著者
石井 明男
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.151-157, 2017-07-30 (Released:2018-07-30)
参考文献数
17

加速分子動力学法は統計力学的アプローチに基づいて,分子動力学法の時間加速を行う手法の総称である.この記事ではこの手法のうちの一つとして我々のグループにて開発しているAdaptive Boost 法(AB 法) [1] を紹介する.AB 法は今までの加速分子動力学法で提案されてきたアイデアの良いものを採用した,いわばこれまでの手法のいいとこどりをしたような手法であり,現象の時間加速から実際に現象が起きる時間を定量的に評価するに至るまで一連の解析を行うことが可能である.さらに実際にAB 法を用いたいくつかの応用例を紹介し,これからの発展・改良のために加速分子動力学法に存在する問題点についても述べる.
著者
宮田 竜彦
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.98-104, 2015

溶液の熱力学的安定性を議論する際,最も重要な物理量のひとつは溶媒和自由エネルギーである.3D-RISM 理論は溶質分子周りの溶媒の分布関数を記述する統計力学理論のひとつであり,分布関数から溶媒和自由エネルギーを求めることができる.3D-RISM 理論の問題点のひとつは溶質の内部自由度凍結であるが,著者らはMD 法と組み合わせる方法でこの問題の解決を試みた.また,3D-RISM 理論は精度の問題も抱えている.溶媒和自由エネルギーの高精度化のためには,LJ 項の高精度化が重要であることが既往の研究から示唆されていたが,最近,著者らはLJ 項の高精度化の糸口を見つけた.この発見は,LJ 系においてブリッジ関数の満たすべき必要条件と解釈できるものである.
著者
馬場 剛史 安東 寛之 重田 育照
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.36-41, 2014

溶液中や酵素などの大自由度系の化学反応において,自由エネルギーの計算は非常に重要である.本解説では熱力学積分法に基づくブルームーンアンサンブル法,および,ヒューリスティックな方法では有るが非常に強力な研究手段であるメタダイナミクス法について説明し,SN2 反応や酵素反応での応用例を示す.
著者
中迫 雅由 苙口 友隆 高山 裕貴 中島 真 夕花 松井
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.7-18, 2013-01-31 (Released:2014-01-31)
参考文献数
51

生命現象の素過程を担う蛋白質には,その周囲や内部での水分子の存在が立体構造の形成や生物学的機能発現に不可欠であるとされている.物理化学的視点から,ナノメートルスケールでの蛋白質-水界面構造,所謂,水和構造を探る研究が行われてきた.これまでに,低温X線結晶構造解析等をはじめとする実験的研究によって,蛋白質水和構造の静的特徴付けなど,実証科学として蛋白質水和の構造基盤に関する理解が進んだ.さらに近年は,蛋白質の内部運動と水和構造変化がどのように協奏・連動しているかという問題にアプローチする実験研究が始まっている.本稿では,蛋白質内部や表面上での水和水分子の位置を,実験事実として具体的に提供できるX線結晶構造解析や分子動力学-X線小角散乱併用法による蛋白質水和構造研究などを振り返りながら,今後の蛋白質水和の実験的研究に関する展望を纏めた.
著者
原田 隆平
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.61-65, 2013-01-31 (Released:2014-01-31)
参考文献数
11

生体分子の生物学的機能や構造安定性を調べるうえで, それらを規定している生体分子の自由エネルギー地形を計算することは重要である. 本研究では, とくに蛋白質における自由エネルギー地形を効率的に計算するための計算手法を開発した. 蛋白質は, ヘテロな原子から構成された多自由度系であり, 周囲との相互作用が複雑である. このため, 自由エネルギー地形上には数多くのエネルギー極小状態が存在し, 通常の分子動力学シミュレーションを用いた構造探索では, これらの準安定状態に構造がトラップされてしまうため, 効率的に自由エネルギー地形を計算することは困難である. このような理由から, 新しい自由エネルギー地形計算手法として, 自由度の異なる2つのモデル (粗視化モデル・全原子モデル) を錬成したマルチスケールシミュレーションと, 超並列シミュレーション (互いに通信のない完全に独立なシミュレーション) を組み合わせた, Multi-Scale Free Energy Landscape calculation method (MSFEL法)を開発した.
著者
丸山 直也
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.90-93, 2012-04-30 (Released:2013-04-30)
参考文献数
12

GPU 等のHPC 向けメニーコアアクセラレータの研究開発が盛んである.既存CPU と比べて大幅に優れた電力効率を達成可能であり,アクセラレータを用いたスーパーコンピュータなどの大規模システムの構築も進んでいる.本稿ではメニーコアアクセラレータのこれまでの普及および今後の進展について特にGPU を中心に紹介する.
著者
坂牧 隆司
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.76-80, 2012-04-30 (Released:2013-04-30)
参考文献数
12

グラフィックカードを用いて古典分子動力学シミュレーションの高速化を行った.具体的にはLJ ポテンシャルと,Particle Mesh Ewald 法を用いた際の静電ポテンシャルの近距離成分と遠距離成分の計算を実装した.また,LJ ポテンシャルおよび静電ポテンシャルの近距離成分の計算においては,使用する変数の精度が計算結果に与える影響を調べた.
著者
成見 哲
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.72-75, 2012-04-30 (Released:2013-04-30)
参考文献数
2

CUDA を使ったGPGPU を始める際に,「そもそも対象とする計算コードをGPU で実行すべきかどうか」,「とりあえずはGPU 化したが今後最適化すれば速くなる可能性があるかどうか」を見極めることはなかなか難しいことです.ここでは,GPU での高速化で注意すべき点に重点を置き,独自ツールの紹介を交えて解説します.