著者
宮川 幸子
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.25-39, 2021-03-15 (Released:2022-12-01)

本論文は、中国シャオミの事例研究に基づき、後発のスタートアップ企業の短期的な成長の原動力となったユーザーイノベーションの独創的な仕組みについて考察したものである。シャオミが、後発だったにもかかわらず短期間で急速に成長できた理由は、複数のコミュニティに属するリードユーザーが各コミュニティに属する人々の情報を集約する仕組みを作ったことにより、持続的にコミュニティへのアク セスと製品の機能向上が進み、リードユーザーのロイヤルティ向上とともに新規顧客獲得の促進につながった結果、短期間に大量の顧客を獲得できたからであった。そこでは企業が一般ユーザーに直接アプローチするのではなく、リードユーザーに一般ユーザーのコミュニティを活性化させ、そこで生まれた情報を、リードユーザーを介して企業に還流させるという間接的マネジメントが行われていた。
著者
品田 誠司
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.57-72, 2021-03-15 (Released:2022-12-01)

近年、優れたアイデアを実行に移すために、クラウドファンディングが資金を集める手法として重要視されている。スタートアップを中心に我が国においても重要なファイナンス戦略として認められつつある。しかし、従来からこのシステムについてはその根幹に「共感」を置き、どのように支援を集めるか、といった分析が主であり、クラウドファンディングと実施後の製品開発との関連性が明らかではなかった。本稿では、特に複数回の購買型クラウドファンディングを成功させた企業事例を取り上げて検討を行った。その結果、1)共感を中心としつつもテストマーケティングに移行していること 2)支援者間のソーシャルキャピタルが複数回の実施には重要であること3)資金が集まった後のプロジェクトのその後と製品開発には、支援者間のソーシャルキャピタルが大きく影響をしている可能性があること、が明らかとなった。
著者
伊藤 智明 足代 訓史 山田 仁一郎 江島 由裕
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.15-29, 2016-03-15 (Released:2020-09-12)
参考文献数
39
被引用文献数
1

本稿は、企業家による事業の失敗に対する意味形成プロセスとその成果を、省察的対話における語り直しとスキーマの更新に着目して解明することを目的とした探索的な単一事例研究である。ベンチャーの廃業前後の研究者との対話の逐語記録を分析対象とした継時的な分析の結果、二つのことが明らかになった。第一に、事業の失敗に対する意味形成過程における、企業家の批判的省察や危機の対処行動を促す他者の役割である。第二に、事業の失敗の原因に関する自責と他責の選り分け方の変更、および、他者の視線に気づきそれへ配慮できるようになったことが、意味形成過程の成果となっていたことである。これらから示唆されることは、事業の失敗に伴う負の感情を制御するための企業家の省察的実践の働きと、企業家の判断基準の変更を前提にした理論構築の必要性である。
著者
木村 隆之
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.47-59, 2015-03-15 (Released:2020-09-12)

近年、まちづくり研究において、企業家概念を基軸とした「ソーシャル・イノベーション」研究による理論構築が注目されている。それら既存研究は、地域の既得権益者(ステイクホルダー)を動員するために、「利害の結び直し」の分析を行う。そこには、認知的正統性に基づく価値共有と社会的正統性に基づいたイノベーションの普及を重要視し過ぎたことで抽象レベルでの統合のみの議論となっており、再現可能性の低い記述モデルとなっている。そこで、本論文では、まちづくりとは社会企業家による資源の新結合であるという分析視座に立ち、新しい価値によるアリーナの構築と、「利害の結び直し」の起点に物質的存在を介した事業の作り込みというモデルを提唱する。 このことを経験的に実証する事例として、株式会社黒壁と株式会社北九州家守舎による地域再生事例を検討する。そこでは、「遊休不動産」という物質的存在により、ステイクホルダーの資源動員を可能にし、地域再生事業を実現させていた。
著者
平田 博紀
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.45-58, 2020-09-15 (Released:2022-01-12)

