著者
中里 理子 Michiko Nakazato
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.1-14, 2007-02

「笑い」の表現には(1)笑い声,(2)笑うときの表情・笑い方,(3)笑うときの姿態,の描写がある。(1)と(2)に関して,中古から近代までのオノマトペの変遷を見てみると,笑い声を表す擬音語も表情・笑い方を表す擬態語も,近世にはすでに現代使われているオノマトペの典型的なものが確立していたことがわかった。笑い声を表す<模写に近いオノマトペ>は近代以後現代に至るまで個性的なオノマトペの工夫が見られるが,笑い声を表す<象徴度の高いオノマトペ.と,笑いの表情・笑い方に関しては,近代になって新たに工夫されたオノマトペはほとんど見られなかった。近代,特に明治期には,笑う表情と笑いの内容に関してオノマトペ以外で描写した表現がさまざま見られるが,これは明治期に正確で細密な描写が目指されたことと関連があり,笑いに関するオノマトペが新たに工夫されなかったことの要因の一つであると考えられる。
著者
中里 理子
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.341-353, 2006

日本語のオノマトペ研究は,従来和語のオノマトペ(和語系オノマトペ)を中心に考えられてきた。漢語由来のオノマトペ(漢語系オノマトペ)は,その存在を認められながらも,擬音語・擬態語辞典でもほとんど取り上げられてこなかった。しかし,漢語系オノマトペの中でも,畳語形式のものは語によって古くから和語系オノマトペと受け取られているものもあり,和語系オノマトペと深い関わりを持っていると考えられる。「しんと」と「しんしんと」や「ぼんやり」と「茫然」の例に見るように,漢語系オノマトペは語形面でも意味の面でも和語系オノマトペに大きな影響を与えている。漢語系オノマトペに着目し,その関連で和語系オノマトペを見ることは,オノマトペの生成や音象徴性,動詞や使用文脈との結びつきの強さ,意味の変遷など,オノマトペを幅広く捉えていく際の大きな手がかりになると思われる。
著者
中里 理子
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.131-143, 2009-02-28

徳田秋声の『足迹』『黴』に見られるオノマトペの特徴について、『新世帯』、島崎藤村の『家(上)』、田山花袋の『生』と比較しながら考察した。各作品からオノマトペを抽出し、1)心情を表すオノマトペ、2)笑いを表すオノマトペ、3)「見る」行為を表すオノマトペ、4)「湿度」に関わるオノマトペ、5)その他の特徴的なオノマトペという五つの観点から検討を加えた。特徴的なオノマトペに関しては、二作品に多用されていた静寂を表すオノマトペ、偶発的動作を表すオノマトペ、所在なく歩く行為を表すオノマトペ、女性主人公に使われた独特なオノマトペを取り上げた。『足迹』『黴』は、女性主人公の描写や作品の情景描写において、オノマトペにも共通性が見られた。また、『新世帯』も含めて、秋声が人物描写においても情景描写においても、オノマトペを多用して巧みに表現していることが見て取れた。It was examined with comparing it with 'Arajyotai', Shimazaki Toson's 'Ie( the first half)' and Tayama Katai's 'Sei' about the characteristics of the onomatopoeia seen in 'Asiato' and 'Kabi' of Tokuda syusei. Onomatopoeia was extracted from each novel, and an examination was added from the following five viewpoints. 1)the expressin of feeling, 2)laugh, 3)"act to see and look", 4)"humidity", 5)others. Other onomatopoeia was examined from the next four points.Those are the onomatopoeia which shows stillness, the onomatopoeia of seeing by chance, the onomatopoeia of aimless walking and heroine's unique onomatopoeia. Onomatopoeia had commonness about the heroine's description and the scene description in 'Asiato' and 'Kabi'. Investigating three novels of 'Asiato', 'Kabi' and 'Arajyotai', it was found that Syusei used onomatopoeia skillfully in description of a character and scene description.
著者
中里 理子 Michiko Nakazato
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.207-218, 2010-02

