著者
砂原 雅夫 西村 政子 宇多川 清美 金 珉智
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.102-110, 2020 (Released:2020-08-30)
参考文献数
29

近年、経済・産業構造の変化により仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合が高くなっている中、保育士の早期離職の傾向も高まっている。しかしながら、保育士の性格や特性等の内面的要因とキャリアアップの支援策の関連においては未だ十分に検討されていない。本研究では、保育所内における職業人に対して心と体の健康が情報の取得及び表出する能力に与える影響をキャリアにおけるニーズを分析する観点から検討することを目的とし、Scale for Coordinate Contiguous Career(Scale C3)を用いて、パーソナリティとキャリアを評価した。構造方程式モデリングを用いたパス解析の分析の結果、年齢と勤続年数という変数が心と体の健康に影響し、さらに注意特性に影響を及ぼし、最終的には情報取得と情報表出といったキャリアにおける影響を与えるモデルにおいて良好な適合度が見られた。心と体の健康が、年齢や勤続年数に影響を受けることについては、職業人として仕事をする上で年齢による体の変化や人間関係などが関連していることが考えられることが示唆された。
著者
上野 惠美 趙 彩尹
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.83-93, 2022-08-30 (Released:2022-08-30)
参考文献数
8

2019年から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、人々の日常生活が奪われ、行動制限の中で生活することとなった。コロナ禍の中、次世代を担う大学生の新卒採用において、企業等がどのような経験や能力を把握したいと考えているのかを確認し、今後のキャリア教育の内容に反映させることが本研究の目的である。本研究においては、大学生の就職活動の選考における初期段階で、選抜のために使われるエントリーシートに着目した。エントリーシートでは学生生活での経験を問う内容が多いが、コロナ禍の行動制限がある中で、それに答えることのできる内容は、コロナ禍前に学生生活を過ごした大学生と比較すると圧倒的に少ないと考えられる。そのため、エントリーシートの質問項目が大きく変化したのではないかという仮説を立てた。収集したエントリーシートをコロナ禍前後で比較するため、テキストマイニングによって分析を行った結果、コロナ禍前には画一的な質問項目が多かったがコロナ禍後においては、多角的な質問項目が増えたことが確認できた。また、「学業」「興味」「資格」という、コロナ禍においても一人で取り組みやすい質問項目が増えているという、興味深い結果が確認できた。
著者
大久保 賢一 渡邉 健治
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.34-52, 2018 (Released:2018-08-30)
参考文献数
11

本研究においては、公立小学校の知的障害特別支援学級と自閉症・情緒障害特別支援学級の担任教員を対象として、担任教員が認識している特別支援学級に関わる現状と推移、そして通常学級支援を目的とする弾力的対応の実態について質問紙法による調査を行った。その結果、対象教員の大部分が、在籍児童数、仕事量ともに増加していると認識していることが明らかとなった。また、通常学級に対する自らの支援の必要性は、大多数の特別支援学級担任教員によって認識されており、頻度の差はあるものの7割から8割の者が実際に弾力的対応を実施しており、通常学級担任教員への支援としては「担任教員に対する助言」や「児童の実態把握」が多く、通常学級在籍児童への支援としては「授業中における児童に対する学業面や行動面での個別的支援」が多かった。しかしながら、付加的な時間を必要とする対応、通常学級の児童集団から個別的に切り離して場を設定することを必要とする対応、そして実施の際に保護者や本人の同意を得ることが必要な対応については実施率が低かった。
著者
韓 昌完 太田 麻美子 金 彦志 權 偕珍
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.29-42, 2021 (Released:2021-08-30)
参考文献数
18

本研究の全体的な体系として、大学における学修成果指標として「Employability based on Student Learning Outcome; ESLO」を作成し、主観的・客観的側面を踏まえた評価方法を確立することを目的とする。本論では研究の全体像のうちESLOの構成概念の検討を第1の目的とし、検討した構成概念に基づき主観的評価尺度(試案)の作成及び内容的妥当性と信頼性検証までを第2の目的とした。 ESLOの概念を構成するために経済産業省が提唱する「社会人基礎力」やThe Partnership for 21st Century Learningが提唱する「21st-Century Skills」や「21st Century Learning」、ハーバード大学が提唱する「Employability Skill」などの概念を整理・検討した。その結果、ESLOの構成概念を「自己理解・自己管理能力」、「イノベーション力」、「情報・メディア・テクノロジーリテラシー」、「国際力」及び「専門力」の5領域15下位領域で構成した。ESLOの構成概念に基づいて主観的評価尺度(試案)の項目を作成し、尺度開発の専門家及び学部学生を対象に内容的妥当性の検証を行った。国公私立の3大学で122件のデータを収集し、内的整合性法を使用した信頼性検証の結果、全項目及び各領域でα> 0.700(α=0.755~0.971)となり信頼性が確認された。
著者
浜 えりか
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.68-82, 2022-08-30 (Released:2022-08-30)
参考文献数
36

