著者
荒瀬 輝夫 内田 泰三
出版者
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.7, pp.11-19, 2009-03

サルナシ(Actinidia arguta(Sieb.et Zucc.)Planch. ex Miq.)の地域産物化をはかるため,長野県中南部において系統収集を試みた。自生地の環境を把握するとともに,果実の形態および収量の系統間変異を分析した。得られた系統数は20,自生地の標高は770~1400m,地形は沢筋から尾根上まで様々で,落葉樹林が多かった。平均果実重は系統平均4.47±1.47g(1.87~6.89g)で,2山ないし3山の頻度分布を示した。果形にはAP型とCU型,着果型には鈴成り型と普通型という顕著な変異が認められた。果実における相対生長関係から,果実重と果実径との間に強い相関が認められたが,果実長との関係は不明瞭であった。採集効率(1時間あたり採集可能数の対数階級値)を用いて収量を求めたところ,1.4~2.8(25~630g・hr⁻¹)であった。自生地の標高と比較すると,平均果実重および収量は,いずれも標高1100m付近を最大値とする曲線関係を示した。
著者
川谷 尚平 小林 元 清野 達之
出版者
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.10, pp.85-90, 2012-03

閉鎖林冠下に生育するヒノキとサワラの後継樹を対象に,主に枝下高と樹冠半径に着目し,伏条更新を行わないヒノキは受光効率を高めるように,伏条更新を行うサワラは伏条更新の機会を高めるように樹形をデザインしているという仮説を検証した。ヒノキ後継樹は,樹高成長によって明るい光環境に葉を配置し,樹冠下層の枝をより高い位置まで枯らして暗い光環境への葉の配置を回避していた。一方,サワラ後継樹は生枝下高を低く保持することと,樹冠を水平方向に大きく広げることによって,枝が地面に接する機会を高めていた。これらより,伏条更新を行わないヒノキは受光効率を高めるように,伏条更新を行うサワラは伏条更新の機会を高めるように樹形をデザインするという本研究の仮説が支持された。実生更新が困難な暗い環境において,伏条更新の機会を高めるサワラの樹形形成様式は,その生活史戦略を理解する上で重要である。
著者
辻井 弘忠 末成 美奈子 増野 和彦
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.1, pp.73-79, 2003-03

長野県林業センターで系統維持しているヤマブシタケ(Hericium erinaceum)6系統(国内産4,台湾産1,中国産1)を供試し,ヤマブシタケ子実体の収穫所要日数および収量ならびに子実体抽出エキスのHeLa細胞に対する細胞毒性活性を調べた。すなわち,栽培培地基材であるコーンコブミール含有量の違いや栄養剤添加が,子実体の収穫所要日数および収量に及ぼす影響ならびに各系統の子実体抽出エキスのHeLa細胞に対する細胞毒性活性に及ぼす影響を調べた。その結果,実験に用いたヤマブシタケ6系統の子実体抽出エキスともHeLa細胞に対する細胞毒性活性がみられた。子実体の収穫所要日数が少なく,子実体の収量の多い系統はY5とY6,子実体エキスのHeLa細胞に対する細胞毒性活性の強い系統はY1とY2であった。栽培培地基材であるコーンコブミールを添加すると子実体の収穫所要日数は短かくなり,子実体の収量は少なかったが,コーンコブミール添加によって子実体抽出エキスのHeLa細胞に対する細胞毒性活性は高まった。栄養剤(フスマ)添加によって,子実体の収量は少なくなったが,子実体抽出エキスのHeLa細胞に対する細胞毒性活性は高くなった。これらのことから,ヤマブシタケの系統は台湾産および中国産より国内産のY1~3系統のものを使用し,栽培培地基材としてはコーンコブミールを,栄養剤としてはフスマをそれぞれ添加して栽培すれば,HeLa細胞に対する細胞毒性活性の強い子実体を生産出来ることが判明した。
著者
中山 陽介 江田 慧子 中村 寛志
出版者
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.7, pp.29-36, 2009-03

本報告は,信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)西駒ステーション演習林を中心とした地域について,昆虫類のデータベース化の第一歩として,また将来的にシデムシを指標種とした環境モニタリングの基礎データとして利用するため,西駒演習林標高別のシデムシ相を調査しその目録を作成したものである。調査期間は2008年6月19日から同年11月1日にかけて,全5回の調査を実施し,加えて3回の補足調査を実施した。調査には鶏肉を誘引用のベイトとしたピットフォールトラップ法用いた。今回の調査でシデムシ科14種447個体が採集された。内訳はモンシデムシ亜科8種,ヒラタシデムシ亜科5種,ツヤシデムシ亜科1種であった.長野県レッドデータブックにおける絶滅危惧Ⅱ類としてはビロウドヒラタシデムシとベッコウヒラタシデムシの2種,準絶滅危惧種ではマエモンシデムシ,ヒメモンシデムシ,ヒロオビモンシデムシおよびツノグロモンシデムシの4種が確認された。
著者
清水 裕子
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-46, 2006-03

