- 著者
-
佐野 亘
- 出版者
- 人間環境大学
- 雑誌
- 人間環境論集 (ISSN:13473395)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, pp.35-53, 2006-03-31
人類絶滅が真剣な学問的議論の対象となることは少ないが、環境問題が深刻化している昨今、その規範的意味について検討することが必要である。本稿では、人類絶滅を許容ないし肯定する議論をいくつか紹介し、それぞれについて簡単な検討をくわえる。人類絶滅を許容・肯定する議論は、次の三つに分類することができる。一つ目は、人類以外にも価値を有する存在があるとする議論である。本稿では特に環境(自然・生態系・地球など)それ自体に、人類と同等の(あるいはそれ以上の)価値を認めるディープ・エコロジーの議論をとりあげる。二つ目は、人類にとっては、単なる存続以上に重要な価値が存在するとする議論である。本稿では、人類の体験する悲惨は人類の存続以上に重視されるべきとする議論と、人間性を失ったならば人類が存続する価値はないとする議論を紹介する。最後に三つ目は、人類の存続は価値的に中立であって、よいとも悪いともいえないとする議論である。本稿では、個人にしか価値を認めないリベラリズム的個人主義の議論と、人類も遅かれ早かれ絶滅するのだからいつ絶滅してもよいとするニヒリズムの議論をとりあげる。以上の検討を通じて、われわれは、人間性や人間存在の独自性について考究する必要があることが確認できた。