著者
金政 祐司
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.298-309, 2012

本研究は,成人の愛着関係として捉えられる青年期の恋愛関係ならびに中年期の夫婦関係において,相互の支援が関係満足度と精神的健康に及ぼす影響の過程に関して,多母集団同時分析を行いその共通性と差異について検討することを目的として行われた。調査対象者は,104組の青年期のカップルならびに156組の中年期の夫婦であった。分散分析の結果,支援に関する変数(「本人の支援期待」,「相手の支援遂行度」,「本人による相手支援の認知」)ならびに関係満足度については,中年期の夫婦関係よりも青年期の恋愛関係においてそれらの得点は高く,また,本人の支援期待については男性よりも女性の方が高いことが示された。精神的健康は青年期の恋愛関係よりも中年期の夫婦関係において良いことが示された。加えて,相互の支援が関係満足度と精神的健康に及ぼす影響の過程についての分析の結果,中年期の夫婦関係においては,「本人の支援期待」が「相手の支援遂行度」を促進し,「本人による相手支援の認知」に影響を及ぼしていたが,青年期の恋愛関係においてはそのような傾向は認められなかった。また,「本人による相手支援の認知」が関係満足度に対してポジティブな影響を及ぼし,さらに,関係満足度が精神的健康に影響するというプロセスについては双方の関係において認められた。それらの結果について青年期の恋愛関係と中年期の夫婦関係の共通性と差異の観点から議論を行った。
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.276-286, 2012

本研究では,中高年者の開放性がその後 6 年間の知能の経時変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。分析対象者は,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第2次調査及び6年後の第5次調査に参加した,地域在住の中年者及び高齢者1591名であり,開放性はNEO Five Factor Inventory,知能はウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(知識,類似,絵画完成,符号)を用いて評価した。反復測定分散分析の結果,開放性が知能の経時変化に及ぼす影響は,知能の側面や年代によって異なることが示された。まず,「知識」得点の経時変化には,高齢者においてのみ開放性の高低が影響しており,開放性が高い高齢者はその後6年間「知識」得点を維持していたが,開放性が低い高齢者ではその得点が低下することが示された。一方,「類似」,「絵画完成」,「符号」では,開放性が高い中高年者は低い中高年者よりも得点が高いことが示されたが,開放性の高低による経時変化への影響は認められなかった。以上より,中高年者の開放性は知能やその経時変化の個人差の要因となること,特に高齢者にとって,開放性の高さは一般的な事実に関する知識量を高く維持するために役立つ可能性が示唆された。
著者
砂上 史子 秋田 喜代美 増田 時枝 箕輪 潤子 中坪 史典 安見 克夫
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.252-263, 2012

本研究の目的は,戸外と室内という状況の違いによる幼稚園の片付けの実践知を明らかにすることである。戸外と室内の片付け場面の映像に対する3園の保育者の語りを,質的コーディング(佐藤郁哉,2008)の手法を用いて分析,考察した。その結果,次のことが明らになった。(1)戸外と室内に共通して,保育者は主に子どもの遊びを尊重する,片付けを実行する,言葉かけを工夫する,次の活動の見通しを与える,などの方略を組み合わせて片付けを進める。(2)戸外では,活動範囲が広く空間の移動を伴うため,保育者は子どもとの距離に配慮する。(3)戸外では,満足感や必要感から子ども自身が遊びを終えるように,保育者は遊びを尊重したかかわりを行う。(4)戸外では,子どもとの距離の配慮の仕方や,遊びの尊重と片付けの実行とのバランスは,園の構造的特徴に影響される。(5)室内では,空間の移動がないことなどから,保育者は遊びと片付けが重複する状態で片付けを進める。(6)室内では,保育者は子どもとかかわりながら一緒に片付けを進め,言葉かけに留意し工夫する。
著者
中島 俊思 岡田 涼 松岡 弥玲 谷 伊織 大西 将史 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.264-275, 2012