本研究の目的は、日本の通級による指導(通級指導)がどのように開始されるに至ったのか、特にそのはじまりとなる要因を明らかにすることである。現在の「日本型インクルーシブ教育システム」において、通級指導は重要な位置に置かれている。しかし、そのような重要性に比して、これまでの研究では、通級指導の歴史研究が僅かしか見られず、そのモデルはアメリカのリソースルームであるとする研究が見られる。しかし、それらはアメリカの制度から見た研究であり、日本の歴史資料からは検討されていない。そこで本研究では、1993年通級制度化当初、通級指導が適応された言語障害、難聴障害、視覚障害、自閉症/情緒障害に着目して日本の通級指導の始まりの要因を探った。その結果、それぞれの障害種別特有の背景に起因した変遷があったが、共通点として、教師の実践や行動、親の運動、医師や研究者などの専門家の参加と教育行政の動きによる障害種別学級の設置実現の様子が確認できた。 この結果から、日本の通級指導のはじまりの段階には、多くの人々の願いと行動という背景があり、通級指導の制度を作り上げた要因の1つであるであろうことが示された。
著者
謝 雪こう 彭子 澴
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-15, 2023 (Released:2023-08-30)
参考文献数
22

障害者は芸術活動の参加を通して、コミュニケーションスキルの向上、生活満足度の向上等様々な先行研究で報告されたが、量的研究で障害者の変化を捉えた報告は見当たらなかった。そのため、本研究は芸術活動を用いたワークショップに参加した就労継続支援B 型所属障害者の変化と、その変化に対するワークショップの影響について、その性質や程度について分析し、解明することを目的とした。本研究の結果、ワークショップに参加した場合、非参加の場合と比較してWell Bei ng の点数が上がる可能性があると考察された。一方、質的分析の結果では、「ワークショップ」が「好き」、「人」と「一緒に」何かを作りたい、「綺麗」で「簡単」なものを作りたい、いつも来ているから「人」を「知る」ことができた等、ワークショップに対する満足とこれからも参加したいという期待が見られた。そのため、本研究は量的研究と質的研究両方からワークショップへの参加が障害者就労継続支援B 型の利用者のWell Being 向上に積極的な影響を与えたという方向性で他の施設や利用者に広げていく価値があると思われる。
著者
越智 文香 越智 彩帆 樫木 暢子 苅田 知則 加藤 哲則
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.10-26, 2019 (Released:2019-02-28)
参考文献数
8

本研究は肢体不自由児のキャリア教育で取り上げられる指導内容について整理し、実態に応じた指導内容について検討することを目的とした。全国の肢体不自由特別支援学校25校に、キャリア教育で取り上げられる指導内容についてのアンケートを実施し、因子分析や重回帰分析を行い、学部や実態等で比較を行った。因子分析の結果、キャリア教育で取り上げられる指導内容として、「健康の維持増進と心理的充実」「学力・認識力の育成」「社会性の育成」「家庭生活力の向上」「基本的生活習慣の確立」の5つの因子が抽出された。「健康の維持増進と心理的充実」が抽出されたことより、教員がキャリア発達と心身の発達との関連を意識していることが示唆された。重回帰分析の結果、各因子について学部や実態において有意差が確認された。近年は障害が重度化・重複化・多様化しており、各教員が児童生徒個々の実態を丁寧にとらえ、個に応じた指導をしていることが示唆された。指導内容が自立活動とも関連があったことから、自立活動とキャリア教育を関連付けて指導することにより、肢体不自由児童生徒のキャリア発達を促そうとしていることが推測された。
著者
上岡 清乃 北岡 智子 鈴木 恵太
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.77-78, 2018 (Released:2018-08-30)
参考文献数
8

本研究は、英語学習に特異的な弱さを示した高校生2名(A児、B児)を対象として認知特性に応じた効果的な英単語書字指導法を検討した。両名とも全般的知的発達水準は平均から平均の上の領域で、視覚的情報処理の速度と正確性に認知的短所が考えられた一方、A児は視覚情報をもとに推理し思考する力が、B児は聴覚言語系情報処理が認知的長所として考えられた。指導では、英単語の綴りにおける効率的な学習と確実な定着を意図し、PC画面上に提示したスライドを用いて綴りを諳んじる視覚系列化法や語呂合わせを介して綴りを音韻に乗せて覚える言語イメージ法などを行った。その結果、指導開始前に比して指導終了後に書字成績の向上がみられた。また、一定期間後も高い正答率が維持されたことより確実な定着が窺えた。ここから、聴覚優位/視覚優位といった個々の認知特性に応じた英単語の書字指導方法について考察した。
著者
矢野 夏樹 韓 昌完
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-13, 2020 (Released:2020-02-28)
参考文献数
20
被引用文献数
1

