著者
吉岡 一志
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.103-110, 2018-02-28

By analyzing the different ways in which children encounter "yōkai spirits", the purpose of this study is to clarify the relationship between "yōkai spirits" and children, and also to consider the significance to children of "school ghost stories". Previous research into folklore has explained contemporary "school ghost stories" as residual "folk sensations" handed down from pre-modern times. This study attempts to reveal the contemporary significance of "school ghost stories", and the results of the survey show clearly that modern children categorize "school ghost stories" as an aspect of play.
著者
横山 順一
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.103-112, 2017-02-28

本稿では、ある社会福祉法人が指定特定相談支援事業所を設立し、事業を展開していく過程を事例的に取り上げながら、障害者相談支援事業における計画相談支援の実施上の課題の一端について考察することを試みた。その結果、相談支援事業の本格実施前の準備期間における相談支援事業体制の準備不足が再確認された。また、相談支援専門員の業務範囲のあり方についての課題が明らかになるとともに、計画相談において重要とされる「継続性」「専門性」「中立性」のそれぞれにおいて、安定継続した事業所の運営の困難性や、相談支援専門員の専門性や中立性の担保についての課題等が明らかとなった。In this research, practical problems in planning consultation support in the Program of Consultation Support for Persons with Disabilities were discussed, referring to case examples on the process of developing a project of a designated specific consultation support office established by a social welfare corporation. As a result, it was reaffirmed that not enough preparation was conducted for the formulation of Consultation Support services in the preparation period before the full-scale implementation of the consultation support program. Furthermore, the task regarding the scope of work of consultation support specialists was clarified, and at the same time, the difficulties in the stable and sustained operation of the facilities from the perspective of "consistency," "expertness" and "neutrality" were regarded as important in planning consultation. In addition, the task of assurance of expertness and neutrality of consultation support experts were revealed.
著者
髙木 健志
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.147-153, 2017-02-28

本研究は、精神科病院に勤務する精神科ソーシャルワーカーによるクライエントの「退院の意思決定」を支える退院援助実践プロセスを明らかにすることを目的とし、17名の退院援助の実践経験がある精神科ソーシャルワーカーから得られたデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した。分析の結果、精神科ソーシャルワーカーがクライエントの退院への意欲を引き出しクライエント自身による退院の意思決定を支えるプロセスは<クライエントが本来持つ力を退院援助の起点に据える>と<クライエントの人生全体を見通す視点をもって援助にかかわる>こととを援助観の基盤とするが、クライエントの退院援助はスムーズにはこぶわけではなく<足踏みする退院援助>という状況に立たされる。しかし基盤となる援助観に立ち返り<一人ひとりとひらかれた関係をつくる>。その往復が<成功体験を積み重ね自信と安心につなげる>ことにつながり、クライエントを<自信を持って退院の決心がつくように後押しする>プロセスであることが示唆された。The objective of this study is to clarify processes in practical support given by psychiatric social workers to long-term socially-hospitalized clients, who have been judged to be suitable for discharge, and who are now in the process of taking a decision to discharge themselves from hospital. Interview data was analyzed using the modified grounded theory approacha(M-GTA). The support process provided by psychiatric social workers to long-term socially-hospitalized clients to help them take a decision for voluntary discharge is based on "the client's own potential" and "an understanding of every aspect of the client's life". Even so, a situation o"f temporary standstill"can develop if discharge support cannot be provided smoothly. However, in such a situation, the social worker will make an effort to "develop an open relationship with each client" by renewing careful involvement with the client. This kind of careful involvement leads to"confidence and security through the accumulated experience of success" and can result in the creation of a situation where the clien"t can be encouraged to be confident in taking a decision for voluntary discharge".
著者
渡辺 滋
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.14, pp.21-39, 2021-03-31

陸軍大臣・朝鮮総督・首相などを歴任した寺内正毅は、「寺内文庫」と呼ばれる蔵書コレクションを残している。後世、このコレクションをめぐって、不正に入手された財宝や美術品が大量に含まれているというデマが広まり、最終的には国家間の交渉や学術書における関連叙述にまで大きな影響を及ぼす事態となった。本稿では、こうしたデマの拡大過程を具体的に検討したうえで、その発生経緯や背景を解明していく。
著者
渡辺 滋
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-15, 2020-03-31

