著者
志賀 基之
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.134-137, 2012-07-31 (Released:2014-06-25)
参考文献数
2

近年の大型並列計算機の発展とともに分子シミュレーションと電子状態計算を統合した第一原理シミュレーションが普及し,国際標準になりつつある.これを用いて,従来では扱えなかった複雑な化学反応動力学や,光吸収や電磁場応答のような電子状態由来の物性などを対象に,さまざまな応用研究が広まっている.本稿では,電子状態理論の基礎をなすHartree-Fock 法について,分子シミュレーションとの接点を少し意識しながら再考したい.
著者
島津 彰
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.157-162, 2014-07-31 (Released:2015-08-15)
参考文献数
7

高分子素材を対象とした分子シミュレーションの産業利用について紹介する.高分子内の物質移動に着目し,分子動力学法を燃料電池用電解質膜と逆浸透膜に使われる高分子素材研究に応用した.また,スーパー コンピュータ「京」を利用した分子動力学法によって,高分子系粘着剤の接着界面における分子の振る舞いに関する知見を得た.高分子素材研究において,分子シミュレーションはしばしば素材設計に有効な分子レベルの知見を与えてくれる.
著者
優 乙石 杉田 有治
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.75-80, 2017-04-30 (Released:2018-04-30)
参考文献数
25

細胞質の体積の約 30%は,生体分子で占められている.このような混み合った環境下では生体分子の立体 構 ,動態,反応性が希薄溶液環境と大きく異なることは従来の研究から示唆されているが,原子・分子レ ベルの解像度では十分に理解されていなかった.我々はバクテリア(マイコプラズマ・ジェニタリウム)の 細胞質を原子解像度でモデリングし,「京」コンピュータ上で超並列分子動力学シミュレータ GENESIS を用 いた大規模計算を行い,細胞内の生体分子ダイナミクスを原子レベルで再現した.さらに,得られたデータ から蛋白質-代謝物の相互作用や代謝物の細胞内動態を詳細に解析し,新たな知見を得た.
著者
渡辺 秀和
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.134-138, 2011

二次高調波発生,電子和周波発生,分子動力学,分子軌道法を総合的に用いて,空気/水界面におけるクマリンC110 分子の挙動を,分子論的に詳しく調べた.実験的手法と理論的手法を組み合わせることで,水和構造や分子配向などの,界面分子の振る舞いが詳細に研究できるので,今後の界面研究における標準的な方法として定着することが考えられる.
著者
宮田 竜彦
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.98-104, 2015-04-30 (Released:2016-04-30)

溶液の熱力学的安定性を議論する際,最も重要な物理量のひとつは溶媒和自由エネルギーである.3D-RISM 理論は溶質分子周りの溶媒の分布関数を記述する統計力学理論のひとつであり,分布関数から溶媒和自由エネルギーを求めることができる.3D-RISM 理論の問題点のひとつは溶質の内部自由度凍結であるが,著者らはMD 法と組み合わせる方法でこの問題の解決を試みた.また,3D-RISM 理論は精度の問題も抱えている.溶媒和自由エネルギーの高精度化のためには,LJ 項の高精度化が重要であることが既往の研究から示唆されていたが,最近,著者らはLJ 項の高精度化の糸口を見つけた.この発見は,LJ 系においてブリッジ関数の満たすべき必要条件と解釈できるものである.
著者
志賀 基之
出版者
分子シミュレーション研究会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.116-119, 2013-04-30 (Released:2014-04-30)
参考文献数
8

近年の大型並列計算機の発展とともに分子シミュレーションと電子状態計算を統合した第一原理シミュレーションが普及し,国際標準になりつつある.これを用いて,従来では扱えなかった複雑な化学反応動力学や,光吸収や電磁場応答のような電子状態由来の物性などを対象に,さまざまな応用研究が広まっている.本稿では,電子状態理論の基礎をなすHartree-Fock 法について,分子シミュレーションとの接点を少し意識しながら再考したい.
著者
渕上 壮太郎
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.161-166, 2011-10-31 (Released:2012-10-31)
参考文献数
11

本稿では,分子動力学シミュレーションで再現されたタンパク質の複雑な揺らぎの解析手法として,「時間構造に基づいた独立成分分析(tICA)」を提案し,その適用例[1]を紹介する.tICA を用いることで,遅い時間スケールをもつタンパク質の運動を効率的に特定し,その動的振る舞いを明らかにすることができる.
著者
三上 益弘
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.133-137, 2021-04-30 (Released:2022-04-30)
参考文献数
7

これまでは分子シミュレーションの方法について説明してきた.これからは,分子シミュレーションから得られた座標と運動量(分子動力学法のみ)を用いて得られる熱力学的性質,構造的性質,輸送係数,スペクトルの計算方法について説明する.これらの諸量は,実験的に測定される量であるので,分子シミュレーションの方法の検証ができると同時に,自然界で起こっている現象を分子シミュレーションにより原子レベルで詳細に調べることが可能である.今回は,熱力学的性質の計算方法について説明する.
著者
中川 恒
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.267-273, 2017-10-31 (Released:2018-10-31)
参考文献数
7

本連載では短距離古典分子動力学シミュレーションコードのGPGPU 化の方法について解説する. 連載第一回目は短距離古典分子動力学シミュレーションの基本アルゴリズムについて概観したのち, ホットスポットである相互作用計算のGPGPU 実装と最適化手法について紹介する.
著者
山下 雄史
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.83-91, 2015-04-30 (Released:2016-04-30)

医薬品開発を論理的・効率的におこなうためには, 医薬品候補と標的タンパク質の結合に伴う自由エネルギー変化の定量的予測が必須である. 従来法での不十分な精度を改善するため, 近年, 全原子分子動力学法を基盤とした様々な予測手法の創薬応用が試みられている. 本稿では, こうした予測手法を支える重要な理論を振り返りながら, タンパク質系における自由エネルギー予測の難しさの本質を議論する.
著者
宮﨑 裕介
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.45-50, 2022-01-31 (Released:2023-01-31)
参考文献数
15

本稿では,まず全原子分子動力学シミュレーションを用いた代表的な抗菌ペプチドmelittin による膜細孔形成過程の自由エネルギー解析について解説する.次に,複雑な細孔形成の動的過程の解明に必要な長時間シミュレーションを実現するため開発した粗視化分子力場pSPICA について説明する.最後に,pSPICA を用いた粗視化分子シミュレーションで観測されたmelittin による細孔形成を含む脂質膜の形態変化について紹介する.
著者
近藤 寛子 吉田 紀生 城田 松之
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.283-289, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
21

電位依存性カリウムチャネルは細胞膜の脱分極により活性化されカリウムイオンを選択的に透過する.C型不活性化はチャネルの不活性化機構の1種であり,脱分極状態が続くことにより引き起こされるが,その分子機構はわかっていない.そこで,脱分極直後にC型不活性化が起こるためにイオン透過が殆ど見られないKv1.2のW366F変異体を対象とし,分子動力学(MD)シミュレーションにより電場中での動態を解析した.本稿では,MDシミュレーションおよび3D-RISM理論による解析結果から電位依存的な不活性化の機構を考察する.