著者
福嶋 誠宣 加藤 大智 濵村 純平
出版者
日本会計研究学会
雑誌
会計プログレス (ISSN:21896321)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.23, pp.1-14, 2022 (Released:2022-09-01)
参考文献数
27

管理会計や原価計算の教科書では,高い営業レバレッジ(すなわち,固定費が多いコスト構造)を採用すると,利益変動が大きくなるという意味で企業リスクが高まると教示される。こうした教示と整合的に,需要の不確実性が高い状況では,相対的に固定費が少なく変動費が多いコスト構造が選好されるという考え方が従来から存在する。しかし,近年の実証研究は,需要の不確実性が高いほど相対的に固定費が多く変動費が少ないコスト構造が選択されると主張している。このように,需要の不確実性がコスト構造に与える影響については,相反する2 つの考え方が存在する。そこで本論文では,経営者によって予測される需要変動に着目し,コスト構造との関連性を経験的に検証した。その結果,経営者によって予測される需要の変動性が高いほど変動的なコスト構造が採用され,需要変動の予測可能性が低いほど硬直的なコスト構造が採用されることが明らかになった。
著者
小笠原 亨 新改 敬英 原口 健太郎
出版者
日本会計研究学会
雑誌
会計プログレス (ISSN:21896321)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.24, pp.91-108, 2023 (Released:2023-09-01)
参考文献数
16

従来の定説と異なり,需要の不確実性が高まるほど,企業のコスト構造が固定費割合の高い硬直的なものになる傾向が先行研究で示されている。しかし,これらの研究では異なる不確実性に直面する企業を区別することなく分析しており,少数グループの存在が全体の推定結果に影響を与えた可能性を否定できない。本研究では,企業ライフサイクルによる分類をもちいて,不確実性の特徴とコスト構造の関係を検証した。結果,需要の上振れリスクが高い導入期および衰退期では,需要の不確実性が高まるほど,より硬直的なコスト構造が見られることが明らかとなった。この結果は,先行研究の分析結果が,異なる種類の不確実性をもつ少数派から影響を受けた可能性を示唆する。
著者
石田 惣平
出版者
日本会計研究学会
雑誌
会計プログレス (ISSN:21896321)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.21, pp.63-79, 2020 (Released:2021-09-01)
参考文献数
33

本研究は2005年から2013年までに日本の株式市場に上場している企業を対象として,経営者の在任期間と業績予想の正確度との関係を検証している。分析の結果,経営者の在任期間と業績予想の誤差との間にはU字の関係があることが確認されている。また,経営者の在任期間と業績予想の誤差との関係は経営者の年齢やコーポレートガバナンスの質に応じて変化することがわかっている。本研究の発見事項は,経営者は就任して一定期間までは自社を取り巻く経営環境や社内にある様々な経営資源に関する知識の収集に努めるため,業績予想の正確度が改善する一方で,一定期間をすぎるとエントレンチメントが支配的となり,経営者には業績予想の正確度を高めようとする動機がなくなるため,業績予想の正確度が低下することを示唆している。
著者
島永 和幸
出版者
日本会計研究学会
雑誌
会計プログレス (ISSN:21896321)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.8, pp.63-75, 2007 (Released:2021-09-01)
参考文献数
28

本稿の目的は,人的資本の価値情報が提供されているインドのIT企業のケースを用いて,人的資本の資産性および人的資本会計の展開可能性について明らかにすることにある。具体的に,以下の3点が明らかにされている。第1に,資源ベース観の下で,人的資本の持続的競争優位について検討し,現在のインドIT産業において人的資本が持続的競争優位の源泉をなしていることが明らかにされている。第2に,人的資本の資産性と公正価値測定の展開可能性について議論し,人的資本には資産性があり,公正価値測定が可能であることが明らかにされている。第3に,インドのIT企業のケースを分析することで,人的資本がアニュアル・レポートで実際に評価・開示されており,ブランド価値とともにオンバランス化が指向されていることが発見されている。
著者
福嶋 誠宣 新井 康平 松尾 貴巳
出版者
日本会計研究学会
雑誌
会計プログレス (ISSN:21896321)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.15, pp.26-37, 2014 (Released:2021-09-01)
参考文献数
22

CVP分析では,組織の活動量との関連という基準によってコストを固定費と変動費に分解する分析モデルが様式化された知識となっている。しかし,このコストの分解に回帰分析を用いると,負の固定費といった実態からかけ離れた異常値が推定される場合があるという欠点が指摘されてきた。その要因を探求するため,我々は実際の工場から提供を受けた財務データを用いて経験的な検証を行った。その結果,利益と関連した自由裁量費が,固定費の過小推定に影響していることが明らかとなった。
著者
福島 一矩
出版者
日本会計研究学会
雑誌
会計プログレス (ISSN:21896321)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.17, pp.42-54, 2016 (Released:2021-09-01)
参考文献数
34
被引用文献数
1

