著者
林 和弘
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.12, pp.533, 2023-12-01 (Released:2023-12-01)

本年度で20回目となる,記念すべきINFOPRO2023にご参加,ご登壇いただいた皆様,誠にありがとうございました。ご協力,ご協賛いただいた皆様にも厚く御礼申し上げます。さて,今回はCOVID-19後初めて対面での開催を行いました。ただし,最初はオンラインを中心として,会場にパブリックビューイングのような形で観られるようにするという,どちらかというと保守的なスタイルで準備しました。そして,初日の運営状況や参加者の反応を踏まえて,2日目はより会場での交わりが増える形,いわゆるハイブリッド開催に踏み切った格好となりました。2日連続で参加された方はこの変化にお気づきだったかと思います。この試行錯誤の経験から多くのことを学びました。また,今回INFOPROのサイトをリニューアル(独立)して用意し,広報,事務手続きをなるべくデジタル化,あるいはwebやスマホファーストにすることを心がけました。この結果,約400名の過去最大級の参加者をいただき,過半が会員外の参加でした。さらに協賛も新規5つ,復活2つを含む12社に協賛いただきました。このように新しいマーケットの取り込みがある程度できました。さらに,今回は情報交流会(懇親会)を開催できたのも大きな成果でした。手弁当で準備した簡素なものではありましたが,むしろ,用意したものが余るくらいに皆さんが活発に交流され,我々の想像以上に会場が熱気に包まれました。これまでのアンケートでも懇親会開催の要望が高かったわけですが,やはり対面での交流の重要性を再認識した次第です。前回からご縁をいただいた,URAの活動につきましても,ご縁をつなぐ形でいくつか発表をいただくことができました。さらに,トーク&トークでは,インフォプロとURAの連携につながる本質的な議論がなされ,スピンオフ企画が開始しております。すなわち,サーチャー,URA,図書館関係者といった多様な職種の方に,話題提供として各人の業務を紹介してもらうセミナーがこの10月より始まりました。例年通り,本号の他の記事にて特別講演を始め,INFOPROの開催の様子を紹介しております。今回も実行委員,事務局他のみなさまのチームワークで,開催から記事執筆までこぎつけました。この場を借りて関係の皆様に今回も“熱く”御礼申し上げます。最後に,2022年度に引き続き本協会副会長を拝命しており,INFOPROの改善のみならずINFOSTAおよび事務局のDXを念頭に改革に清田会長と共に着手しております。そして,実行委員長を兼任しているINFOPROを改革の一つの“試行の場”として取り組んでおります。もちろん,これまでの活動の本質は引き継ぎながらどう進化させるかを折に触れて考え,そして,ベストエフォートとして実践してみることを繰り返すことになります。次回のINFOPROに向けて,引き続きみなさまのご支援ご協力を賜りますよう,どうぞよろしくお願い申し上げます。(INFOPRO2023 実行委員会委員長 林 和弘)INFOPRO2023 実行委員会 委員長:林 和弘(科学技術・学術政策研究所),副委員長:川越康司(ジー・サーチ),委員:川本敦子(東芝),北川道成(三菱ケミカルリサーチ),木村光宏(㈱アドスリー),寺脇一寿(医学中央雑誌),長谷川幸代(跡見学園女子大学),平井克之(新潟医療福祉大学),松原友紀子(筑波大学),宮田和彦(クラリベイト),光森奈美子(海洋研究開発機構),矢口 学(科学技術振興機構),担当理事:増田 豊(ユサコ),清水美都子,岡 紀子
著者
岡野 裕行
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.233-237, 2011-06-01 (Released:2017-04-20)
参考文献数
25

文学館と呼ばれる施設は,文学を対象とした専門図書館として機能している。また,文学館は博物館や文書館としての特徴も兼ね備えている。図書館と文学館との連携には,施設の規模による違いが見られる。連携を考える場合には,それぞれの施設の形態のみに注目するのではなく,収集対象としている資料の主題分野のほか,それに関係する個人や団体にも関心を払うことが求められる。
著者
大澤 剛士
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.493-499, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)

生物調査は,自然科学におけるシチズンサイエンスにおいて頻繁に行われる主流テーマの一つである。多くの場合において,研究者や行政担当者をはじめとするプロジェクトの主催者は,シチズンサイエンスによって大量の生物データが取得できることを期待するが,常に期待通りの成果が得られるわけではない。本稿は,シチズンサイエンスによる生物調査において,期待どおり大量のデータを得ることが困難であるという現実と,それを生み出している要因について議論する。さらに,これら問題を回避するための工夫と実践例を紹介する。これらを通し,生物調査のシチズンサイエンスプロジェクトを運営する際に留意すべき点を提示する。
著者
髙瀨 堅吉
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.507-513, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)

