著者
畠山 允 緒方 浩二 中村 振一郎
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.223-229, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
27

植物とシアノバクテリアの酸素発生中心について筆者らの考究と理論計算の結果を紹介する.特に酸素発生と水分解は光誘起電荷分離の結果として生じるという観点から,正電荷の担体たる正孔がプロトンに変換される事実を焦点にして酸素発生中心を議論する.酸素発生中心を形作る原子軌道や内外の水素結合ネットワークが如何にして電荷を整流するか,その滲み出しの詳細理解に迫る試みの一端として筆者らの古典分子動力学計算と量子化学計算により得られた骨子を述べる.
著者
石北 央
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.230-233, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
16

Photosystem II (PSII) におけるS0 → S1 遷移における基質水分子からのH+放出過程を解析した.Mn4CaO5錯体中のO5 部位からのH+放出はこの過程では起こりにくいことが明らかとなった.
著者
庄司 光男
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.238-242, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
19

光化学系II (PSII)は光合成において水分解反応を担っている.PSII 反応の分子機構は未だ多くが未解決であり, まさに議論が白熱している時期であるが,これまでの実験研究と理論研究についての理論化学研究からの一見解をまとめてみた.我々はS2 → S3 反応過程とS3 → [S4] → S0 過程における基質水分子の挿入反応過程について理論研究を進めてきているので,それらの解説を通じて,PSII における特異的反応機構を考察した.
著者
川上 貴資
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.234-237, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
5

光合成(PSII)の酸素発生錯体(OEC)で機能するCaMn4O5 クラスターの分子軌道計算では,UB3LYP (およびUB3LYP*(HF:15%), UB3LYP**(10%)など)が適用され,実験事実の解析に効果的である.このhybrid DFT 法の 精度を検証するには,最新の高精度計算手法を適用する必要がある.単核Mn モデルでの結果を報告する.
著者
三上 益弘
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.270-276, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
14

分子動力学法(以下,MD法) は,モンテカルロ法とともに,統計力学の数値解法である.モンテカルロ法は,統計力学の物理量の期待値の公式を,ボルツマン分布を実現する乱数を用いた数値積分により求める方法であり,分子動力学法に比べてより直接的に統計力学と結びついている.一方,分子動力学法は,エルゴード仮説により,分子動力学法で計算される物理量の時間平均値が統計力学で定義される物理量のアンサンブル平均と等しいという仮定の下に統計力学の数値解法となっている.今回は,等温等圧アンサンブルと数値積分法の基礎とその計算方法について説明する.
著者
三上 益弘
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.252-257, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
8

分子シミュレーション(分子動力学法,モンテカルロ法)の計算において,多くの計算時間を消費する計算処理は原子に作用する力又はポテンシャルエネルギーである.その中でも,逆冪で減衰するクーロン力の計算は最も計算時間を必要とする.そのため,クーロン力の高速計算法の開発は,古くから始まった.Ewaldは,1921年にエバルト法を開発したが,コンピュータが誕生する以前だったので,本格的に利用が始まったのは1971年に溶融塩の分子動力学シミュレーションからである.その後,粒子メッシュエバルト法などが開発されたが,根本的に異なる方法は,もう一つの逆冪力である重力を用いる天体力学の分野で開発された,高速多重極子展開法である.ここでは,この二つの長距離力の高速計算法の基礎について述べる.
著者
山口 康隆
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.23-27, 2011 (Released:2012-02-17)
参考文献数
15
被引用文献数
1

SPH法は,粒子を用いたメッシュフリーのマクロスケールの流体シミュレーション手法の一つである.本稿では,表面張力の影響を加味したSPH法を用いた液滴の液膜への衝突計算例を示した.クレーターの形成から表面張力の影響により現れる王冠状の縁,更に回復過程に現れるjet状の液柱の立ち上がりに至る現象の再現が可能であり,クレーター成長過程までは実験結果と定量的にも良く一致している.
著者
宮口 智成
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.155-158, 2016-07-31 (Released:2017-07-31)
参考文献数
13

一分子計測実験等で得られた分子軌道の時系列データ解析手法として, 時間平均二乗変位(time-averaged mean square displacement: TMSD) テンソルを用いた方法を提案する. 具体例として, 簡単な高分子モデル(レプテーションモデルと剛体棒状ポリマー) に対し, この解析手法を適応した結果を紹介する. 特に,TMSDテンソルの相関関数に生じるクロスオーバー現象から最も遅い緩和モードの緩和時間が得られることを示す.
著者
遠藤 克浩 湯原 大輔 泰岡 顕治
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.39-44, 2019-01-31 (Released:2020-01-31)
参考文献数
11

分子動力学シミュレーションは分子のふるまいを調べるための汎用的で強力な手法であるが,目的によっては巨大な系で長時間のシミュレーションを実行する必要があり,その計算コストは途方もないほど大きくなる場合がある.この計算コストの問題を解決するために,並列コンピュータを用いて計算を並列化することで計算に要する実時間を減らすことが実現されている.本稿では,並列に計算される短時間のシミュレーション結果から,機械学習によって長時間シミュレーションの結果を予測し,長時間シミュレーションを高速化する「MD-GAN」について紹介する.
著者
長谷川 太祐 永田 勇樹
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.33-39, 2018-01-31 (Released:2019-05-13)
参考文献数
33

