著者
野田 航 辻井 正次 伊藤 大幸 浜田 恵 上宮 愛 片桐 正敏 髙柳 伸哉 中島 俊思 村山 恭朗 明翫 光宜
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.158-166, 2016

<p>本研究では,単一市内の全公立小・中学校の児童・生徒(小学3年生から中学3年生)を対象とした縦断データの分析を行うことで,攻撃性の安定性に関して検討した。3つの学年コホート(合計約2,500名)の小・中学生の5年間の縦断データを対象に,潜在特性–状態モデル(Cole & Maxwell, 2009)を用いた多母集団同時分析を行った。攻撃性の測定には,小学生用攻撃性質問紙(坂井ほか,2000)を用いた。分析の結果,攻撃性は特性–状態モデルの適合が最も良好であり,特性変数と自己回帰的な状況変数の双方が攻撃性の程度を規定していることが明らかとなった。また,性差が見られるものの,攻撃性は中程度の安定性をもつことも明らかとなった。さらに,特性変数による説明率は,学年段階が上がるにつれて上昇することが明らかとなり,小学校中学年頃までは攻撃性の個人差はまだそれほど安定的ではないが,思春期に移行する小学校高学年頃から中学校にかけて個人差が固定化していくことが示された。</p>
著者
陳 晶晶 茂呂 雄二
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.115-124, 2016

<p>本研究では,未来への個人の感情・態度が現在の行動に与える影響を,ポジティブ・ネガティブの両側面から検討することを目的としている。研究1では児童・生徒の未来展望尺度の開発を行い,尺度の信頼性と妥当性の検討を行った。因子分析の結果より,児童・生徒の未来展望は「自信」,「心配」,「未来社会への信頼」の3つの下位尺度から構成できることが示された。研究2では,未来へのポジティブとネガティブな感情・態度と学校適応感との関連を検討するために,小学4年から中学3年にかけての児童・生徒の未来展望と学校適応感を調べ,重回帰分析を用いて学校段階ごとに検討した。その結果,自信と心配がともに学業場面における適応感に影響し,未来社会への信頼と心配がともに友人関係における適応感に影響することが明らかになった。研究3では,「中1ギャップ」問題の解明に新たな知見を提示することを目指し,小中学校間の移行前後における未来展望の変化を縦断的に調べた。その結果,中学入学後の子ども達の心配が有意に上昇し,未来社会への信頼が有意に下がることが明らかになった。移行に伴う心配の有意な上昇は,中学進学後に生起する多くの不適応問題の解明に,1つの有用な情報を提示していると考えられる。</p>
著者
遠藤 晶
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.25-34, 1998-04-10
被引用文献数
1

手あそびは手や身体を動かす歌のあそびで, 歌詞を表現する動きや, リズムを表す動きを歌を歌いながら行うものである。保育の中で手あそびは, 頻繁に活用されてきた。保育者と一緒に手あそびをするという日常行為の中に, 認知とパフオーマンスの発達を促す童要なシステムが機能していると推測される。パフオーマンスというのは遂行行動のことであり, すでに学習されている行動を実行に移し動作として表すことで, 外にあらわれた単なる行動や行為を示すものではなく知的な側面を含む活動である。知っている手あそびの刺激が与えられたときに, 幼児が提示された手あそびに対して, 知覚的認知をコントロールし幼児自身で手あそびを生み出したパフオーマンスを「手あそびのパフォーマンス」と定義し, 幼児の年齢ごとにどのように変化するのかを調べた。既に知っている手あそびとして『げんこつやまのたぬきさん』の刺激が与えられた。幼児のパフオーマンスについて検討した結果, 「動きの再生度」では, 2歳児と5歳児で差が見られ, 「動きの順序性」は, 1歳児から3歳児の間に高まるが3歳児から5歳児にかけて差はなくなり, 「リズムの再生度」は2歳児から3歳児の問にリズムに合うことが示された。手あそびは, リズムに合わせて身体を動かしたり歌うことを獲得する幼児期に, 動きや歌の模倣を促し, さらに幼児が自発的にあそびの発展を楽しむことを促すものであることが示唆された。
著者
内田 伸子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.30-40, 1990-07-25

