著者
板東 美智子
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.20, pp.1-12, 2017-03-05

本稿は、日本語の複雑述語「V + -そうだ」のV と「-そうだ」の間に介在する時制の形態素の有無、あるいは、分布を観察し、その有無/分布と「-そうだ」補部の埋め込み節の統語的意味的特徴との相関性を考察する。最初に、連用形のV に「-そうだ」が接辞する形を観察する。Vの描く出来事の開始直前の状況が観察可能なとき、その「-そうだ」はアスペクト補助動詞と分析し、補部をVP とする。次に、「V-て(い)-そうだ」の文を観察し、この「-そうだ」は話者が同時に起きている他所の状況を「推測」する法助動詞であることを示す。またこの同時点の「推測」は、「-て」を時制と仮定する先行研究を参考に、「-そうだ」補部のTP (/AspP) がもたらす解釈であると仮定する。最後に、「V-{る/た}-そうだ」の文について、この「-そうだ」は先行研究に従って終止形を伴う「伝聞」の法助動詞とし、pro 主語とCP 補部を伴うことを述べる。
著者
久津木 文 田浦 秀幸
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.22, pp.41-48, 2019-03

幼児期の二言語獲得は実行機能系やそれと関連する他者理解の能力を促進することが他研究で示されてきたが、早期からの外国語学習や日本語を含む二言語同時獲得の認知的な影響についての知見はほとんど存在しない。本研究では日本語を母語とし早期から英語を学習する幼児を対象に、早期からの外国語学習の認知的な影響を実行機能及び他者理解(心の理論)の観点から検証した。英語力と心の理論課題との関連が示され、英語の語彙を学ぶことが、他者理解を促進する可能性が示唆された。また、英語力が特に葛藤抑制と関連を示し、英語の語彙学習が葛藤抑制能力に影響している可能性が示唆された。また、心の理論と在園期間は関連を示したが葛藤抑制と在園期間は関連が示されなかったことから、葛藤抑制課題の反応時間や成績は言語によって促進された認知能力を反映するのに対し、心の理論課題の成績は社会的経験や社会的能力をより反映することが示唆された。以上のことから、普段から頻繁な使用や言語の切り替えがなくとも、幼少期の外国語学習は、認知に影響を与える可能性があることが示唆された。
著者
西垣内 泰介
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.59-74, 2019-03-05

本論文は,「地図をたよりに(目的地にたどりつく)」のような,「付帯条件」を表すとされる付加表現について新しい提案をしている西垣内(2019, 『日本語文法』19(1)) の補遺である。そこで提案されている統語的分析の要点を示した上で統語分析の詳細なポイントを追加し(1–2 節),代名詞束縛,量化表現の相対スコープ,「量化詞分離」の現象に基づく「構造的連結性」の議論を提示し(3 節),「時」に関する解釈など,統語論分析だけでは捉えられない意味的な要因についての議論を行い(4 節),西垣内(2019) で主張している「X をY に」と「X をY にして」は構造的に違うものだという議論に,主に「時」の解釈に関連した議論を追加している(5 節)。また,西垣内(2019) の主張のポイントのひとつは三宅(2011) 以来この現象についての研究で共通認識となっている,この構文と「指定文」との間の平行性がいずれも「関数名詞句」から移動によって派生することから由来する二次的な現象に過ぎないということであるが,本論文では,そのような平行性が成り立たないことを示す複数のケースを提出する。
著者
西垣内 泰介
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.151-169, 2018-03-05

本論文ではSells (LI 18, 1987) のいわゆる「主観表現」に関わる分析に関連し、Nishigauchi (JEAL 23, 2014) による「視点投射」(POV-projections) を含む統語構造の観点からの分析を提示する。本論文の分析では下位の視点投射が上位の視点投射の位置へ主要部移動し、それによって下位の視点投射の「一致」領域が広がることによって捉えられる言語現象を示す。さらに、「理由」「原因」という従来「非飽和名詞」と呼ばれているものを含む構文の中で見られる「視点」現象を考察し、「理由」「原因」などを「関係を表す名詞」と考えることで、まったく次元の異なる分析の展望が開けることを示す。
著者
池谷 知子
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.20, pp.35-59, 2017-03-05

統語的複合動詞「~出す」と「~始める」は、両方とも開始のアスペクトを表すものとして知られている。この2つは言い換えがきくものされてきた。先行研究ではこの2つの違いとして、「~出す」の方は「突然性」があるとされてきた。これまで、複合動詞の用法については、作例で検証されることが多かったが、本研究では「現代日本語書き言葉均衡コーパス(通常版)中納言BCCWJ-NT」を使うことによって、「~出す」と「~始める」の違いを、数量と実例を使った観点から明らかにしていく。そして、「~出す」と「~始める」の違いには、動詞の限界性と動作主のコントロール性という2つの要因が関与していることを論じる。そのことによって、「~出す」と「~始める」の表す開始のスペクトの違いを明らかにする。
著者
郡司 隆男
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究会
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.23-42, 2002-03-21

本稿は2001年11月11日に開かれた日本英語学会第19回大会シンポジウム (東京大学駒場キャンパス)「Constraint-Based Lexicalism」における発 表の概要である。制約に基づく語彙主義 (constraint-based lexicalism)の立場に立つ言語理論 にはいくつかの枠組があるが、本発表では主辞駆動句構造文法 (Head-Driven Phrase Structure Grammar---HPSG)をとりあげ、その特徴を概観した。特 に、最近の発展においては、相対的に平坦な音韻構造と階層的な統語意味構造と の関係を動的にとらえており、言語形式 (language form)と言語機能 (language function)の関係に新しい視点を導入していることを指摘した。
著者
松田 謙次郎
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-56, 2006-03-21

