著者
木原 誠
出版者
佐賀大学教育学部
雑誌
佐賀大学教育学部研究論文集 (ISSN:24322644)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-37, 2023-01

極西アイルランド、その精神の地下水脈には一四○○年にも亘り静かに脈打つ一つの思考がある。<水辺の思考>である。その起源は六世紀半、全土の水辺で一斉に開花した各修道院が水路のネットワークによって一つに結ばれ発生をみた学術都市群共同体にある。その特徴は大陸ヨーロッパの基盤、陸路の思考=直線・合理的なユークリッド原理に反定立する水路の思考=円環・非合理(自然)的なフラクタル原理にある―大西洋沿岸の海岸線のように、蛇行を繰り返す思考の流れが内部に無数の渦巻きを形作りながら一本の線で結ばれる。『ケルズの書』に表れる芸術様式、大陸のマニエリスムとも一線を画す極西のケルト固有の<水辺のマニエリスム>の誕生である。その思考様式はイェイツにより見出され、文芸復興運動の基軸に据えられることで復権をみた。その後シングからジョイスへと継承されることでアイルランド文学の新潮流を形成していく。本論の目的は以上の命題を検証していくことである。なお、本論は近日刊行予定の『水辺の思考/アイリッシュ・マニエリスム』の「はじめに」に相当する部分の抜粋である。
著者
成松 美枝 和久屋 寛
出版者
佐賀大学教育学部
雑誌
佐賀大学教育学部研究論文集 (ISSN:24322644)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.43-61, 2022-02

本論文では,佐賀県内の公立学校でICT を活用した教育の方法がどのように導入され,発展してきたのかを明らかにすることを課題とした。佐賀県では県教育委員会により,2011年度から佐賀県ICT 利活用教育推進事業を開始したが,2015年度までの5年間に約42億円を投じて県立学校の全教室に電子黒板を設置し,全生徒に1人1台の学習用パソコンを配備した。ICT 活用の目的は,情報化・グローバル化への対応だけでなく児童・生徒の学力テスト結果の向上と,災害時と感染症流行時の遠隔授業による家庭学習を支援するための手段とすることであった。また,2017年度からは全市町立学校でも事業を拡大し,2021年度には全市町立学校で全教室での電子黒板設置と1人1台学習用パソコンの配備が実現した。ICT を活用の利点としては,実証研究校である致遠館中学校と高等学校の授業に見られるように,①電子黒板で映像を効果的に提示することで生徒の学習意欲・関心を高めること,②生徒が学習用パソコンから自分の意見や回答を送信し,電子黒板で共有することで「他者との学びあい」が強化できる,③生徒が学習用パソコンで作成したワークシート等を教員が管理し,全体で共有できることである。しかし,今後の課題として,佐賀県児童生徒の全国学力調査のテストの得点は全国平均値を下回ること,学習用パソコンの充電不備や故障トラブル,教員の研修時間の確保の困難が指摘された。