本研究では,発達障害児の保護者における養育スタイルの特徴を明らかにすることを目的とし,定型発達児の保護者との比較および子どもの問題行動,保護者の精神的健康との関連について検討した。対象者は発達障害児の保護者139名であり,質問紙調査によって,養育スタイル,子どもの問題行動(SDQ),子どものADHD傾向(ADHD-RS),保護者の抑うつ(BDI-II),睡眠障害(PSQI-J)を測定した。その結果,養育スタイルについては,発達障害児の保護者と定型発達児の保護者とで差がみられ,発達障害児の保護者においては,肯定的関わりや相談・つきそいの得点が低く,叱責,育てにくさ,対応の難しさが高い傾向がみられた。また,子どもの問題行動やADHD傾向が高いほど,肯定的関わりや相談・つきそいが低く,叱責,育てにくさ,対応の難しさが高い傾向がみられた。精神的健康については,肯定的関わりや相談・つきそいは抑うつ,睡眠障害と負の関連を示し,叱責,育てにくさ,対応の難しさは正の関連を示した。以上の結果から,発達障害児の保護者における養育スタイルの特徴が明らかにされた。最後に,養育スタイルに対する発達臨床的な介入の必要性について論じた。
著者
江村 早紀 大久保 智生
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.241-251, 2012

本研究の目的は,個人-環境の適合性の視点から適応状態を測定する小学生用の学級適応感尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討すること(研究1)と作成された学級適応感尺度と学校生活の要因(教師との関係,友人との関係,学業)との関連を学級の特徴別に検討すること(研究2)であった。研究1では,因子分析の結果,「居心地の良さの感覚」「被信頼・受容感」「充実感」の3因子が抽出された。作成された学級適応感尺度は,信頼性と妥当性を有していると考えられた。研究2では,担任教師が認知している学級雰囲気をもとに学級を分類して,学級への適応感と学校生活の要因との関連について重回帰分析を用いて検討した。その結果,学級への適応感と「友人との関係」が最も強く関連する学級もあれば「教師との関係」が最も強く関連する学級もあったように,学級への適応感と学校生活の要因との関連の仕方は学級により異なっていた。また,どの学級においても「教師との関係」が児童の適応感と正の関連を示すという点で,青年の適応感と異なっていた。以上の結果から,学校における児童の適応感を検討する際には,学級集団の重要性や学級担任制という小学校固有の制度などの特色を考慮して,学級の特徴を踏まえたうえで,研究を行っていく必要性が示唆された。
著者
水口 啓吾 湯澤 正通
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.75-84, 2012-03-20

本研究では,日本語母語大学生・大学院生60名を対象として,音韻構造の異なる5つの英単語(CV,CVC,CVCV,CVCC,CVCVC)を用いた記憶スパン課題を行い,英単語音声知覚時の分節化について検討した。その結果,以下のことが明らかになった。第1に参加者全体の記憶スパンを音韻構造で比較したところ,CVCとCVCV,CVCCとCVCVCの記憶スパンはそれぞれ同じだが,CVC,CVCVの記憶スパンは,CVCC,CVCVCの記憶スパンよりも長かった。第2に,モーラ分節者の反復音声持続時間は,もとの音声刺激の持続時間や,混合分節者のそれよりも長くなる傾向が見られた。第3にTOEIC得点の高い英語能力高群の記憶スパンでは,低群のそれよりも,音節による分節化と一致するパターンが多く見られた。以上の結果から,長期間,英語学習を積んできた大学生・大学院生であっても,英単語音声の知覚や音韻的短期記憶内での処理において,日本語母語のリズムの影響を強く受けること,そして,英語能力の向上は,音節による分節化と密接な関連があることが示唆された。
著者
戸田 まり 渡辺 恭子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.214-223, 2012

