著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
vol.135, pp.1-21, 2017-03-31

北海道庁が2015 年に公表した「科学的手法に基づくヒグマ生息数」はヒグマ生息数が爆発的に増加しているという結果となっている.この計算機実験に基づく推定結果について検討を加えたところ,断片的情報を基にしたシミュレーションであり,生息数の水準の根拠が希薄であること,生息数が安定する環境収容力が考慮されていないといった問題点があること,推定値の幅が広く信頼性の低い推定値であるということが判明した.ここで公表された生息数を基にヒグマの保護管理政策を推進した場合,北海道のヒグマは絶滅への道を辿ることが予想される.北海道のヒグマ保護管理計画は目標と手段の関係が調和していない政策であり,総捕獲数管理は個体数管理と本質的に変わらない補殺一方の政策である.北海道は政策の基本思想を根本から改める必要性がある.
著者
吉田 文久
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
vol.135, pp.23-40, 2017-03-31

本研究は,イングランドに残存する民俗フットボールの特徴,さらにそれらの変容について明らかにすることを目的とする. 筆者はこれまで,現地での調査をもとに,英国スコットランドに残存する民俗フットボールの特徴をその多様性と類似性の視点から整理し,公表してきた.そして,イングランドに残存する10 箇所のゲームを調査し終えたことから,本研究では,スコットランドのゲームの整理と同様の視点,手続きを用いて,イングランドに残存するゲームの多様性・類似性,そして,それらの変容について考察した. その結果,①イングランドに残存する民俗フットボールには,いくつかのゲーム間に類似部分はあるものの,スコットランドのような共通性は乏しく,その町や村に独自の形で存続している②メディアにも取り上げられ,プレイヤーも数百人に及ぶゲームがある一方で,セレモニーだけを残すという形骸化したゲーム,そして消滅の可能性を予期させるゲームがあり,存続のために担い手の確保が課題となり,そのための策に苦慮している ③スコットランド同様に,イングランドに残存するゲームは,過去のゲーム様式を存続させることに固執することなく,近代化に順応しながらゲームを変容させることで,生き残りを図っている ④ただし,ゲームは変容しながらも,従来の伝統的な様式を守り続けるゲームから近代的要素を多く取り入れたゲームまで存在することから,イングランドに残存する民俗フットボールは現在多様な姿で存続しているということが明らかになった.
著者
柿沼 肇
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.67-97, 2018-09-30

「戦後」開始されるようになった教育運動史の本格的・組織的研究を担ったのは新教懇話会(1958 年1 月正式発足)とその発展として改組された教育運動史研究会(1968 年8 月発足)である.この両組織の活動によって,運動史研究は大きな前進を遂げたが,90 年代に入ってしばらくする頃から低調になり始め,中頃には会自体が「開店休業」状態に陥ってしまった. その研究会がやり残した課題はいくつかあるが,その一つが『「教労」・「新教」教育運動史事典』の編纂事業である(註・「教労」とは日本教育労働者組合,「新教」は新興教育研究会のこと,ともに前史および後継の運動を含む).そしてその『事典』の執筆項目の一つに「新教・教労の運動と弾圧機構」というのがあり,柿沼が執筆者ということになっていた.今回この小論を本誌に執筆しようと思いたった動機の一つはその時の「宿題」をいくらかでも果たさなければという思いがあったからである この小論では全体を大きく二つに括り,Ⅰを「戦前」日本の教育史,Ⅱを「戦前」社会運動,教育運動に対する「取締り・弾圧」機構,とした. Ⅰでは,『戦前』日本の社会と教育についてその内容を概略したあと「『戦前』日本教育の帰結とその教訓 教育(教師)の戦争協力と戦争責任」と題して以下の事柄を論じた. (1)日本教育の天皇制軍国主義的体質 (2)教育における「戦争責任」の払拭 -「空振り」と「免罪」 (3)「戦後」社会の中で -二度のチャンスを生かせず Ⅱでは (1)代表的な「取締り・弾圧」法令(33 項目と関連法令22 項目を列挙,一部に短いコメントを付す) (2)「取締り・弾圧」機構(情報収集,思想統制,世論形成等を含む.24 項目.各項にやや長めの解説を付す) なお,Ⅱでは時間をかけて膨大な資料・参考文献を収集したが,まだまだ目を通すことの出来ないままのものがかなり残されている.またこれまでの作業で新たな課題や問題意識も生まれてきている.そこで今回は,この「表題」での本格的な論文執筆のための「第一次作業」と位置づけて,題名のアタマに「研究ノート」と付すことにした.
著者
岡田 徹
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.1-39, 2018-09-30