The purpose of this study was to examine what role "deficit-complement" schema played in a thematic integration of narrative sequences and how the schema developed. Eighty-four4-year-old (4:10-5:5) and 5-year-old 5:10-6:5) children were divided into three homogeneous groups (14 subjects each), and assigned to one of three conditions : the deficit condition where the children were informed that the character was in the deficit state, the non-deficit condition where they were informed that the character was in the complement state, and the control condition where no information about the character was given. The children were shown a drawing story, asked to describe each picture and, after interpreting all the pictures, to recall the story without the pictures, to answer 10 questions about the character's feeling. The results showed that the children in the deficit condition could grasped the pictures as a story, and construct the thematic and coherent interpretation of them, while the children in the other two conditions often failed to integrate the pictures into a story. Especially, in the non-deficit condition, the degree of erabolation of description were lower than in the other two conditions. In the recall and comprehension tasks, these trends were confirmed. From these results, it was suggested that the information about the the deficitsituation of the character enhanced the integration of narrative sequences as a cognitive framework through the activation of 'deficit-complement' schema.
著者
堀口 康太 大川 一郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.94-106, 2016

地域包括ケアの時代においては,身体機能の違いにかかわらず自律性を発揮することがwell-beingにとって重要になり,身体機能の異なる高齢者の自律性を統合的に検討する視点が必要になってくると考えられる。本論文では,身体機能の異なる高齢者の自律性を統合的に捉える視点を提案することを目的として,老年期を対象とした自律性研究における現状と課題が整理された。要支援・要介護高齢者を対象とした研究においては,高齢者ケアに即した関係性的側面,価値観や生活史との合致を考慮した自律性を実証的に検討することが課題であり,目標志向行動の中で自律性を評価する必要性があると整理された。自立高齢者を対象とした研究においては,他者・社会志向的側面など高齢者の置かれた社会的背景や発達課題を考慮した研究を蓄積していくことが主な課題として抽出された。これらの研究における課題を克服する統合的視点として,活動への自律的動機づけに着目する視点が提案され,その利点,意義および問題点が整理された。
著者
永野 結香 栗山 容子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.83-93, 2016

本研究では歯科治療下における就学前児の不快情動行動,言語的情動調整方略,治療への適合行動の3つの側面から,その発達的特徴を検討することを目的とした。対象児は年少児(3:1~3:9)7名と年長児(5:0~6:5)8名で,う蝕治療の初診時に行動評定とチェックリスト,ICレコーダーの録音記録による参加観察を行った。不快情動行動は治療開始期と終了期の評定値の差から不快情動継続群と沈静群を判定した。また言語的情動調整方略を子どもの発話カテゴリの基礎分析から定義して,情動中心(EC)方略と問題中心(PC)方略を判定した。その結果,年少児群では不快情動が継続したが,年長児群は非表出か沈静化していた。また年少児群はすべてEC方略であり,年長児群ではPC方略であったことから,不快情動の沈静化にPC方略の効果が窺われた。また情動調整行動としての治療への適合行動を,治療者の指示に従う受動的行動と自ら行う主体的行動から検討した結果,受動的,主体的いずれの適合行動数も年長児群のほうが多いが,年長児群であっても主体的行動数が受動的行動数を上回ることはなかった。このことから非日常的な治療場面の自己調整行動は日常的な場面よりも困難である傾向が窺われた。これらの結果は発達的特徴を考慮した患者対応の理論的,実証的根拠になると考えられる。
著者
赤澤 淳子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.288-299, 2015

本論文は,男女交際のダークサイドであるデートDVに焦点をあて,親密な二者関係の様々な側面と暴力との関係をいくつかの理論から考察し,さらにデートDVにまつわる神話を検証した上で,今後の研究課題を提示するものである。親密性に関するいくつかの理論は,暴力は二者の関係への過剰な集中と発達期における親との関係を端緒とし,それらの特性は葛藤方略として暴力を使用する可能性を高めることを示している。「男性が加害者で女性が被害者」,「愛と暴力は対極にあるもの」,「身体的暴力がもっとも悲惨」というデートDVの神話はいずれも誤謬であり,暴力は双方向的であり,愛は暴力を引き起こす要因になることがあり,精神的な暴力は身体的暴力より長期化し,被害を大きくする傾向があることが,これまでの研究から確認された。これらの議論から,葛藤方略の予防教育によるデートDV抑止効果の研究や,生涯発達的な視点と社会文化的な視点からのデートDV研究が必要であるといえる。
著者
西田 麻野
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.300-311, 2015

