著者
松尾 浩一郎
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.165-175, 1997-10-30

本研究の目的は, 感情を表現した比喩の理解が幼児期においてどのように発達するのかを明らかにすることであった。本研究では, 喜び, 悲しみ, 怒りという3種類の感情を表現する直喩を作成し, 4歳児, 5歳児, 6歳児における理解を調べた。被験児は, 実験者の口頭で読まれた比喩文に対して, 4枚のカード(喜び, 悲しみ, 怒りの表情を示したカードおよび白紙のカード)の中から1つを選ぶというやり方で, 比喩文が表現する感情について答えた。白紙のカードは, 比喩文が表現する感情がわからない場合, または比喩文が喜び, 悲しみ, 怒り以外の感情を表現していると思われる場合に選択するように教示された。主な結果は次のとおりであった。(1)感情の種類によって比喩理解の発達の様相が異なっていることが示唆された。(2)4歳児の正答率はチヤンスレベルをこえたが, 比喩の理解が成人に類似した形で安定するのは5歳になってからであった。(3)熱い液体に関わる語句によって怒りが表現された場合に悲しみの表現と判断しやすいなど, 幼兄の誤答には一定の傾向が認められた。
著者
冨田 昌平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.228-238, 2001-11-15
被引用文献数
1

心的な比喩に対する6歳児の理解を3つの実験によって検討した。本研究では,子どもは3つの領域における心的な比喩に対する解釈を求められた。つまり,容器比喩(例えば,「心が空っぽである」),物体比喩(例えば,「気が重い」),動作主比喩(例えば,「気持ちが足跡みしている」)の3つである。実験1では,16名の子どもが,比喩文に対する正しい解釈と誤った解釈という2つの絵画ストーリーを提示され,比喩文と対応するものを選択するよう求められた。実験2と3では,各20名の子どもが,比喩文に対する比喩的な正しい解釈,比喩的だが誤った解釈,字義的な解釈,無関連の解釈という4つの絵画ストーリーを提示され,実験1と同様のことを求められた。3つの実験で,子どもの大部分は,動作主比喩よりも容器比喩において正答を多く選択した。以上の結果は,幼児が持つ心のイメージという点で考察された。
著者
宮島 裕嗣 内藤 美加
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.364-374, 2008-12-20

課題重要性と社会的影響が中学生の同調にどのような効果を及ぼし,かつ偏向した意見が持続するか否かを検討した。同調の喚起を意図した課題を用い,218人の中学生に回答を選択してもらう質問紙上の思考実験を行った。実験1では意見課題を作成し,規範的影響下の同調を検討した。実験2では,正確な判断が求められる課題を用いて情報的影響下での変化を調べた。両実験とも第1セッションでは課題重要性を操作し,実験群には各課題の回答肢に仮想集団の選択傾向を呈示する集団状況で回答を求め,集団圧力による偏向のない統制群の回答と比較した。1週間後の第2セッションでは仮想集団の圧力を取り除いた個人状況で実験群に再回答を求め,偏向を受けた意見が持続するか否かを検討した。その結果,中学生では特に集団から受容されたいという動機に基づく規範的影響下で,重要性の低い課題だけでなく個人的関与の高い重要な課題でも同調を示し,それが長期間持続する私的な受容であること,また女子の方が男子に比べそうした同調を示しやすいことが明らかになった。これらの結果は,自己カテゴリー化の枠組みから論じられた。
著者
山崎 寛恵
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.15-24, 2008-05-10