分子動力学シミュレーションを用いた水の振動分光計算と,最新の実験のスペクトルとを併せた解析から界面における水の分子スケールでの構造が明らかになってきた.本コラムでは研究を行った動機や過程についても話を交えながら,界面分光実験と理論計算の共同研究によって水の気液界面の微視的構造についてどれだけのことを明らかにしてきたかを簡単に紹介したい.
著者
山本 量一
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.173-178, 2019-07-31 (Released:2019-07-31)
参考文献数
8

概要 実験技術の進歩に伴い,アクティブマター(エネルギーを消費しながら自発運動する人工物の系や,微生物・細胞などの生物由来の系)に対しても,近年物理学的な視点から定量的実験が行われるようになってきた.外力や環境の変化によって非平衡状態がもたらされる通常の系とは異なり,構成要素の自発的運動によってアクティブマターは初めから強い非平衡状態にある.これらの系では特異な集団運動がしばしば出現するが,その物理的な機構や役割に対する理解はほとんど進んでおらず,計算科学的アプローチに期待が集まっている.最近のシミュレーションによる先駆的な試みにより,生体組織内部で見られる細胞の複雑な集団運動が簡単な機構で起こり得ることが示されつつあり,今後の発展に注目したい.本稿では,アクティブマターのモデリングに関する我々自身の研究例として,マイクロスイマー(粘性流体中を泳動する微生物や人工物)の集団運動,及び基板上で遊走・増幅する細胞の集団運動について概要を紹介する.
著者
八木 清
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.19-25, 2012-01-31 (Released:2013-01-31)
参考文献数
32
被引用文献数
1

分子振動スペクトルを計算するには,(1)ポテンシャルエネルギー曲面生成,及び(2)振動Schrödinger 方程式の効率的な解法が必要である.本稿では,我々の開発した方法論を中心に,量子化学計算による非調和ポテンシャル生成法と 3N −6 次元の量子多体問題の取り扱いを解説する.新しい非調和振動理論は 100 自由度系を分光学的な精度で扱うことができ,水素結合系の振動スペクトル計算に威力を発揮する.
著者
笠原 浩太 椎名 政昭 肥後 順一 緒方 一博 中村 春木
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.253-259, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
14

蛋白質における天然変性領域(IDR)は特定の立体構造をもたないフレキシブルな領域であり,リン酸化などの化学修飾を受けて蛋白質の機能制御を行うなど,重要な役割を果たしている.本研究では重要なDNA 結合蛋白質であるEts1 に着目し,そのIDR がリン酸化を受けることでDNA 結合親和性を低下させる制御メカニズムを理論と実験の両面から明らかにした.独自のマルチカノニカル分子動力学法(McMD)を用いて求められたリン酸化Ets1 および非リン酸化Ets1 のIDR の構造アンサンブルより,リン酸基がDNA 結合領域へ接触することで競争的にDNA 結合を阻害するメカニズムが示唆された.ここで明らかとなった重要なアミノ酸残基に関する種々の変異体について実験的な結合解離速度測定を行い,計算結果と整合することを確かめた.
著者
石山 達也
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.179-185, 2013-07-31 (Released:2014-08-26)
参考文献数
28

水と比べて氷表面では水素結合領域に非常に強い振動スペクトルピークがあらわれる.この特徴的なピークは,強度の差はあるが水表面,あるいは固/水界面においてもみられ,しばしば“ice-like peak”ともよばれている.今回,古典分子動力学シミュレーションとQM/MM 計算をカップルさせることにより,氷特有の強い振動スペクトルピークを再現することに成功した.また,水表面の“ice-like peak”について,最近の実験とシミュレーション研究から明らかになったことを報告する.
著者
三枝 俊亮
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.125-128, 2013-04-30 (Released:2014-04-30)
参考文献数
7

ペプチド中におけるアミノ酸残基の双極子モーメントを,ab initio MO 法を用いて計算した.αヘリックスとβシートについて独自モデルを用い,主鎖間水素結合や隣接する残基の影響を考慮に入れた双極子モーメントを計算し,重み付き平均化により構造異性体の双極子モーメントも考慮した.計算したアミノ酸残基の双極子モーメントを組み合わせることで,ペプチド全体の双極子モーメントを再現できることを確認した.また,光学異性体であるL-アミノ酸とD-アミノ酸で双極子モーメントが異なることを見出し,双極子モーメントを主鎖部と側鎖部に分割することで,その理由を解析した.
著者
齋藤 大明
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.77-82, 2015-04-30 (Released:2016-04-30)

分子ドッキング法は計算コストも少なく,薬剤スクリーニングを効率化・迅速化させるための基盤技術として創薬の研究・開発に用いられている.本稿ではリガンド−タンパク質系を対象にしたドッキングシミュレーションの基本的な計算手法・適用例について解説し,ドッキングシミュレーションの計算精度や適用限界について言及し,今後の課題について考察する.