本研究の目的は,吸収能力,経験学習に係わる組織能力(経験学習能力)という2 つの管理会計能力が,管理会計システムの利用と組織業績の関係に与える影響を明らかにすることである。郵送質問票調査に基づく分析の結果,管理会計能力の高さは,管理会計システムの利用が組織業績に与える影響をよりポジティブにすることが確認された。また,管理会計システムの利用に応じて有効な管理会計能力が異なり,管理会計システムの特徴を活かした組織業績の向上には吸収能力,管理会計システムの利用方法を工夫した組織業績の向上には経験学習能力が有効であることも推察された。
著者
金 鉉玉 矢澤 憲一 伊藤 健顕
出版者
日本会計研究学会
雑誌
会計プログレス (ISSN:21896321)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.23, pp.49-67, 2022 (Released:2022-09-01)
参考文献数
25

本稿では有価証券報告書におけるMD&A・事業等のリスク・対処すべき課題を対象とし,経営者交代が記述情報の変化に与える影響を実証的に分析した。その結果,経営者交代によって記述情報が変化することが明らかになった。具体的に,経営者交代によって記述情報のスティッキネス(過年度の記述情報の再利用度合い)が低下するとともにその可読性が向上すること,さらに記述情報のトーンがポジティブになることが,本稿の分析から示された。このような変化は,有価証券報告書の提出まで十分な時間があり,新任の経営者がその作成手続に実質的な影響を及ぼすことが可能であると考えられる,交代後第2 期目に提出される記述情報において顕著に観察された。さらに,経営者交代による記述情報の変化は新任経営者の属性や記述情報の記載されるセクションによって異なることも明らかにされた。このような本稿の発見は,経営者が有価証券報告書における記述情報を通じて投資家とコミュニケーションを行っていることの証拠といえる。
著者
安酸 建二 梶原 武久
出版者
日本会計研究学会
雑誌
会計プログレス (ISSN:21896321)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.10, pp.101-116, 2009 (Released:2021-09-01)
参考文献数
12
被引用文献数
1

コスト・ビヘイビアに関連する近年の実証研究において,売上高の変動に対するコストの変動は,売上高が増加する場合と減少する場合とで非対称(asymmetry)であり,売上高が減少する場合のコストの減少率の絶対値は,売上高が増加する場合のコストの増加率の絶対値よりも小さいことが明らかにされている。このようなコスト・ビヘイビアは,コストの下方硬直性と呼ばれている。コストの下方硬直性が生じる原因として,経営者・管理者の合理的な意思決定の結果,コストが下方硬直的になる可能性―「合理的意思決定説」と本稿では呼ぶ― が指摘されている。すなわち,売上高の減少が一時的であり近い将来回復すると予測される場合,売上高の減少時での経営資源の削減と,売上高の回復時での経営資源の再獲得は,短期的に過剰な経営資源を維持することよりも,結果的に高いコスト負担につながることがある。この場合,経営者は,積極的にコストの低い方を選ぶという合理的な意思決定を行うと考えられている。しかし,先行研究では,経営者・管理者が抱く将来の売上高の見通しに関する情報が,分析モデルに組み込まれていないため,合理的意思決定説はこれまでのところ検証されていない。本研究では,日本企業が決算短信で要求される次期売上高予測を,将来の売上高の見通しに関する情報とみなして合理的意思決定説の検証を試みる。
著者
山口 朋泰
出版者
日本会計研究学会
雑誌
会計プログレス (ISSN:21896321)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.10, pp.117-137, 2009 (Released:2021-09-01)
参考文献数
39

本稿は,経営者による機会主義的な利益増加型の実体的裁量行動が,企業の将来業績にマイナスの影響を与えるか否かを検証するものである。本稿で対象とする利益増加型の実体的裁量行動は,①一時的な値引販売や信用条件の緩和による売上操作,②研究開発費,広告宣伝費,および人件費などの裁量的費用の削減,そして③売上原価の低減を図る過剰生産,の3タイプである。分析においては,利益増加型の実体的裁量行動の中から機会主義的な部分の特定を試みる。具体的には,会計発生高を増やす余地が小さい状況,また利益ベンチマークと合致ないしわずかに超過した状況を特定し,それらの状況にある企業の利益増加型の実体的裁量行動を,経営者の機会主義的選択として捉えた。分析の結果は,経営者の機会主義的な利益増加型の実体的裁量行動が,企業の将来の業績(総資産利益率)にマイナスの影響を及ぼすことを示唆している。
著者
若林 利明
出版者
日本会計研究学会
雑誌
会計プログレス (ISSN:21896321)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.22, pp.87-104, 2021 (Released:2021-09-01)
参考文献数
28

本稿は,ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)のようなITを利用した業務プロセス効率化の投資・支出は,どの程度の金額で,本部と事業部のいずれが投資意思決定権を有するべきであり,それに伴い業績評価はどうあるべきかを,事業リスクと組織成員のITリテラシーの観点から契約理論に依拠した数理モデルを用いて明らかにする。すなわち,個人属性,組織マネジメントおよび事業環境の視点からIT投資・支出について理論研究を行う。分析の結果,本稿は,RPA等の導入と業績評価システムを統合的に,かつ業務や事業特性に応じて考えるべきであること,本部の方が事業部よりもITリテラシーが低かったとしても,RPA等の導入の決定権を本部が留保した方が良いケースが存在し,この傾向は事業リスクが高いほど高まることなどを示した。