一名の乳児の日常場面における伏臥位でのリーチングを約5〜8ケ月齢にわたって縦断的に観察した。伏臥位でリーチングを行う時,乳児は上肢で対象物に対する頭部の視覚的定位を維持するために上体を支持することと,対象物に接触することの2つの機能を達成しなければならない。乳児はこれらの機能を同時にどのように達成しているのか,またその達成方法はどのように発達的に推移するのかを明らかにするため,観察されたリーチングを機能的観点から「上体支持有り],「一時上体支持有り],「上体支持無し」の3種に分類し,その出現推移を量的に分析した。その結果,上体を支持しながらリーチングするパターンから,上体を支持することなくリーチングするパターンへの移行が見られたが,リーチング成功率とリーチング時に上肢が担う機能変化との関係は示されなかった。量的分析で明らかにならなかった複雑な様相を,全身の協調の質的記述によって検討した。得られた結果は,乳児が対象物への到達を可能にするために身体各部位を機能的に協調させていることを示すとともに,リーチング発達が身体を不安定にすることによって新しい姿勢調整を獲得する過程であることを示唆する。
著者
山内 星子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.287-295, 2010-09-20

本研究は,感情のデュアルプロセス理論の枠組みを用いて,母親の感情特性が青年の感情特性に影響を与えるメカニズムを検討することを目的とした。感情生起に先行する認知的評価の枠組みが母親から子へと言語的やりとりを媒介して伝達し,間接的に青年の感情特性に影響するという"認知レベルの学習"と,母親の感情特性が連合学習によって直接的に青年の感情特性に影響するという"行動レベルの学習"の2つの学習の存在を仮定した。高校生97名とその母親(計194名)から得られたペアデータに対して共分散構造分析を行ったところ,4つの感情(怒り,悲しみ,不安,恥)において"認知レベルの学習"のみが見出された。一方,"行動レベルの学習"はいずれの感情においても見出されなかった。この結果は,青年の感情特性が,連合学習のようなシンプルなメカニズムではなく,認知的評価に関する母親との言語的やりとりのような,比較的高度な認知処理をともなう過程によって形成されていることを示唆しており,不適応的な感情特性の形成に対する予防的アプローチの可能性が示唆された。
著者
先﨑 真奈美 柴山 真琴
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.221-231, 2010

本研究では,幼児期までに異なった自己制御行動を発達させつつあるとされる小学生が出会い,同じ活動に参加する時に,どのような自己制御行動をとるかを,ある体操教室でのフィールドワークに基づいて明らかにすることを目的とする。研究方法は,エスノグラフィーの手法を採用し,実際の場面で子どもが他者とやりとりをする中で,自己制御行動がどのように生起しているのかを検討した。日本学校通学児5名と国際学校通学児3名を対象とし,2006年7月から2007年3月までの間に23回観察を行った。分析の結果,国際学校通学児は自己主張・実現行動の方略が日本学校通学児よりも多様であるだけでなく,自己主張行動では複数の自己主張・実現行動カテゴリーを組み合わせた方略を用いていた。一方,日本学校通学児は,自己抑制行動の対象とする幅が国際学校通学児よりも広く,さらに自己主張・実現行動とも自己抑制行動とも捉えられる自己主張/自己抑制行動をとっていることが明らかになった。
著者
藤井 義久
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.375-385, 2010-12-20

本研究の目的は,小学校の防犯教育において活用できる「犯罪不安尺度」及び「防犯意識尺度」を開発し,小学生の犯罪不安と防犯意識の発達的変化について明らかにすることであった。調査対象者は,岩手県内の小学校4校と東京都内の小学校3校の4年生から6年生の児童,計1292名(男子662名,女子630名)であった。項目分析及び因子分析の結果,「不審者不安」,「外出不安」,「犯罪発生状況不安」という3つの下位尺度からなる「小学生版犯罪不安尺度」(30項目)と,「危険回避能力」,「外での防犯対策」,「家での防犯対策」,「コミュニュケーション」,「油断」,「注意」という6つの下位尺度からなる「小学生版防犯意識尺度」(30項目)を開発した。そして,それらの尺度を用いて,次のようなことがわかった。第1に,犯罪不安水準,防犯意識水準とも,女子の方が高く,学年が上がるにつれて有意に下がる傾向が見られた。第2に,犯罪不安水準と防犯意識水準とにはある程度の関連性がある。そして,パス解析の結果,男子においては犯罪不安水準を全体的に高めることによって周りに注意を払うといった防犯意識を高めることにつながり,女子においては,外出時における犯罪不安を高めるだけで防犯意識水準が全体的に高まる可能性の高いことが示唆された。
著者
高濱 裕子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.51-59, 1993

