著者
宮嵜 麻子
出版者
東洋大学人間科学総合研究所
雑誌
東洋大学人間科学総合研究所紀要 (ISSN:13492276)
巻号頁・発行日
no.21, pp.225-241, 2019-03

古代イベリア半島には、多様な先住民が生きていた。彼らの文化は、ローマ帝国の統治下でローマ文化に統合されたと考えられている。それは、彼らが固有の世界を捨て、ローマ帝国の民となったことを意味する。本稿はこの文化的統合が進んだプロセスを究明するための予備的な作業である。第一に、イベリア半島研究がローマ帝国形成過程の理解にとって、重要であることを示す。この半島に設置された属州ヒスパニアにおいて、ローマ帝国は帝国統治体制を確立したからである。第二に、文化的統合のプロセスを、「ローマ化」という表現で検討することの有用性を示す。次いで、ローマ化のケーススタディとして、半島南部の都市コルドバを取り上げることが適切であることを述べた上で、最後にコルドバの起源の概観から、この都市の住民の多くが先住民出自であったことを明らかにする。こうして、コルドバのローマ化を検討するにあたっては、先住民出自の人々の立場ならびに行動とその動機を検討する必要があることが明らかとなり、コルドバ研究の方向性が定まることになる。
著者
赤松 淳子
出版者
東洋大学人間科学総合研究所
雑誌
東洋大学人間科学総合研究所紀要 = The Bulletin of the Institute of Human Sciences,Toyo University (ISSN:13492276)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.255-269, 2019-03

The historiography of eighteenth-century adultery has developed through studies focusing on the law and on the roles of gender and the media. They reveal a process of gradual sexual liberation and also a persistent sexual double standard, but the question of how women facing marital breakdown developed a sense of their matrimonial rights, both in and outside thecourts, has not yet been discussed. This article critically examines the relevant studies since the 1980s and suggests that future studies should broaden their perspective by taking into account private negotiation, the role of family, and women’s self-representation in the media.
著者
SCHULMAN Michael
出版者
東洋大学人間科学総合研究所
雑誌
東洋大学人間科学総合研究所紀要 (ISSN:13492276)
巻号頁・発行日
no.21, pp.13-25, 2019-03

新聞やニュース関係のウェブサイトに掲載される論説や意見記事は書き手の意見を伝える有効な手段であり、グローバリーゼーションが進みインターネットが普及した現在において、世界中の人々のものの見方や考え方を知る手がかりとなる。本文は、論説の書き方に関する既存の文献を紹介し、容易とは言えない本格的な論説を書くための最初のステップとして、新しいタイプのパラグラフである論説パラグラフ(OAP/Opinion Article Paragraph)を書くための枠組みをEFL の学生に示すものである。学生の提出物はチェックリストを用いて評価され、さらにリサーチすべき分野が示される。
著者
五十嵐 由香
出版者
東洋大学人間科学総合研究所
雑誌
東洋大学人間科学総合研究所紀要 (ISSN:13492276)
巻号頁・発行日
no.21, pp.213-223, 2019-03

Upon release, a comedy film presenting Adolf Hitler in the leading role, Look Who's Back (Er ist wieder da, dir. David Wnendt, 2015), caused a worldwide sensation. The idea of featuring Hitler as a comic figure is immediately associated with Charles Chaplin's The Great Dictator (1940) produced during the World WarⅡ.While Hitler is the object of laughter, it appears that the comedic effect is induced more by the settings of each film. The goal of this paper is to examine the representation of Hitler in each film created in different periods in modern history and compare the ways in which they induce laughter.2015年にデヴィッド・ヴェンドが製作したドイツ映画『帰って来たヒトラー』は、タブー視されてきたヒトラーを喜劇映画の主人公にしたことにより、世界中で話題となった。この映画のワンカットにも挿入されているのだが、ヒトラーそっくりに、ドイツ語もどきの言葉を使って演説をする喜劇映画といえば、1940年のチャップリンの『独裁者』がすぐに思い浮かぶ。『独裁者』もまた、当時全盛期のヒトラーを扱った喜劇映画ということで公開前から話題となっていた。戦時と戦後という時代を隔てたこの二つの映画において、独裁者ヒトラーはどのように表象されているだろうか。本稿では、独裁者に対して起こる笑いが、映画に内在する二つの背景のコントラストから生じていることをそれぞれの映画の中に探りだし、笑いの中に見えてくる独裁者の表象を比較する。