書館における電子図書館サービスの導入経過と活用事例などについて紹介いただきました。教育機関では,情報基盤の変遷が進んでいます。この変化については,永田正樹氏(静岡大学)に,クラウドコンピューティングの導入事例を通じて具体的に解説いただきました。さらに,牛頭哲宏氏(神戸常盤大学),髙松邦彦氏(東京工業大学),酒井智行氏(株式会社KEI)には,大学におけるmanaba(学習支援システム)の活用事例とその教育効果などについて紹介いただきました。本特集が,サブスクリプションサービスや図書館,教育機関に関心を持つ読者にとって有益な情報となることを願っています。(会誌担当編集委員:海老澤直美(主査),青野正太,今満亨崇,長谷川幸代)
著者
岡本 耕太
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.281-286, 2023-07-01 (Released:2023-07-01)

現在,人工知能技術の研究開発において,第4世代AIの取り組みが世界中で始まっている。日本国は,他国との差別化されたシステムの構築・開発,いわゆる「信頼されるAI」が日本の勝ち筋として推進を強化している。一方,世界の知的財産管理ソフトウェア市場は,2026年までに155.7億米ドル,2020年度比で2.5倍に達すると予想されている。AIが搭載された知的財産管理ソフトウェアも商用化されている。本稿では,知的財産部門業務の特性に基づき,AI搭載のソフトウェアの同部門業務への適用について検討した。知財AI活用研究会の成果と,私見ではあるが,課題と今後の展開を述べる。
著者
佐川 穣 中村 栄
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.262-267, 2023-07-01 (Released:2023-07-01)

IPランドスケープ活動が知財業界に急速に広がり,AIを活用したツールも導入されてきている。これからのIPランドスケープは,製造業においてビジネス競争力を大きく左右する要素になっている知財・無形資産を分析・活用し新たな価値の創造に貢献する必要がある。本稿では,この貢献のポイントである経営/事業戦略の高度化への貢献(社内・社外のコネクト,戦略の提案と実行),知財情報(データ)活用の民主化(内外の環境分析,具体的な提案に落とし込み)について我が社の取り組みを例に挙げながら考察する。また,これからのIPランドスケープを担う人財,ハードスキル,ハイジェネリックスキルについても解説する。
著者
奥田 慶文
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.287-293, 2023-07-01 (Released:2023-07-01)

ITビジネスの新潮流として,メタバースへの注目が高まりつつある。本稿ではメタバースに関心があり,これからこのテーマについて調査をする人が全体像を把握できる情報を提供する。まず,メタバースの定義,市場規模,応用分野などを紹介する。ビジネスの面では,様々な企業が既に事業を進めており,代表的な企業の動向を紹介する。メタバースは複合的な技術によって実現されている。その中でも主要とされる技術を取り上げ,その技術の概要を説明する。また,メタバースに関する標準化と政策動向についても言及する。更に,米国特許の動向として,特許出願における主要企業,技術分野,企業間の注力分野の違いなどを示す。
著者
早川 浩平 佐藤 裕哉 胡 絵美帆
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.294-298, 2023-07-01 (Released:2023-07-01)

日本パテントデータサービス㈱の提供する特許情報検索サービス「JP-NET/NewCSS」は,公報情報,審査経過情報といった国内外の特許情報を収録し,特許調査で必要な機能や効率化を図る機能を多く備えている。その中でも特徴的な機能を検索・表示・出力・情報共有のカテゴリ別に紹介,いかに漏れがなく,ノイズの少ない検索や,案件情報を正確に素早く把握し,目的の情報にたどり着けるかを紹介する。また,各種特許マップの作成,統計・分析機能や情報共有機能を活用することで,傾向や対策すべき状況の把握,事業を円滑に進められる環境構築といった特許情報を中心に重要な役割を担うサービスである点も紹介する。
著者
伊藤 孝佑 久慈 渉 後藤 昌夫
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.256-261, 2023-07-01 (Released:2023-07-01)

特許庁では,特許行政事務の高度化及び効率化を目的に,2016年度から人工知能(AI)技術の適用可能性の検討を着実に進めており,2017年及び2022年に公表された「人工知能(AI)技術の活用に向けたアクション・プラン」に沿って,企画,実証,導入のフェーズで各プロジェクトを進めてきた。本稿では,これまで策定してきた2つの「アクション・プラン」について,経緯を含め紹介するとともに,新しいアクション・プランに沿った最新の取組として,自然言語処理分野での新たな技術を活用した,「特許事前学習モデルに関する実証的研究事業」に関して説明する。
著者
パテントドキュメンテーション委員会
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.255, 2023-07-01 (Released:2023-07-01)