幼児の"プラン共有"に, 保育者がどのような影響を与えているのかを検討した。幼稚園期2年間におけるごっこ遊びの発達は, 保育者と幼児との相互交渉を通して検討された。その際, 保育者と幼児とのコミュニケーションプロセスに, Bmnef (1983/1988) の"フオーマット"の概念を援用して, 分析的に捉えた。2名の幼児の遊びとそこに関わる1名の保育者の行動とは, 幼稚園において毎週1回, 2年間に渡って縦断的に親無された。プランの共有面から分析した結果, 幼稚園期のごっこ遊びには, 4段階の発達段階が見出された。また, 幼児の遊びの質的変化に対応させて, 保育者も段階的にフオーマットを変容させていることが明らかになった。これら5段階のフオーマットは, f1:仮想一オープン, f2:依頼一援助, f3:折衝一意味付与, f4:要請一協同解決, f5:表明一承認と命名された。フオーマットの概念は保育分析の枠組みとして十分に有効であることが示された。
著者
北村 琴美 無藤 隆
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.46-57, 2001-04-20
被引用文献数
4

本研究では,母娘関係が成人の娘の適応状態を規定する度合いを検証するとともに,娘の結婚や出産といったライフイベントによって母娘関係がどのような発達的移行を経るのかを探索的に調べるために,成人女性415名を対象とした横断的データに基づいて,独身女性,既婚で子どもがいない女性,既婚で子どもがいる女性間での比較検討を行った。その結果,母親との親密性は独身の娘の心理的適応と関連していると同時に,既婚で無職の娘の心理的適応に対してもある程度の効果を持つという結果が得られた。一方,母親への過剰な依存・接触は,職業の有無に関わらず,既婚で子どもがいない女性の心理的適応と負の関連を示していた。また,ライフイベントによる成人期の母娘関係の発達的移行に関しては,独身あるいは有職の娘と比較して,既婚で無職の娘は,母親との親密性が高く,サポートを求める気持ちが強いことが見出された。
著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.230-240, 2004-08-20

本研究の目的は,空想と現実に対する区別認識の違いによって,箱の中に想像した生き物に対する幼児の現実性判断はどのように異なるのかについて検討することであった。幼稚園年中児48名に対して空想/現実の区別課題と空箱課題を行った。まず,空想/現実の区別課題の成績をもとに,幼児を統合型,混同型,否定型,肯定型の4つに分類し,次に,空箱課題における行動や主張を類型ごとに比較した。統合型は空想と現実を適切に区別できた者,混同型は空想と現実を正反対に区別した者,否定型は空想と現実の両方を否定した者,肯定型は空想と現実の両方を肯定した者である。主な結果は次の通りである。第1に,否定型の幼児は他の類型の幼児よりも,空箱課題において箱への探索行動を示すことが多く,加えて,彼らの多くは後の質問において「空っぽだ」と主張することが多かった。第2に,肯定型の幼児は,箱への探索行動をほとんど示さなかったが,その一方で「いるかもしれない」と主張することが他の類型の幼児よりも多かった。第3に,統合型の幼児は他の類型の幼児よりも,願いごとや魔法によって想像が現実になる可能性について判断するときに,単純に"可能か不可能か"で答えるのではなく,条件つきで回答したり,判断を保留したりすることが多かった。以上の結果は,幼児における主張面と行動面での心の揺らぎやすさという点から議論された。
著者
小泉 智恵 菅原 ますみ 前川 暁子 北村 俊則
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.272-283, 2003-12-05
被引用文献数
4

