著者
板東 孝枝 雄西 智恵美 今井 芳枝
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.18-28, 2015-12-25 (Released:2016-03-31)
参考文献数
34

要 旨 本研究の目的は,肺がん手術後の身体的不快症状の実態とそれらが生活に及ぼす影響について,退院時から術後6 カ月までの経時的推移を明らかにすることである.術後肺がん患者41 名(平均年齢67.0 歳)を対象とし,自記記入式質問紙法と診療録からデータ収集を行った.分析の結果,肺がん手術後6 カ月を経過しても約6 割の患者が2 つ以上の不快症状を抱えていた.創部に関連する不快症状は,退院時は創部表面の訴えが最も多く,術後1 カ月以降は創部内部の訴えへと変化した.創部以外の不快症状は,術後1 カ月以降では半数以上の患者に術後の息苦しさが出現しており,経時的変化はみられなかったが,術式や喫煙経験により日常生活への影響の程度に関連がみられた.また術後1 カ月が経過しても,術後術側急性肩部不快症状が約17%の患者に存在し,術後6 カ月が経過しても約半数の患者に咳嗽が出現していた.以上より,患者へ術後出現する可能性のある不快症状の回復過程やその機序に関する情報提供を行い,患者自身に不快症状に対するセルフモニタリングの実施を促し,自らの症状に対する認識を深めることで,セルフケア支援へと繋げる必要がある.今後は,患者の不快症状体験を加味した周手術期肺がん看護プログラム開発の必要性が示唆された.
著者
稲垣 千文 青木 萩子 鈴木 力
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.51-60, 2015-12-25 (Released:2016-03-31)
参考文献数
18
被引用文献数
2

要 旨 研究の目的は,前立腺全摘除術を受けた既婚男性の治療に伴う気持ちの変化を明らかにすることである.Modified Grounded Theory Approach(M―GTA)に沿い,研究対象者8 名よりデータ収集し分析した.結果,彼らは診断より【どうすればいいか分からない】と衝撃を受けるが,病気の特徴を知ることなどにより,【自分の病気はたいしたことない】安堵の気持ちに至り,【じっくり治療法を選びたい】【前立腺全摘除術を受けたい】へ変化した.治療選択では,【男ゆえに尿漏れは避けたい】と【性機能は諦めたくない】の気持ちが影響し【他の治療法を考えたい】に至った.【性機能は諦めたくない】は【性機能障害は仕方がない】へ変化し,【自分だけじゃない】気持ちとともに,【前立腺全摘除術を受けたい】へ気持ちが変化する際に影響を与えた.そして,術前の【男ゆえに尿漏れは避けたい】は,術後には【尿漏れをなんとかしたい】から,【尿漏れは苦にならない】へ変化し,妻に援助を求める気持ちも含まれていた.対照的に,妻と話し合うことを避けたいとする【性機能障害はあえて触れない】気持ちは持続した.また,術前に【性機能は諦めたくない】【性機能障害は仕方がない】【性機能障害はこだわらない】の気持ちをもち,術前の【性機能は諦めたくない】と【性機能障害は仕方がない】は術後【失った性機能は惜しい】へ変化した.明らかになった気持ちの変化より,彼らへの病気の特徴の理解を促進する援助と尿漏れを理解し対策がたてられる援助が,看護への示唆となった.
著者
佐藤 まゆみ 佐藤 禮子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.36-48, 1997 (Released:2017-03-28)
参考文献数
20

要 旨癌治療等のために手術により片眼球を喪失した患者10名に対して面接調査を行い,片眼球喪失患者の適応課題と課題克服に影響を及ぼす要因に関して,以下の分析結果を得た.1.片眼球喪失患者が,片眼球喪失に適応するためには,以下の2つの適応課題を克服する必要がある.①顔や視機能の変化により生じる喪失感を克服する.②顔や視機能の変化を補う新しい行動を獲得する.2.視機能の変化により生じる喪失感の克服には,視機能の変化を補う新しい行動を獲得し,身体を再統合する必要がある.3.顔の変化により生じる喪失感の克服には,変化した顔をありのままに受け入れ,義眼装用の顔についての他者の反応を肯定的に感じとることが必須である.4.視機能の変化を補う行動や義眼のケア行動といった新しい行動の獲得には,練習を繰り返すことが重要である.5.適応課題の克服には,以下の6つの要因が影響を及ぼす.即ち,①片眼球との決別のしかた,②障害者に対する考え,③顔の変形の程度,④職業,⑤ソーシャルサポート,⑥問題解決に利用できる知識である.
著者
山本 洋行 北村 有子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.31_yamamoto_20170222, 2017-01-01 (Released:2017-05-01)
参考文献数
12