本稿では、周防国(現在の山口県の東半分)の古代地名について、とくに吉敷郡(現在の山口市+宇部市の一部)の事例を中心に、想定所在地や名称の由来などについて検討する。近世以来の先行研究のなかには、論点が十分に突き詰められていないものや、結論に再検討を要するものも少なくない現状を踏まえ、関連分野における最新の研究成果に依拠した分析を進めていく。
著者
横山 順一 髙木 健志
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.87-92, 2018

児童虐待や貧困,孤立死等の深刻な社会問題をはじめ、子育て支援や高齢者・障がい者の介護等、日常生活の中には多様な福祉的課題が発生している。社会全体の複雑化、多様化、グローバル化が進む今日、支援を必要とする対象やサービスは、量的な拡大と質的な複雑さを増している。わが国にはこうした課題の解決のために、様々な福祉的支援のメニューが整備されてきたが、単にサービスや制度が増大するだけでは、真にニーズを有する当事者達に、その支援の手が差し伸べられるわけではない。そこで、注目したのが、自助・自己責任が声高に言われる今日、多様な福祉的課題を抱えながらも他者に支援を求めない、あるいは支援を求められない当事者たちの存在である。また、与えられた支援を受け入れるだけの必要な力を当事者が有しているのかといった視点も含めて、当事者の特性を考慮に入れた上で支援のあり方を検討する視点を見直し、研究を積み上げることが求められている。そこで、本稿では、福祉的課題を抱えた当事者の「支援を求める力・受け入れる力」の可能性に着目し、自助・自己責任の時代における新たな支援のあり方を構想することを目的に考察した。Including serious social problems such as child abuse and poverty, the isolated death, a problem of a variety of welfare occurs in the everyday life such as the care of child care support and an elderly person, the person with a disability. An object and the service to need support today when complexity of the Great Society, diversification, globalization advance add to quantitative expansion and qualitative complexity. A menu of the support of various welfare has been maintained for the solution to such problem in our country, but a hand of the support is not held out to people concerned having needs truly only by merely service and systems increasing. Therefore it is the existence of people concerned whom "I do not demand support" from others while what I paid attention to has a problem of a variety of welfare or "support is not demanded" from. In addition, I review a viewpoint to examine the way of the support after having taken the characteristic of the person concerned into account including a viewpoint whether the person concerned has the necessary power that only accepts given support, and it is demanded that I pile up a study. In this report, I paid my attention to possibility of "the power of help-seeking & the powerto receive for the support" of the person concerned with a problem of the welfareand considered the way ofthe new support in the times of self-act, the self-responsibility for the purpose of elaborating a plan.
著者
髙木 健志
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.12, pp.89-96, 2019-03-29

本稿は、農山村の状況を概観した上で、先行研究と照らしながら、農山村の生活とその福祉的課題について検討していくことを目的とした。農村社会学をはじめとした社会学における先行研究からの知見では、農山村に暮らす人口そのものは減じているものの、人口還流などの現象によって、集落が持つ節目節目の催しや集落の維持管理のための作業が行われていることがあきらかとされている.しかし、農山村をはじめ中山間過疎地域における福祉的課題に関連した研究においては、高齢者に注目した研究が多く、子どもから成人や老人までが生活している生活実態にそった研究状況とはいえない側面があることが明らかになった。
著者
斉藤 理 渡部 史之
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.41-54, 2017-02-28

There are many cultural assets in Yamaguchi prefecture at present, but much of them after the Edo Period aren't investigated sufficiently yet. Therefore it's necessary to investigate those cultural assets and know the contents to understand history in Yamaguchi prefecture and culture more deeply. Kinashi Seiichiro, from Yamaguchi prefecture, was a military personnel, an officer of a government and a politician from the late Edo Period to Meiji Period. This papen is the part of the research result of the cultural assets transmitted to offspring's house of him. The investigation is still continuing and through this analysis we could show some new historic interpretation of Mr. kinashi. We also expect that we can grow interest in preservation of the cultural assets in Yamaguchi prefecture through these investigations.
著者
内田 充範
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-11, 2020-03-31