働く母親における仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが母親自身の抑うつ傾向にどのような過程を経て影響を及ぼすのか,そのメカニズムを検討することを目的とした。仮説として仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーの抑うつ傾向に対する直接的影響と,仕事ストレツサー,労働時間,子どもの教育・育児役割負担によって生起した仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが子育てストレス,夫婦関係を介して抑うつ傾向に及ぼすという間接的影響が提出された。方法は,小学校高学年の子どもをもつ有職の母親で配偶者のある者(246名)と同学年の子どもをもつ無職の母親で配偶者のある者(131名)を対象として質問紙調査をおこなった。有職母親群の分析結果で,分散分析により仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが多くなると抑うつ傾向が高くなるという直接的影響がみとめられた。パス解析により仕事ストレツサー,労働時間の増加によって生起した仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが多くなると,夫婦間の意見の一致を減少させ,子育てストレスを高めることを介して抑うつ傾向を上昇させるという間接的影響がみとめられた。考察では仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが抑うつ傾向に影響しないようにするには,夫婦関係と子育てに関して介入,支援をおこなうこと,仕事ストレツサーの低減と労働時間の短縮が有効である可能性が論じられた。
著者
小林 雅子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.79-87, 1997-07-30

在日外国人幼児・児童はフラストレーション状況の場面を見ると, 様々な言語反応を示す。本研究の目的は, 特に発達と在日期間の観点から, 在日外国人幼児・児童と日本人幼児・児童のフラストレーション場面に対する言語反応の特徴を見つけ出すことである。被験者は, 国際学校の幼児22名と小学生24名, 朝鮮学校の幼児30名と小学生27名, 日本の幼児29名と小学生30名であった。調査にはフラストレーション状況を華いたP-F子タディ型の課題が12枚用いられた。言語反応のカテゴリーは因子分析にかけられ, 「自己主張」「注意・不服」「自己抑制」「謝罪・感謝」の4因子が得られた。結果を以下に示す。友達との間で生じるフラストレーション状況場面で, 日本及び朝鮮学校の幼児は自己抑制反応を多く示し, 国際学校の幼児は自己主張反応を多く示すことがわかった。小学生の場合, 在日外国人と日本人の反応にはほとんど違いが見られなかった。国際学校の小学生の在日年数に基づいて反応を比較した結果, 友達との場面で違いが見られた。また, 在目朝鮮人幼児・児童の反応は, 日本人幼児・児童の反応とほとんど変わらないことがわかった。
著者
山名 裕子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.135-144, 2005-08-10

本研究での目的は, 均等配分方略の選択が皿1枚あたりのチップの数によって変化するかどうかを検討することである。配分するチップが4個から20個, 配分先の皿の枚数が2, 3, 4枚の組み合わせによって9課題が設定され, 就学前の幼児160名がチップをお皿に分けるという配分課題に参加した。その結果, 配分するチップの数が少ない課題では, 3歳の幼児でも8割が正しく配分ができること, また3, 4歳では配分するチップの個数が多くなるほど正答者数が少なくなるが, 6歳ではどのような課題でも8割の幼児が正しく配分できるようになることが示された。選択された方略の分析から, 高度なユニット(unit)方略が5, 6歳で多く選択されるような課題があることも示された。このユニット方略とは, 配分する前に, 皿1枚あたりの数を何らかのレベルで把握し, 一巡(1回通り)でチップを配分する皿に分けていく方略と定義される(山名, 2002)。ユニット方略のように皿1枚あたりのチップを配分前に把握できていなくても, 一巡目に配分していくチップの数がバラバラではなく, 1個, あるいは2個以上のまとまりを形成しながら配分していくことが示唆された。このような皿1枚あたりの数を検討づけるような, 見積もりという点がわり算につながるようなインフォーマル算数の知識の視点として, 重要なことが示唆された。
著者
小原 倫子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.92-102, 2005-04-20
被引用文献数
3

