著者
小平 英志
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.136, pp.1-14, 2017-09

Correlations and causal relationships among undervaluing others, self-formation, and self-change in Japanese university students were investigated. In Study 1, university students( n=163) completed scales that assessed undervaluing others, self-esteem, sense of self-formation, and intention for self-change. Results indicated a significant negative correlation between undervaluing others and imitation-oriented self-change defined as the will to change and agree with close others. This result was replicated in Study 2 with a different sample of undergraduates (n=298). Moreover, in study 3, structural equation approach with cross-lagged models and synchronous effects models were conducted on oneyear longitudinal data (n=161). Results suggested a significant covariance between undervaluing others and imitation-oriented self-change at Time 1. However, there were no significant causal effects among these variables. The meaning of undervaluing others in the development of young adults was discussed.
著者
柿沼 肇
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.67-97, 2018-09-30

「戦後」開始されるようになった教育運動史の本格的・組織的研究を担ったのは新教懇話会(1958 年1 月正式発足)とその発展として改組された教育運動史研究会(1968 年8 月発足)である.この両組織の活動によって,運動史研究は大きな前進を遂げたが,90 年代に入ってしばらくする頃から低調になり始め,中頃には会自体が「開店休業」状態に陥ってしまった. その研究会がやり残した課題はいくつかあるが,その一つが『「教労」・「新教」教育運動史事典』の編纂事業である(註・「教労」とは日本教育労働者組合,「新教」は新興教育研究会のこと,ともに前史および後継の運動を含む).そしてその『事典』の執筆項目の一つに「新教・教労の運動と弾圧機構」というのがあり,柿沼が執筆者ということになっていた.今回この小論を本誌に執筆しようと思いたった動機の一つはその時の「宿題」をいくらかでも果たさなければという思いがあったからである この小論では全体を大きく二つに括り,Ⅰを「戦前」日本の教育史,Ⅱを「戦前」社会運動,教育運動に対する「取締り・弾圧」機構,とした. Ⅰでは,『戦前』日本の社会と教育についてその内容を概略したあと「『戦前』日本教育の帰結とその教訓 教育(教師)の戦争協力と戦争責任」と題して以下の事柄を論じた. (1)日本教育の天皇制軍国主義的体質 (2)教育における「戦争責任」の払拭 -「空振り」と「免罪」 (3)「戦後」社会の中で -二度のチャンスを生かせず Ⅱでは (1)代表的な「取締り・弾圧」法令(33 項目と関連法令22 項目を列挙,一部に短いコメントを付す) (2)「取締り・弾圧」機構(情報収集,思想統制,世論形成等を含む.24 項目.各項にやや長めの解説を付す) なお,Ⅱでは時間をかけて膨大な資料・参考文献を収集したが,まだまだ目を通すことの出来ないままのものがかなり残されている.またこれまでの作業で新たな課題や問題意識も生まれてきている.そこで今回は,この「表題」での本格的な論文執筆のための「第一次作業」と位置づけて,題名のアタマに「研究ノート」と付すことにした.
著者
川村 潤子
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.140, pp.69-80, 2020-03-31

2019 年7 月3 日,中学3 年生の男子生徒がマンションから転落し,自らの命を絶った. この事件は,そもそも女子生徒がクラス内のいじめを疑い,担任にメモを渡して訴えていたのだが,事件発生後,そのメモはすでにシュレッダーにかけられていたという事実が発覚した.いじめの事件が起こるたび,「あなたのクラスでいじめがあった場合どのように対処しますか」という教員採用試験の面接での問いが頭を巡り,答えを見つけたいと考え続けている. 街の書店で売られている「教員採用試験 面接試験の攻略本」には,いじめに関する問いの模範解答が示されてもいる.しかし,本当に「教員採用試験 面接試験の攻略本」で記されていることでいじめが解決されるのであろうか.本論は筆者自身や教員関係者等の体験をもとに教育現場におけるいじめ問題について考え,筆者なりの提言をしたものである.
著者
岡田 徹
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.71-105, 2018-03-31

本稿では,「福祉と開発の人間的基礎」を,森有正というわが国では稀有の思想家,哲学者の人間思索をとおして考究した. ここ【中篇】では,この人間思索をさらに具体的に《感覚-経験-思想》という思惟の道程に沿って考えてみた. 森有正の場合,人間思索は,感覚をその最初の一歩として,《感覚-経験-思想》という道程を辿って深められる.この道程は,実に興味深いことであるが,渡仏後,森有正自身が歩んだ実生活上の道そのものであったことである. 先ず「感覚」については,ここでは感覚の純化である「純粋感覚」に特化して討究した.森有正や,森有正が兄事する彫刻家の高田博厚はこの純粋感覚に,精刻な言葉を与えて肉薄している.ここは「圧巻!」である. 次に「経験」は,森有正哲学の中枢概念にあたる.森有正は経験を,「感覚が純化し,自己批判を繰り返しつつ堆積し,そこに自己のかたちが露われて来る」ものであるとする. 最後の「思想」の段階に到って,すなわち「経験」を言葉で定義する段階で,森有正の筆はピタッと止まる.「実を言うと私は絶望的である」と苦しい胸の裡を明かして,「思想と経験」-「これはいわば哲学者としての絶頂を示す仕事である」とまで言い切っていた,深い思い入れのある「経験と思想」論文を途中で投げ出してしまう. そして思弁的な論議を脱し,踝を返して《感覚-経験-思想》の原質である「純粋感覚」へと立ち戻り,オルガン演奏に没入して《生きて在る》ことそのことへの斜度を深めてゆく.人間思索の深まりとともに,森有正の根本課題「人間が人間になる」ことが少しずつ象を顕わしてくる.
著者
宮本 敬子
出版者
日本福祉大学
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.127, pp.25-51, 2013-03

