著者
斎藤 環
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.374-379, 2021-07-15

存在論的、郵便的 前回予告したように、今回は「否定神学」がなぜ批判され、衰退していったかについて検討してみたいと思います。 何度か触れてきたように、この衰退においてもっとも大きな影響をもたらしたのが、哲学者で批評家の東浩紀の存在でした。1998年、東は弱冠28歳でデビュー作『存在論的、郵便的』*1を出版します。本書のインパクトは非常に大きいものでした。私が知る限り、東より下の世代の思想家、批評家のほとんどが、心酔するにせよ反発するにせよ本書の大きな影響下にあります。
著者
漆原 正貴
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.182-184, 2015-03-15

ユマニチュードという不思議な響きを私が耳にしたのは、昨年の夏頃でした。「話す」「触れる」といった看護の基本を徹底するだけで、暴れたり徘徊するお年寄りのケアに絶大な効果を発揮する──。そんな新しい認知症ケアの技法があると聞いて、「これは催眠に使えるかもしれない」と興奮したのを覚えています。 私の研究テーマは催眠であり、認知症とそこまでかかわりが深いわけではありません。ですが、催眠は「話す」技術であり、「見る」ことや「触れる」ことに細心の注意を払います。だからこそ、そうしたコミュニケーションの基礎を突き詰めた技法がケアの世界にあるのであれば、しかもそれが魔法のような効果を発揮するのだとすれば、異なる領域ながら参考になるかもしれないと考えたのです。そんな軽はずみな気持ちから入門書を手に取ったのですが、ユマニチュードについて詳しく知るにつれ、私は幾度も驚かされることになりました。「これって催眠と全く同じじゃないか」と。
著者
長嶺 敬彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.20-26, 2005-11-01

EPSは3つの症状群で理解しよう EPSにはいろいろな症状があります。それらは大きく3つの症状群で理解すればよいと思います。アキネジア、ジストニア、アカシジアです。それらの意味するところを表2に簡単に示しました。カタカナ用語を理解するには語源を考えるとイメージが湧きやすいので、語源からみてみましょう。 「アキネジア」からいきましょう。“キネシア”は運動を意味します。“ア”は否定を意味する接頭語ですから、アキネジアは運動が少ないこと、つまり「動きが少なくなること」を意味します。
著者
三木 俊 阿部 倫明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.282-287, 2018-05-15

痛みを数値化できるメリットを生かして 痛みの検査は、これまでビジュアル・アナログ・スケール(VAS:Visual Analoge Scale)やNRS(Numerical Rating Scale)が簡便な方法として臨床で用いられてきた。しかしVASやNRSは患者さんがもつ不安などの要素によって結果が左右されやすく、実際の痛みを正確に反映しているとは限らないという弱点がある。 近年、知覚痛覚定量分析装置PainVisionが開発され、患者さんの知覚や痛みを数値化して評価できるようになった。
著者
根來 秀樹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.46-48, 2014-03-15

目の前にいる青年期の患者さんが、「イジメられている、悪口が聞こえる」と興奮して訴える時、私たち精神医療に従事する者はそれが事実かどうか確かめるだろう。そして家族などからの情報で、現在イジメを受けている事実や悪口を言われているような事実がないとすれば、「幻覚妄想状態」と判断されるのは自然なことかもしれない。幻覚妄想を呈する精神疾患は覚醒剤精神病や気分障害に伴うものもあるし、身体疾患に伴うものもあるが、それらが状況的に否定されれば、このような症例は好発年齢などからも「統合失調症」と診断されることが多いのではないだろうか。 しかしその患者さんは、実は統合失調症ではない可能性がある。現在そのことに警鐘が鳴らされるようになった★1。
著者
山内 泰 伊藤 亜紗 村瀨 孝生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.478-483, 2020-09-15