本研究の目的は, 母親の情動共感性と情緒応答性が, 育児困難感にどのように関連するのかについて検討することである。0歳児を持つ母親78名と1歳児を持つ母親40名を対象に, 育児困難感と情動共感性について質問紙調査を行った。また, 情緒応答性の把握について, 日本版IFEEL Picturesを実施した。日本版IFEEL Picturesとは, 30枚の乳児の表情写真を母親に呈示し, その写真を通して, 母親が乳児の感情をどう読み取るかという反応特徴から, 母親の情緒応答性を把握するツールである。その結果, 母親の情動共感性及び情緒応答性と, 育児困難感との関連は, 子どもの年齢により異なることが示された。0歳児を持つ母親の育児困難感には, 母親の情動共感性が関連しており, 1歳児を持つ母親の育児困難感には, 母親の情緒応答性が関連していることが示された。母親の育児困難感は, 母親としての経験を重ねるにつれて, 母親要因である情動共感性よりも, 母子相互作用から生じる情緒応答性が関連要因となる可能性が考えられた。
著者
園田 菜摘
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.177-188, 1999-12-31

3歳児が示す他者の欲求, 感情, 信念理解の個人差について, その特徴と母子相互作用との関連を検討した。51組の母子の相互作用を家庭で観察し, ごっこ遊び場面と本読み場面における内的状態への言及頻度をカウントした。その後, 子どもに欲求, 感情, 信念理解を調べる課題を行った。その結果, 3歳児の他者理解の特徴として, 全体的には感情理解の成績が高く, 信念理解の成績が低いが, どの課題においてもそれぞれ大きな個人差が存在していることが示された。このような他者理解の個人差と関連する柏互作用要因について, 欲求理解では母親の本読み場面での思考状態への言及とごっこ遊び場面での応答的な内的状態への言及との問で, 信念理解については母親の両場面での思考状態への言及, ごっこ遊び場面での応答的な言及, 本読み場面での繰り返し的な言及との問で, それぞれ関連があることが示された。さらに, 子どもの月齢や性別, きょうだい数といった柏互作用以外の要因と他者理解との問にはほとんど関連が見られなかった。このことから, 3歳児の他者理解を促す要因として, 家庭での相互作用, 特に場面に応じた内的状態への言及の重要性が示唆された。
著者
石井 京子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.186-194, 1997-10-30

高齢者の老人病院への入院により, 家族がその後の高齢者介護に対しどのような意識を持つのかを明らかにすることを目的に, 家族に郵送質問紙調査と医療者による患者実態調査を行った。さらに, 同対象の2年後の追跡調査を行い, 実際の退院に関与した要因の分析を行った。分析は老人病院に入院中の高齢者の家族のうち, 家族調査と医療者側の患者実態調査が揃っている561名について行った。結果は次のとおりである。高齢者の平均年齢は79.0歳で, 75歳以上では女性が多い。入院中の家族は37.8%が高齢者の退院後の生活場所として家庭を考えているが, 医師・看護婦の在宅可能者の判断と一致しなかった。家族の家庭意向に影響する要因は今回以前の入院経験と入院期間, 住居に段差問題がない, 福祉サービスの利用経験, 今回の入院期間の長さ, 現在の痴果度, 家族の面会頻度などである。2年後の追跡調査の結果, 自宅への退院は5.7%であった。退院に関与する要因は入院期問が6ケ月以内である, 現在の痴呆が軽度, 入院時の家族の意向が在宅介護, 医師・看護婦が在宅可能の判断などであった。このように入院中の在宅介護意向と実際の退院へ影響する要因は類似している。今後は在宅介護の意向を持っている家族が, 入院期間が長期になるとその意欲を失っていくことを防ぐために, 家族への頻繁な面接や退院に向けての家屋の改造などの専門的援助が, 入院時から継続して行われることの必要性が明らかになった。
著者
井上 (中村)徳子 外岡 利佳子 松沢 哲郎
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.148-158, 1996-12-20
被引用文献数
1