18 世紀ドイツ啓蒙思想には大別して二つの潮流が存在する.「第一の啓蒙」は,言論の自由を重視し,「理性」以外のいかなる権威にも屈せず,物に光を当ててすみずみまで観察するようにあらゆる物事を「自分で」考察し理解を深め,科学的観点から真理の探究を試みるものとしての啓蒙である.「第二の啓蒙」は,出自こそ第一の啓蒙と同じだが,徐々に国民国家を形成する方向へ進展したプロイセンに特有の,端的には「官製の」ともいうべき啓蒙である.第二の啓蒙は,それまで聖職者が司っていた社会規範や教育を国家が主導すべく奪取した際に利用され,紀律的軍隊的規範の構築を助けるものとなった.第一の啓蒙は「世界」における正しさを探求し,第二の啓蒙は「国民国家」形成の足がかりとなった.この二つの啓蒙は18 世紀末のドイツにおいて併存し,両者の均衡に心を砕いた思想家も多数存在した.しかし,18 世紀最後の10 年間から19 世紀の初頭にかけて,第一の啓蒙が要請した世界市民思想や,これに連なるイマヌエル・カントの「理性の公共的使用」のような思想は「現実的ではない」として否定され,これが自国の弱体化をもたらしたとさえ考えられるようになる.さらに時代が下ると,歴史家が第一の啓蒙の意義を隠蔽するかのような議論を展開する.こうして第一の啓蒙は思想史的に埋没し忘却されていった.本論文は,最終的にイマヌエル・カントの世界市民思想に結実する「第一の啓蒙」に関する論考である.そして,ドイツ語の「アウフクレールング」を「啓蒙」と訳すことで生じる問題について考察した.日本語の「啓蒙」は「第二の啓蒙」に相当し,「第一の啓蒙」を説明する語としては適切でないためである.さらに論文の後半では,第一の啓蒙が後世の研究者によって埋葬される様子を描いた.
著者
片山 善博 Yoshihiro Katayama
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.131, pp.1-16, 2015-03

遺族が故人とのつながりを維持することがグリーフケア(特に遺族のケア)にとって重要であるという研究が様々な課題を抱えながらも主流になりつつある.とはいえ,遺族の個人に対する関係は一方的なものである.近年の承認論の研究では,自己と他者との間の承認関係が自己の成り立ちやアイデンティティにとって極めて重要であることが指摘されている.従って,遺族が故人との承認関係を維持するためには,故人が他者の地位にあることが望ましいことになる.遺族ケアの課題として,できるだけ双方向的なつながりを維持できるための故人の他者化が必要である.しかし,故人はいわゆる実在する他者ではない.そこで本論では,どのような他者化が可能なのか,また双方向的なつながりの維持のために何が必要なのかを考察した.精神的な他者化を推進する個別的なケアと同時に,こうした関係を安定的に維持させる社会・文化的な価値の創造が必要であると結論づけた.死別,遺族,悲嘆,ケア,承認
著者
井上 准治
出版者
日本福祉大学
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.127, pp.1-24, 2013-03-31

この作品は,近代英国の自立の初期的段階におけるヘンリー八世の国王としての資質の獲得過程を,あえて理想化して描こうとするものである.それは,ジェームズ一世が即位して10 年経った時点で,すでに神格化が起こっているエリザベス女王の繁栄と栄光の時代に対する観客の郷愁的幻想に繋いで,ことさら豪華な仕立ての舞台で試みられる.しかし,一方で,極めて下世話な民衆的,祝祭的笑いのエピソードによる権力闘争のパロディーや,王の離婚問題におけるセクシュアリティの意義のほのめかしによって,価値逆転を起こしたり相対化する視点も提供するものである.本稿は,このような文脈の中で,有力貴族のバッキンガム公と成り上がりの実力者のウルジー枢機卿の間で争われる主導権争いや,王の離婚・再婚問題の劇的過程とその歴史的意味を考察するものである.
著者
二木 立
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.107-130, 2018-03-31

私は,日本福祉大学に在職中,医療経済・政策学の視点から,政策的意味合いが明確な実証研究と医療・介護・福祉政策の分析・予測・批判・提言の「二本立」の研究・言論活動を行った.その際,現実の医療と医療政策の問題点を事実に基づいて明らかにするだけでなく,医療制度・政策の改善に多少なりとも寄与しうる研究や提言も行うように努めた.ここで「医療経済・政策学」とは,「政策的意味合いが明確な医療経済学的研究と,経済分析に裏打ちされた医療政策研究との統合・融合をめざし」て,新たに考えた造語・新語で,私も編集委員となって2000 年代初頭に刊行した『講座 医療経済・政策学』(勁草書房.全6 巻)で初めて用いた. 在職した33 年間に,単著23 冊,単著に準ずる共著2 冊の合計25 冊等を出版した.第1 節では,それらの出版順に,概説及び各著書に収録した論文のうち,学術的価値が高いか先駆的で歴史的意義があると自己評価している論文,または私にとって「思い出深い」論文を紹介する.第2 節では,日本医療の将来予測を行うために考案した3 つの分析枠組み・概念について述べる.