2015年4月から、生活困窮者自立支援法に基づく支援事業がスタートした。この生活困窮者自立支援事業に、学習支援をはじめ、日常的な生活習慣の修得や仲間と出会い活動ができる居場所づくり等、子どもと保護者の双方に必要な支援を行う「生活困窮世帯の子どもの生活・学習支援」がある。本稿は、この生活困窮者自立支援事業の「生活困窮世帯の子どもの生活・学習支援」を実施している独立型社会福祉士へのインタビューから、独立型社会福祉士によるソーシャルワーク実践の価値について明らかにした。独立型社会福祉士によるソーシャルワーク実践も社会福祉士の業務実践の専門性と守るべき規範を広く社会に宣言した『社会福祉士の倫理綱領・行動規範』をよりどころとしている。この『社会福祉士の倫理綱領・行動規範』の基盤とされたのが、国際ソーシャルワーカー連盟による『ソーシャルワークのグローバル定義』である。この定義から、社会変革、社会開発、社会的結束、エンパワメント、解放、社会正義、人権、集団的責任、多様性尊重の9つのキーワードを抽出し、独立型社会福祉士の実践と照合したところ、そのソーシャルワーク実践は、『ソーシャルワークのグローバル定義』の具現化に他ならないものであった。当事者主体の基本姿勢を基盤としながら、自身のソーシャルワーク技術を向上させるべく、日々研鑽に努めている姿勢こそが、『ソーシャルワークの価値』の自覚であり、この独立型社会福祉士のソーシャルワーク実践が、「社会が危機的状況にある時代」に変革を起こし、新たな社会を構築していくと考える。
著者
水津 久美子 橋本 瞳
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.89-101, 2017-02-28

学校給食の7つの目標の一つに「我が国や各地域の優れた伝統的な食文化についての理解を深めること」があげられているが、その具体的な方法や内容を示した資料は少ない。そこで本研究では、伝統的な食文化への理解について、特産品と郷土料理に着目し、学校現場で行われている教育活動の実態を把握することを目的とした。島根県内のA市、B市に勤務する栄養教諭17名を対象に無記名自記式の質問紙調査を行った(有効回収率100%)。調査内容は、学校給食で使用及び提供した特産品及び郷土料理、児童生徒への教育方法並びに教育内容、今後取り入れていきたい活動の4項目とした。その結果、学校給食で使用した特産品は、島根県オリジナル野菜の「あすっこ」、郷土料理は「しじみ汁」が多く、教育方法はどちらも「給食時の放送」が多かった。また教育内容について多かった項目は、特産品は「旬」、郷土料理は「使われている材料」であった。今後さらに取り入れていきたい活動では、体験的な活動(調理実習や栽培など)が約半数を占めた。以上の結果から、教育方法・内容については島根県食育推進計画をほぼ網羅するものであったが、両市の栄養教諭はさらに多様な活動を取り入れたいとする様子がうかがえた。今後教育活動を充実させていくためには、栄養教諭と学校・家庭・地域がこれまで以上に連携して教育を行っていくことが重要である。
著者
中村 文哉
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.13, pp.41-91, 2020-03-31

ともに「慢性伝染病」に分類される「癩」と「結核」は、1904年の省令「結核豫防ニ關スル件」および1907年公布の「癩豫防ニ關スル法律(件)」を端緒に、明治後期、それらの豫防関連法規が整備されていった。更に、両疾病の特効薬となった抗生物質は1950年代前後から実用化され、化学療法の途により、治癒に至る消長の過程も、重なる。沖繩縣においても、「本土」と同様の過程を辿った。本稿は、戦前期の「癩」および結核予防関連法規およびそれらの各條文から、沖繩縣の関連地方制度も踏まえ、相互のネクサス(nexus)を、引き出す。そして、それらのネクサスから、これら予防法の前提をなす「論理」を照射する。以上の考察を踏まえ、「癩」および結核の豫防法関連法規には、病者・患家を取り締まる「淸潔方法及消毒方法」に象徴される国家利害を前提とした感染予防対策・病者所と在宅療養とを抱きあわせにした論理、「療養ノ途ナキモノ」への救恤の論理、療養所構築による入所療養の論理が混在・共在する法理が示され、患者の医療に関する規定が希薄であること、そしてそれらの混在ないし共在が、〈豫防法〉といわれる法規の特性であることを、論示したい。
著者
水谷 由美子 田村 奈美 山本 成美
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.14, pp.105-113, 2021-03-31