思春期前後の定型的な社会的情報処理の発達を調べるため,複数の想定場面を作成し,小学校5年から高校2年までの男女計716名に対し調査を行った。あいまいな状況で被害を受けた場合,アプリオリに相手の敵意を想定したり攻撃的な対応をする者は,年齢と共に減少することが明らかになった。しかし口に出さない内面での感情的反応は中学1年で最も否定的であり,この時期が,認知的には「相手の悪意ではない」と理解しながらも感情的には怒りを覚える度合いが高いのではないかと示唆された。相手の行動の解釈,生起感情,予想される対応をクラスター分析により4パターンに分けて発達的変化を調べた結果からもこのことは確認された。また中学生以上では,相手の敵意を想定しやすく感情的にも否定的になりやすく対応も攻撃的になりやすい群は,学校満足度や自分の学業成績に対する満足度は他の群と変わらないが,家庭での受容や親への気持ちについては他の群より否定的であり,家庭での人間関係があいまい状況でのネガティブな社会的情報処理と関連している可能性が示唆された。
著者
中島 伸子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.202-213, 2012-06-20

本研究の目的は,老年期における身体・心的属性の機能低下について,幼児や小学生がどのように理解しているのか,そしてそれはどのように発達するかを検討することであった。24名の5歳児,28名の6歳児,24名の7歳児,28名の8歳児,31名の大学生の5群を対象に,5種の身体属性(走る速さ,風邪に対する耐性,腕力,心臓の働き,骨の強度)と心的属性として記憶力の計6属性について,5歳(幼児)から21歳(若年成人)および21歳から80歳(高齢者)へと加齢後どのように変化するかを「以前より衰退する」「以前より向上する」の2選択肢のもとで予測させた。その結果,(1)老年期における身体属性の機能低下については,5歳から気づきはじめ,6歳では大学生と同程度の理解に達すること,(2)老年期における記憶力の低下についての理解は,幼児から7歳くらいまでは希薄なのに対して,8歳以降,大学生にいたるまでに明確になること,(3)記憶力の低下についての理解の発達的変化には,記憶力と身体ないしは脳(頭)との関連性についての認識が関与していることが見出された。老化現象の理解の発達に関わる認知的要因について,素朴生物学の発達と心身相関的な枠組みの獲得という観点から考察した。
著者
山口 真希
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.191-201, 2012

知的障害児の数概念の発達は単純に「遅れ」るのだろうか。知的障害児が生活のなかでどのようにインフォーマル算数の概念を獲得していくのかについてはあまり明らかにされていない。本研究では,知的障害のある中学生(N=15)を対象に,数概念(計数,多少等判断,保存)および均等配分課題を実施し,知的障害児の数概念発達を日常的行為との関連で明らかにすることを目的とした。その結果,知的障害児について以下のことが示された。(1)数概念の発達は,生活年齢ではなく精神年齢に関係する。ただし,課題の取り組み方は同じ精神年齢の通常発達児と異なっている部分がある。(2)精神年齢,数概念の発達がともに幼児期段階であっても簡単な演算スキルを有している生徒がいる。(3)均等配分方略の差異は,生活年齢ではなく精神年齢に関係する。また精神年齢で対応させた通常発達児と比べると均等配分課題の成績がやや低い。(4)計数概念の有無,多少等判断概念の有無によって,採用する均等配分方略に違いが見られる。以上より,知的障害児の数概念と均等配分方略は相互に関連して発達し,通常発達児と異なるプロセスを経ている可能性が示唆された。
著者
佐藤 鮎美 内山 伊知郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.170-179, 2012

本研究では,生後9ヶ月児とその母親を対象に,絵本共有時間を3ヶ月間操作的に増加させた絵本群,および特に教示を与えない統制群を設定し,絵本共有増加期間前後における両群の母子相互作用を自由遊び場面において観察した。それにより,絵本共有が子どもに対する母親の働きかけに及ぼす効果を,縦断的に検討することを試みた。その結果,絵本群では,母親の子どもに対する賞賛および子どものほほえみの頻度が統制群に比べて増加することが示され,絵本共有により母親の子どもに対する敏感な働きかけが増加する可能性が示唆された。さらに絵本群において,子どもがほほえみながら母親を見上げる頻度が統制群に比べて増加することが示され,絵本共有によって子どもの感情共有が促される可能性が見出された。これらの結果から,絵本共有時間の増加によって,母親および子どもの行動が変容することが実証的に示唆され,絵本共有が母子関係の質を向上させるメカニズムの一端が明らかにされた。
著者
吉武 尚美 松本 聡子 室橋 弘人 古荘 純一 菅原 ますみ
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.180-190, 2012