本稿の課題は,森有正というわが国では稀有の思想家,哲学者から筆者が聴きとった《内なる響き》 森有正のレゾナンス を手がかりに,「福祉と開発の人間的基礎」を考究することにある. ここ【後篇】では「人間が人間になる」という根本命題を,森有正自身が呈示する次の5 つの事象ないし事態をとおして読み解き,われわれ自身の生きる問題として考えた.すなわち,1 つは「《人間》の誕生は終っていない」,2 つは「ギリシャの美 感覚の純粋性」,3 つは「自分を超えている運命にたどり着く」,4 つは「自己が自己に還る一つの姿」,5 つは「人間が内面的に到り着く普遍」がこれである. そしてそこから引き出された知見や智慧の精華は,一言でいえば,こうである. 私たち人間は,一人ひとり自分で「人間が人間になる」,すなわち《固有-普遍》のいのちの存在にならなければならない,と. このことを,本稿の主題である「福祉と開発の人間的基礎」に関説すれば,こうなる. 私たち人間は,一人ひとり「《固有-普遍》のいのちの存在になる」こと,そしてそれを促すような「福祉と開発」を志向することが求められている,と. 「福祉と開発の人間的基礎」の核心を衝く,森有正の「人間が人間になる」という根本命題から,福祉と開発が学ぶことは,決して小さくはなかった.
著者
福田 静夫 Shizuo Fukuta
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.131, pp.45-161, 2015-03

新カント派哲学,「世界文化」事件,「真理」,「治安維持法」,「弁証法」と「全体性の方法」,「教育勅語」,「種の弁証法」,ファシズムの論理,あるべかりし「戦後」,「戦争責任」と哲学
著者
西島 千尋
出版者
日本福祉大学
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.129, pp.1-26, 2014-03-31

音楽受容研究において,西洋音楽中心主義的な時代の大多数の人々は「聴衆」とみなされてきた.ラジオやレコードなどの文化産業が興隆すると,大多数の人間が意志や好みを持たずメディアに踊らされる「消費者」とみなされるようになる.20世紀後半には,カルチュラル・スタディーズの流れのなかで,ただ消費するのではなく,取捨選択して音楽を選ぶ「消費者」が注目されるようになる.そこに近年,新たな消費者像が誕生している.それが「ユーザー」である.その契機となったのは,音楽のデータ化およびインターネットの普及であった.近年の日本の音楽関連研究は,ネットおたくを中心とした「ユーザー」への関心が高い.日本では「ユーザー」が「ネットおたく」と同義で使用される場合も多いからである.しかし,音楽のデータ化やインターネットにより,音楽に携わるのは匿名を基本とするネットおたくだけではない.新たなユーザー層は,さまざまにインターネットや動画共有サイトを使用し,さまざまな意義を見出している.そこで本論文では,アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイスで行ったフィールドワークで得た情報をもとに,ソウル・ラインダンスの事例を取り上げる.アメリカ合衆国で急速に人気が高まっているソウル・ラインダンスは,黒人の「伝統」のダンスであると認識されながらも,パソコンやインターネットの普及と共に新たな活動の様相を呈している.ソウル・ラインダンスの事例を記述することで,音楽のデータ化およびインターネットの普及による音楽と人間との関係性の変化に着目したい.
著者
玉木 博章
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.144, pp.75-106, 2022-03-31

本稿では 2010 年代に絶大なる人気を博していた AKB48 の歌詞を解釈し,特に「歌詞に共感する」という心理的メカニズムについて,教育学,音楽社会学,心理学,メディア論,若者論といった多角的な知見を援用して分析した.また,その過程において AKB48 の歌詞解釈に関する主たる先行著述者であった宇野常寛の論を批判的に検証することで,AKB48 の歌詞の性質について明らかにし,最終的に宇野の思想に則りながら歌詞を享受していくことがどのような危険性を孕んでいるのか,教育学的な見地から警鐘を鳴らした.AKB48 の歌詞は,自己世界への読み替えが起こりうる構造を示しており,そのことによって歌詞に共感することが,反ってリスナーであり対人関係に悩みやすい子どもや若者をいっそう孤独にしてしまう恐れがあり,宇野の思想はそうした状況を助長させかねないため,外の世界と繋がり,他者の存在を意識していくことが重要であると帰結した.
著者
小坂 啓史
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.144, pp.63-73, 2022-03-31