古来より生活の知恵あるいは風習として着物や洋服の古着や残された生地を活用して、新しい衣服や生活小物が作られてきたが、現代のアパレル産業においてもアップサイクルが課題となっている。本論でテーマにしているアップサイクルは、リユースのように、そのままを再利用することやリサイクルのように原料に戻す、つまり布から糸へそしてまた新たな布や別のものを作ることとは異なる。古くなって不要なものを捨てずにもともとの形状や特徴などを活かしつつ、新たなアイデアを加え、デザインすることで別のものを作ることを意味している。その結果作られた衣服にはより高いデザイン性があり、商品としての価値が高まっているというように、アップサイクルは、新たな価値創造をすることを意味している。ファッション領域では、マルタン・マルジェラが自身のブランドを立ち上げた1988年頃から脱構築主義や1980年代のバブル経済を背景とした使い捨て文化への対抗として、古着や鬘、エコバックや壊れた陶器など使い捨てられる前のあらゆるものを活かしたコレクションを発表している。彼のコレクションは芸術性が高く、マルジェラの固有のコンセプトとして評価されていたが、ハイファッションにおいて本格的な追随者は多くなかった。2015年に国連で持続可能な開発目標が採択され、地球温暖化や海洋プラスティックゴミの問題が喫緊の問題となってきた現在、服飾に関する廃棄物はファストファッションや大量生産服のみならず、プレタポルテやオートクチュールにおいても、解決すべき重要課題となっている。ファッション雑誌などのメディアでは「サステナブルファッション」という用語は頻繁に表紙を飾り、特集が組まれている。本論は、こうした時代背景を考慮しつつ、アップサイクルの1つの開発の手法として、回収された服ではなく、所有者が特定の1人であり、その人の服を使って3つのグループが一定のテーマのもとで、それぞれが1セットの服を作るというワークショップを実施した。マルジェラのようなイノベイティブな服飾デザインではなく、服飾におけるデザインペルソナの多様な活用の1つとして実践したワークショップで、服飾デザインのプロセスやその結果について検証し、アップサイクルなデザインの可能性について明らかにした。
著者
大野 正博 松本 智保
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.13, pp.23-28, 2020-03-31

大豆加工品の中でも豆麹は蒸煮大豆に麹菌を繁殖させ製造したものであり、味噌や醤油の原料として使用されている。大豆加工品には血圧抑制活性の指標とされるアンジオテンシンⅠ変換酵素(ACE)阻害活性や抗酸化作用の指標とされる DPPH ラジカル消去活性があると報告されている。そこで本報では、タンパク質含有率が中程度の品種であるタチナガハおよびタンパク質含有率が高い品種であるサチユタカの2 種類の大豆を用いて豆麹を作製し、大豆の品種差異が豆麹のACE 阻害活性、およびDPPH ラジカル消去活性に与える影響について比較検討した。その結果、予想に反してサチユタカ由来の豆麹よりタチナガハから作製した豆麹のACE 阻害活性が高かった。また、タチナガハから作製した豆麹の DPPH ラジカル消去活性よりもサチユタカ豆麹の活性のほうがより高かった。Among processed soybeans, soybean koji is produced by breeding koji mold on steamed soybeans and used as raw materials for miso and soy sauce. It has been reported that processed soybeans have angiotensin Ⅰ conversion enzyme (ACE) inhibitory activity, an indicator of blood pressure suppressing activity, and DPPH radical scavenging activity, an indicator of antioxidant activity. Therefore, in this report, we produced soybean koji using two kinds of soybeans, Tachinagaha, a cultivar with a medium protein content, and Sachiyutaka, a cultivar with a high protein content. And we compared the effects of soybean varieties on ACE inhibitory activity and DPPH radical scavenging activity of soybean koji were compared. As a result, unexpectedly, the ACE inhibitory activity of soybean koji prepared from Tachinagaha was higher than that of soybean from Sachiyutaka. In addition, the activity of scavenging DPPH radicals of soybean koji made from Sachiyutaka was higher than that of soybean koji from Tachinagaha.
著者
中村 文哉
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.12, pp.51-87, 2019-03-29

本稿の主題は、1907年に公布された「癩豫防ニ關スル法律」(1907年法)と、それを1931年に改正した「癩豫防法」(1931年法)との比較を通して、両者の各條文間の異同を明らかにし、1907年法および1931年法との不連続性と連続性を明らかにする。更に1907年法および1931年法のそれぞれの「施行規則」の條文間の異同を追う。これらの法律・規則には、対応関係がみられるので、1907年法から1931年法に継承された点と、大きく改正された点を明らかにすることができる。更に1931年法「施行規則」の各條項に示された規定が、「癩豫防法施行細則(沖繩縣)」および「癩豫防法施行手続(沖繩縣)」という地方制度の各條項と、如何なる連関のもとに、盛り込まれていったのかを、それらの各條項から類推することを通して、当時の沖繩縣下のハンセン病問題の輪郭を、示したい。但し、本稿は、1931年法改正点の、大きな焦点となる<從業禁止>関連規定と<生活費補給>関連規定をめぐる地方制度の検討は、紙幅の都合上、別稿を用意する。本稿を端緒とする一連の考察の最終的な目的は、「癩豫防法」と沖縄社会との関連を、同法の関連地方制度である「癩豫防法施行細則(沖繩縣)」および「癩豫防法施行手続(沖繩縣)」の條文を踏まえて、捉え返すことにより、何が観えてくるのかを、示すことにある。その際の問題の所在は、ハンセン病療養所を前提とする「癩豫防法」は、その前提となる療養所なしに、如何に機能し、ハンセン病者たちに、どの様な現実を帰結せしめたのかを、明らかにすることである。
著者
佐々木 直美
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-7, 2019-03-29