岩波古典文学大系本『狂言集』上下巻(大蔵流山本東本)に見られるオノマトペを収集し, その特徴を整理した。浄瑠璃や歌舞伎の脚本に見られたオノマトペとは性格が異なり, 次のような特徴が認められた。1)擬音語は, 動物の鳴き声に音マネ的な性格がある。物音の場合は, 慣用的なオノマトペにより舞台上の効果音として用いている。2)擬態語は, 心情を表すオノマトペがほとんど見られない。また, いくつかの定型的表現により, 類型的な劇の構造, 典型的な舞台背景, 典型的な人物像を観客にイメージしやすくさせている。強調表現を効果的に使っている。3)オノマトペに関する言葉遊びとしては, 同音を導くもの, 対句的な使われ方のものが見られ, おかしみを誘う効果がある。
著者
中里 理子
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.818-805, 2000-03

『浮雲』を中心に明治前期の作品を対象として、和語系・漢語系オノマトペの使用状況を概観し、両者の関係を考えた。調査の結果から、和語系オノマトペで表現し得ない部分(その多くは心情表現に結びつく語)を、漢語系オノマトペで補ったこと、漢語系オノマトペの中でも既に広く用いられているものを中心に、言文一致文に取り入れようとしたのではないかということがうかがわれた。前者に関しては、和語系オノマトペにおいて、細かい意味を使い分ける働きをする型が未発達であること、オノマトぺの種類自体がまだ少ないことが、その遠因となっており、和語系オノマトペが発達するまでの間、漢語系のものが使われたであろうことが考えられる。
著者
中里 理子
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-14, 2005-09-30

オノマトペは日本語の語彙の特色の一つであり,国語科の授業の中でも体系的に取り上げるべき語群であると思われる。本稿ではまずオノマトペの定義および名称について確認し,その上でオノマトペを指導する際に踏まえておくべき特徴について,教科書の例を挙げながら整理した。その特徴とは,オノマトペが直接的・感覚的な語群であること,その多くが個性的・創作的なものであること,意味内容が語音と語形に大きく関わっていること,語音と語形には共通感覚があることである。これらの特徴を理解することは,オノマトペを体系的に取り扱うことにつながるものである。最後に読解指導の中でオノマトペがどう関連するかを検討するために,小学校教材の「わらぐつの中の神様」を例に取り,オノマトペの効果を広く考え合わせることで登場人物の人物像と心情の読み取りがさらに深くなることを見ていった。
著者
中里 理子
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.167-176, 2011-02-28

平家物語諸本のうち、古態を残すと言われる延慶本を対象にオノマトペを抽出し、その特徴を整理した。一般にオノマトペは和語のオノマトペ(和語系オノマトペ)を指すが、本稿では漢語由来のもの(漢語系オノマトペ)も取り上げ、比較しながら特徴を見た。延べ語数は和語系の方が多く、異なり語数は漢語系の方が多い。和語系のオノマトペの特徴は、まず、擬音語は延べ語数で擬態語を上回っており、弓矢、刀、軍勢の動きなど、合戦に関する語が多く表現が固定化する傾向が見られた。また、擬態語は泣く様子、人物の素早い動作や力強い動作を表す語が多い。漢語系オノマトペの特徴は、まず、「音の描写」は絃、雨、風の音の3種に限られていた。また擬態語は自然描写に関する語が多く、心情描写とともに、和語系オノマトペに足りない部分を補っていたことが窺われる。
著者
中里 理子
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.316-303, 2004

中古から近代まで「泣く」「涙」を描写するオノマトペを見てみると、擬音語・擬態語ともに基本形はすでに古くから存在しており、時代によって多く使われるオノマトペが多少変化してはいるが、中古に見られたオノマトペのほとんどが近代まで使われ続けている。中世には「さめざめ」「はらはら」「ほろほろ」が定型的表現となり、近世から近代にかけては「しくしく」「めそめそ」が弱く泣くときの表現として定着した。一方、時代が下るにつれて擬音語は泣き声の面で、擬態語は涙の流し方の面で、基本形を変化させた変形が工夫されることで表現に新しさを出していく。擬音語は声の大きさや泣き方の違いを表すオノマトペが工夫され、擬態語は泣く姿全体や泣くときの動作から涙を流して悲しむ姿を表す方向へ、さらに涙がこぼれる様子から涙が目の中に浮かぶ様子を表す方向へと、徐々に描写対象のとらえ方が細かで細密な描写という流れに添って発達した様相が見て取れた。I examined changes of onomatopoeia associated with "crying" and "tears" from the Heian period to modern times. Both of the basic formes of imitative and mimetic words were already used in the Heian period, and most of them were still used in modern times in spite of some changes. Samezame, Harahara and Horohoro became standard onomatopoeias of "crying" in the Kamakura and Muromachi periods, and Shikushiku and Mesomeso became those of "sobbing" from the Edo period to modern times. Many imitative words of "crying" were created to give more vivid expressions to a variety of sounds and ways of "crying". As to mimetic words, objects of description became more detailed like "tears trickling down" and finally focused on "tears" in one's eyes. Both the imitative and mimetic words were made by transforming. As the time went by, close observation made descriptive expressions more detailed. This trend is true of other expressions except onomatopoeias.
著者
中里 理子
出版者
埼玉短期大学
雑誌
学校法人佐藤栄学園埼玉短期大学紀要 (ISSN:13416006)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.69-77, 1993-03-20