中学生や高校生が生活全般に抱く満足度評価(以下,生活満足度)に関連する要因として,パーソナリティや学力などのポジティブな個人内特性をはじめ,家族関係や友人関係などの対人関係が検討されてきたが,これらがどのように関連しあって生活満足度に結実するのかは明らかでない。そこで本研究は,ポジティブな個人内特性と対人関係が,生活満足度とそれぞれ独自に関連し,同時に対人関係は個人内特性にも関連するというモデルを構成し,両親の学歴と生徒の性別の影響を統制した上で検証した。加えて,モデルの変数間の関連性に発達的な違いが見られるか検討した。中学1年生(n=254)と高校1年生(n=368)の質問紙データを用い,共分散構造分析により仮説モデルの検証を行った結果,モデルの妥当性が確認され,さらに多母集団同時分析により仮説モデルは中学生と高校生でともに成立し,関連性の度合いもほぼ同程度であることが確認された。ただし,家族関係から個人内特性に引いたパス係数は中学生の方が高校生より有意に大きく,家族環境の良好さと個人内特性の関連性は中学生にとってより顕著であることが示唆された。
著者
栗山 容子 大井 直子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.158-169, 2012

価値をアイデンティティ発達の中核に位置づけて,日本の大学生の価値意識を面接によって明らかにし,意味付与の志向性から構造化を試みた。またその発達的変化を追跡面接によって検討した。面接の内容領域のうち,生きていく上で大切なことという価値意識に関する分析を中心に揺らぎの経験や両親の価値の認知,宗教的価値意識を補足分析として実施した。研究1では1年生42名と4年生24名のスクリプトから8つの価値パターンを抽出した。価値パターンの意味付与の方向性から,自己志向(理性,努力・達成,自己準拠の3価値パターン),社会志向(人間関係,博愛・貢献,社会規範の3価値パターン),現実志向(積極行動,安楽・充足の2価値パターン)の3つの志向モードに構造化した。普遍的な価値に対応する価値パターンの他に"人間関係"や"自己準拠"の青年期に固有の価値パターンが明らかになった。1年では社会志向の"人間関係"が他の価値パターンに比して有意に多く見られたが,4年では偏りが少なく,個々の価値意識が窺われた。また4年では価値意識の揺らぎが落着し,両親の価値観の認知に個別性がみられた。研究2では研究1の1年生で,卒業時の追跡面接が実施できた30名について価値意識の変化を検討した。その結果,変化の方向性は一様ではなかったが,自己志向と社会志向に関連して青年期に特有の変化過程が推測された。
著者
山根 隆宏
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.145-157, 2012

本研究の目的は,高機能広汎性発達障害(以下,HFPDD)児・者の母親が障害のある子どもを育てる経験を人生にいかに意味づけているのかを,新たな悲嘆理論の知見に基づき,子どもの障害の捉え方との関連から明らかにすることであった。HFPDD児・者をもつ母親19名に対して半構造化面接を行い,障害のある子どもをもつことの意味づけや子どもの障害の捉え方についての語りを得た。人生に対する子どもの障害の意味づけの特徴について,「自己の成長への価値づけ」「子どもへの感情」「障害の位置づけ」の3つの視点から分類を行ったところ,「成長・肯定型」「両価値型」「消極的肯定型」「自己親和型」「見切り型」「希薄型」の6つの類型とその特徴を明らかにした。また,子どもの障害の意味づけと障害の捉え方との関連からは,人生に子どもの障害を肯定的に位置づけるかどうかは,障害それ自体や障害を含めた子どもに対して社会的意義や価値を見出すことと,障害を認識する上での困難さや葛藤の強さが関連していると考えられた。
著者
稲田 尚子 黒田 美保 小山 智典 宇野 洋太 井口 英子 神尾 陽子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.123-133, 2012