西アフリカ, ギニアのボッソウにおいて継続研究されている野生チンパンジーの道具使用行動の形成過程について検討した。1990年から設置されている野外実験場では, おもにチンパンジーのヤシの種子割り行動に関する直接観察およびピデオカメラによる録画がおこなわれてきた。本稿では, 1992年度と1993年度におこなった2回の調査で録画したピデオテープ資料をもとに, とくにチンパンジー乳幼児6個体(0歳以上3歳未満)におけるヤシの種子割り行動の発達過程を分析した。逐次記録法により, 各個体にみられるヤシの種子割りに関連する行動すべてをリストアップし, 全部で計310の行動事例からなる行動目録を作成した。この行動目録を(1)種を扱う行動, (2)石を扱う行動, (3)種と石の両方を扱う行動, (4)他個体に関わりつつ種や石を扱う行動, (5)ヤシの種子割りをする他個体に関わる行動, という5つの行動カテゴリーに分類した。さらに各行動カテゴリー内の行動事例を, 操作の方向・段階・複雑性などに着目して, 2〜4つのサブカテゴリーに分類した。こうした行動カテゴリーないしサブカテゴリーに属する行動事例の相対頻度を年齢群ごとに比較したところ, 加齢とともに, (1) 種と石の両方を扱う行動が増加する, (2)種や石に関する2種類以上の操作を連鎖する行動が増加する, (3) 種や石を同時並行に操作する行動が増加する, (4) 他個体の扱う種や石に対して働きかける行動が増加する, (5)他個体に接触しないで観察する行動が増加する, ことなどが明らかになった。チンパンジー乳幼児がヤシの種子割り行動を形成するには, エミュレーションによって自らの試行錯誤を繰り返しながら, これらの柔件を満たすことが必要であると示唆された。
著者
武田-六角 洋子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-11, 2000-06-30

本研究では, 児童期抑うつの特徴をより明確にするため, 成人の抑うつに比し特異的とされる"攻撃性"に注目し, 児童 (小学3〜6年生) とその保護者をペアにして調査した。具体的には, 子どもには自己報告形式の抑うつ尺度と, 攻撃性の特徴を見るP-Fスタディを, 保護者には (予どもの) 気質尺度を実施した。次に, 抑うつ尺度をもとに子どもを2群 (高抑うつ傾向群と低抑うつ傾向群) に分け, 各々に保護者報告により得られた気質 (内向気質か外向気質か) を付与した後, P-Fスタディで得られた各評点因子につき分散分析を行った。気質と攻撃性については, 有意な結果は得られなかったが, 抑うつと攻撃性については興味ある結果が得られた。すなわち, 抑うつ傾向の高い児童の方が他者に対する攻撃性が高く, 自己に対する攻撃性が低かったのである。この時期の子どもにとって, 抑うつの低さは内省力を促し, 攻撃性も他者より自己に向かう傾向に結びつくが, 抑うつ傾向の高い子どもでは, 攻撃性が未熟な形で他者に向かい, 自分自身に目が向きにくくなるという特徴が見られた。成人の抑うつが過度の内省や罪悪感を特徴とするのに対し, 児童期の抑うつは, 目常場面での他者への高い攻撃性を特徴としていることが明らかになった。
著者
藤崎 春代
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.221-231, 1998-12-15

本研究では, 1日および1週間単位での日課が異なる2園(幼稚園と保育園)に所属する4・5歳クラス児に対して, 園生活の流れについて個別面接調査を行い, 多様な出来事についてどのような一般的出来事表象(GER)を形成しているのかについて検討した。すべての子どもに, 「いつも園では何をするか?」と園生活全体の流れを聞く質問を行うとともに, 幼稚園の一部の子どもには「今日は何をしたのか?」, 残りの子どもには「*曜日は何をするか?」という質問を行った。分析の結果, まず, 行為を述べる際に主語無しで現在形表現をしており, 時間的順序も一定であるなど, 幼児が園生活GERを形成していろことが確認された。しかしながら, 幼椎園児の特徴として, 子どもが共通に述べる行為数は少なく, これは幼稚園生活において生活習憤的活動が少ないことによると思われた。多様性の表象の仕方については, GERとしてではなくエピソード的に記憶する, 多様性を園生活GERの変化項としてとらえる, 条件により園生活GERを形成し分ける, の3タイプが検討された。