スタートアップのエクイティファイナンスにおける起業家と投資家の最大の関心事は、資金調達(出資)後の株式持分にある。それぞれの株式持分は、起業家と投資家間の交渉により決定するPre-Money Valuationに影響を受ける。本稿では、多くの国内の起業家にとって大きなハードルとなっている最初のエクイティファイナンスを舞台に、どのような起業家、投資家がPre-Money Valuationの決定において交渉力を有するのかを検証している。分析の結果、投資家に対して強い交渉力を有する起業家には斯業経験があることが明らかとなった。また、起業家に対して交渉力を有する投資家として、国内の民間の独立系VCや事業会社、エンジェル投資家といった存在が確認された。
著者
品田 誠司
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.43-57, 2013-09-15 (Released:2019-04-26)

災害後に経済成長が発生する理由については様々な仮説が唱えられているが、本稿では被災した大都市で起業家が増加する現象とその理由を考察する。この問題について東日本大震災で被災した仙台市を手がかりに、3つの側面からそのメカニズムを検討する。第1に、震災に伴う経済的諸要因により震災後の仙台市で起業家が増加している側面を検討する。第2に、災害に伴って向社会的行動による起業動機の増加が発生していることを明らかにする。第3に、災害に伴う起業志望者の社会的ネットワークの拡大、それに伴う社会的ネットワークの高付加価値化という側面を検討する。以上のように本稿では、経済的側面、心理的側面、社会的ネットワーク側面が複合的に作用し、災害後の大都市で起業活動が増加したと主張する。
著者
久保 吉人
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.47-61, 2018

本稿は、高級扇風機と呼ばれる新市場形成を、ほぼ同時期に成し遂げた家電ベンチャー企業2社の事例研究を通じて、次のようなことを明らかにした。両社の共通点は、「風の質感」改善のために、羽根車やモータを「新技術」へ置換することで、高級扇風機という製品カテゴリーを創出した点にある。その中で、2つの企業のデザインに対する思考には、次のような違いがあった。バルミューダは、新しい多翼二重構造の羽根開発に成功したにもかかわらず、「実用性への考慮」から既存の扇風機の外観デザインに固執した。しかしながらダイソンは、空気誘引技術を採用し、外観から羽根車を排除することに成功、羽根のない扇風機という「意味の急進的な変化」においてドミナントデザインには従わなかった。また本稿は、成熟市場での新市場形成プロセスにおいて、同じ戦略を採用した両社のその後の経営成果についても分析を行った。その結果、市場参入時にドミナントデザインに従ったか否かは、新市場形成には関係が無かった。しかし、その後の製品展開が異なることを明らかにした。
著者
金井 一賴
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.3-13, 2012-09-15 (Released:2019-04-21)

本稿は、企業家活動の視点から地域イノベーションとしてのクラスターの形成・展開について検討することを目的としている。まず、多様な企業家活動の概念を再検討し、相互に関連づけ、それを踏まえて地域やコミュニティ再生の鍵とされている地域イノベーションの議論を検討する。伝統的企業家活動研究においてはほとんど議論されることなく軽視されてきた新結合の一つである組織の創造が、社会企業家や市民企業家という新しい企業家活動の議論のなかでプラットフォームという形で取り上げられ、分析されていることを指摘する。そして、企業家活動を新企業や新事業創造の企業家活動(企業家活動Ⅰ)とプラットフォーム(企業家プラットフォーム)創造の企業家活動(企業家活動Ⅱ)の2つのタイプに分けることによって、2種類の企業家活動のダイナミックな相互作用と連鎖(企業家活動のミクロ-メゾループ)を通じて、地域イノベーションとしてのクラスターの形成・展開を統一的に分析できることを示す。
著者
久保 吉人
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.47-61, 2018-03-15 (Released:2020-09-12)
参考文献数
49