過去10年間の知財情報検索を取り巻く環境の変化を振り返ってみると,人工知能(AI)の発展と切り離せないことがよく分かります。AI搭載を謳った「KIBIT」の登場が2015年のことです。以降,発明の進歩性・新規性を判定するシステム(AI Samurai)や特許価値評価機能を搭載した検索システム(PatentSight他),充実した解析機能を搭載したツール(Amplified AI他),教師データを用いてノイズ特許と正解特許を切り分けるツール(Deskbee他),ニューラル機械翻訳の導入による特許公報の機械翻訳精度の向上(特許庁)と,AI技術によって各種の機能が提案され,あるいは実現され現在に至っております。そして昨年11月には「ChatGPT」が公開されて大きな話題となりました。「生成系AI」と呼ばれ自然な文章を作成するChatGPTの可能性は,知財情報検索をも変えてしまうかも知れないとのインパクトを持って受け止められています。このようにAI技術で変化してきた知財情報検索ですが,この大きな変化の中で自分は何をやればよいのかで迷われている方も多いことでしょう。さらにこれからの10年間で知財情報検索がどうなっていくのか,そして自分はどこに向かって進んだらよいのかも重要な関心事であると推察いたします。本企画はAIと知財情報検索との現在の関わりをまとめるとともに,次の10年の進む方向に思いを馳せるために立案いたしました。最初に特許庁の伊藤孝佑氏,久慈渉氏,後藤昌夫氏に,特許庁で進められているAI活用に向けた取り組みの最新動向についてご紹介いただきました。二本目は旭化成株式会社の佐川穣氏と中村栄氏に,旭化成における現在までのIPランドスケープの取り組みと,新たな価値を生み出すためのこれからのIPランドスケープ,さらにそれらを推進する人材の育成について事例を交えて分かりやすく紹介していただきました。三本目は,AIPE認定シニア知的財産アナリスト(特許)の佐藤貢司氏に,AIとIPランドスケープのこれからについてご提案いただきました。二本目と合わせて読んでいただくことでIPランドスケープへの理解がより一層深まることと思います。四本目はスマートワークス株式会社の酒井美里氏に,公報査読に際してのAI活用の可能性についてご意見をいただきました。日々,公報査読に悩まれている方にはヒントをいただける内容になっていると思います。五本目は東洋製罐グループホールディングス株式会社の岡本耕太氏に,AI搭載ソフトを知財業務に活用する際の留意点をユーザー視点でご提案いただきました。最後に株式会社日本電気特許技術情報センターの奥田慶文氏に,新しいビジネスとしてのメタバースについて分かりやすくご紹介いただいております。読者の皆様におかれましては,これらの論文から次の10年に向かってのヒントを受け取り,元気に前向きに歩んでいくための後押しになればと考えております。INFOSTAパテントドキュメンテーション委員会
著者
佐藤 貢司
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.268-273, 2023-07-01 (Released:2023-07-01)

近年AI技術が大きく進歩しており,知財業務で注目を集めているIPランドスケープでの活用に期待も大きい。IPランドスケープはその重要要素である情報分析(3つのプロセス,1.情報を集める,2.項目ごとに分ける,3.状況を理解する)に加え,4.提案する,というプロセスが加わる。これらの各プロセスにおいて,AI活用による正確性や効率向上への期待も大きく,本稿では,IPランドスケープに取り組んでいる立場から,それぞれのプロセスについて筆者の考え方を述べるとともに,AIに対してどのような機能向上が求められているのかを担当者の視点から述べている。
著者
安達 修介
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.199, 2023-06-01 (Released:2023-06-01)

今日,科学研究分野・学術コミュニケーションでは,特に自然科学分野において,英語を用いて研究成果の発表をすることが主流となっています。しかし,英語が「共通言語」となっていることから生じている問題もあると考えられます。Science誌によると,カリフォルニア大学バークレー校の博士課程の学生が英語を母語としない49名のコロンビア人生物学者に対して調査をした結果,英語での論文執筆はスペイン語よりも12日以上多くかかること,約半数が英語の文法を理由に論文を却下されたこと,1/3が英語の発表に不安があり学会参加を諦めたことなどが明らかになったとされており1),日本でも同様の問題が生じていると推察されます。そこで,今号では科学研究分野・学術コミュニケーションにおける言語問題の現状や,問題への対応策について特集しました。まず,天野達也氏(クイーンズ大学)に,科学研究分野において英語が共通言語になっていると同時に,そのことが障壁を生み出している現状について紹介していただきました。環境科学分野における近年の研究を中心に,3通りの言語の障壁について紹介していただいたうえで,それぞれの問題解決のための解決策についても提示していただいています。次に,田地野彰氏(名古屋外国語大学)に,言語問題を大学英語教育研究の視点から整理し,その解決・改善に向けた方策について論じていただきました。研究を重視する大学の一つである京都大学の全学的な英語教育の取り組みを中心として,大学英語教育に関連する研究を紹介していただいています。続いて,米澤彰純氏(東北大学)に,人文社会科学の分野における,研究成果の国際発信の取り組みについて紹介していただきました。教育学分野での英語論文執筆を通じた国際発信を題材として,日本から人文社会科学の国際発信を推進していくための現状・課題・展望を取り上げていただいています。さらに,柳瀬陽介氏(京都大学)に,言語問題を解決するための方策として,AIを活用して英語論文を執筆する方法について紹介していただきました。AIが不得意としている領域の作業に執筆者が最善を尽くして最終成果物の質を上げること,論文の執筆者とAIが相互補完的に作業を進めることなど,作業の際の留意点を取り上げていただいています。最後に,今羽右左デイヴィッド甫氏・清水智樹氏(ともに京都大学)に,学術コミュニケーションの例として,効果的な研究広報について論じていただきました。広報のストーリーを立て,そのストーリーに基づいて,日本語と英語を駆使し,国内外に向けて研究成果を広報する方法について紹介していただいています。研究のグローバル化やオープン化の進展により,共通言語としての英語の重要性はますます高まっています。英語が第一言語でない研究者にとってこの状況は障壁となりますが,本特集が,そうした状況を正しく認識したり,克服・解決したりしていくための一助となれば幸いです。(会誌担当編集委員:安達修介(主査),尾城友視,鈴木遼香,水野澄子)1) “Science’s English dominance hinders diversity—but the community can work toward change”. Science. https://www.science.org/content/article/science-s-english-dominance-hinders-diversity-community-can-work-toward-change (accessed 2023-05-04)