要 旨 がん薬物療法において副作用の患者報告アウトカムを得る評価基準の開発を最終目標とし,本研究は,副作用全般の評価基準の開発に向けて,最初の取り組みとして汎用性のある副作用13 項目について医療者評価と患者評価を得た.そして,臨床における有用性と,副作用項目の追加・拡大について検討した.第1 段階は,文献検討などから原案を作成し,がん薬物療法に関わるスペシャリストら(1 回目86 人,2 回目224 人)の意見を基に修正・洗練を行い,副作用評価基準(案)を作成した.第2 段階は,がん薬物療法を受ける患者に,この副作用評価基準(案)を用いて副作用を自己評価してもらい,患者評価を基に修正・洗練した.第3 段階は,再度,がん薬物療法に関わるスペシャリストら40 人に表現やGrade 分類の適切性の確認を依頼し,コンセンサスを得てGrade 0~3 の4 段階評価を得る13 項目の副作用評価基準の完成とした.患者評価は,20 人(年齢中央値65 歳)を対象にインタビュー調査から得た.自己評価した感想から,【副作用の振り返り・予測】【体調管理】【医療者とのコミュニケーション】【記録の負担】の4 カテゴリーを抽出した.副作用評価基準の開発は,患者の体調管理や医療者とのコミュニケーションの促進,医療者の副作用の効率的な把握や細やかな支持療法の介入に有用である.副作用項目の拡大に向けて,患者評価を積極的に受ける項目と難しい項目の種別,それに合った評価の工夫を見出せた.
著者
飯岡 由紀子 梅田 恵
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.16-26, 2013 (Released:2016-12-13)
参考文献数
15

要 旨目的:本研究の目的は,ホルモン治療中の乳がん女性の苦痛と対処を明らかにし,その看護を考察することである.方法:外来通院にてホルモン治療中の50歳未満の乳がん女性7名を対象に,グラウンデッドセオリーアプローチを参考に質的帰納的研究を行った.半構成的面接の逐語録をデータとし,質的研究者のスーパーバイズのもと分析した.結果:苦痛は7つの大カテゴリー[生活に支障をきたすつらい症状][コントロールできない気分の不安定さ][自分に対する自信の低下][今までとの違いによる混乱][治療継続に対する葛藤][周囲からの孤立感][自分で対応することへの不安]を抽出した.乳がん女性は治療の副作用や混乱,孤立感などを感じており,コアカテゴリーは『つらい症状とコントロール感低下に伴う混乱』とした.対処は6つの大カテゴリー[体と向き合い生活を再構築する][軌道修正しつつ状況に対応する][周囲のサポートを実感する][信じて気持ちを保つ][あがかないようにしてエネルギーを保つ][見通しをもって事前に備える]を抽出した.心の支えを得ながら苦痛に臨機応変に対応しており,コアカテゴリーは『心の支えをもち軌道修正しつつ状況に対応する』とした.結論:ホルモン治療中の乳がん女性は,治療の副作用とともにサバイバーとして自分の生活や社会環境に適応する過程で生じる混乱や孤立感などに苦痛を抱いていた.それらの苦痛に対して,心の支えを得ながら臨機応変に対応していた.
著者
濱田 由香 佐藤 禮子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.15-25, 2002 (Released:2017-02-27)
参考文献数
26
被引用文献数
2

要 旨本研究の目的は,終末期がん患者が抱く希望,および希望が変化する状況を明らかにし,終末期がん患者が生きる力となるような希望を抱くための看護介入のあり方を検討することである.7名の終末期がん患者を対象に,希望に関する内容について,参加観察法,面接法によって調査し,質的分析を行い,以下を明らかにした.終末期がん患者は,ほぼ全経過において複数の希望を表出しており,表出された希望は時間の推移と共に希望の内容や,成り行きに関わる認知や感情,行動が変化していた.終末期がん患者の抱く希望は最終的に,「思いのままに生きる」「家族とのつながりの中で生きる」「他者とつながっている」などの12の希望にまとめられた.さらに,得られた希望に含まれる意味内容から,1)自由で自立した自己,2)家族愛,3)社会的自己,4)生きざま,5)安寧,6)回復意欲,7)元の自分,8)自己の存在,9)他力志向,10)信仰心,11)生かされる自己,の11の希望の本質が抽出された.希望の本質は,終末期がん患者にとって生きる力となる希望の源であると考える.終末期がん患者が最期まで生きる力となるような希望を抱くための看護目標とは,患者が希望の本質を保持し希望を芽生えさせることができるような環境を整えること,希望のプロセスに関わり患者の希望を支え育むような働きかけをすることである.