本稿は、高級扇風機と呼ばれる新市場形成を、ほぼ同時期に成し遂げた家電ベンチャー企業2社の事例研究を通じて、次のようなことを明らかにした。両社の共通点は、「風の質感」改善のために、羽根車やモータを「新技術」へ置換することで、高級扇風機という製品カテゴリーを創出した点にある。その中で、2つの企業のデザインに対する思考には、次のような違いがあった。バルミューダは、新しい多翼二重構造の羽根開発に成功したにもかかわらず、「実用性への考慮」から既存の扇風機の外観デザインに固執した。しかしながらダイソンは、空気誘引技術を採用し、外観から羽根車を排除することに成功、羽根のない扇風機という「意味の急進的な変化」においてドミナントデザインには従わなかった。また本稿は、成熟市場での新市場形成プロセスにおいて、同じ戦略を採用した両社のその後の経営成果についても分析を行った。その結果、市場参入時にドミナントデザインに従ったか否かは、新市場形成には関係が無かった。しかし、その後の製品展開が異なることを明らかにした。
著者
芦澤 美智子
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.15-24, 2012-09-15 (Released:2019-04-21)

企業買収は企業が成長を遂げるにあたっての有効な手段の1つである。昨今の経済状況を反映して買収対象企業の多くは再生が必要なものであり、買収後の企業再生の成功要件を明らかにすることは実務的にも学術的にも意義あることと言える。しかしながら、企業再生の戦略研究は約30年の歴史があるものの未だに明らかになっていないことが多い。本論文では買収後の企業再生戦略の理解を深めるために、日本電産が手掛けた企業再生の4事例を用いて分析を行う。その分析にあたっては、企業再生戦略の先行研究を踏まえ、そこにケイパビリティ・パースペクティブの観点を導入する。これにより買収後に行われる企業再生をいかに成功に導くかの理解を深め、また、今後の企業再生の戦略研究発展の土台となる分析視点を提示することを目的とする。
著者
角田 隆太郎 常川 智弘
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.105-119, 2013-09-15 (Released:2019-04-26)

本稿では、名古屋市で創業し、葬蔡業においてイノベーションを起こしたティア社の事業を、既存企業と比較し、分析を行う。サービスのイノベーションには、新たなサービスの開発によるものと、サービスの内容はこれまでと大きな違いがないが、それを新しい事業システムによって展開する「事業システムのイノベーション」がある。ティアは、葬蔡業において、「事業システムのイノベーション」を起こした企業である。本稿では、既存企業とティアの事業システムの違いを、財(サービス)、資本、労働、情報の取引の観点から分析を行う。企業家の輩出やイノベーションの生起の頻度、その受容と普及の速度については、地域間で大きな差異が存在する。日本の多くの地域では、企業家の輩出が停滞し、イノベーションが生起しにくい状況となっているが、そのような地域においても、「事業システムのイノベーション」の可能性が存在することを、ティアの事例から提示する。
著者
江島 由裕
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.21-30, 2008
被引用文献数
1

本稿では新事業開発を通じて発展を目指す中小企業の生存決定要因を戦略・マネジメントの視点から分析している。分析には、郵送アンケート調査と電話調査で収集した1233社の企業の質的データを用いた。その結果、7つの生存決定要因が特定された。 そこでは、業界状況を熟知してコスト競争に巻き込まれず競争優位に戦える顧客ルートや小さな市場の選択が重要な要因として抽出された。企業家的な経営姿勢より堅実なマネジメント要素が際立った。一方、若い企業の場合は2要因が特定された。競争者より早く新商品をマーケットに導入する企業家的経営姿勢が生存の重要な鍵を握っていた。また、危険水域を脱した成長企業が失速・消滅せず存続するには7つの要因が特定された。そこでは、特に脅威の少ない事業環境下で多様な資源・知識を組織的に創造し蓄積する戦略の重要性が示された。全体、若年、成長企業に共通して、顧客との相互作用の設計、構築、発展の重要性が示唆された。