本研究では,自閉的な傾向の高い一般大学生のアレキシサイミア傾向を中心とした感情面の特徴を関係的視点から記述を行い,こうした大学生の他者との関わりにおける様々な課題や困難に対応するための手掛かりを得ることを目的とした。その際,一般の大学生20名を対象に質問紙調査と主観的感情体験についてのインタビューを行い,その発話内容分析を行った。アレキシサイミア傾向を測定するTAS-20,自閉的傾向を測定するAQと,発話内容分析によって得られた"感情言語化数"との間の相関分析の結果,これらの尺度得点と"感情言語化数"との間で負の相関が示され,一般大学生の自閉的傾向の高さとアレキシサイミアに関係する感情言語化の少なさには関連があることが示された。さらに"感情面"と"関係性"に関する発話内容の特徴を捉えるために,発話内容分析のデータに基づき多次元尺度構成法(MDS)を行った。その結果,発話上でアレキシサイミアを中心とした感情的な困難が示された二つの群には,それぞれ異なる状態像があることが示された。一つ目の群には,自他関係に積極的に関わってはいるものの,感情の表現に困難がある特徴が示され,二つ目の群では自他の内面や関係性に関わろうとせず,関係的に孤立した特徴が示された。これら発話上の特徴から,自閉的傾向のある大学生のアレキシサイミア傾向には異なるタイプがあり,それらに応じた対応の必要性が示された。
著者
伊藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.279-287, 2015

本稿では,夫婦の親密性をコミットメントと愛情という側面からとらえた。さらに,夫婦関係における親密性の揺らぎを,子育て,離婚,個人化・個別化,定年退職の4つの事象から論じ,そこにおける妻と夫の意識のずれを明らかにした。日本の夫婦では,家族や家庭を維持していくために夫婦の親密性を諦める場合があり,また,結婚が親密性からのみ成り立つわけではなく,機能性,さらに社会的関係から維持されており,恋愛関係と異なる親密性のあり方が論じられた。発達研究としての今後の課題から,以下の三点が指摘された。第一に,夫婦としてある期間は長期にわたるため,結婚満足度以外では同一指標による比較は困難である。そのため,どのライフステージかを明確にさせながら,時期を重ねて変化をみるという方法が可能である。第二に,ライフイベント前後での短期縦断研究がさらに望まれる。第三に,夫婦関係には,その社会の制度・価値観,性別分業のあり方など文化の違いが色濃く反映するので,それらを十分考慮して研究する必要があることが指摘された。
著者
浅野 良輔
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.267-278, 2015

個人の成長や発達,心理的適応に対して大きな役割を果たす親密な関係は,重要な研究テーマである。本論文では,親密な関係が人々の行動傾向や心理プロセスに与える影響をより包括的に理解することを目指し,発達心理学でみられる個人の発達に関する時系列的視点と,社会心理学における個人と二者関係(ダイアド)の階層的視点を統合した新たなアプローチを提案する。まず,成人の愛着理論に基づいた研究を通じて,親密な関係にまつわる発達心理学的研究と社会心理学的研究の相違を指摘する。つぎに,年齢差や発達軌跡に注目して愛着スタイルの発達過程を明らかにする時系列的視点,ならびに相互作用構造や共有された関係効力性など,個人レベルの影響プロセスとダイアドレベルの影響プロセスに注目する階層的視点の観点から,これまでの親密な関係研究を改めて概観した上で,発達心理学と社会心理学による統合的アプローチの可能性を探る。そして,時系列的視点と階層的視点の両面から親密な関係について検討するアプローチを実証研究の俎上に載せるため,データ収集の段階で直面しうる問題,交差遅延モデルや潜在成長曲線モデルといった縦断データに対する分析法,ペアワイズ相関分析や共通運命モデル,マルチレベル構造方程式モデリングといったダイアドデータに対する分析法について議論する。結語として,発達心理学と社会心理学が結びついた親密な関係研究の方向性を展望する。