VARBRULプログラムは欧米の変異理論研究では一般的なフリーウェアだが、日本においてはVARBRUL登場後30年たってなお、その紹介が十分に成されているとは言い難い状況にある。本稿ではVARBRULの基本から、実際の使用法、そして現バージョンのVARBRULが持つ諸問題点を指摘するものである。
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.53-82, 2002-03-21

情報の構造化は、認知機構の処理する情報のエントロピーの減少として捉えることができる。情報が構造化されるにつれ、エントロピーが減少し、探索に必要な範囲が限定されていく。こうした認知機構の情報構造化過程を形式的に表現する方法の一つに、タイプ継承という手法がある。本研究は、主辞句構造文法 (HPSG) における音韻情報の構造と制約の相互作用を、タイプ継承という点から議論したものである。
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究i委員会
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.53-83, 2015-03-05

日本語の東京方言では、無声子音に挟まれた狭母音や語末にある狭母音がほぼ義務的に無声化を起こす。この無声化母音については、母音が残存しているかそれとも脱落しているのかという点で多くの議論がなされてきた。本稿では、日本語の母音無声化は音声学の観点からも母音脱落ではないことを主張する。また、この音声過程が素性指定やC/D モデルなどによって適切に説明できることを見る。
著者
池谷 知子/久津木 文
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.27-45, 2014-03-05

日本語を学ぶ外国人が苦労するものとして「日本語の中のカタカナ」が挙げられる。本研究では英語母語話者の日本語学習者55人に次の6組のカタカナ語と非カタカナ語の使い分けについての研究調査を行った。カテゴリー1 Bottle ボトルと瓶カテゴリー2 Brush ブラシと筆カテゴリー3 Glove グローブと手袋カテゴリー4 Potato ポテトと芋カテゴリー5 Tea ティーとお茶カテゴリー6 Ticket チケットと券その結果として以下のことがわかった。1. カタカナ語に関して、非カタカナ語に対応する語がなく「ペットボトル」「歯ブラシ」のように指示対象物の名称の中にそのカタカナ語が入っていれば、カタカナ語を選びやすい。2. 日本的なものは非カタカナ語、そうではないものはカタカナ語を選ぶ傾向がある。3. カタカナ語と非カタカナ語のどちらを使えばよいのか不明な場合、英語の母語の知識を生かして、それと対応するカタカナ語が選択されやすい。4. 日本語学習者は材料や形態など、独自の使い分けの基準を適用して判断することがある。5. 一般的に、カタカナ語と非カタカナ語の使い分けは辞書に書いていないことが多いことから、その情報にどのくらいアクセスできるかが習得の鍵になっている。KATAKANA words bring difficulties for foreign learners of Japanese, because it is hard to distinguish them from original English (or other foreign) words, and they may also have synonyms in Non-KATAKANA words.This study looks into 55 Japanese learners of native English speaker about choosing Japanese words in the following 6 categories that have a pair of words in KATANAKA and in Non-KATAKANA respectively.Category 1 Bottle: "BOTORU"/"BIN"Category 2 Brush: "BURASHI"/"FUDE"Category 3 Glove: "GUROBE"/"TEBUKURO"Category 4 Potato: "POTETO"/"IMO"Category 5 Tea: "THI"/"OCHA"Category 6 Ticket: "THIKETTO"/"KEN"In conclusion, Japanese learners of native English speaker have tendencies (1) to choose KATAKANA word, when KATAKANA is embedded with the name of object,(2) to choose Non-KATAKANA word, when it refers to Japanese traditional objects, (3) to choose KATAKANA word, if they are unsure of selecting, (4) to develop their own way to discern KATAKANA word and Non-KATAKANA word, (5) to learn the distinction between KATAKANA word and Non-KATAKANA word by having ample opportunities for Japanese language input.
著者
池谷 知子 久津木 文
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究会
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.27-45, 2014-03-05

日本語を学ぶ外国人が苦労するものとして「日本語の中のカタカナ」が挙げられる。本研究では英語母語話者の日本語学習者55人に次の6組のカタカナ語と非カタカナ語の使い分けについての研究調査を行った。カテゴリー1 Bottle ボトルと瓶カテゴリー2 Brush ブラシと筆カテゴリー3 Glove グローブと手袋カテゴリー4 Potato ポテトと芋カテゴリー5 Tea ティーとお茶カテゴリー6 Ticket チケットと券その結果として以下のことがわかった。1. カタカナ語に関して、非カタカナ語に対応する語がなく「ペットボトル」「歯ブラシ」のように指示対象物の名称の中にそのカタカナ語が入っていれば、カタカナ語を選びやすい。2. 日本的なものは非カタカナ語、そうではないものはカタカナ語を選ぶ傾向がある。3. カタカナ語と非カタカナ語のどちらを使えばよいのか不明な場合、英語の母語の知識を生かして、それと対応するカタカナ語が選択されやすい。4. 日本語学習者は材料や形態など、独自の使い分けの基準を適用して判断することがある。5. 一般的に、カタカナ語と非カタカナ語の使い分けは辞書に書いていないことが多いことから、その情報にどのくらいアクセスできるかが習得の鍵になっている。