本稿は,シチズン・サイエンスの成果をどうアウトプットするのかについて,二つの点で考えを述べる。一つは,「職業研究者が行っているようなアウトプットがシチズン・サイエンスでも可能か」という点である。そして,もう一つは,職業研究者によるアウトプットとは異なる「シチズン・サイエンスならではのアウトプットが存在するのか」という点である。著者は,これまでシチズン・サイエンスを行った経験から,「市民の繋がりを活用する」必要があるテーマはシチズン・サイエンスに馴染み,その成果を自治体や企業が報告書としてアウトプットする限りでは,シチズン・サイエンスはよいかたちで推進されると考えた。
著者
中村 征樹
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.476-479, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)

市民が科学研究の一翼を担うシチズンサイエンスが,近年,科学研究の重要な潮流として台頭してきた。本稿ではシチズンサイエンスの概要を確認したうえで,多様なシチズンサイエンスの取り組みを理解するため,シチズンサイエンスを類型化しようとする取り組みを紹介する。そこでは,市民の関与のレベルや,プロジェクトに参加する市民と科学者の関係性といった観点から各種のシチズンサイエンスが位置づけられる。それを踏まえたうえで,本稿ではシチズンサイエンスの意義について検討する。
著者
臼田-佐藤 功美子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.480-485, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)

国立天文台は2019年に,市民がインターネットを通じて「すばる望遠鏡」のビッグデータにアクセスし,銀河研究に協力する「GALAXY CRUISE」プロジェクトを始動した。天文学分野において,ウェブ上で既存の観測データを分類するシチズンサイエンスは国内初といえる。本プロジェクトは,日本語で参加できるだけでなく,先行する海外でのプロジェクトにない独自の特徴を持つ。例えば,丁寧なトレーニングメニュー,クルーズ船に乗って宇宙を航海する世界観やゲーム性等を導入した。本稿ではGALAXY CRUISEの進捗状況とともに,アンケート結果から見えてきた参加者のモチベーションと属性の時間変化を紹介する。
著者
鈴木 遼香
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.475, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)

シチズン・サイエンスとは,一般市民が参加する科学研究のことを指します。欧米で見出され,インターネットの発展を一つの追い風として発達してきたシチズン・サイエンスは,日本でも様々な立場の人から――科学技術振興政策の一環として,あるいは科学者が取り得る手法として,はたまた参加者にとっては科学へ貢献しつつ知的関心を満たすレクリエーションとして――注目を集めてきているようです。このように「三方よし」に思えるシチズン・サイエンスですが,日本でも数々のプロジェクトが実施されたことで,異なる動機を持つ人間が一つのプロジェクトを進める難しさや,プロジェクトの成果が科学研究とどう結びつくのかという問題など,具体的な課題も共有されつつあるようです。そこで今号では,「シチズン・サイエンスの現在地」と題し,日本でシチズン・サイエンスに携わる方々に,現在までに行われた議論から重要なテーマ,具体的な実践経験に至るまで,様々な角度から論じていただきました。総論では,中村征樹氏(大阪大学)に,シチズン・サイエンスとは何か,そしてどのような類型があり,どのような意義があるのかを,欧米でなされてきた研究の蓄積を踏まえながらご解説いただきました。次に,一つ目の事例紹介として,現在も継続中のプロジェクトであり,ウェブサイトが大変魅力的な「GALAXY CRUISE」(https://galaxycruise.mtk.nao.ac.jp/)とその参加者の属性変化について,臼田-佐藤 功美子氏(国立天文台)にご紹介いただきました。続いて,科学者と参加者の関係という論点について,一方井祐子氏(金沢大学)に論じていただきました。先行研究や,石川県金沢市を中心に実施中の「雷雲プロジェクト」(https://fabcafe.com/jp/labs/kyoto/thunderstorm/)の事例からは,異なる動機を持つ科学者と参加者,それを結ぶシチズン・サイエンスの作用について,より考えを深めることができます。大澤剛士氏(東京都立大学)には,生物調査分野での実践を例に,シチズン・サイエンスが期待通りの成果を得られないことがあるのはなぜか,という普遍的な問題を論じていただきました。東北地域で現在も実施中のモニタリングプロジェクト「東北の自然とくらしウォッチャーズ」(https://tohoku.env.go.jp/to_2021/post_222.html)からは,シチズン・サイエンスの特性を十分に踏まえた,丹念なプロジェクト設計を学ぶことができます。ここまでは全て自然科学分野の事例でしたが,人文科学分野の事例である古文書データベースの内容理解支援機能の構築について,吉賀夏子氏(大阪大学)にご紹介いただきました。シチズン・サイエンスや機械学習を課題に応じて組み合わせた点,地域特有の人名や地名といった市民の知的資源を可視化されるデータにしたこと,オープンデータ化,システムやアプリによる充実した支援体制と新たなプロジェクトの試みなど,随所が注目される実践例です。最後に,シチズン・サイエンスの成果をどうアウトプットするかについて,髙瀨堅吉氏(中央大学)に論じていただきました。職業研究者に対する研究評価をめぐる議論や心理学分野におけるプロジェクトの経験を踏まえ,シチズン・サイエンスの成果について考えることを通じて,シチズン・サイエンスとは何かを問い直す内容となっています。本特集では,これまでのシチズン・サイエンスをめぐる基本的な議論や先行研究を解説していただく一方で,個別のプロジェクトを紹介したり,特定の論点について論じたりしていただきました。異なる分野で活躍する各執筆者の現在の到達点を共有していただくことで,シチズン・サイエンスとは何なのか,どうして難しいのか,それでもどうして魅力的なのか,その可能性について豊かな示唆を与えてくれる特集になりました。末筆ではございますが,充実した内容の論考をお寄せくださった全ての執筆者の方々へ,深く御礼を申し上げます。(会誌編集担当委員:鈴木遼香(主査),池田貴儀,小川ゆい,尾城友視)
著者
吉賀 夏子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.500-506, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)

