著者
長倉 三郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.377-382, 1963-12-20 (Released:2017-09-23)

水の分子は, 複雑な有機化合物の分子に比べれば, 簡単な構造をもっており, 分子内の原子の配置は, 最近の分子構造研究法, とくにマイクロ波分光学の進歩によって, 厳密に決定できるようになった。一方水や氷は, こうした比較的簡単な分子の集団にもかかわらず, いろいろな熱的性質や電気的性質などにおいて, 著しい異常性を示すことはよく知られている。水の沸点や融点が類似の化合物に比べて異常に高いとか, 4℃で密度がもっとも大きくなるというのは, こうした異常性の例であるが, その原因は分子間の特殊な結合力-水素結合と呼ばれる-にあることが明らかになっている。そこで, ここでは水素結合の問題を中心にして, 水の二, 三の性質を分子論的な立場から説明してゆきたいと思う。
著者
力丸 光雄
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.197-201, 1986-06-20 (Released:2017-09-15)

賢治は確かに「原体験」として科(化)学を勉強し, 地質調査・土壤分析の実績もあり, また教師として化学を教えたりもした。彼は「科学」の言葉で詩を書いたと人を驚かせたが, それが単なる言葉だけでなかったのは無論である。「空でひとむらの海綿白金(プラチナムスポンヂ)がちぎれる」と彼がいうとき, それは「反応速度論」をふまえた, 触媒作用をもつ白金(の雲)を意味した。とにかく, 彼の科学ないし化学の知識が, 宗教体験, 自然との交感などと相まって, 彼の宇宙観-即「芸術」といってよかろう-の形成の土台となったことはまちがいない。「詩人」としてよりは「一個のサイエンチスト」として認めて欲しいと語ったことがあるといわれるが, 彼は一介の「サイエンチスト」に留まる器ではなく, 「銀河を包む透明な意志」をもって「われらのすべての生活を一つの巨きな第四次元の芸術に創りあげようではないか……」とうたうのである。
著者
太田 直一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.182-188, 1972-06-20 (Released:2017-09-22)

土壌および生物は, 環境問題を考える場合の最も身近なものとして, "汚染"を判断するための基礎となるデータ(バックグラウンドまたは正常値)が望まれている。しかし, 土壌も生物も非常に複雑多様な系なので, たとえ問題を構成元素だけにかぎっても, 有効なバックグラウンド像を得ることはきわめて困難なのが実情である。本項では, 土壌については構成物質と組成について, また生物については構成元素と生物体への元素の蓄積について, それぞれ概要をのべることとする。
著者
馬場 宏明
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.5-9, 1980-02-20 (Released:2017-09-15)

色は光と視覚器官である眼とがあれば生ずる。しかし両者の間にはしばしば物質が介在するし, 光の生成, 視覚の発生そのものにも物質がかかわっている。光と物質との相互作用は反射, 屈折, 散乱の形でも起こるが, 色を取り扱うときには, 光の吸収と放出とがとくに重要である。この問題に立ち入る前に, 光の本性について概観しよう。