前号(2020年7月号)では、「ポニポニ文化会議」★1で哲学者・國分功一郎さんと対話した回を紹介したが、今回は伊藤亜紗さん(東京工業大学准教授・美学)と村瀬孝生さん(宅老所よりあい代表)がゲストの回★2を紹介しよう。2人の話や語り口は、「障害や老い」と「健常」との違いを差別的な意味で際立たせるのではなく、むしろそれぞれのリアリティの豊かさに満ちていて、とても面白く、また不思議な感じもする。老いや障害を巡る話が、こんなに可笑しく感じられるのは、どうしてなのだろう。今回はそんな問いから、お2人の話をまとめてみたい。
著者
大西 香代子 桂川 純子 三木 佐和子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.420-423, 2020-09-15

冬の気配が漂い始めた昨年12月半ば、町の集会所に私たち研究チーム3名とアシスタント4名が集まりました。この日、いよいよ日本で初めての試み、精神障害当事者が、研究者の行う研究に当事者の立場からアドバイスするというJ-SUGAR(Japan Service Users Group Advising on Research)がスタートするのです。 イギリスで始まったSUGAR*1を日本でも作ることが、私たちの夢でした*2。当事者主体が叫ばれながら、保健医療サービスを提供する側と受ける側のギャップ、横にというより何かしら縦に広がっているこのギャップを、小気味よく埋められるのではないか、そんなワクワクする思いと、うまくいくのかだろうかという不安とが混在していました。本稿では、日本でのSUGARの展開について報告します。
著者
小林 美亜 竹林 洋一 柴田 健一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.568-577, 2018-11-15

診療報酬による「身体拘束最小化」への誘導 高齢化の進展と共に認知症高齢者の入院が増加している。急性期病院(看護配置7対1及び10対1)では、認知症をもつ患者の入院割合は約2割を占め、そのうち、半数以上がBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:行動・心理症状)を有しており*1、身体合併症の治療だけでなく、認知症高齢者の中核症状およびBPSDへの対応能力を高め、身体拘束を防止し、認知症高齢者の尊厳を保障することが急務の課題となっている。 診療報酬でも、医療機関は身体拘束を減らす方向に誘導がなされている。2016年の診療報酬改定では「認知症ケア加算」が新設され、身体的拘束を実施した日は、当該点数が40%減額となるペナルティが課せられるようになった。また、2018年の診療報酬改定では、看護補助加算や夜間看護加算の算定において、「入院患者に対し、日頃より身体的拘束を必要としない状態となるよう環境を整えること」「また身体的拘束を実施するかどうかは、職員個々の判断ではなく、当該患者に関わる医師、看護師等、当該患者に関わる複数の職員で検討すること」といった身体拘束などの行動制限を最小化する取り組みを行うことが要件となっている。
著者
大西 季実 吉田 裕美 藤井 美代子 鈴木 まさ代 伊東 美緒 高橋 龍太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.101-107, 2010-01-15

はじめに 精神科では、自殺・事故防止の観点から、入院生活に何らかの制限が設けられていることが多い。病棟内に持ち込む日常生活用品を制限することもその1つである。制限される物品としては刃物やガラス製品、ベルト、電化製品のコード、耳かき、爪楊枝、毛抜き、割り箸など多岐にわたる。刃物など明らかに危険な物品については、マニュアルなどに明文化され対応が統一されていることが多いが、危険度が必ずしも高いとはいえない耳かき、毛抜き、爪楊枝、割り箸などの取り扱いについては、病院・病棟により規定が異なる上、看護者の判断によっても対応に違いが存在するのではないだろうか。 縊死に関連した日常生活用品の持ち込み制限に関する田辺らの調査においても、コード、ネクタイ、針金ハンガーなどは持ち込みを許可する病棟と許可しない病棟がそれぞれ半数ずつであり、看護者が異なる視点で判断している可能性を示唆している*1。病棟内においても看護者間の考え方や対応の相違により混乱が生じることは多々あり、特に精神科の臨床では日常的に遭遇する体験であるという*2。病棟内の看護者間において価値観そして実際の対応方法が異なる場合、患者に混乱をもたらし、そこで働く看護者を悩ませる要因にもなりうる。 過度な物品管理、不必要な制限は患者の依存や退行を引き起こし、自立の妨げになる可能性があり、病棟生活を送る患者の生活の質(QOL)に影響を与えることが示唆されている*1。QOLや人権に配慮しすぎると事故の危険が高まる*3ものの、事故防止を優先しすぎると日常生活を送る上で不都合が生じる。看護師が事故防止を優先するのか、QOLを優先するのかによって日常生活用品の持ち込みの判断に影響が生じると予測される。 そこでこの研究では、①病棟内への日常生活用品の持ち込み制限と優先傾向(事故防止・QOLのどちらを優先するのか)との間には関連があるのか、②看護者のバックグラウンドと優先傾向との間に関連があるのかの2点を明らかにすることを試みた。
著者
田辺 有理子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.282-285, 2020-05-15