周密文体の完成者といわれる森田思軒の翻訳代表作「探偵ユーベル」を取り上げ,完成された周密文体の文章表現上の特色について考察した。まず,彼以前の周密文体の系統にある翻訳文,及び漢文直訳的な翻訳文と,「探偵ユーベル」を比較し,思軒の文体の特徴を分析,さらに,「探偵ユーベル」前後の思軒自身の翻訳文と,文末表現・用語等の面から比較し,「探偵ユーベル」独自の特色を考えた。
著者
中里 理子
出版者
埼玉短期大学
雑誌
学校法人佐藤栄学園埼玉短期大学研究紀要 (ISSN:13416006)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.115-123, 1997-03-22

順接条件を導く「には」「からには」「以上」について、用例を基に意味・用法を整理した。前件と後件の意味の関係を考えるとともに、前件・後件を結び付ける際に意識される主観性や、前件・後件それぞれの意味上および文体上の制限について考察した。とくに、ともに因果関係を表す「からには」と「以上」、「ないことには」と「ない以上」は用法の重なる類義表現であり、その違いについて詳しく検討した。
著者
中里 理子 Michiko Nakazato
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.131-143, 2009-02

徳田秋声の『足迹』『黴』に見られるオノマトペの特徴について、『新世帯』、島崎藤村の『家(上)』、田山花袋の『生』と比較しながら考察した。各作品からオノマトペを抽出し、1)心情を表すオノマトペ、2)笑いを表すオノマトペ、3)「見る」行為を表すオノマトペ、4)「湿度」に関わるオノマトペ、5)その他の特徴的なオノマトペという五つの観点から検討を加えた。特徴的なオノマトペに関しては、二作品に多用されていた静寂を表すオノマトペ、偶発的動作を表すオノマトペ、所在なく歩く行為を表すオノマトペ、女性主人公に使われた独特なオノマトペを取り上げた。『足迹』『黴』は、女性主人公の描写や作品の情景描写において、オノマトペにも共通性が見られた。また、『新世帯』も含めて、秋声が人物描写においても情景描写においても、オノマトペを多用して巧みに表現していることが見て取れた。
著者
中里 理子 Michiko Nakazato
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.268-282, 2002-10

オノマトペの多義性についてその時徽を考え、一例を取り上げ実際に多義が派生しさらに解消されていく過程を考察した。まず、現代語の多義のオノマトペから意味相互の関連を考察し、(1)擬音と擬態の共通性、(2)様態の共通性、(3)感覚の共通性、(4)一般語彙との関連、(5)隣接オノマトペとの関連、(6)音の類似性、という六つⅥ特徴を見出した。次に近世・近代の「まじまじ」を取り上げ意味変化を見ながら、多義の派生とそれが解消される過程を検討した。「まじまじ」は、「目ぱちぱちさせる」という一動作とその動作を行う一般的状況を表したが、その状況が「眠れない」「平然と(見る)」「見ていて落ち着かない」に分化したとき矛盾する意味を含んでしまい、混乱を生じた末、一動作を表す意味「じっと見つめる」になり、本来のコ目をぱちぱち」という象徴性が失われた。「落ち着かない」意味は隣接オノマトペの「もじもじ」に、「眠れない」意味は語基が共通する「まんじり」にその意味が移行し、多義の縮小につながっている。形態による意味の分担も多義性の解消に関連すると思われる。