著者
坂本 理
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.51-56, 2012-12-31 (Released:2017-10-23)

日本の児童相談所の児童福祉司(SW)の人員配置は,欧米諸国や韓国などと比べ,非常に劣悪なものである.欧米や韓国では虐待についてはSW一人当たり20件前後のケースを担当するが,日本では虐待だけでもその数倍,他の相談と合わせれば,100件以上ものケースを担当することは珍しいことではない.では,児相のSWの1人当たりの担当ケース数が多すぎると,実際どのようなことが現場で起きるのであろうか.筆者はある都市部の児相において,虐待専属のSWとして100ケース以上を担当した経験をもつ.その際,どういった状態に陥ったのか,これまでどこでも報告していない.今回,100件もの虐待ケースを担当した場合,(1)何人の子どもや保護者と実際に会って面接できたのか,(2)それはどの程度の回数であったか,の2点を中心に報告し,虐待を受けた子どもたちに対して,あってはならないレベルの支援体制しか取れていない,この国の現状の一端を報告したい.
著者
坂本 理
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.51-56, 2012

日本の児童相談所の児童福祉司(SW)の人員配置は,欧米諸国や韓国などと比べ,非常に劣悪なものである.欧米や韓国では虐待についてはSW一人当たり20件前後のケースを担当するが,日本では虐待だけでもその数倍,他の相談と合わせれば,100件以上ものケースを担当することは珍しいことではない.では,児相のSWの1人当たりの担当ケース数が多すぎると,実際どのようなことが現場で起きるのであろうか.筆者はある都市部の児相において,虐待専属のSWとして100ケース以上を担当した経験をもつ.その際,どういった状態に陥ったのか,これまでどこでも報告していない.今回,100件もの虐待ケースを担当した場合,(1)何人の子どもや保護者と実際に会って面接できたのか,(2)それはどの程度の回数であったか,の2点を中心に報告し,虐待を受けた子どもたちに対して,あってはならないレベルの支援体制しか取れていない,この国の現状の一端を報告したい.
著者
大谷 京子
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.39-50, 2019 (Released:2020-06-06)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本調査の目的は,スキルの構造を明らかにし,スキル評価尺度を開発することと,スーパーバイザーの属性との関連を明らかにし,訓練のための基礎資料とすることである. 質的調査によって抽出された634のスキルを基に21項目のスーパービジョン(以下SV)スキル評価のための質問紙を作成し,各団体認定スーパーバイザー558名を対象に郵送調査を実施した. 回答者の半数近くは経験も浅く,日本における組織的SVの展開は始まったばかりであることが示された.スキルについて確認的因子分析の結果,「スーパーバイジー中心」「課題焦点化」「実践化」「承認と評価」という4因子が得られた.スキル得点と属性との関連を分析した結果,ソーシャルワークの経験年数とは関連がなく,担当したスーパーバイジーの人数とは関連が高かった.すなわち,質の高いSVのためには,そのための訓練とSV実践が必要であることが明らかになった.
著者
三島 亜紀子
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-12, 2016 (Released:2017-10-23)
参考文献数
44

2014年の「ソーシャルワークのグローバル定義」で新たに登場し注目を集めた語句の一つに「社会的結束(social cohesion)」がある.本稿では,まず社会的結束の定義と,それが多くの国や国際機関で注目を集めるようになった経緯を概観し,比較的早い時期からこの概念を政策課題にあげてきたイギリスの事例を取り上げ,この語がソーシャルワーク領域で用いられるようになった背景を明らかにする.これらを通じ日本にいる個々のソーシャルワーカーがそれぞれの場でどのように社会的結束という語に向かい合うべきか考える一助になればと考える. ソーシャルワーク領域の社会的結束に関する議論では,社会的包摂の促進,持続可能な福祉の推進と共にこの概念が強調される傾向にあることを指摘した.そして,社会的結束が社会統制に直結し,ソーシャルワークと安全/リスクの古くて新しいアンビバレンスな関係を再現する可能性がある点を論じた.
著者
大山 早紀子 大島 巌
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
no.30, pp.A13-A26, 2015-12-31