教育分野においてQOL尺度を用いて教育成果を評価する研究はほとんど行われていない。この問題は教育成果評価を測定することを目的としてQOL尺度の開発が行われていないことに起因している。そこで本研究においては、児童生徒の認識してる学校生活の質を教育成果として評価するためのQOL尺度を開発することを目的とする。QOL尺度の試案作成にあたり既存のQOL尺度(WHOQOL-100, KIDSCREEN, SF-36v2)の評価項目を教育分野における成果評価の観点に基づいたQOL概念の再定義(韓, 2017)で示された身体、情緒、社会・経済の3領域ごとに分類した。また、生徒指導提要(文部科学省, 2010)からも、児童生徒のQOLを評価するために必要となる項目を収集し、既存のQOL尺度と同様に身体、情緒、社会・経済の3領域に分類した。今後の研究として、尺度の評価項目の精査と構成、データを収集した上での信頼性および妥当性の検証が必要である。
著者
韓 昌完
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.27-40, 2019 (Released:2019-02-28)
参考文献数
17

本研究では、子どもの概念形成と才能発掘の実態把握を行うための構造化された評価ツールCRAYON Book (3~5歳Ver.)を開発することを目的とした。CRAYON bookとは、Child Rearing Assist for Your Needs book(ニーズに応える子育て支援book)を表している。 CRAYON Book (3~5歳Ver.)は、「環境と日常生活」、「概念形成」、「自己表現」、「理解」、「納得」の5領域を設定されている。幼児が置かれている「環境と日常生活」が「概念形成」の基盤となり、それが「自己表現(才能発掘)」につながると考えられる。幼児の「概念形成」には、大人の関わり方が重要であり「理解」という意識活動を通して、幼児の「概念形成」を促す。また、大人が幼児の「納得」を促すことで、「自己表現(才能発掘)」につながると考え領域を設定した。 今後、CRAYON Book(3~5歳Ver.)の信頼性および妥当性が検証され、構造化の仮説が検証されることによって、乳幼児が環境からの刺激を周囲の大人との相互作用によって自己表現として表出するまでのプロセスを分析し、保育・教育に必要な支援を計画するための評価ツールとして活用することが期待される。
著者
韓 昌完 沼館 知里 呉屋 光 照屋 晴奈
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-20, 2018 (Released:2018-03-15)
参考文献数
34

高等学校以降の教育機関及び就労後の職場において、障害の有無によらず包括的な支援を必要としている人が増加しているにもかかわらず、自立と社会参加を見据えたキャリア形成に関する支援・指導が体系的に行われているとは言い難い状況が先行研究等から明らかとなった。そこで本研究では、高校生から成人までを対象としたキャリア形成のための評価と継続的支援を行うためのツールの開発を目的とした。すでに開発された小中学校版のIN-Child Recordを用いて、沖縄県内キャリア教育事業の実践取組指定校である3校を対象に縦断的なデータ収集を行い、回答の傾向や変化に基づき項目の修正を行った。さらに、データ収集に参加した1校の高等学校において校長を含めた7名の教員を対象に構造化された質問紙を用いて意見調査を行い、さらに具体的な項目の修正を行った。また、先行研究の分析に基づいて領域、項目の修正を行った。これらを通して、パーソナリティとキャリアの2つの分類から構成される合計100項目の尺度の試案を開発し、それぞれの領域の定義を行った。今後は試案に対する内容的妥当性、信頼性・構成概念妥当性の検証が必要である。
著者
小田切 岳士 森 浩平 田中 敦士
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.65-76, 2017 (Released:2018-02-13)
参考文献数
9

「教職員のための障害学生修学支援ガイド」(日本学生支援機構,2015)では、障害のある大学進学希望者や学内の障害のある学生に対し、大学等全体としての受入れ姿勢・方針を示すことが重要とされている。希望を申し出にくい消極的な環境を放置したまま、ただ本人からの支援申請を待つことは、合理的配慮の不提供につながるといっても過言ではない(松田,2016)が、現在それぞれの国公立大学において障害学生支援規程等の方針がどの程度公表されているかといった状況はこれまでに明らかとされていない。そこで本研究では、障害のある大学進学希望者や学内の障害のある学生が比較的情報を入手しやすいと考えられる、ホームページ上での公開状況や公開内容について閲覧・調査を行った。その結果、国立大学88大学のうち、障害学生支援に関する基本方針を大学ホームページ上に公開していた大学数は24校(27.3%)に留まった。また、内容については「目的」、「定義」、「機会の確保」等の20カテゴリに分類された。