反復的行動尺度修正版(Repetitive Behavior Scale-Revised: RBS-R)は,自閉症スペクトラム障害(ASD)児者の反復的行動の種類の多さとその問題の程度を評価する尺度であり,6下位尺度43項目から成る。本研究は,日本語版反復的行動尺度(RBS-R)の信頼性と妥当性の検討を目的として行われた。対象者は,ASD群53名(男性:女性=42:11;平均年齢=11.2±10.5歳)と,対照群40名(知的障害児者23名,定型発達児者17名)とした。養育者の報告に基づき,専門家が日本語版RBS-Rを評価した。Cronbachのα係数は0.91であり,良好な内部一貫信頼性を示した。各43項目における評定者間一致度(級内相関係数)は0.79から1.00の範囲であり,評定者間信頼性は高かった。日本語版RBS-Rの該当項目数および合計得点はいずれもASD群で対照群よりも有意に高く,十分な弁別的妥当性を示した。また,合計得点は,小児自閉症評価尺度東京版に含まれる反復的行動に関連する3項目の合計得点と有意な正の相関(r=0.65)があり,併存的妥当性が確認された。今後,さらなる検討が必要であるが,日本語版RBS-Rの信頼院と妥当性が示された。
著者
野村 信威 橋本 宰
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.75-86, 2001-07-15
被引用文献数
2

本研究における目的は,老年期における回想という行為と適応との関連について検討することである。また回想において適応と関連を示す要因は,回想行為そのものよりも回想の質であるという仮説のもとに,「回想の情緒的性質」および「過去のネガティブな出来事を再評価する傾向」を測定する尺度を作成し,これらの要囚と人生満足度や抑うつ度などとの関連について,老人大学受講者208名および大学生197名を対象に質問紙調査による検証を試みた。その結果,世代や性別によりその関連の仕方は異なるものの,回想の情緒的性質が適応度と関連することが認められ,ネガティブな出来事の再評価傾向は主に青年期で,回想量は老年期の男性で特徴的に適応度を説明した。そのため老年期の男性で頻繁に過去を振り返ることは適応度の低さと関連すると考えられた。さらに老年期の男性のみに,ポジティブな回想の想起しやすさと回想量との交互作用が認められ,ポジティブな回想と適応度の関連する程度は回想量によって異なると考えられた。
著者
長田由紀子 長田 久雄
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-10, 1994
被引用文献数
3

本研究の目的は, 高齢者の回想の特徴および回想と適応との関係を若年者と比較し, 老年期における回想の意味を検討することである。われわれは, 目常生活において自然に起こる回想の量を測定するために, 8項目からなる回想尺度を作成し, 質問紙を用いて個人の回想の量の測定を行なった。対象者は18〜24歳の132名 (学生群) , 40〜64歳の97名 (壮年群) , 65〜95歳の133名 (老年群) であった。回想の量について3群の差を検討した結果, 他の2群に比べて学生群の回想の量が多いことが示された。老年群でよく回想をする者は現在満足度が低く, 死について意識することが強く, 死の不安が強い傾向が示されたが, 回想に対して「気分転換」や「重荷から解放される」という効果を感じていた。結果から, 青年期における回想は自我同一性の確立を反映している可能性が示唆された。また, 老年期において回想を行なうことが, 死を意識することと関係があることが示された。老年期における回想の高頻度と, 満足度の低さとの間に関係が示されたが, この結果は, 回想による人生の統合が失敗に至ったことを示唆するとともに, 不適応状態への対処として回想が用いられる可能性を示唆するものであった。
著者
福田 佳織
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.161-171, 2003-08-15
被引用文献数
2

本研究では,家庭の夕食場面における母親・父親の幼児への摂食促し行動と幼児の情動状態(ポジティブ・ネガティブ)との関連を検討した。また,家族システム論的視点を援用して,母親の摂食促し行動と父親の摂食促し行動の関連,それらの行動と夫婦関係性変数および家族成員の人日読静学的変数との関連を検討した。対象は,4,5歳児を持ち,父母がそろった家庭である。分析には,家族全員がそろった家庭内の夕食場面のビデオ撮影(2回),夫婦関係性および人口統計学的変数を尋ねる質問紙の全データがそろった28家庭を用いた。その結果,母親・父親の摂食促し行動が強いほど幼児のネガティブな情動状態が強いという結果が得られた。さらに,母親が夫婦関係性を良好でないと評価しているほど母親の摂食促し行動が強く,また,対象児の月齢が低いほど,母親も父親も摂食促し行動が強いことが示された。これらの結果は,限定的ではあるが,母親・父親の養育行動と幼児の情動状態が強く関係することを実証的に示したものであり,また,家族システム論の主張とほぼ一致するものであったといえるだろう。
著者
金丸 智美 無藤 隆
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.219-229, 2006-12-20
被引用文献数
4

