著者
小野寺 敦子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.180-190, 2003-08-15
被引用文献数
7

妊娠7-8ヵ月から親になって3年間の間にどのように自己概念が変化するかに焦点をあてて検討した。自己概念は,「活動性」「怒り・イライラ」「情緒不安定」「養護性」「神経質」「未成熟」の6尺度,さらには可能自己,自尊感情の視点から縦断研究を行って検討した。その結果,女性は母親になると「怒り・イライラ」が徐々に強くなってきたと自己をとらえていたが,他の5尺度では有意な変化はみられなかった。これは男女ともに気質的な側面を示す自己概念は親になっても比較的安定していることを示している。また親になる前後にみられた自己概念全体のズレの要因を検討した。女性の場合は妊娠期における身体的・精神的戸惑いが,男性の場合は,育児の否定的側面のイメージが希薄であることと,学歴が低いことが自己概念全体のズレと関連していた。また女性は母親になると自尊感情が低くなる傾向がみられた。次に,親としての役割意識の変化を"3つの自分"という観点から検討した。その結果,男女で大きな相違が見られた。女性は母親になると「社会にかかわる自分」が小さくなり「母親としての自分」が大きくなっていた。しかし男性は父親になってからも「父親としての自分」の大きさは変化せず「社会にかかわる自分」の割合が大きくなっていた。
著者
藤田 文
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.227-235, 2007-12-20

本研究の目的は,魚釣りゲーム場面における幼児の交互交代行動の発達を検討することであった。4歳児(年中児)から5歳児(年長児)の同年齢のペア52組に魚釣りゲームで遊んでもらった。年中児の平均年齢は5歳0ヶ月で,年長児の平均年齢は5歳11ヶ月だった。この状況では1本の釣り竿しかゲームに使用することはできなかった。10分間のゲームの過程がビデオ録画された。ビデオ分析の結果,年中児よりも年長児の方が明確な規準で交代しており,特に年長女児でその割合が高いことが示された。また,年長女児では,釣り竿をもって実行している子どもが主導する交代が多いことも示された。これらの知見から,年長児は年中児よりもゲームの中で他者の行為を考慮していること,特に女児で男児よりもその傾向が早く発達することが示唆された。
著者
礪波 朋子 三好 史 麻生 武
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.158-167, 2002-08

本研究の目的は,幼児同士の共同意思決定場面で子ども達が実際に行った相互作用を詳細に分析し,そこで生じる対話の構造を検討することであった。幼稚園年中児28名(平均年齢5歳3カ月),年長児58名(平均年齢6歳0カ月)が同性2人組でロケット模型の中に入り,退出するという共同意思決定をするか,15分経過し実験者が迎えに来る時まで乗り続けた。ロケットから降りるか乗り続けるかを巡る子ども達の発話及び行動を分析した。その結果,両者の意見が一致しても必ずしも最終的な共同意思になるとは限らないことが明らかになった。実際の退出を巡るやりとりの中で,約60%の子ども達が1回以上意見変容していた。どちらも3回以上意見変容するペアも全体で16%存在した。また,自己の直前の意見を変えたり他者を裏切るような変容が全意見変容の24%を占めていた。以上の結果より,幼児の意思は変わり易く,他者とのやりとりの「場」の中で揺らぎながら生成されていくことが明らかになった。本研究では,幼児期の顕著な意思の揺らぎを,精神内機能がまだ十分に発達していないときに意思決定を精神間交渉に委ねていることを示すものとして捉えた。最後に,この時期に自己と他者の異なる意見を折裏したダブルボイス発話が少し見られたことは内的対話が可能になり精神内機能が発達してきた萌芽と考えられることを指摘した。
著者
長屋 佐和子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.156-164, 2005-08-10
被引用文献数
2

0〜24ヶ月児の母親(120名)を対象として, 自身の子どもの性別・数・年齢が乳幼児表情写真(IFEEL Pictures)に対する情緒読み取り傾向に与える影響について検討した。その結果, (1)情緒読み取りには子どもの性差の影響が認められ, 息子をもつ母親に比べて娘をもつ母親のほうが受動的な情緒(「恥」・「注意」)の読み取りが多い, (2)子どもが1人の場合は息子をもつ母親のほうが「不満」に注意を払う傾向があり, 子どもが複数の場合は娘をもつ母親のほうが受動的情緒(「恥」・「注意」)の読み取りが多い, (3)子どもの数にかかわらず, 息子をもつ母親は子どもの年齢が高くなるほど「自己主張」および肯定的情緒を多く読み取る傾向があるが, 娘の場合にはそのような関係が見られない, (4)子どもが複数の場合, 息子との関係では, 子どもの年齢が高くなると「対象希求」が増加, 「我慢」が減少する傾向がある, などの所見が得られた。従来の観察研究によれば, 母親は息子との間に肯定的な関係性を維持する傾向があるのに対し, 娘との間では多様な情緒による相互作用が行われる, とされてきた。本研究の所見から, 母子の行動上の特徴だけでなく, 母親側の認知側面においても同様の傾向が確認された。このように母親の認知面に注目することによって, 今後さらに母子相互作用の様相が明らかになると同時に, その所見の臨床場面への応用が可能になると思われる。
著者
日潟 淳子 齋藤 誠一
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.109-119, 2007-08-10

青年期は時間的展望の獲得期とされ,自己の人生に対して時間的な視野が広がるが,それと同時に現実と非現実が分化し,未来に対しては期待とともに不安も抱くことが示唆されている。本研究では高校生と大学生を対象に,過去,現在,未来に対する時間的展望の様相と精神的健康との関係をとらえ,青年が心理的に安定した状態で時間的展望の獲得を促す要因を検討することを目的とした。その結果,高校生,大学生ともに過去,現在,未来に対してポジティブな時間的展望を持つ者は精神的健康度が高かった。しかし,未来に対する時間的態度においては違いが見られ高校生では未来のみにポジティブな態度を示している者は精神的健康度が低かったのに対して,大学生では低くはなかった。高校生と大学生では未来を志向することに対する心理的影響が異なることが示唆された。また,過去,現在,未来に対してポジティブな時間的展望をもっている者は,過去,現在,未来の出来事をバランスよく想起しており,過去の出来事へのとらえ直しや,未来の出来事に対して現実的な認知を行っている様子が見られ青年期が心理的に安定した状態で時間的展望を抱く要因として自己の過去,現在,未来におけるライフイベントに対する関与の強さと的確な認知をしていることが示唆された。