本研究は,精神障害のある人が地域で孤立することなく,生活を継続するために求められる精神科デイケア(以下,デイケア)と訪問支援を統合したサービスの提供に必要な要素(以下,効果的援助要素)を明らかにし,地域ケアモデルの開発の可能性を検討することを目的とする.対象は,本研究の前調査で実施した全国実情把握調査において特徴的な取り組みをしている機関のうち同意を得られた17機関とした.方法は聞き取り調査とし,グラウンデッド・セオリーアプローチの手法を援用し分析した.その結果,理念・目標の共有化,サービス提供体制の確立など6のカテゴリと27のサブカテゴリ,187の効果的要素が抽出された.本モデルは,既存の社会資源の活用を提案するものであるため,従事者,対象者ともにイメージしやすいモデルになると考える.今後はこれらの要素の達成率とアウトカムを検証し,デイケアと訪問支援を統合した地域ケアモデルを構築することが課題である.
著者
木下 麗子
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
no.28, pp.B1-B15, 2014-12-31

本研究の目的は,日本が初めて経験する在日外国人高齢者である在日コリアン高齢者の福祉アクセシビリティについて,対象者特性による阻害要因,促進要因の分析を行い,その構造と構成要素を明らかにすることである.研究フィールドは在日コリアン高齢者の集い場の夜間中学校である.研究方法は,地域包括支援センターの夜間中学校へのアウトリーチ実践に着目したことから,それぞれの機関の職員へのインタビュー調査とした.分析は,先行研究の福祉アクセシビリティの分析枠組みを基にコーディングを行った.8つのカテゴリー,「キーパーソン」「コミュニティ」「情報ネットワーク」「関係機関との連携」「メンタリティ」「行動力」「識字問題」「行政の役割」を抽出し,阻害要因と促進要因を整理した.結論として,地域包括支援センターの地域を基盤としたソーシャルワークの展開において,地域住民の集い場であるコミュニティとの連携促進の必要性が示唆された.
著者
木下 麗子
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
vol.28.29, pp.B1-B15, 2014-12-31 (Released:2017-10-23)

本研究の目的は,日本が初めて経験する在日外国人高齢者である在日コリアン高齢者の福祉アクセシビリティについて,対象者特性による阻害要因,促進要因の分析を行い,その構造と構成要素を明らかにすることである.研究フィールドは在日コリアン高齢者の集い場の夜間中学校である.研究方法は,地域包括支援センターの夜間中学校へのアウトリーチ実践に着目したことから,それぞれの機関の職員へのインタビュー調査とした.分析は,先行研究の福祉アクセシビリティの分析枠組みを基にコーディングを行った.8つのカテゴリー,「キーパーソン」「コミュニティ」「情報ネットワーク」「関係機関との連携」「メンタリティ」「行動力」「識字問題」「行政の役割」を抽出し,阻害要因と促進要因を整理した.結論として,地域包括支援センターの地域を基盤としたソーシャルワークの展開において,地域住民の集い場であるコミュニティとの連携促進の必要性が示唆された.
著者
高瀬 幸子
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
no.24, pp.1-13, 2012-06-30

本研究の目的は,事例分析によって,ストレッサーに対して積極的に対処しようとしないタイプの高齢者の特徴を描き出し,その援助についての示唆を得ることである.事例分析の理論的枠組みにはエコロジカル視点を用い,ストレッサーとコーピングの交互作用から事例を分析した.地域包括支援センターの社会福祉士が援助している22事例のうち,コーピング特性簡易尺度において,いずれのコーピングもあまりとることがないと回答した3事例に焦点をあてて分析した.その結果,実際には回避型コーピングが多用されていることが明らかになった.一方で,能動的な行動を伴うコーピングは少なく,援助においてはソーシャルワーカーの積極的なアウトリーチの必要性が示された.このタイプの高齢者への援助は,ソーシャルワーカーに対して問題解決のための相談というコーピングがとれるように働きかけていくことが有効であることが示唆された.
著者
小松尾 京子
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
vol.28.29, pp.A1-A11, 2014-12-31 (Released:2017-10-23)

本研究は,主任介護支援専門員のスーパービジョン実践を明らかにすることを目的としている.主任介護支援専門員の実践環境や背景に着目し,成長の要因と実践方法についてグループインタビューを行った.その結果,成長の要因として,環境がモチベーションを保つことに影響を与えていた.主任介護支援専門員は事例検討会の経験による言語化を通して,スーパーバイザーとして成長していた.スーパービジョンの実践方法として,自身のスーパービジョン体験を活かし,スーパーバイジーを尊重した対応や支持的な働きかけをしていた.気づきを促すための問いかけを工夫しながらも,言うべきことは言う態度をとっていた.その一方で,スーパーバイザーとしての自己の確立は十分でないことが示唆された.主任介護支援専門員が対人援助の専門職として活躍するためには,日常業務である事例検討会を活用したスーパービジョンの方法論の確立が重要である.
著者
三島 亜紀子
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
vol.30.31, pp.A1-A12, 2015-12-31 (Released:2017-10-23)