本研究の第1の目的は,不快場面に置かれた3歳児を対象に,快,不快情動の変化から捉えた情動調整プロセスの個人差を明らかにすることである。第2に,同一の子どもについて2歳時点から3歳時点への情動調整プロセスの個人差の変化を示す。第3に,不快場面での情動調整行動を検討し,3歳児の情動調整の自律性を明らかにする。2歳前半に実験的観察を実施した母子41組の中で,3歳後半の時点で32組の母子を対象に実験的観察を実施した。その結果,情動調整プロセスの個人差について,不快情動から捉えた情動調整プロセスタイプの中に,快情動変化から捉えた個人差が存在することが明らかになった。情動調整プロセスの個人差の変化については,2歳時に不快情動を表出した多くの子どもが,3歳時には不快情動を表出しなくなることや,2歳時に快情動を表出しなかった子どもの多くは,3歳時には快情動を表出したことを示した。また,情動調整行動に関しては,他の活動を積極的に行ったり,気紛らわし的行動が増え,より自律的な行動が増えることを示した。以上より,3歳児は2歳児と比較して,より自律的で適応的な情動調整が可能となることを明らかにした。
著者
森田 慎一郎
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.252-262, 2006-12

日本では,今後,「専門性」を有する職業への就職を希望する学生の割合の増加が見込まれる。このような状況をふまえ,研究1では,学生における職業への志向を,「専門性」を特徴づける諸概念に基づき測定する尺度の作成を試みた。まず,社会学のプロフェッション研究の知見に基づき,「専門性」を特徴づける5つの概念(「利他主義」「自律性」「知識・技術の習得と発展」「資格等による権威づけ」「仕事仲間との連携」)を想定した。次に,大学2年生207名を対象とした質問紙調査を行い,因子分析の結果,5つの概念それぞれへの志向を測定する「職業専門性志向尺度」が完成した。研究2では,医師を志望する学生に焦点をあて,「職業専門性志向」のなかで,彼らの「職業決定」に影響を与えるものの探索を行った。先行研究の知見から,「人間関係」と関連の強い志向が影響を与えることが予想された。医学部進学予定の大学2年生96名を対象とした質問紙調査を行い,重回帰分析の結果,「人間関係」と関連の強い「仕事仲間との連携志向」のみならず,「人間関係」と関連の弱い「知識・技術の習得と発展志向」も「職業決定」に影響を与えることが示された。
著者
石本 雄真 久川 真帆 齊藤 誠一 上長 然 則定 百合子 日潟 淳子 森口 竜平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.125-133, 2009-06-10

本研究は,青年期女子の友人関係のあり方と心理的適応や学校適応の関連を検討することを目的とした。友人関係のあり方を心理的距離と同調性といった2側面から捉え,学校段階ごとに心理的適応,学校適応との関連を検討した。女子中学生96名,女子高校生122名を対象に友人との心理的距離,同調性,心理的適応,学校適応について測定した。その結果,表面的な友人関係をとる者は,心理的適応,学校適応ともに不適応的であることが示された。心理的距離は近く,同調性の低い友人関係をとる者は,心理的適応,学校適応ともに良好であることが示された。心理的距離は近く,同調性の高い密着した友人関係をとる者は,中学生では概して適応的であった。一方,高校生で密着した友人関係をとる者は,学校適応においては適応的であるものの,心理的適応に関しては不適応的な結果も示した。これらの結果から,同じ青年期であっても学校段階ごとに友人関係のあり方が持つ意味が異なるということが明らかになった。高校生においては,心理的距離は近くとも同調的ではない友人関係を持つことが心理的適応にとって重要であることが示唆された。