わが国は国土の70%が森林に覆われ,その40%が人工林であるが,その多くは昭和35年ごろの拡大造林期によって造林された。しかし,昭和40年代後半からの林業の低迷により,国内村の供給低迷が恒常化し,広大な人工林で間伐時期を超過した放置林分の増加が問題となって現在に至る。一方,1970年代以降,森林の多目的利用に対する関心が高まっている。中でも森林の保健・休養利用であるキャンプやエコツーリズムのようなアウトドア・レクリエーション利用や,自然観察,林間学校のような環境教育など,現代の多様な価値観に伴った多様な需要が増加している。こうした需要に対応できる,魅力的で風致を感じる自然的要素の濃い森林を創出する事は急務であるといえる。 このような森林の風致向上を目的とした施業方法を「風致施業」という。現在,放置人工林を風致の感じられる森林へと改良向上する技術が必要とされている。「風致施業」は明治時代の林学導入と共にわが国に導入された「森林美学」から端を発し,昭和10年前後までには保健休養・風景維持のための施業方法としてその定義が確立し,研究がなされたが,第二次世界大戦によって中断された。戦後復興期の森林は経済復興の基礎資材生産の場として位置付けられたが,1970年代頃からようやく森林の風致的取扱いの研究が社会の要求にこたえる形で再開された。しかし,長い間の研究の中断や社会のニーズの変容で森林を取り扱う際に,「風致施業」は現在,さまざまな意味として捉えられており,その明確な目的の定義と方法論としての技術の体系的な展開は困難を極める。さらに森林は国土の被覆として,林業とレクリエーションなどの多目的利用に二分されるものではなく,両立しなくてはならないことが大きな課題である。 本研究では,この「風致施業」を戦前の風致研究に立ち返り,かつ現代の社会状況に合わせて定義づけをし直し,「風致施業」の継承と技術的な展開の可能性を考察することを目的とした。特に技術的な展開可能性について,林業との両立の課題から経済性の高いヒノキ林を取り上げることとした。 本論文の構成は5章からなる。 第1章では戦前を中心に現代に至るまでの「風致施業」の系譜を考察すると共に,現在問題であり,かつ地方再生の可能性を秘める山麓部の放置人工林,特に放置に関わる問題の深刻なヒノキ人工林に焦点を当て,その具体的な風致施業のあり方を考察した結果,森林風致改良の当面の目標として,強度の間伐による針広混交不斉多段林である択伐林型造成が適すると結論付けた。 第2章では,信州大学構内演習林で実際に行われた,2通りの間伐方法の違いによる,放置ヒノキ人工林から針広混交不斉多段林への変換を試みた結果,かつて田村や今田などが提唱したような,不均一な林木配置を作り出すポステル間伐に類似した間伐方法に効果があった事が明らかになった。 第3章では,ヒノキ人工林の構成単位としての単木樹形を把握するため,かつ実際の選本に必要な寺崎式樹型級区分を定量化するための基準を定量化するために,ヒノキの単木自然樹形の稚樹から成木に至るまでの経年変化とその樹形形成要因を調査・分析した。その結果,ヒノキの樹冠形の変化は1次回帰式に近似し,成長と共にうちわ型から円錐形へ,鈍頭型から尖頭型の樹冠を形成し,その変化には樹幹の外樹皮形成が関与することが明らかになった。 第4章では,前述した間伐方法の実際の現場での実行を視野に入れ,異なる林齢の放置ヒノキ人工林に対して,樹型級による選木基準を考察した。その結果,ヒノキ林は相当な過密状態でも隣接木との種内競争は樹形に反映しないことが明らかになり,その結果,単木的な選木ではなく,機械的に大きさの異なる樹冠ギャップを造ることで目標の林型を創出できることが明らかになった。 第5章では,以上の結果をまとめた。放置人工林に対する「風致施業」は,森林の経時間的変化を楽しむことの可能な自然的な森林と定義づけられ,技術的にもその効果的な創出は,可能であった。ところで,「風致施業」の最終目標林型である針広混交の不斉多段林は択伐林型として,林学では集約的技術と共に,林地の健全性やその森林機能向上にも寄与することは,戦前から言及されている。しかし,戦後は経済的林業の下で択伐方式は技術的に認知されていなかったが,70年代以降の一斉皆伐方式の造林に対する批判などから現在,再認識されつつある。このことからも,放置人工林に対する「風致施業」は,保健休養などの利用のみならず,将来的には山麓の広い範囲で林業と両立して適用される可能性のある技術であると結論付けた。
著者
Ryan D. Mark
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.2, pp.35-65, 2004-03