患者ミーティングでの出来事 Aさんは40代の女性。パーソナリティ障害の診断を受けていました。入院となった背景には人間関係のトラブルなどもあり、なかなか退院の見通しがつかずに数か月が経っていました。医療者に対して無茶な要求をしてきたり、要求が通らないと癇癪を起こしたりして、年齢のわりに考え方や行動が幼く、実のところ何かと厄介な患者さんという印象でした。 この病棟では、定期的に患者ミーティングを行っています。患者さんからの要望などを聞く、あるいは患者さんの入院生活の困り事を一緒に考えるという取り組みです。現状は、患者さんの中での病院に対する不満や改善の要望を出す場という感じで、患者さんにとっては、「ご意見箱」に書くほどでもないことも手軽に話せる場として受け取られていたかもしれません。少しずつ定期的に開催されるミーティングが定着しつつある頃でした。
出版者
医学書院
雑誌
精神看護 (ISSN:13432761)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.60-65, 2020-01-15

ECTほど、やる病院とやらない病院が極端に分かれる治療もないでしょう。 やらない病院のスタッフであれば、ECTを見たことがない人も多いと思います。 編集部はECTを受けたというあるマスコミ関係者と知り合い、その話のディテールがあまりに興味深かったので、レポートしていただくことにしました。 いつもECTが身近にある医療者もそうでない医療者も、「受ける側」にとってはそれがどういう経験なのかを知ることは意味があるはずです。
著者
武藤 教志
出版者
医学書院
雑誌
精神看護 (ISSN:13432761)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.317-327, 2018-07-15

この特集の目的 毎日の看護記録に何を書けばいいんだろう? これで良い看護記録と言えるだろうか? 悩みますよね。精神科は本当に不思議なことに、あらゆる診療科の中で看護記録の独り立ち時期がすごく早い。新人は、数回、数日、看護記録の書き方(と言うより、その施設の記録に関する公式ルールと暗黙の了解)の手ほどきを受け、見よう見まねでやっていくものの、記録の基本形も、良い記録とはどのようなものなのかもわからないままの独り立ちです。
著者
清田 隆之
出版者
医学書院
雑誌
精神看護 (ISSN:13432761)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.84-88, 2014-09-15

前回(5月号)は、我々の自己紹介をさせていただきました。桃山商事とは、女性の恋愛相談に複数の男子が無償で乗りつつ、そこで聞かせてもらったお話を書いたりしゃべったりする「恋バナ収集ユニット」です。恋愛相談に乗る際は「とにかく聞く」「彼氏を悪く言わない」「別れさせようとしない」を原則に、なんとか相談者さんに元気になってもらうよう努めるのが基本ルールです。 そんな活動紹介をさせていただいたところ、編集さんや読者さんから「ホンマかいな! 無償で話を聞くなんて……」「いろいろ危険な目にあっているのでは?」「下心とかないの?」「やっぱり恋愛に発展するでしょ?」など、さまざまな疑問が噴出。どうやら我々がやっている活動は、精神看護の仕事にかかわる方々からしたら、何かとあやしい活動に映るようなのです。