2014年に採択されたソーシャルワークのグローバル定義には,「多様性(diversity)」の語が加えられた.本定義や英米の社会福祉教育などにおいて,多様性が示す範囲は人種,年齢,障害,階級,性的指向性など幅広い.今後,日本でも広義の「多様性の尊重」という価値観がソーシャルワークの実践や社会福祉教育のなかでさらに重要視されるようになるだろう.本稿では,語源や各種定義や基準におけるdiversityの意味を概観した後,多様性に関する歴史的経緯や思想的背景を考察した.今後,多様性をキーワードとして,ソーシャルワーカーとして多様な属性をもつ人々を抑圧する社会構造を批判的に分析できる知識とそれぞれ異なる配慮をする能力を身につける必要があることを指摘した.加えて多様性が重複することもあること,今後のソーシャルワーク教育では「隠れたカリキュラム」への配慮も欠かせない点をあげた.
著者
久松 信夫
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.1-16, 2017

<p> 本研究の目的は,地域包括支援センター社会福祉士による,独居認知症高齢者の早期発見と早期対応のプロセスを明らかにし,地域を基盤としたソーシャルワーク理論の視点から考察することである.社会福祉士9人にインタビュー調査を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析を実施した.その結果,独居認知症高齢者の早期発見のプロセスには,<初期情報の把握と早期発見の基盤づくり>を行いつつ<アウトリーチの工夫と関係づくり>があり,ともに《直接的介入による状況把握と協力依頼》に至る.その後の対応は,《直接的介入による状況把握と協力依頼》を基点に<介入代行の依頼と関わりの拡大>を行い,<緊急性の察知と事態悪化による介入>を実施し<早期に社会資源につなげ本人に焦点化した支援方針を立てる>というプロセスを確認できた.これらの概念は,地域を基盤としたソーシャルワーク理論の特質と機能と関連することを導き出した.</p>
著者
村社 卓
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.29-41, 2012

本研究の目的はサービス担当者会議におけるチームマネジメント機能を明らかにすることである.特に,介護支援専門員を中心としたリーダーシップおよびチームワークに焦点をあてて検討を行った.研究方法は定性的(質的)研究法である.調査方法はインタビュー法,分析方法は定性的(質的)コーディングを用いた.チームマネジメントの内容は,会議開催前では{リーダーシップによる開催判断}{リーダーシップによる参加者選択}{チームワークへの参加促進},会議では{チームワークの焦点化}{チームワークでの役割自覚}{リーダーシップの学習}{チームワークの調整}である.この結果から,サービス担当者会議におけるチームマネジメント機能の特性は,「利用者主体を基盤としたリーダーシップの移譲とチームワークの拡大」であり,介護支援専門員には特に,リーダーシップ発揮およびチームワーク活性化への継続的な関与が求められるのである.
著者
浅野 貴博
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.1-14, 2017 (Released:2017-10-23)
参考文献数
39
被引用文献数
1

本研究は,ソーシャルワーカー(以下,SWer)が実践活動に伴う不確かさをどう捉え,どのように向き合っているかについて,SWerとしての学びとの関係に焦点を当て明らかにすることを目的とし,10年程度以上の実践経験を持つ26名のSWerに対してインタヴュー調査を実施した.分析の結果,協力者が学びの経験を語る中で述べた,現場で直面する様々な困難が「SWerであることの不確かさ」に関わっており,その不確かさは,1)専門職としての役割の不確かさ,2)価値に基づく実践活動であることからもたらされていることが分かった.さらに「SWerであることの不確かさ」への向き合い方が,1)確かさを求めて,2)不確かさの受入れ,3)確かさと不確かさの間でのバランスの三つのタイプに大別できることが分かった.SWer一人ひとりによって異なる不確かさの捉え方は,彼らの支援のやり方や学び,さらには「SWerとしてのあり方」にも反映され,それぞれが分かちがたく結び付いていた.