This comparative and case study, undertaken from May 2000 to February 2004 at locations in Washington, Alaska and finally Nagano, Japan, focuses on a winter thoroughfare called the Kamikochi Norikura Super Rindo(herein: Forest Road) in the Azumi Village, which has been accosted with avalanche incidents and accidents for a number of years despite large investment in avalanche protection measures. In Japan, problems that are associated with winter both mountain travel safety to outdoor recreation safety are in many ways characterized by the issues which surround the risk management planning, use and management of this road. The problem in Azumi is of how to reduce the avalanche hazard along the Forest Road. In this paper, as an introduction and general overview in support of the ideas and concepts brought up body text, the current situation of avalanche work worldwide and in Japan is presented. One tendency seen in Japan is for heavy reliance on permanent measures such as the 88 snowfences constructed on the Forest Road at a huge expenditure(153,353,000JPY) in Azumi over the last 23 years. Avalanche forecast-ing is also rare, as demonstrated by only recent inclusion snowfall parameters for road closure purposes in Azumi. In North America and Europe, active avalanche control, which is the process of artificially releasing avalanches through explosive use, is popular as a temporary measure. Such protocol is often used to and complement to permanent measures such as earthworks or snowfences which redirect or reduce velocity of snow flow. In Switzerland alone 10,000kg explosives are used annually in avalanche control work. For the purposes of this study, operating models of bombing routes using hand-deployed charges and bomb trams which carry explosives to avalanche start zones as seen on field trips and inspected in Highway departments and ski areas in the US are proposed as a solution for the Forest Road in Azumi Village, Nagano, and investigated with respect to applicability, safety of use, legality, etc. The only legally hand-deployable charge in Japan, and major topic in this study is a new product called ACE(Avalanche Control Explosive) the research of which is facilitated through elementary on-snow testing. Through the course of this study it became evident that underlying the snow safety issue are issues in forest policy, road use planning, measure selection and funds appropriation. Delving further, it became clear that village and higher government may not have had access to a full range of internationally accepted options in the search for answers to problems of avalanche hazard reduction. In Azumi this inaccessibility to technology has resulted in expensive construction of inadequate permanent protection measures. Assuming that a program including active control could be formally made available to road managers at an attractive price, either deployment of charges by hand or light cableway would be suitable, albeit with some Japan-specific modifications. ACE are relatively low in total energy and their use would require some modification in size, and with respect to tram use it would be necessary to solve small engineering problems and determine which type of charge is explosive material bakes best economic and operational sense for the village. Both measures would require increasing the caliber and accuracy of the current forecasting program as well as unprecedented cooperation with road maintenance crews.
著者
久馬 忠 斉藤 治 金丸 俊司
出版者
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.6, pp.11-17, 2008-03

冷涼な高標高の採草地に適する寒地型イネ牧草の選定に資するため,1番草の刈取り日による飼料成分と消化性の推移を調べた。造成後20年以上経過した採草地に偏在して優占しているオーチャードグラス,チモシー,リードカナリーグラスおよびシバムギの4草種を2ヵ年間,6月2日,6月22日,7月12日の3回刈取り,生育ステージ,草丈,乾物収量を調べた。また牧草の灰分,粗タンパク質,中性デタージェント繊維,酸性デタージェント繊維,リグニン,ケイ酸含量を分析し,さらにin vitro法による中性デタージェント繊維の分解率を測定した。生育の進行はオーチャードグラスが最も早く,以下リードカナリーグラス,シバムギ,チモシーの順であった。7月12日の乾物収量はチモシーが最も多く,以下リードカナリーグラス,シバムギ,オーチャードグラスの順であった。4草種とも生育が進むに伴って,粗タンパク質含量は低下し,繊維成分が増加し,特に出穂後のリグニンの増加が顕著であった。中性デタージェント繊維分解率は,6月2日刈りでは草種間差が小さかったが,その後の草種による低下の程度が異なり,7月12日刈りの分解率はチモシーが最も高く,リードカナリーグラスが最も低く,各草種間に有意差がみられた。中性デタージェント繊維分解率はリグニン含量と有意に高い負の相関があり,特にケイ酸を含むリグニンとの相関(r-0.958,p<0.01)が最も高かった。これらのことから,高標高草地の採草用草種として,収量と飼料価値からチモシーの適性が高いこと,1番草イネ科牧草の消化性の推定はケイ酸を含むリグニン含量から推定できることを示した。
著者
松井 寛二 森岡 弥生 竹田 謙一
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.3, pp.11-16, 2005-03

4頭の木曽馬の馬房内の夜間の姿勢と体温変化の特徴を明らかにし,姿勢および体温変化と睡眠の関連を考察した。姿勢と行動はビデオカメラを用いて,体温(膣温)はデータロガを用いて記録した。姿勢は,1)立位(歩行・摂食),2)立位(休息),3)伏臥および4)横臥の4型に区分して記録した。伏臥および横臥の出現パターンには個体差が認められた。4頭平均の伏臥持続時間は16.4分,横臥持続時間は4.2分,夜間11.5時間の横臥回数は6.1回であった。体温は17時の38.1~38.6℃から早朝の37.6℃前後まで漸減した。伏臥から横臥の姿勢変化時にノンレム睡眠からレム睡眠に移行し,横臥時にレム睡眠であることが推察された。