人文科学分野におけるシチズン・サイエンスの実践例として,地域の歴史資料を翻刻して得たテキストデータを用いて固有表現抽出を行い,そのデータおよび記載内容を様々な人が利活用するきっかけを提供する「小城藩日記プロジェクト」の概要を述べる。本プロジェクトでは,自治体運営の古文書教室を通じて集まった参加者が地域特有の人名や地名などの固有表現収集に大きな役割を果たした。その際に生じた作業モチベーションの維持やデータの質の管理などの課題の解決について述べる。また,当プロジェクトで獲得した知見を基に新たに構築中のAI自動翻刻に必要な学習データ収集プロジェクトについても紹介する。
著者
一方井 祐子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.486-492, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)

シチズンサイエンス(CS)とは,科学者などの研究者と一般市民が共に行う科学的研究を意味する。科学的な活動をさまざまな人々と共有できる創造的な活動である。一方で,CSの運営にはしばしば困難や課題が生じる。CSの主催者は,CSの利点を最大限に引き出すための方法を計画段階で考慮する必要があるが,必ずしも計画通りにスムーズに進むとは限らない。一例として,日本のCSである「雷雲プロジェクト」を取り上げ,参加者の動機,研究者と参加者の関係,運営上の課題などについて報告する。
著者
宮田 和彦 褚 冲
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.514-519, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)

DWPIは,Clarivate社が提供する特許コンテンツで,様々な観点でデータのキュレーションを行い,付加価値を有する情報を提供している。独自の特許ファミリー構造,カテゴライズされた抄録,出願人や技術分野インデックスなど,AIを含むテクノロジーを活用しながら,キュレーションシステムを維持してきた。一般に,AIからの出力は,ベースとなるモデルやコンテンツにその品質や信頼性が依存する。昨今,様々な領域で生成系AIの利活用が模索される中,知的財産分野でも信頼される高品質なAIが求められており,Clarivateでは,長い歴史の中で培ったDWPIキュレーションの仕組みをAI技術と融合させることで,それを実現させていく。
著者
前川 道博
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.430-435, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)

社会のデジタル化が進行し,地域の行政文書の保全活用には根本的で包摂的な対応が求められている。しかし,公文書館法の制定,官民データ活用推進基本法の制定(オープンデータ促進),デジタル庁の開設,博物館法改正などが相次いだものの,行政文書等のデジタル化対応は大幅に遅れを取った状況にある。デジタル化の大きな恩恵の一つは,過去の膨大な資料がデジタル化されることにより,一般に広く開放されアクセスが極めて容易になることである。紙中心の媒体により知識を消費してきたこれまでの社会から,これまで以上に過去の文書の利活用ができる知識循環型社会へのシフトが期待される。