本研究は、配偶子提供を受けて生まれた子どもに対して、親が出自を伝えるか否かの意思決定に関連する心理的要因について大学生を対象として調査したものである。データは自由記述によって収集し、内容分析を行った。その結果、積極的に伝えようとする理由には、「真実を子どもが知ることによる親子関係の崩れに対する懸念」があり、伝えるつもりがない、あるいは子どもが知りたいと願った場合にのみ伝えるという人々は、「真実を知りたいという子ども自身の意思にゆだねたい思い」があった。本結果と先行研究から、子どもへのテリングに関して親が先送りしたい、あるいはためらいがあるかもしれないことを支援者は理解しておくことが必要である。また、提供を考える段階から子育ての全期にわたって、支援者が受容的な態度で、ニーズに応じた相談をいつでも受けられるようなシステムを作ることが望まれる。
著者
渡辺 滋
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.12, pp.25-40, 2019-03-29

1933~34年にかけて、海軍部内で当時の大臣の名前に由来する「大おおすみ角人事」と称される大規模な更迭人事が行われた。この人事の最後に位置したのが、堀悌ていきち吉中将の退役人事(国際協調派)と艦隊派(対外強硬派)のせめぎ合いのなか、前者の中心人物で海軍きっての逸材といわれた堀が、最終的に退役に追い込まれるまでの過程を、学界未紹介の史料なども使いながら、検討していく。
著者
中村 文哉
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.33-58, 2017-02-28

ミーニシ(冬期の南西諸島に吹く北西の季節風)が吹き出す候の1935年11月25日、星塚敬愛園園長・林文雄他四名のスタッフは、沖縄・奄美のハンセン病罹患者を収容するため、鹿児島を発った。この収容により、沖縄から129名、奄美から116名の病者たちは、時化で荒れる海に打ち克ち、開園間もない敬愛園に収容された。本稿は、この収容準備の過程を追うことにより、船による、僻地の離島からの、遠距離病者移送の問題点と危険性について考察する。この考察から引き出される見解は、以下の通りである。第一に、今回の収容方は、日本MTLを介した沖繩MTLと敬愛園の連携により、それまで療養所構築の件で失策が続いた沖繩縣の協力を引き出したこと、第二に、僻地の離島収容は、病者と療養所の直接的関係だけでなく、病者・地域社会・療養所から成る三者関係の構築が必要なこと、第三に、船による遠距離の病者移送、しかも僻地の離島からの病者移送は、それまで放置され、社会的孤立を余儀なくされた病者たちのニーズに応える機会を創出した点で、新たな病者救恤の可能性を開いたこと、以上のことが明らかにされる。At 25 November 1935, Fumio Hayashi who was the first president of national leprosarium "Hoshizuka-Kei'aien" departed for Amami-Ohshima and Okinawa Islands with his four stuffs. Their purpose of departure was planed to accommodate the peoples with Hansen's disease at these islands for Kei'aien at Kagoshima Prefectural. To actualize their accommodation, there is the danger that go across the route for Amami-Oshima at stomy season. And at all seasons, there is a danger-path for any ships going across to Tohshima(the Sea of Shicitoh) between Amami-Ohshima and Yakushima Islands. They accommodated the poor and serious patients with Hansen's disease. In all of them, 129 patients went across to the Sea of Shichitoh from Okinawa and 116 from Amami, overtaking by the very hard storm. In this paper, as tracing some preparatory processes of accommodation, we consider on some risks to the serious patients with Hansen's disease from the detached islands in the out-of-the-way place and the far-off-sea by small ship. Our conclusion is follow; first, to accommodate the peoples with Hansen's disease from the detached islands is possible to actualize the construction of social networks between not only patients with Hansen's disease and stuffs of leprosarium but also local community(center); second though the accommodation at remote place through far-way transfer by small ship had some difficulties and risks, it is possible to accommodate a patient who is helpless and social isolation.