本稿ではケアが行われている状況について,当事者たち(ケアの「受け手」と「担い手」)の経験として記述することをめざした.まず「動機の語彙論」を参照,ケアの動機はその根拠としてだけでなく,規範という側面をもつことも確認した.そうした当人の外部にある規範の存在から,環境の側からもケアがもたらされることが示唆された.そこで,環境がもたらす意味・価値であるアフォーダンスの視点により,ケアの場面にアフォードされる知覚的経験からもその状況が描きうることを確認,改めて「受け手」「担い手」それぞれからみた状況について述べた.「受け手」は,生命維持とそれを知覚する身体と,環境との関係で行為し知覚する身体それぞれの側面にわけてとらえられ,苦しみにより前者が後者を圧倒し自己の存在不安に陥る.「担い手」は「受け手」にアフォードされて探索的接触を行うが,その場面で応答=責任関係による倫理性がうまれ,「受け手」にとって「担い手」の実在を実感し,自身のそれをも取りもどすことになりうることを述べた.
著者
岡田 徹
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
vol.136, pp.93-126, 2017-09-30

本稿では,「福祉と開発の人間的基礎」を,森有正というわが国では稀有の思想家,哲学者の人間思索をとおして考究した. 「福祉と開発」だけであれば,もとより森有正の出る幕はない.が,ここでは《人間的基礎》の方に力点が置かれているので,人間思索は欠かせない.ここに取りあげた森有正は,《感覚-経験-思想》という独自の思惟の道筋を辿たどって人間の生成と存在について思索と省察をかさね,多くの作品4 4を生み出した. ここでは具体的に「人間が人間になる」という,森有正の根本命題を読み解きながら「福祉と開発の人間的基礎」,わけても《人間的基礎》に当たるものが何であるかを考究した.そしてそこから引き出された知見や智慧は,こういうことであった. -すなわち,福祉も開発も元々「人間に始まり人間に終わる」,すぐれて人間的な事実であり事象である.そうである以上,「福祉と開発」を人間事象に還元し,そして人間の在り方や生き方の問題として捉え直す必要がある.それも人間一般ではなく,一人ひとりの人間(人格)の《固有-普遍》のいのち4 4 4と存在4 4を,「福祉と開発」の中に定位させることである.その上でそれを促すような「福祉と開発」を志向することである,と. 「福祉と開発の人間的基礎」の核心を衝つく,森有正の「人間が人間になる」という命題から福祉や開発が学ぶことは決して小さくはなかった.
著者
片山 善博
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.142, pp.63-78, 2021-03-31

これまで,さまざまに検討がなされてきた社会福祉の理念(人権,尊厳,社会正義など)を考える上で,「人格」あるいは「主体」概念は重要な役割を果たしてきた.しかし,この概念は,その曖昧性から,抽象的・形式的,あるいは人間の選別につながるなど,社会福祉の領域だけでなく,さまざまな領域から批判を受けてきた.本論の目的は,これらの批判を踏まえ,人格概念再構築を通じて,社会福祉の諸理念を具体的に考察することである.そのために,ヘーゲル法哲学で展開されている人格論を参照する.ヘーゲルは,人格を個人に内在する理性や意志に還元することなく,身体や,生命,倫理的なものと関連づけて捉えている.このような視点から社会福祉の諸理念を改めて検討し,社会福祉の理論に貢献できる論点を示していく.
著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.135, pp.1-21, 2017-03

北海道庁が2015 年に公表した「科学的手法に基づくヒグマ生息数」はヒグマ生息数が爆発的に増加しているという結果となっている.この計算機実験に基づく推定結果について検討を加えたところ,断片的情報を基にしたシミュレーションであり,生息数の水準の根拠が希薄であること,生息数が安定する環境収容力が考慮されていないといった問題点があること,推定値の幅が広く信頼性の低い推定値であるということが判明した.ここで公表された生息数を基にヒグマの保護管理政策を推進した場合,北海道のヒグマは絶滅への道を辿ることが予想される.北海道のヒグマ保護管理計画は目標と手段の関係が調和していない政策であり,総捕獲数管理は個体数管理と本質的に変わらない補殺一方の政策である.北海道は政策の基本思想を根本から改める必要性がある.